エクソシスター
大学三年になるこの俺、長谷川陸は、バイト先? へと向かった。
雇い主は実の妹、長谷川有住だ。
妹は、エクソシストとして働いている。
ここは日本で、悪魔というより、幽霊という方が正しいかもしれないが、妹は自分は、エクソシストのほうがかっこいいからとエクソシスト語っている。
巷では、結構妹の評判が話題になっていたりする。凄腕、霊能力者と言われている。本人はエクソシストだ! と言っているが。
妹は、事務所をかまえて、悪魔祓いの相談を受けている。その事務的な手続きなどをするのが、俺のバイト内容である。
なぜ、そんなバイトしているのかというと、妹から頼まれたからである。
本人曰く、バイト募集したところ、怪しそう、宗教みたいと噂されて、誰もバイトに募集してこないらしい。
そんなわけで、バイトをすることになった。妹は極度のコミュ障であるため、顧客とのやり取りは基本的に俺が担当する。
あいつは、悪魔を払う専門という感じだ。
俺は、バイトの時間になり、バイト先へと向かった。事務所は、経費削減のため、寂れた事務所を借りている。たまに、虫が出るが、虫駆除も自分の役割である。
バイト先に到着し、事務所に入ると、妹が待っていた。
「やっと来たか、陸。待ちわびたぞ。」
「ちゃんと、時間通りに到着しただろ。遅刻はしてないぞ。十分前についたぞ。人間の鏡だと思うぞ。」
「ああ、確かに時間通りに到着した。だけどな......」
「な、なんだよ。」
「顧客から電話が来たんだ! 緊張して、アッアッアッアッしか言えなかった!」
「もうそれでない方が良かったじゃねぇか。」
妹は、極度のコミュ障である。家族以外の人間と、うまく会話をすることができない。
「しょうがないな、ちょっとかけなおすか。」
俺は、電話の着信履歴を確認し、先ほど、有住と話したと思われる顧客に電話した。
「お忙しいところ失礼します。私、有住の助手の陸と申します。先ほどは有住が失礼いたしました。」
すると、顧客が慌てた声で話した。
「さっきの、あの凄腕霊能力者だったんですか? アッアッアッアッしかへ聞こえなくて、悪霊に取りつかれた人かと思いましたよ!」
有住のやつ、せめて自分の名前くらい名乗っておけよと思った。
「大変、失礼いたしました。有住は、少々性格の面で問題がありまして、お客様とのやり取りは私が担当しております。ただ、有住は、霊能力者としての腕は確かでございます。
ご安心ください。」
お客様を安心させるために、力強く説明した。我ながらハッタリが上手いと自負した。ライアーゲームに出場すれば、いいところまで行けそうだ。
「陸! 違うぞ! 私は、霊能力者じゃない! エクソシストだ! I'm at exorcist! I don't stop hapiness!」
しばき倒すぞ! この妹がゴラァ! そう思ったが、必死でお客様に聞かれないように電話を手で覆った。
「あれ、なんか叫び声みたいなのが聞こえたんですけど......」
「恐らくそれは、幽霊の所業ですね。それで、今日はこちらの方に向かう予定ですか?」
適当に嘘を吐き、誤魔化した。
「ええ、そちらに怪奇現象についての相談をしに行こうと思ってます。あと、三十分くらいに到着します。」
「かしこまりました。それでは、お待ちしております。」
電話を切り、お客様を待つことにした。電話を切ると、妹が語りだした。
「陸! お前は、エクソシストというものがわかってない。適当な話術で人を騙し、悪魔を退治できない無能な日本の霊能力者とは次元が違うのだ。」
「はいはい、分かったよ。ただ、お客さんは、エクソシストってよりも霊能力者と思ってるんだから別にいいじゃねぇか。」
「良くない!」
くそめんどくさいと思った。妹は、なぜかゴスロリの衣装をいつも着ている。
本人曰く、力が増すらしい。多分気のせいなんだと思う。
ただ、妹は確かに霊感を持っている。
バイトをしていて、不可思議な現象をこの目で何度も見てきたのだが、その度、妹が解決し、不可思議な現象を鎮めてきた。
一度、女性の下着がなくなるという相談を受けたとき、俺はそれは確実に生きている人間の仕業だろうと思ったときに、妹は、悪魔の気配を感じる......といって、本当に悪魔の正体(超ド級のド変態の悪魔であった)を暴いて、被害を食い止めた、
実際に、お客さんにお礼の手紙とお菓子が贈られたから間違いがないと思う。
