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第1章 第3話 『たまさかの逢瀬』

「えっ…」


そんな戸惑った顔の少女と目が合い少し照れた俺は冷静さを取り戻した。そして先の言葉を思い返してみる。


え、ちょっと待って…

本当に死んだのか?夢じゃないのか?

俺まだ齢十六なんですけど…

やりたいことがいっぱいあったのに…。


『幼馴染と高校に一緒に通い、周りからは恋人かよって囃し立てられ


「つ、付き合ってないしっ」


俺の幼馴染は焦りながら否定する。そうは言ったものの放課後二人きりの教室で俺の脇腹をつんつんと突きながら


「私たち付き合ってるよね?」


弱弱しく目尻に涙を浮かべながら上目遣いで聞いてくるその姿に、俺は頭を掻きながら


「馬鹿。俺はお前が幼稚園の時となりに引っ越してきて以来…。」


幼馴染は俺の次の言葉を待つかのようにそわそわし始める。


「ずっと好きなんだよっ」


頬を赤くして照れくささを含みながらそっけなく言う。


そんな二人の口からは夕焼けに照らされて琥珀色の橋が…』


なんて展開や


『両親が離婚し父親が新しい母親とその娘を連れてくる。


「今日からお前の母親と妹だ」


「よろしくね」


優しく小さな妹の頭をなでる。


もちろんその時は嫌がられ


「絶対にお兄ちゃんなんて言わないから!」


と手をはねのけられ、宣言される。


そうして【あんた】以外の二人称は使われることなく俺は大学生。妹は高校生になった。


そんなバレンタイン数日前。妹は熱心にお菓子作りに取り組んでいた。ああでもないこうでもないとレシピ本を見ながらボールの中をかき混ぜる。


失敗作だろうか。皿の上には大量の焦げたクッキーが置いてある。


俺が見ているのに気づき


「早くあっち行ってよ!」


焦りながら俺をキッチンから追い出す。


「彼氏でもできたのか?そんなやつ俺がどんな手段を使ってでも灰燼に帰してやる。そうそう大学の研究室にクロロホルムがあったような…」


「気持ち悪っ。死んで…」


俺のことを生ごみと錯覚しているのか?


まあ寧ろご褒美だがそんなこと今はどうでもいい。俺は妹に近寄ってくる蝿を殺虫するだけだ。そう覚悟を決めた。


バレンタイン当日の朝。


「はい、これ」


焦げたクッキーを乱暴に渡してくる。


「練習用に作ったからあげる。あんたみたいな変態がもらえるだけでも感謝してよね」

ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「ありがたくいただくよ」


なんの躊躇もせず袋からクッキーを取り出し口に入れる。


「おいしいっ。この焦げた部分も絶妙にスパイスとなっていて卵の甘みを引き出しているな。甘みとほろ苦さが混じり鼻腔を刺激する。うまい☆彡!」


「ほんとに…?」


訝し気な顔で俺を見てくるがそんなことは気にせず全部食べ、妹にハンカチを渡す。


「これを蝿..、おっと間違えた。彼氏君に渡してくれないか」


ハンカチを俺に向かって投げ


「最低っ」


引いた顔もまた可愛いが、こうしちゃいられない学校に行かなければと言って家を後にする。


その夜、両親が寝静まったころコンコンと扉をたたく音が聞こえる。


「はいどうぞー」


妹が申し訳なさそうに俺の部屋を訪ねてきた。


「夜中にごめん…今朝にあげたクッキーおいしくなかったでしょ…」


そういうと俺のベッドに腰を下ろす。


「ほんとはあれ学校の男子に義理であげるやつだったんだ。あんたにあげるのはこっち」

綺麗に包装されたクッキーを渡してくる。


「いいのか?」


顔を赤くしながら俺に向かって


「じ、実は…。これが本命で…」


ごにょごにょ言いながら指で遊んでいる。


「え、なんか言ったか?」


「なんにもないよっ!お兄ちゃん…。お休みっ」


慌てたように部屋を出ていき扉を乱暴に閉める。


本当は聞こえていたけどなぁ


「お休み」


小さな声で呟いた…』


なんて義理の妹とのイベントが発生する展開がやってくるはずだったのに!


俺は少女に対し自分これから来る予定だった人生を熱く語ってしまっていた。


少女はそんな俺に憐みの情を向けながら笑顔で


「…な人生…たいって…ませ…か?」


熱く語っていたせいか他のことは上の空。少女の声がよく聞き取れなかった。


そんな少女の言葉はいざ知らず俺は


「こんなにも徳を積んだのに若くして死ぬなんて…いやまてよ、徳をつんだからこそこんなにもかわいい美少女に会えたってことなのか」


と小さな声でぶつぶつ言っていると


少女が大きな声で


「そんな人生送りたいって思いますよね?はぁはぁ…」


少女は心なしか先程よりやつれているような気が…

息も乱れているし疲れた表情でおわした。


えっ。マジで?


なんてそんな野暮なことは俺は言わない。


なんの躊躇も見せず


「あなたが幼馴染の恋人か、義理の妹になってくれるんですか?」

意気揚々と答えた。


「だぁかぁらぁ…」


「えっ今なんて?」


「人の話を聞いてからしゃべれぇぇぇ!」


俺は気づいたら宙を舞っていた。放物線を描くように。


「ふぉふぉが痛い…」


「こっちが丁寧に話を進めようっていうのにあなたはどうして話をおかしな方向にもっていこうとするんですか?」


怒っている姿もまた愛らしい。


「もうぷんぷんですよ!」


なにぷんぷんって。そんな言葉きょうび聞かいない言葉やねぇ。


これをもし醜女が言っていたらすかさずラリアットを打ち込むところだが、かわいいので許す。いや許されるが正しい。


可愛ければすべてが許される。


万物は可愛い者の元にひれ伏すのだ。


そう。何を隠そうか。いや隠さなくていい。


つまり…


俺が総じて言いたいことは


「可愛いは正義だぁぁぁぁ」


天高らかにこぶしを挙げるが起こってしまったことは止められない。


気づくと俺は地面とキスをしていた。甘い…


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