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17 そして俺達は、1人の女の子を救おうとした

 人は繋がりが欲しい。

 いや、人だけじゃない。

 天使や悪魔も、みんなみんな繋がっていたい。


 だって、孤独は辛いじゃないか。

 1人がいいとか、孤高であることが美しいとか、そんなのは強がりだ。

 それか、本当の孤独を知らない知ったかぶりのクズだ。


 一人になると、よく分からなくなる。

 自分は誰で、何をするべきで、どのようなことを願う存在なのかを。

 だって1人だと、自分が誰であっても他の誰も何も全然困らないから、何だってしていいことになる。

 犯罪をしようが、自殺しようが、生きていようが。

 それを見てリアクションしてくれる人がいないと、”全ての意味で意味がない”。

 そこで何をしても意味がないんだと分かるようになると、自分が誰であってもどうでもよくなる。

 だから、分からない。


 まあ、要するに1人ぼっちはダメだってことだ。

 でもさ、否応なく孤立させられるってことはやっぱりあるんだ。

 今のサリアみたいに。


 でも、社会のためにサリアは閉じ込められてる。 

 少数より多数。

 俺はそんな考え方は嫌いだけど、それでもやっぱり正しいことだ。


 1人を救うために100人死ね、なんてとても言えないだろ?

 100人を救うために1人死ねって言うんなら、苦悩の末に実行をすると思わないか?