三十分後、お客さんが事務所にやってきた。
「すみません。ここが、『エクソシスター』で会ってますか?」
「はい、そうです。では、こちらのお席におかけください。」
事務所の名前は、妹が考えた。エクソシストと妹を合わせて、エクソシスターが良いという案でこういう名前にしたらしい。
俺は、お客さんを席に案内した。相談の九割は、相談者の思い込みということが多い。
まず、お客さんから、相談内容を訊き、文面をまとめて妹に持っていく。
妹が言うには、直接訊くよりも、文を見たほうがなにか『引っかかる』点を感じることができるのだという。
平たく言えば、直接お客さんと話すことができないということである。
俺は、調査票を確かめながら、お客さんとのやり取りをした。
「それで、佐藤さん。怪奇現象というのは、具体的にどんなことが起きるんですか?」
この依頼者は、佐藤友梨佳という、調査票を見たところ、俺と同じ年齢の女性のようだった。ただ、大学生ではなく、会社勤めらしいのだが。
「なにか、付きまとわれているような視線を感じるんです......」
それ多分、幽霊じゃねぇだろと思ったが、質問を続けた。
「なるほど......それは、生きている人間の可能性は考えれないですか?」
「考えられません! 生きている人間であれば、半径五十メートルいないなら、ストーカーを感知できるのに、視線を感じるのに、全くどこにいるのか把握できないんです! まるで四方八方から監視されているような。」
半径五十メートル以内ならストーカーを感知可能ってすごすぎじゃねぇか。この女、念能力者か何かなのだろうか。円の達人なのかもしれない。
「何か思い当たる点とかありませんか?」
「実は、一か月ほど前に、友人たちと心霊スポットに行ったんですけど、もしかしたらそれが原因かもしれないです。」
「なるほど......」
確かに、可能性としては高いと感じた。いくつか他に質問をして、報告書をまとめて、妹のところへと持って行った。
「有住、これ報告書。」
「ありがとう。」
有住は、物凄い集中直で報告書を流し読みした。三分ほど、報告書を読むと、妹がこんなことを言い出した。
「顧客のところへ案内してくれ。」
すぐそばで待っているのだが、お客さんと一対一で話すことができない、有住は俺と一緒にお客さんと話す必要が会った。
俺は、友梨佳さんのところに有住を案内した。
「まぁ! あなたが凄腕霊能力者の有住さん? 可愛い服着てるのね!」
ゴスロリの服を見てもそんなことを言えるとはすごいと思った。大抵のお客さんは、有住の服装を見ると、ドン引きするのだが。
「え、ええ。まぁ......」
妹のほうが、お客さんの絡みにドン引きしているようだった。
「有住さんは今おいくつ?」
「じゅ、十七です......」
「えー! それじゃ、女子高生なのね! すごーい!」
友梨佳さんは、台詞通り、ドッタンバッタン大騒ぎしている。すると、妹に袖を捕まれた。
こういう仕草をするときは、俺に目的を話せという合図である。
「それで......友梨佳さん。あの、有住が友梨佳さんを霊視したいというので、ちょっと協力してもらっていいですか?」
「ええ、もちろん! 私は、何をすればいいんですか?」
「そのまま何も話さず、じっとしてもらえれば大丈夫です。」
「そうですか。分かりました。」
上手いこと友梨佳さんを沈黙させることに成功した。
「それでは、失礼します。」
妹は、十字架を取り出し、友梨佳さんに近づけた。悪魔の手がかりを探すとき、これを使うことが多い。
報告書いらないじゃんって思うかもしれないが、疲れる上に、できるだけお客さんと直に顔を合わせたくないらしい。
正直、人と関わらない仕事についてほうがいいと思っている。五分ほど、霊視をした妹が十字架を下げ、言葉を放った。
「分かりました。友梨佳さんが感じる視線の正体。」
「本当ですか? 一体原因は何なんですか? やっぱり幽霊?」
「視線の正体は、貴方の友人です。」
やはり、正体は人間だったのかと思った。しかし、なぜ霊視をしてそれが分かったのか気になった。有住は、悪魔に関係にないことになると手がかりを得ることはできない。
「そんな馬鹿な! 私が居場所を把握できないなんて!」
どんだけ自分の円の能力に自信があるんだ。 つーか、これが人間の限界だろと思った。
「無理もないと思います。悪魔が乗り移った友人がストーカーをしているんですから。」
