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9 女の子がダンボールの上で寝ているところを俺達は発見した

 川に沿って歩くこと3時間。

 その先に見えてきたものは・・・


 「森を抜けたあああああぁぁぁぁ!!!!」


 俺、歓喜の叫び。

 余りにも嬉しくて、涙がちょちょぎれそうだった。


 目の前には、再び草原が広がっていた。

 そのだいぶ先に、俺達の目指していた次の街・・・アドムが見えていたのだった。


 「やっと、やっとか・・・」

 「私、もうお腹ペコペコですぅ・・・」

 「俺もだよ」


 グーグーグーグーお互いの腹が共鳴を起こす。

 もう俺もハルカも、腹の虫を隠そうともしていない。


 「腹鳴りって、胃と腸が縮んでいく音なんでしたっけ」

 「そうだな。溶かすものがないと、使わないものだし」

 「あ~あ。私の胸が縮んでもいいから、その分脂肪をエネルギーに回してくれないものですかね・・・」

 「エネルギーに回す程、お前の胸は大きくな・・・いだだだだだだだだだ!!!乳首をつねるな!乳首を!!」

 「今まで私の胸の描写がなかったから、私がちっぱいだということが読者にバレなかったのにいいいッッ!!!」

 「お前が貧乳だってことまでは俺は話してないし、しかも挿絵なんかないんだからいいだろ!?それにしてもマジで痛い!爪を立てて乳首をつねるなあぁ!!」

 「今、貧乳って言ったあああぁぁ!!!」

 「ち、ちぎれるぅ!!」


 俺は無理矢理ハルカの手を引きはがす。

 シャツの内側から確認すると、俺の乳首が・・・紫!?


 「お、おま・・・これ、内出血なんすけど・・・」

 「出血した方が良かったですか?」

 「どっちも酷いわ!!」

 「酷いのはクロロの方です!私の気にしてるところを平然と読者の皆さんにばらして!!!」

 「そんなこと、別にいいだろ?」

 「・・・クロロのアレ、潰しますよ?」

 「俺の何を潰す気なんすかね・・・」


 と、俺達が戯れていると・・・


 「・・・あれ、何だ?」

 「はい?」


 川沿って1キロぐらい先に、小さな黒い塊が見えた。

 それはなんだか布の塊っぽく見えて・・・


 「毛布かな?」

 「巨大魔物のウ〇コじゃないでしょうかね?」

 「・・・お前、もう少しオブラートに言葉を包めないのかよ」

 「では、糞で」

 「それも直接的すぎると思うんだが」

 「下痢」

 「もはや固体ですらないし!!」

 「✖✖✖」

 「ウ〇コの方がまだマシだ!!」

 「運子さんではどうでしょう?」

 「ウ〇コを擬人化するな!!」


 こいつ、下ネタに抵抗がないのかよ!


 「・・・確認してみるか」

 「もしあれが魔物だとしたら、どうするんですか?」

 「戦って、食料にする」


 俺の提案に、ハルカは少しの間思案した。


 「・・・分け前は私が9割でクロロが1割でいいですね?」

 「考えてたのは分け前かよ!しかも分け前が理不尽すぎる!!」

 「だ~め?(ウィンクしながら)」

 「だ~め!(しかめっ面で)」

 「だ~め?(胸チラしながら)」

 「・・・・・・(葛藤中)」

 「・・・変態」

 「どうぅあああ!!!こんな誘惑に負けそうになった俺を誰か責めてくれええ!!!」

 「へなちょこ。クソ野郎。露出狂。変態。エロガッパ。陰険。根性なし。ストーカー。覗き魔。ハゲ。ブサイク。ペドフェリア。下着マニア。真正M男。脇役。最初の村人C。咬ませ犬。ひら社員。チワワ。チンパンジー。推理小説の犠牲者。中年。よ、この大統領。エンジェル田中さん。ショウジョウバエ。リベイロール1918オートマチックカービン銃。大会で100位中83位だった中途半端な参加者」