 きっと、その差だ。

 外の世界に住まう他者達のために、サリアが閉じ込められること。

 それは誰にも責めることは出来ないのだ。


 善悪とか、モラルは関係ない。

 そんなものは、とうの昔にみんな忘れてしまったことだ。

 けれど、ノートムみたいに感情論で考えられる奴もいる。

 それは少なからず、俺みたいな考え方の持ち主はゼロじゃないってことだ。

 俺は孤立してないってことだ。

 ちゃんと他者と比べることが出来てる。

 俺は俺だと理解出来てる。


 だからなんだろうな。

 俺達は、サリアと会ったその日の深夜に、児童養護施設の前へ来ていた。


 「・・・来ちゃったな、ハルカ」

 「来ちゃいましたよ、クロロ」


 荷物は出来るだけ纏めて宿に置いてある。

 そのため、今の俺達はバックパックも何も背負っていない。

 身軽だ。

 これから身軽にならなきゃ出来ないことをするのだから、当然だ。


 「こっそり施設の中に違法侵入するんだから、静かにしろよ?」

 「モチのロンでございます」


 彼女はニカニカ笑顔で返答した。

 やべえ。

 その顔見て不安しか抱かないよ。


 「何ですかその、私がとんでもないことをやらかしそうな気がする的な表情は」

 「おう!?顔に出てたか」

 「へえ。本当にそんなこと考えてたんですか」

 「・・・ハッタリで嵌めたな?」

 「こんなハッタリに騙されるような、軽い頭してるクロロが悪いんですよ」

 「・・・確かに、ハッタリに騙されたことは否定出来ない」


 悔しいが、それが事実だ。

 こんな大事な時に、ガックリとくる俺って・・・


 「もう少し脳細胞増殖させておかないと、社会人になった時に既知外に思われますよ?」

 「それは大丈夫だ。俺は既知の外にいるわけじゃないからな」

 「危地(きち)へ自ら赴く時点で、十分な既知外じゃないですか。この単細胞野郎」

 「俺はお前のその悪口から、最っ高の鬼畜っぷりを窺知(きち)するよ」

 「私が鬼畜ですって?女神のような美貌と心を持ったこの私が?失礼にも程がありますよ、 ファ〇キンベイベー」

 「・・・アイムソーリー」


 もうここは謝っておいた方がいいだろう。

 そう思っての謝罪だ。

 決して俺は負けたわけではないのだ。


 まあ、それはさておき。

 俺とハルカは静かに施設の門へと進む。

 音を立てず、コソコソと。


 「泥棒ってこんなことしてたのかな?」

 「私の知っている泥棒はこんなセコセコしないで、変装したりして堂々と敷地内に侵入しますよ?まあ、大抵とっつあん刑事に見つかって追われますけど」

 「それ、現実の泥棒ちゃう。フィクションの泥棒や」

 「マジックが得意なIQ400の天才高校生で、昔の警察を巧みに翻弄しながら宝石を盗み、夜空を白いマントで飛行して颯爽と去る方もいますよ?」

 「それ、現実の泥棒ちゃう。フィ(略)」

 「では、ハリウッド映画の如く銃を持って襲撃していた方もいらっしゃいますが」

 「それはただの強盗だ・・・」


 大声を出せないので、静かに俺はツッコミを入れる。

 こんな状況でボケるとか勘弁してくれ。


 「で、門まで着きましたが、鍵かかってますよ?」

 「だから魔法を使うんだ」

 「最新式の警報アラームはどうする気ですか?」

 「それも俺の魔法で”消す”」


 そう。

 大概の障害は魔法で何とかなる。

 普通の建物の場合、こんな防犯装置はつけたりしないんだが、ここだけは別だ。

 何せ、危険指定のサリアがいるからなぁ。


 多分、ここの防犯装置は元々外からの侵入者向けではないんだと思う。

 むしろ、中にいる者を外に出さないためのもの。

 脱走させないための装置だろう。

 だって、今の時代に犯罪行為をするような奴なんていないしな。

 そもそも犯罪なんて行為を想定する方が、超神経質だと思われるような今時なのである。


 「んじゃ、少し離れてろ。危ないからな」

 「イエッサー」

 「サーって・・・俺はお前の上官かよ」

 「ならば、アイアイサー」

 「言い方変えても主語が変わってないし」

 「はい、上官」

 「それは英語の訳そのまんまじゃん」

 「はいはい、分かりました分かりました( ゜Д゜)」

 「おざなりだ・・・」


 そう言って彼女は、わざと作ったであろう呆れ顔で後ろに下がる。


 「ふぅ・・・」


 息を吐き、呼吸を整える。

 魔法を使う時の手順。

 それは心の調律をすることから始まる。

 だから、俺は自身の心に触れられるように目を閉じた。


 世界の法則を無視して、現実に変革をもたらすことが出来るもの・・・それが魔法だ。

 現実を変革すること。

 それは言ってみれば、奇跡でもなんでもなく、ただの物理現象だ。

 自身の命と望む結果をキッチリ等価交換するのだから、物質的な均衡は保たれている。

 減った寿命の分だけ、呼吸による汚染や食事の摂取など、本来自身が世界から消すはずだった物質が残されるわけだ。

 帳尻は合っているし、矛盾もない。


 だが俺の魔法は、自身の命を消費して世界の物質を完全に消すのだ。

 完全に物質が消えた空間の大きさだけ、世界に歪みが出来てしまう。

 歪みが出来ると、どうなるのか?

