バトル
「山田くん、またいじめられたの?」
広印が心配そうに言う。
山田は申し訳なさそうに頷いた。田山がすかさず説明する。
「しかも今回はまた派手にやってくれたぞ。技術で使った木材の木屑を、机に詰めやがった。多分、前回の絵具入り運動靴を相当根に持ってるんだろう。」
「ちょっと待って、それ、どう言うこと…?」
この会議に初参加の陽乃元は、状況が掴めていないようだ。
「おや、委員長。山田がいじめられてるのは知っていますでしょう?それのやり返しをみんなで手伝っているんですの。」
と、田山は急に口調を変える。山田にはなんだか、陽乃元をおちょくっているように感じた。さっきから、やけに陽乃元への態度が軽い。
ぽかんとしている陽乃元に、広印が今までの経緯を説明した。
「じゃあ、一番最初の墨汁も、田山くんと山田くんが…」
山田は巻き込まれただけなのだが、そこはとりあえず良しとした。
「ってことで委員長。俺と勝負しよーぜ。5教科プラス音楽、美術、技術家庭科、保険体育の合計9科目の点数と、仕返し10点満点。合計910点で競おう。審査員はここにいる2人。それぞれ5点ずつ持つ。ちなみに俺は、中間で445点。期末は5教科で450点以上を目指す。」
「え?450?」
山田は思わず聞き返してしまった。
「そうだ。でも陽乃元さんも、割といい線いってるだろ?」
田山はそう言って、陽乃元の顔を覗き込む。
「…私は、中間は5教科で440点だった…」
「え?440?」
今度は広印が思わず聞き返した。
「そんなの、勝負にならないんじゃ…」
「だから仕返し点があるんだよ。それに今回は陽乃元さんの苦手な暗記科目ばかりの副教科もあるからな。」
山田と広印は目の前で繰り広げられる異次元の争いについていけていない。
「ついでに山田と広印も競っちゃおう。負けたやつが小野分の第二ボタン外しに行くってことで。」
なんだその誰かにあげてきたみたいなちょっと恥ずかしい仕返しは、と思いつつ、山田達は突然始まってしまったゲームに巻き込まれた。
「さ、委員長。成績が伸びればあなたは部活をやめなくて済む。競えばモチベーションもあがる。中々こんなハイレベルなライバルいないだろ?やるしかないよ。ねぇ、なんでも完璧な陽乃元さん?」
田山の煽り文句に、陽乃元はゆっくり頷いた。
田山は握手をしながら、にやっと笑った。