 「色々言ってもらってあれだけど、なんか変なものも混じってるな・・・」

 「・・・(思案中)」

 「流石にもう考えなくてもいいよ!!十分にもう攻め切られてるし!!」

 「たった27種類しか悪口を言えなかった私が悔しいッ!!」


 冗談かと思いきや、割と本気で悔しがっているようだった。

 お前は一体何を目指してるんだよ・・・


 「にしてもあの塊、ちょっと気になるな・・・」

 「クロロの・・・エッチ///」

 「まだウ〇コネタを突っ込んでくるか!しかも・・・可愛いし」

 「・・・そっか」

 「・・・(恥ずかしい)」

 「・・・(恥ずかしい)」

 「気まずくなるから行くぞ!!」

 「そうですねそうですね行きましょう行きましょう!」


 俺達は無理矢理会話を打ち切って、謎の布っぽい物体の元へ。

 どうも微妙な感じだなぁ・・・

 そして近くまでやってきた布っぽい物体は、やっぱり布なのであった。


 大人用の毛布の中に、何かが被さっているようだ。

 下には段ボールが敷いてあって、明らかにこれは人だなぁ、とか予想がつくものだった。


 「人か悪魔か天使か・・・」

 「或いはネアンデルタール人かもしれません」

 「とっくのとうに絶滅した古代人じゃん!」

 「エオマイアかも」

 「それは白亜紀に絶滅してるし、人間ですらない!!」

 「それでも人の先祖です」

 「にしても遥か昔すぎる!」

 「なら、人か悪魔か天使ですね」

 「結局俺の発言を真似るのな」


 人の言葉を盗みたがる奴め。


 「・・・おーい」


 俺は毛布の中の誰かに声をかけてみる。

 この世界で、危険な奴ってことはあるまい。

 他者に危害を加えることに体力を使う奴は、もう殆どいない。

 でも、ここでこうしているからには何か訳があるのだろう。


 「む~ん」


 布団の中の誰かは、可愛い声でモゾモゾと動き出す。


 「アニメ声ですね」

 「可愛い声であることは認める」


 そう言いながら、布をゆさゆさ揺らす。

 ここで寝ていたら、いつ魔物に襲われるか分かったものじゃない。


 「起きろ~。キツイだろうけど、何とか起きてくれ~」

 「ハリィアップ!!」

 「そんなに急かすこともないよ!!」

 「ほえ?」


 俺達が騒がしていると、目が覚めたのか誰かさんは毛布からゴソゴソと這い出てきた。

 そいつは・・・


 「子供?」

 「悪魔、ですね」


 ちっさな悪魔の少女だった。

 年はきっと、10歳を超えたくらい。

 肌は白く、頭に生えている角もまだ殆ど生えてもいないような未熟な大きさで、これも真っ白。

 しかも長い髪の毛すら白色で、唯一眼だけが赤色なのであった。

 ・・・この子アルビノか?とか一瞬思ったが、わざわざ聞くようなことでもないので、黙っていることにした。


 よく見ると幼さがまだ残っているような顔つきで、まだ保護者を必要とする年齢であることは明らかだった。