 今もなお膨張を続ける宇宙の”寿命”が減ってしまうのだ。


 宇宙の寿命とはつまり、宇宙が死ぬまでに生きる全生命の種の寿命と同義だ。

 個の命は有限だが、交配し種として星の終わりのその時まで存続させることは可能である。

 異星間移動が可能になりそうな現在、例えこの母なる星が食い潰れても、命は続いていくだろう。

 それこそ、宇宙の終わりまで。


 その宇宙の終わりを早めること。

 それは、全ての種の将来的な命を縮めることで。


 100人を救えるなら、1人が死ぬことを良しとするこの世界。

 でも、俺はたった1人のサリアのために、全ての種の命を削っているのだ。

 けれど・・・いや、だからこそ、俺は1人のためにここまで動けている。

 こんな俺の心は本当に破綻していると思う。


 しかしまあ、そんな自分でも良いと思うんだ。

 だって、これはサリアを思って行動していることなのだから。

 例え100人を死なせてでも1人を救いたいと思うなら、その道は破滅しか残されていないだろう。

 だけど他者を思うというのは、それでも良いと思えるかどうかなのだと俺は思った。

 覚悟と共に俺は目を開ける。


 「”何も無いということリターントゥナッシング”」


 魔法を唱えると同時に、世界のほんの小さな部分が消滅した。

 目の前の門が丸ごと消えたのだ。


 「・・・クロロの魔法、本当にすごいですね」

 「怖いか?」

 「いんえ、全然」


 ケロッとした顔で彼女はそう言った。


 「おう、かなりありがたいな」

 「でしょう?」


 ニヤリと笑う彼女に、俺も軽く笑ってしまう。

 ああ・・・俺、こういうのがいいんだなぁ。


 「門の先にドアがありますけど、鍵は?」

 「それも消したよ」

 「では、私の眠気も消してください」

 「それは自分で何とかしましょう」

 「なら、頭痛は?」

 「出来ないよ。と言うか頭、痛いのか?」

 「クロロのツッコミが最近ワンパターンで、読者に飽きられないか心配で私の頭が痛いんですよ」

 「・・・そっちの意味かい」


 ちょっと心配して損したわ。


 「・・・んじゃ、行くぞ」


 俺とハルカは進みだす。

 抜き足差し足忍び足。

 施設の扉を静かに開け、中に入る。


 前にここに来たから内部の構造は分かっている。

 俺達はあの白い部屋を目指せばいい。


 流石のハルカも、建物に入ってからは口を開くことはなかった。

 少し進むと、就寝中と思われる子供達のいる部屋を見かけた。

 この施設の部屋はドアに窓のようなガラスを取り付けていて、いつでも中の様子を確認することが出来た。

 ま、子供を目の見えない場所に置いておく気はないってことだな。


 みんな、安心して寝ている。

 何も心配することなどないと思っているように。

 それは、正しい。

 きっと、子供達は幸せだろう。

 無駄に起こすこともない。


 そのまま先へ進む。

 そして、あの白い部屋へと到着した。

 サリアと再会した部屋へ。


 「・・・着きましたね」

 「ここから先は・・・初めてだな」


 白い部屋の奥には、真っ白い扉があった。

 この先に、恐らくいるのだろう。


 「また魔法を使うぞ」


 ちょっと前に魔法を使ったばかりだ。

 心を調律する必要もない。

 手を扉に向けて、魔法を唱える。

 簡単に扉が蝶番ごと、この世界ではないどこかへ消えた。


 奥へ無言で入っていく。

 白い部屋の先には、また白い部屋。

 けど、違いがいくつかあった。


 様々なおもちゃが部屋中に散乱し、その中には絵本などの書物も置かれていた。

 天井には、半径5メートルはある丸くて透明なガラスが設置されていて、夜空に浮かぶ月の光が室内を淡く照らしていた。

 そして、部屋の隅に1つだけあるベット。

 ベットの上の毛布が、ゴソゴソと動く。

 ・・・やっぱりここにいたな。


 俺とハルカはお互いに頷いて、ベットに近寄る。

 毛布からちょっぴり顔を覗かせた、サリアがそこにはいた。

 スヤスヤと寝ているようだ。

 忍び寄る俺達に全く気付いていない。


 「・・・やっぱり可愛いですね」

 「うん、そうだな」

 「起こすの、可哀そう」

 「でも起こすぞ」

 「ええ」


 俺はサリアの頭に触れて、ゆさゆさと揺らす。


 「サリア、起きろ」

 「むぅん・・・眠いよぉ」

 「頼むから起きてくれ」

 「ぅぅ・・・いやぁ」

 「いやよいやよも?」

