15 俺とハルカはアドムの児童養護施設へと訪れた
ボロボロの船で漁港までたどり着くと、港で作業していた漁師達にすごい心配されていた。
・・・俺とハルカじゃなく、船長のおっちゃんと船員達だが。
大丈夫か?、とか何か手伝うことはあるか?、とか。
色々な優しい言葉が飛び交っていた。
その忙しない光景を、隅っこの方で見ていたら何だか気まずかった。
港で船員達に応急処置を受けさせている間、俺とハルカとパダシリは宝石の換金所へ。
受付の机でガシャガシャと雪崩のように置かれる大量の宝石は、見る者を虜にする光でスタッフを驚かせた。
そして、宝石を無事に監禁した後、俺の報酬分(ハルカは船で食って寝て酔ってただけなので報酬なし)の5000ドルが手渡された。
「パパシリ、色々ありがとうな」
「いいえ、どういたしましてっス。あと、僕の名前はパダシリっス。その名前だとパパのお尻みたいなのでやめてください」
「すまんすまん。あ、そうだコパシリ、船長にもよろしく伝えておいてな?」
「僕の話聞いてました!?僕、パダシリっス!コパシリだと子分のパシリっぽいからやめてください!!」
「はは、冗談冗談。あんまりにもお前が弄られキャラっぽく作者が描いてるもんだからさぁ」
「作者?誰の事っスか?」
「お前は一生知らなくていいことさ。これはメインキャラだけの秘密だからな」
「はぁ・・・?」
パダシリはよく分からないといった顔をして、ハルカに向き直る。
「ハルカさんもお元気で」
「パシリが私にお別れの挨拶をするのは当然ですね。だから私は挨拶しません」
「返事が酷い!?と言うかまだ僕のことパシリって呼ぶんスか!?」
「それが本名ですよね?」
「本名はパダシリっスよ!!僕の名前からダを抜かないで!!」
「はぁ、しょうがないですね。どうせパリと呼ばれるのも嫌なんでしょう?」
「2つも文字を抜かれるのは勘弁っス」
「なら、いっそ嫌なパリの文字を捨てて、ダシと呼びましょう」
「ダシィ!?これじゃあコンブから取れるうま味成分が僕の名前じゃないですか!!」
「漁師ならピッタリの名前だと思っただけダシィ~」
「それ全然上手くないっス!!あと僕の名前から何も文字を抜かないって選択肢はないんスか?」
「ありません!!」
「うわ~ん!!ハルカさんも僕の名前で虐めるぅ!!!」
刀を持って勇敢に魔物と戦っていたパダシリは、超絶毒舌天使によって漁港へ泣きながらダッシュしたのであった。
「船員のみんなにもよろしくな~!!!」
涙を流しながら自分のテリトリーに戻る彼に向って、俺は大声でそう言った。
さて、これで借金は返せたし、当分は飢えることもあるまい。
「今貰った金があれば、ホテルにだってしばらくは泊まれるな」
「あれ?そのお金は全部私のために宝石を買う用のお金じゃないんですか?」
「何故に宝石から換金した金をまた宝石に戻すんだよ!?」
「私はダイアモンドが欲しいからです!」
「堂々と主張すんな!!」
「サファイアかルビーでもいいですよ?」
「・・・俺とお前の分け前は半分こだ。5000ドルだから、2500ドルお前に渡す。それでも十分な金額だろ?」
「私の金は私のもの。クロロの金は私のもの」
「どっかのガキ大将の理論を持ち出すなよ!?」
こいつの出してくるアニメネタ、なんか平成の時代に偏ってんな。
「この金は元々全部俺の報酬なんだぞ?分けるだけでもすごい譲歩じゃないか」
「え〜」
「駄々こねてもダメ!」
「ブーブー」
「ブーイングもダメ!」
「パラリラパラリラ!」
「暴走族みたいなこと言ってもダメ!てかいつの時代だよ!?」
「にゃーにゃー❤️」
「・・・甘えてもダメです」
「一瞬揺らぎましたね?」
「俺が揺らいだのは認めるけど、そうやって一瞬で真顔に戻るのはやめろおお!!!俺がいたたまれなくなる!」
「まあ、そんな必死な言い訳も可愛かったから、許してあげましょう」
「許す側が逆だよ!!その言い方だと、俺が悪い方みたいじゃん!!」