「ど、どういうことですか?」
「前に友梨佳さん、心霊スポットに行ったでしょう? その時、心霊スポットにいる悪魔と、あなたの友人の波長が同調して、乗り移ったんです。あなたの友人は、あなたをストーカーしているつもりなんてないんですよ。無意識ですから。」
有住は、事実は淡々と話した。霊視を行うと仕事モードに切り替わり、淡々と話せるようになるのだが、最初からやってほしいと俺は思っている。
「そんな......それじゃ、友人のなかの誰かが、取り憑かれていると。誰なんですか、それは?」
「それは、分かりません。ただ、貴方に好意を持っている異性の可能性が高いです。失恋して死んだ悪魔が友人に乗り移ったと霊視で分かりました。」
俺は、友梨佳さんに尋ねてみた。
「心霊スポットに行ったとき、男性の友人はいましたか?」
「ええ、一人いました。でも、彼、彼女がいたはずなのに......」
どうやら悪魔に取り憑かれたとされる男性の友人と、その彼女と友梨佳さんの三人で心霊スポットに行ったらしい。
なんという三角関係なのだろうと思った。よくありそうな話ではあるが。
「それで、彼に取り憑いている霊を払うことができますか?」
「いえ、それはできません。」
俺は、めちゃくちゃ驚いた。この妹は何を言い出すのだろうか。
「彼の中で、区切りをつけてもらう必要があります。貴方がその友人と付き合うか、もしくはしっかり断るかしなければ悪魔払いできません。友人と悪魔との繋がりを弱くする必要があります。」
「そんな......でも私......」
「そうしてもらえなければ悪魔を追い払えません。友人に取り憑いている悪魔はかなりの力を持っています。」
「分かりました。やります。」
友梨佳さんが、エクソシスターズに来てから一週間後、友梨佳さんが男を連れてやってきた。しっかり断ったのか、それとも付き合うことにしたのかどちらを選んだのだろうか。
「友梨佳さん。お待ちしてました。こちらの方が今回の除霊する方ですか?」
「矢田部勉です。今日はよろしくお願いします。」
眼鏡をかけていて、見るからに真面目そうな感じの男性だった。
「今日は、よろしくお願いします。その、結局勉君とはお付き合いできないと断りました。」
「そうなんですか。別にわざわざ話さなくても良かったのに。」
「え! その、ごめん、勉君。」
「いいよ、別に......」
勉君は、悲しげな顔をした。まぁ、彼女さんと上手くやりなさんなと思いながら、俺は、妹を呼びにいった。
「アッアッアッアッ初めまして、勉さん。きょきょきょ今日はよろしくお願いします。」
さっそくコミュ障を発揮させた。傍目から見れば、妹の方が悪魔に取り憑かれているようにしか見えない。
「それでは、こちらの部屋に入ってください。」
お祓い部屋と俺と妹が呼んでいる部屋に、友梨佳さんと勉君を案内した。この部屋には、悪魔払いに必要なものが置いてある。十字架や聖水、立派なマリア像が飾られている。
マリア像は、マジで高額だった。俺は、もっと安いのでいいんじゃないかと提案したのだが、高いのじゃないと悪魔祓いの力が落ちるといい、車一つ買える像を購入した。
有住は、十字架を持ち、勉君に近づき、高らかに宣言した。
「長谷川有住が命じる。悪魔よ。貴様は今すぐ、勉の体に飛び出すのだ!」
悪魔祓いは、基本、有住が中二病を感じさせることを言い続けることで悪魔が宿主の体から出ていく。それだけ? って思うかもしれないが、基本的にそれだけである。
「黙れ! 小娘! 貴様を追い出すことはできない!」
「でたな! 悪魔。」
某改造人間が言いそうなセリフを妹が吐いた。
「我の力に触れ伏すが良い、悪魔よ。貴様の名前を言ってみろ。」
「ははは! レアコイルです。」
ジョークも言えるなんて、すごい悪魔だなと思った。感心している場合ではないのだが。どうやら妹は苦戦しているようである。
「ダメだ! 十字架が小さい!」
は? そういうもんなの?
「もっと大きい十字架持ってきて!」
「いや、ねぇよ! そんなの。大体、今までずっとこれ使ってたじゃねぇか。大きさとか関係あるのか?」
「ふっ 甘いな。陸、ち○ち○の大きさも小さいより大きい方がいいと女性は良くいうだろう?」
「お前! こんな時に下ネタを喋るな!」
俺と妹との程度の低いやり取りをして、友梨佳さんは顔を赤くしていた。この人、下ネタはダメだったか......
