ピンク色
「絵具を使った仕返し、どうする?」
山田たちは再び図書室で話し合った。いつもこのように放課後、図書室でいじめの仕返しを考える。
「今回山田くんは口の中に赤い水彩絵の具を入れられた。つまり、何かに絵具をたっぷり入れるのがいいと思う。」
広印が山田と田山に言う。最初はやり返しなんて可哀想だよ、と言っていた広印は、今じゃ自分から案を練るようになってしまった。山田は嬉しいような悲しいような、なんとも言えない立場である。
「同じ本質でやり返す。仕返しの基本だね。素晴らしいよ広印さん。」
田山がまたおかしなことを言っている。そして広印は少し照れて嬉しそうだ。山田は2人の思考が心配だ。
「例えば…鞄の中とかは…?」
「お、珍しく山田が案を出したぞ。しかも中々鬼畜な方法だな。教科書やら弁当やら何やら全部が真っ赤に染まる…べたべたして臭くなる…いいぞ山田…もっと己の中の悪魔に耳を傾けるんだ…」
田山はなぜか少し嬉しそうだ。中二病だろうか。心配だ。するとそれに広印が指摘する。
「でもそれじゃあ絵具の量がえげつないくらいいるよ。中学生にそれはちょっときついよ。」
確かにいくら田山の「謎の転校生パワー」があったとしても、それはさすがに出費がかさむ。
「じゃあもっと小さいものに入れれば…?例えば…」
「例えば?」
山田は結局思い付かずに沈黙が流れた。
「いや、なんか言えよ。例えばパンツの中とかどうだ?」
広印の顔が少し赤くなる。田山よ、場を弁えてくれ。山田はそう思った。
「じゃ、じゃあ、靴とかは?私も靴の中に小石入れられたことがあって、すごい不快だった。」
「お!それいいじゃん!変につるつるして気持ち悪いだろな。色はピンクとかにしようぜ!」
「いいね!靴下も可愛くなるし!」
田山と広印は楽しそうだ。
2人は何を言っているんだろうか。しかしこうなると止められない。山田は可哀想だなと思いつつも渋々、その計画を実行することにした。
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翌日、いつも通り授業を終えた小野分たちが部活に向かおうとする。小野分と小蚊は陸上部だ。子分二は美術部のため同じ時間に出ては来ないが、とりあえず仕掛けはしておいた。
山田たち3人が物陰から見守る中、小野分たちは無事にピンクの絵具がつま先部分に並々と注入された靴に足を突っ込んだ。その様子に、田山は思わず吹いた。
なんだこれ、と騒ぐ2人。周りの冷たい視線、前より幾分か可愛くなった靴下。
作戦は今回も成功した。
3人はいつものように、ハイタッチをしつつ握手をした。
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さて、午後6時。部活も終わる頃。
山田たちは帰ってしまったが、一つ大切なことを忘れていた。そう、いじめっ子の子分二のことである。
彼はいつも通り部活を終えて、靴を履こうとする。と、グチャッ…と気味の悪い音がつま先から聞こえる。
ゆっくり足を離すと…指先が真っピンクだった。子分二はどうしようもなく怒りが湧いてきた。チッと舌打ちをして、足を強引に突っ込む。
『画材が可哀想だろ。』
心の中でそう、呟いた。