隣の有田
解き終わった数学Ⅱの問題を見返して間違いがないかの確認を始めた。隣の席の有田は船を漕ぎ、一問も手をつけていない様子だ。当てられなけれ問題ない。まあ当てられてもわかりませんでいいのだ。少し恥をかくだけだ。
本当に問題になるとすれば数ヶ月先の中間テストからだ。またテスト勉強に付き合わされるのだろう。
――ある程度、答えを見返して間違いがない事を確認すると、教室全体を見渡した。まだ問題を解いている生徒が多いようだ。答え合わせまでもう少し時間がありそうだ。
公式が並べられたノートの隅の空きスペースにペンを走らせる。そして答え合わせが始まる数分後までには手元にあった消しゴムの絵で空いていたスペースが埋まる。
有田の寝顔を描こうとしたが気色悪いとは思われたくなかった。
「よし、じゃあ答え合わせだ」
ちょうど消しゴムを書き終わる頃に問題を解く時間が終わる。
「じゃあ、有田1番書きにこい」
当てられた。呼ばれた有田はすぐ意識を取り戻して状況の理解をし始めた。
先生も意地が悪い。後ろの席とはいえ、あれだけ大きく船を漕いでいたら寝ていた事も知っているだろうに。少し恥をかかせて反省させようという魂胆だろうが、そのくらいで居眠りをしなくなる生徒なら、高校二年にもなって居眠りなんかしない。単純に自分の授業中に大胆に寝ている有田への憂さ晴らしかもしれない。
一問も解いてない有田は、わからないと言って受け流すかと思ったが予想外にも立ち上がった。少し驚く俺をよそに、有田は流れるような手つきで俺の手元のノートを奪い去り黒板に向かった。
あまりにも不自然な行動をあまりに自然と行なった有田に対して、誰も何も言わなかった。もしかしたら何が起こっているのか理解しているのが俺だけかもしれない。
有田はそのまま何事も無いように俺が解いた数学の公式を黒板に書いて何事も無いように席に戻った。
「……ん、正解。じゃあ二番は…松下」
そして先生も何事もなく次の生徒に当て始めた。
「ありがと、助かったわ」
「あ、うん」
当たり前のように返されるノートを受け取る。
有田はノートを返した後に今度は机に顔を隠して突っ伏して寝てしまった。
消しゴムなんて書かないで、もっと寝顔を拝んでおくべきだったと少し後悔した。