 けど、将来はきっとえらい美人さんになるだろうと思わせる、整った愛らしい顔つきであった。


 「あ、いやだ!わたし、もう閉じ込められたくないもん!!」


 俺達を見た瞬間、少女の顔が強張って、後ろに後ずさる。

 はは~ん。

 誰かに追われている身なのか。


 「待て待て、俺達は別にお前を捕まえるわけじゃないぞ」

 「・・・じゃあ、誰なの?」


 と、少女が聞いてくるので、俺は答えることにした。

 ここで逃げられても何だか後味が悪いし。


 「俺達はだなぁ・・・」

 「とある一国の姫と騎士で、本来なら許されざる大恋愛をした後、安住の地を求めて追っ手から逃げながら放浪の旅を50年2人で続けてきました」

 「そんな壮大な設定は俺達にない!!しかも子供に嘘を吐くな!!」

 「という夢を私は昨晩見たのです。私、嘘は言ってませんが?」

 「・・・色々と卑怯な言い逃れだぞ」

 「私は空腹で悲況ですけどね」

 「そっちの卑怯じゃないし、全然上手くないし!」

 「あ~あ、お腹減りましたねぇ」

 「都合の悪いことは無視か!!」


 少女の前であーだこーだ言い合いしていると、それを見ていた少女が・・・少しだけ笑った。


 「・・・お兄ちゃんとお姉ちゃん、面白いね」

 「これがか?」

 「うん」

 「私達の渾身の漫才が少女の魂に伝わったようですね」

 「お前は漫才のつもりで会話してたのか!!」

 「当たり前でしょう?私とクロロの仲なのですから」

 「出会ってまだ1週間も経ってませんが・・・」

 「え、まだ知り合ったばっかりなの?」


 少女が意外そうに俺達を交互に見る。

 多分少女の目には、俺達が珍妙な存在に見えていることだろう。


 「こいつが遠慮しない性格のせいで、結構苦労してるんだ、俺」

 「けど、楽しそうだね」

 「そうか?」

 「サリアにはそう見えるよ?」

 「・・・険悪な関係よりだいぶマシではあるけどな」

 「仲がいいのが1番だよ」


 へぇ。

 普通の少女なら、咄嗟には出てこない言葉だ。

 今まで苦労してきたんだろうな。


 「とにかく、無事みたいで良かったよ」

 「・・・サリア、ケガはないよ」

 「ああ、サリアって言うんだ。そういえば名前、教えてなかったな」


 川沿いにいたのが少女だったから、ついついそれに気を取られてたな。


 「俺はクロロだ」

 「私はハルカです。ハルちゃんって呼んでくださいね」

 「ハルちゃんて・・・」


 俺の時はそんなこと言わなかったのに、初対面の少女には言うのか。

 女の連帯感ってやつだろうか?


 「クロロのことはクロロホルムって呼んであげてくださいね、サリアちゃん」

 「それ麻酔薬だよ!と言うか毒だよ!!俺は毒か!!」

 「むしろゴミですね」

 「お前の毒舌がゴミだっつの」

 「私、毒女ですから」

 「ニヤリと言うな、ニヤリと」

 「くすくす」


 俺達のやりとりに、またサリアが笑う。

 そんなにツボなのか?