「正しいとか、悪いとかそういう大昔の次元で物事考えてるんですか?ちっさい器の男ですね?」
「・・・なんか色々すんませんでした」
「分かればよろしい」
もうメンドクサイし、俺が悪いってことでいいや。
「とりあえず、お金を半分よこしてください」
「あ、あんな言葉の応酬しておきながら、結局半分こなんすね・・・」
と言いつつも、俺は彼女にお金を渡す。
「それじゃあさっそくこの町の宿を決めて、何か食べ物お腹に入れて行きますか」
「・・・あれ?俺達にどっか行くフラグ立ってたっけ?」
「第10話で子供が児童養護施設に連れ戻されたこと、忘れちゃったんですか?」
「あ・・・そんなことあったな」
魔物との死闘が印象強すぎて、すっかり忘れてた。
「全く、クロロはもしかして若年性アルツハイマーなんじゃないんですか?」
「ちょっと忘れたことがあるくらいで、そこまで言うのは酷くないか!?」
「子供が連れてかれたことを忘れる人も中々いないと思いますが?」
「お前は船で魔物と戦ってなかったからそんなことが言えるんだよ。俺、1回船で死にかけてるからな?」
「私は船酔いと死闘を繰り広げてましたが、何か?」
「何か?じゃねーよ!たかが船酔いで死闘なんて文字を使うなよ!!死闘の文字がタイトルに使われた13話では俺、本当に死ぬかと思ったんだぞ!!」
「船酔い舐めんなよコンチクショー!!」
「ぶほっ!!!」
俺はハルカに殴られた!
「グーはダメだろグーは!せめてパー・・・もダメだダメだ!ビンタも十分痛い」
「ならチョキで」
「チョキもダメだよ!!と言うかチョキで攻撃出来るのかよ!?」
「目潰しします」
「怖いよ!!俺の目が失明するよ!!俺の明日が見えなくなったらどうするんだよ!!」
「ならチョキの鼻フックで我慢します」
「我慢じゃねーよ!そもそもがお前に攻撃される理由が理不尽だし!!」
「あれ?私がクロロを殴った理由ってなんでしたっけ?」
「・・・俺をアルツハイマー呼ばわりしておいて、それはないだろ」
本心から俺はそう思ったのだった。
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その後、なんやかんや馬鹿な会話をしつつも、宿を決めて飯を食らった。
宿は超安いボロボロの古宿だった。
ハルカが守銭奴であったためだ。
にしてもハルカの奴、節約のためとはいえ俺と相部屋を選ぶとは・・・
意外と男性に対して、耐性をもってるんじゃないだろうか?
まあそんな感じで町を歩いていき、目的地を目指す。
ついでに、ハルカのお願いで観光も兼ねながら。
町を探索してると、入り口付近からは分からなかったことが見えてくる。
例えば、この町は坂が多いから港の方に活気が集中しているかと思いきや、意外とそうでもなかった。
この辺は漁業が盛んではあるが、その分海に出ると水棲の魔物の被害に遭いやすい。
だから魔物専門の討伐、捕獲企業・・・通称ギルドと呼ばれる組織の建物が、町の中央に乱立していた。
町の中心地では漁師達が、護衛代わりにとギルドへ依頼をする様子が頻繁に見られた。
それを見るだけでもいい勉強だな。
さらにここの町は潮風対策なのか、魔法で特別に加工された木材建築が多く見られた。
色とりどりで、見ていて面白い。
海と合わせて見ると、これが中々飽きない景色で面白い。
そんな気付いたことを、ハルカと冗談交えて楽しく話した。
これが旅の醍醐味か、なんて思うと、本当に面白くなってくる。
ああ・・・やっぱ旅っていいな。
そんなことを思ったのだった。
さて。
児童養護施設のスタッフ、ノートムから渡された住所の書かれた紙を頼りに、俺達は進む。
慣れない地形で少し道に迷ったが、ついに・・・
「やっと来たな。児童養護施設センター」
「子供が連れ去られた話数からここまで、6話分の長い道のりでしたね。」
「俺達が餓死寸前でなきゃ、もっと早く来れた気がする」
「これは私達が無職だっていう設定を作った作者が完全に悪いですね」