「舐めるな! 下等な人間ども、そろそれ我の本当の恐ろしさを見せてやる。」
次の瞬間、部屋中の電気が消え、花瓶は割れ、窓はバンバンと音を立て始めた。
友梨佳さんは、倒れこんだ。とりあえず、俺は、友梨佳さんを介抱した。
「おい! 有住、どうするんだ?」
「仕方ない。最後の手段だ。陸、『あれ』を持ってきてくれ。」
「『あれ』だな! 分かった。」
俺は、友梨佳さんをソファに寝かせ、冷蔵庫にまで、ダッシュした。冷蔵庫から取り出したのは、トマトジュースである。
「うぎゃぁ!」
有住が叫んだ。お祓い部屋に駆けつけると、勉君が椅子から立ち上がっていた。有住は尻餅をついている。
「今から、あの女を殺してやるぜ......」
そういい、勉君は、ゆっくりと友梨佳さんのところに向かって歩いて行った。
「やばい! 有住早くしろ!」
俺は、有住に肩をかし、急いでソファで寝ている友梨佳さんのところに有住を連れて行った。
「ぐ......」
友梨佳さんのところに行くと、勉君が友梨佳さんの首を絞めていた。目が白目で超怖い。
「急げ! 有住! 早くトマトジュースを口に入れろ。」
「うう......やっぱりやだな......」
「早くしろ!」
半ば無理やり、トマトジュースを妹の口に入れこんだ。
「gほうあfへおがおうふぁhがおえうおふえうgrfdこ」
不味さのあまり、妹が言葉にならない声を放った。
「ぼへ!」
変な声と共に、口に含んでるトマトジュースを有住は、勉君の腕にぶっかけた。
「ぎゃぁぁぁぁ! ち、ちからが抜けていくぅ!」
勉君は、そのまま床に倒れこんだ。どうやら、除霊成功である。俺にもよくわからないが、トマトジュースを有住が口に含んで悪魔にぶっかけると悪魔が宿主からでるのである。
これをやれば、悪魔を秒殺できるのだが、妹は、大のトマト嫌いであるため、滅多にこれをやりたがらない。
しばらくすると、勉君と友梨佳さんが目を覚ました。
「う......ん、俺ここは?」
「あれ、陸さん、除霊はどうなりました?」
「お疲れ様です。除霊は成功しました!」
「悪魔祓い!」
「はいはい。」
叫ぶ妹をなだめた。
「そうなんですか! ありがとうございます。ただ、この腕についてるこの赤い液体なんですか? まさか......血?」
「う......」
有住は顔を赤くした。人に自分の口に入れたトマトジュースをぶっかけるという行為自体恥ずかしくて嫌なようである。
「わけあって、私がトマトジュースをぶっかけました。除霊の一件です。ご了承ください。」
適当に嘘を吐いた。
「り、陸......!」
キラキラした目で妹が俺を見つめてきた。後で、バイト代を追加してもらうか。
「本当にありがとうございました。陸さん、有住さん。ところであの......」
友梨佳さんが何か言いたげな顔をしている。
「なんですか?」
「二人は恋人なんですか?」
「ちょ! な!? 違います! 恋人じゃありません! こんなやつ全然好きじゃないんですからね!」
妹が全否定した。
「なんで、そんなテンプレ系ツンデレみたいな台詞を言うんだ、お前は。実は私たちは兄妹で、私は、妹の手伝いでここでしょうがなく! しょうがなく働いています。」
「な! 陸の馬鹿!」
そういい、妹は、自分の部屋に駈け出した。
「お二人は兄妹だったんですね。とても仲好さそうで恋人同士にしか見えませんでした。」
「はぁ......どうも。」
仲良く見えるのか疑問だったがまぁいいか。
「それじゃ、私達これで帰りますね。陸さん、ありがとうございました。」
勉君と友梨佳さんが帰って行った。俺は、機嫌を直してもらうために妹のところへと向かった。やれやれ、めんどくさそうだ。
「おーい、有住。言い過ぎたよ。機嫌直してくれ。」
謝罪の言葉を妹に伝えた。謝罪のレベルに達してない気がするが。
「陸は、ここで働くの......いや?」
なるほど、俺がしょうがなく働いてるって言ったのを気にしていたのか。
「嫌なわけないだろ。人の悩みを解消できる。やりがいのある仕事だって思ってるよ。それにな......」
「ん?」
「お前と一緒に働けるのは俺しかいないだろ。」
「え! ありがとう......」
妹が顔を真っ赤にしてお礼の言葉を言ってきた。多分機嫌を直してくれたのだろう。
依頼者のために、これからもバイト頑張らないとなと思った。