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山田くんの逆襲  作者: やゆよ
6月の山田
12/22

メトロノーム

「あ、広ちゃん、掃除お疲れ〜。」


「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった。」


田山と山田はいつものように図書室で勉強しつつ駄弁っていた。そこに掃除の終わった広印ひろいんが合流する。


「また乙骨おつぼねさんたちに絡まれたの?」


「うん。明日の朝の掃除やってこいって言われたんだけど…ちゃんと断ってきたよ。」


広印はにこっと笑った。


新学期が始まってから2ヶ月。山田たちにアドバイスを受けてから、広印は以前より自然に笑うようになった。部活がない時は図書室でいじめの仕返し方法を考える通称「山田会議」をするのが習慣になっているため、3人はかなり仲良くなった。


「田山くんも山田くんも、毎日ここで勉強してるの?」


「まあ、暇だからな。山田はなんか習い事してるだろ?その日以外は毎日ここにいるよ。」


「え?山田くん何やってるの?」


「えっ…あの…陸上やってる…」


広印はキョトンとした。山田は運動音痴というイメージが強かったので、少し意外だった。


「陸上?長距離?」


「いや…短距離だよ。」


広印はますます、なんで?という顔をする。


「俺…陸上部だったんだ。実は短距離が得意で…いじめのせいで部活に居られなくなって辞めたんだけど、やっぱり諦められなくて…」


「山田、もしかしてお前、体力測定の時わざとゆっくり走ってたのか?」


田山の指摘に、恥ずかしそうにうん、と答えた。


「まじかよ。今度俺と勝負しようぜ。」


田山の誘いに山田はまた少し笑って、うん、と言った。


「しかしいじめのせいで部活まで追い出されるなんて、ほんとにひどいね。山田くんはすごいよ。それでもちゃんと学校に来てるし。」


「親に迷惑かけたくないしね。」


広印に褒められて、山田は少し照れている。


と、突然図書室の外で、ガッシャーンと何かが壊れる音がした。山田たちは不思議に思い、ドアを少し開けて様子を伺う。


「何よ、あたしの演奏に文句あんの?」


「い、いや…そういう訳じゃ…」


何やら女の人が話している。吹奏楽部だろうか、金色の楽器がちらちら見える。

しばらく沈黙が続いた後、舌打ちが聞こえて、またその場は静かになった。


田山はゆっくり廊下を曲がって、音の主を確認する。そこには同じクラスの陽乃元ひのもとさんがトロンボーンを持って立っていた。前には壊れたメトロノームがある。


「陽乃元さん?」


「あっ!田山くん…と、山田くんと広印さん?」


「なんか、すごい音したけど大丈夫?」


田山がそう言うと、陽乃元は優しく笑いながら、


「あ!ごめん!メトロノーム落としちゃって!」


と言った。山田はすぐにそれが嘘だと分かった。山田はいじめにより人の感情に敏感になったためか、表情や声色から嘘がすぐに分かってしまった。


「そ、そうなんだ…部活、頑張ってね…!」


山田がそう言うと、陽乃元はうん、と笑ってメトロノームを拾い、どこかへ行ってしまった。


「陽乃元さん、トロンボーン吹けるんだね。」


「うん。それに小さい頃から習ってたらしくて、すっごいうまいんだって。先輩も余裕で追い抜いちゃって、金管楽器のエースらしいよ。」


広印の説明に、山田はふーん、と答えた。


「さ、今日の絵具のいじめの仕返し考えよっか。」


広印の提案に乗りつつ、複雑そうな表情で笑った山田を、田山は静かに見ていた。

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