「前にも同じようなことを言った気がするけど、それを言ったらお前、作者に消されるぞ」
「私、この物語のヒロインですから、中々死亡フラグが立ちにくいんですよ」
「昨今の小説ではヒロインも普通に死ぬことあるけどな」
「それを言ったら、主人公も最近ではバシバシ死んでるじゃないですか」
「・・・確かに」
「今や、どのポジションでも安心することが出来ない時代になってしまいましたねぇ」
否定出来ないのが妙に悲しい、世界の真実なのであった。
「んじゃ、行くぞ」
「はい」
俺はハルカの了承を得て、目の前にある児童養護施設のインターホンを押した。
「ポチっとな」
「ハルカ、俺が言ったように言うのはやめろ。なんか俺がボヤッ〇ーみたいじゃないか」
「今の時代でも、数百年間愛され続けてますからね、タイムボ〇ンシリーズ」
「俺もそのアニメは好きだけどさ・・・」
そんな会話をしていると、インターホンから男性の声が流れてきた。
「はい、児童養護施設センター、”愛による子供達のための家”です」
「あの、すいません。俺達、その施設にいるサリアに会いに来たのですが・・・」
「・・・クロロさんとハルカさんですか?」
ん。
俺の名前を知ってるってことは・・・
「ノートム?」
「お待ちしていましたよ、クロロさん。今、お迎えしますから待っていてください」
プツンとインターホンから声が途切れる。
少しして、施設の入り口のドアが開いた。
開けたのは、天使のノートムだった。
「・・・来ましたね」
「ああ、約束通り、サリアに合わせてくれよ」
「ええ。ただ、少し準備があるので、中でお待ちいただくことになりますが?」
「別にいいよ」
そう言いつつ、ノートムは俺とハルカを中に招いた。
施設の中は、洋風の広々とした空間だった。
子供が思いっきり遊んでもいいように、頑丈な作りにと十分な広さを確保していることが伺える。
「私と別れたあの後、2人で金銭を稼いでいらっしゃったのですか?」
「・・・命がけのな」
「命がけ、とは?」
「船酔いよ」
俺とノートムの会話にいきなり割り込むバカハルカ。
「船酔いが命懸けなわけあるか!!もう同じネタは聞き飽きたわ!!俺が言ってるのは魔物の討伐だっつの!」
「私が魔物を討伐したのよ、ノートムさん」
「俺だよ!!勝手にお前が討伐したことにすんなよ!!」
「このフルメタルビッチと呼ばれた私にかかれば、あんな魔物はザコね」
「お前はどうしても自分が魔物を討伐したってことにしたいんだな・・・」
もう、どうでもいいや。
最近諦めが早くなっている俺なのであった。
少し歩くと、廊下を歩く子供達が目に映った。
人間、天使、悪魔の子供達だ。
まだみんな俺の腰ほども成長していなくて、小さく無邪気な顔をしている。
・・・懐かしいな。
「なに女の子に見とれてるんですか、クロロ。ロリコンなことがノートムにバレますよ?」
「俺はロリコンじゃないし!しかもノートムにバレるように大きな声で言うなよ!!」
「あの・・・クロロさん、ハルカさん。ここでは大人は大声を出さないようにお願いします」
ノートムがちょっと笑った表情で、俺達に注意した。
「・・・すいません」
「・・・すいません」
2人同時に謝ったのだった。
「では、こちらの部屋でお待ちください」
そう言われて通されたのは、テーブルとイス以外何もない、一際頑丈そうな部屋だった。
天井も壁も床も真っ白で、テーブルと椅子すらもホワイト一色だ。
一見清潔感が漂う室内だが、なんだか寂しいような気分にさせられる。
この部屋には”温かみが何も無い”のだ。
ただただ冷たい印象を受ける。
そんな中で、ハルカと2人きりで待ち続ける。
しきりにハルカが隣で「白色って無色なんですかね?それとも白色っていう色なんですかね?」とかどうでもいいと同時に、少し物理学的に考えさせられる疑問を言っているのを無視して、数分後。
「・・・お待たせしました」
ノートムが、真っ白な肌とこれまた真っ白な長い髪を有した赤眼を持つ、悪魔の女の子・・・サリアを連れて来たのだった。