 「いやのうちぃ」

 「・・・からのぉ?」

 「zzz」

 「・・・二度寝っすか」


 中々起きない子だなぁ・・・


 「クロロ、ふざけてるんですか?」

 「いや、優しく起こそうと思って」

 「それが優しく?まるでお笑い芸能人の寝起きドッキリ並みの乱雑さですよ?」

 「それは例えが悪すぎないか?」


 寝起きドッキリなんて過激なことはやってないのに・・・


 「この私が、匠の技というのを見せてあげましょう」


 謎の匠発言をしたハルカは、ぐーすか寝ているサリアの耳元に口を近付け、声を低くしながら囁いた。


 「サダ〇が1人ぃ、サダ〇が2人ぃ、サダ〇が3人・・・」

 「zzz」

 「あら、起きませんね。国民的ホラーアイドルの呪女ですのに」

 「そりゃあ数百年前のホラー映画なんて、よほどマニアックな奴じゃないと知らないだろ」

 「ふぅむ・・・」


 ハルカは少し考えて、またサリアの耳に囁く。


 「クロロお兄ちゃんのキッスがサリアちゃんの唇を奪うまで、あと5、4、3、2、1・・・」

 「ぴぎゃ!?」


 ボンッと顔を真っ赤に染めて、サリアが飛び起きる。

 おいおい、みんなが起きるぞ。

 てかそんなに俺が嫌なのか。

 少しだけショボンとしてしまった。


 「しー、静かにしてくれ」

 「うにゅ?クロロお兄ちゃん?」

 「ああ、俺だよ」

 「どうしてここにいるの?それにハルカお姉ちゃんも・・・」


 サリアは当然驚いていた。

 きっとここに入れるのは、限られたスタッフだけだったろう。

 そりゃあビックリするよなぁ。


 「お前を、ここから連れ出しに来たんだ」

 「えっ・・・」

 「サリア。お前は、外の世界を見たいか?」

 「・・・ちょ、ちょっとまって。え?えっ?」


 彼女は混乱していた。

 無理もない・・・と言いたいところだが、今はそんな余裕はない。

 彼女には今、ここで選んでもらわなくてはいけない。


 「混乱するのは分かる。けど、聞いてくれ」

 「・・・う、うん」


 俺の冷たい言葉で、一気に冷静さを取り戻すサリア。

 感情の切り替えが早い。

 とても頭の良い子だな。


 「お前、ここから出たいか?」

 「・・・その前に、聞いていい?」

 「いいぞ。なんだ?」

 「どうしてサリアを、ここから出すの?」

 「・・・正直に言おうかな。俺、嘘はあまり好きじゃないから」


 そう。

 それが残酷なことでも、この子は聞かなくちゃいけない。

 聞く権利があると思うからだ。

 この子は賢い。

 だから、きっと俺が伝えることも理解出来るだろう。

 理解出来るなら、自分で判断して選択することも出来るはずだ。


 「サリア。お前、ここにいたらいつか殺されるんだ」

 「・・・うそ・・・じゃないんだね」

 「本当なの」


 ハルカが黙っていられないと、横からサリアに話しかける。


 「ここにいたら、いつかサリアちゃん殺されちゃうの。だから逃げないと・・・」

 「・・・サリアの魔法が悪いんだね?」


 ポツリと吐いたサリアの一言。

 ああ、この子は本当に聡明だ。

 この子に残酷な現実を突きつけることは、虐待と言ってもいいはずだ。

 心を傷つけ、抉っているのだから。

 自分が危ない子だと自覚させるということは、つまりそういうことだ。

 ・・・俺は最低だ。


 けれど、やらなくちゃいけない。

 サリアのために。


 「そうだ。お前の魔法は俺と同じで、危ないからな」

 「・・・お兄ちゃんも?」

 「そう、同じさ。俺も・・・1人ぼっちだったんだ」

 「・・・そっか」


 1人は、なんと寂しいことだろう。

 辛いのだ。

 苦しいのだ。

 けど、サリアはどうすることも出来なかっただろう。

 俺も同じ境遇だったことがあるから、すごく分かる。


 「・・・うん。分かった」


 サリアが顔を上げる


 「でもね、サリアは1人ぼっちじゃなかったんだよ」

 「・・・そうなのか?」

 「うん。だからサリアね・・・」


 彼女が何かを言いかけた瞬間。


 「なっ!?」


 急に室内が暗くなる。

 天井の月光が遮られたのだ。

 俺は咄嗟に上を見た。

 その直後・・・


 「ガアアアアアァァァァァァ!!!!!」


 謎の咆哮と共に、天井のガラスが割れたのだった。

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