 「・・・ちょっと前に知り合ったんでしょ?お兄ちゃんとお姉ちゃん」

 「ああ、そうだな」

 「うらやましい」

 「何が?」

 「家族みたいに見えたから・・・」


 その言葉は、サリアの求めている大事な意味がたくさん詰められているような気がして・・・

 おおよそ、少女の年齢には似つかわしくない悲しげな表情。

 俺はこの表情を何回も見てきている。

 親のいない子供達がいる、希望の家で・・・


 「家族、欲しいのか?」

 「・・・なんでサリアにお父さんとお母さんがいないの分かったの?」

 「何となく分かるんだ。俺もお父さんとお母さん、いないからさ」

 「そう、なんだ」


 共感。

 けど、この行為は決して少女を救ったりはしない。

 俺も希望の家でたくさんの子供と共感してきたけど、1度だって悲しみが薄まることはなかった。

 少女が・・・俺達みたいな立場の者が救われようとするのなら、こんなものじゃ駄目なのだ。


 「ねぇ?サリアちゃん」

 「何?お姉ちゃん」

 「言いたくなかったら別に言わなくてもいいんですけど、どうしてこんな場所で寝てたんですか?」

 「・・・」


 ハルカの質問に、サリア沈黙。

 まあ、答えたくないよな。


 「もしかしてサリアちゃんは、施設から逃げ出してきたんですか?」

 「・・・うん」

 「そっかぁ」


 ハルカは、俺と目を合わせる。

 考えてることは・・・恐らく一緒だ。


 親のいない子供は、この世界では基本的にいない。

 しかし、何らかの不幸があった場合・・・残された子は血縁のある者に保護権が移ることになっている。

 でも、もしその子供が天涯孤独の身であったなら、俺と同じ道を辿ることになる。

 つまり、孤児養護施設への移送。


 子供は1人で生きていけない。

 生きていける力がないからだ。

 生きていくには、大人の力を借りるしかない。

 子供は理不尽にも、そんな状態に身を預けることでしか生きていけないのだ。

 だから、辛いのは分かる。

 分かりすぎる。


 「サリアちゃんはどうして施設から・・・出てきたんですか?」


 今度は逃げるという言葉をハルカは使わなかった。


 「苦しかったの」

 「・・・どうして?」

 「サリア、普通の子じゃないの。おかしいの」

 「・・・?」


 おかしい?


 「別に変な風には見えないですよ?サリアちゃん、可愛いし」

 「違うの。見た目じゃないの」


 彼女は悲しげに目を伏せた。

 少女の心の領域に、俺達は触れようとしている。

 触れても良いものか、少し心配になってくる。

 子供の心はガラスのように透明で、そして同時にとても砕けやすいものだから・・・

 それでもハルカは、真剣な表情で少女に聞いた。


 「どうして、自分のことおかしいなんて言うの?」

 「・・・サリアの魔法、あぶないの。だから、大人の人達が安心出来るまでハルカは部屋で大人しくしてなくちゃ」


 ああ・・・

 分かった。

 この子、きっと俺よりもハードな人生を送ってる。

 この子は・・・危険指定に登録されたんだ。


 俺は少女の傍にいるハルカを手招きして、少し離れた場所で話を始めた。


 「訳アリの監禁だな」

 「でも、酷いですよ。あんないい子を、閉じ込めてたなんて」

 「・・・閉じ込めてたってことは、過去に1度事故を起こしたってことだ。サリアの魔法がどんなものか分からないけど、きっとそれなりの理由があるんだろうな」

 「でも・・・!!」

 「ハルカの気持ちは分かる。分かるから、今は泣くな」


 今ここで泣いたら、きっと少女は罪悪感を感じるから。

 サリアはきっと優しい。

 だから、俺達が脆くなる場面を見せてはいけない。

 俺は泣きそうなハルカの手を握って、落ち着かせる。


 「まずは、サリアの状況を詳しく知らなきゃ、俺達は何にも出来ない。ここで感情的になって、私がお世話するって言うなよ?まだ、その言葉を口にするのは早い」

 「・・・そう・・・ですね・・・」

 「ああ」


 今の時代、子供を虐待するなんてことはまずないだろう。

 だから、そういう方面で心配はしなくてもいいはずだ。

 でも、問題なのはそういうことじゃない。

 きっと、根深い問題が絡んでいるはずだ。


 けど、別にそんなことはどうでもいい。

 難しくても簡単でも、目の前の少女を放っておけるわけがない。

 そして今、大切なこと。

 それは、俺達が彼女の置かれている状況に対して、良いと思えるかどうかだ。


 「まず、事情をもっと聞こう」

 「そうですよね」

 「よし」


 彼女は流石に厳しい路上生活を送ってきただけはあって、冷静になるのも早かった。

 ヒステリックになっても、きっとお互いに不幸になるだけだから。

 でも、それだけ少女のことを真剣に思っているわけで。

 俺はそういう感情を否定するわけじゃない。

 むしろ、この好ましい。

 こんな時代だからこそ・・・


 「じゃあ、話を・・・!!!」


 俺が少女の方を振り向いた瞬間。


 「いやだ、いやだよ!!!」


 サリアが、2人の男の天使によって攫われようとしていた。

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