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14 死闘の果てに、俺はおっちゃんと友達になった

 サーペントタイプの魔物と戦闘が終わった後、俺とハルカはおっちゃんに船長室に来るように言われた。

 魔物に散々ボロボロにされた船は、船員の死体だらけだった。

 そんな死体を嘆くことなく、悲しむことなく黙々と片付けていく船員達。


 今の時代、同胞が死ぬのなんか、別に珍しくない。

 この星は滅びを迎える直前で、俺達は必死に生きている。

 まだ生きられたはずだとか、死ぬには若すぎるなんて甘々な考え方は、もう大昔に捨てたのだ。

 そういう後悔がないぐらい・・・いつでも死ぬ覚悟が出来ているくらい、この時代に生きる者達は必死に生きているのだから。


 でも、死体の傍を通る度、俺の心は軋みをあげる。

 尊くて大切なものと引き換えに、当たり前にある大切なものが失われた気がして。

 でも、俺は泣かなかった。

 そして、俺とハルカは船長室までやってきたのだった。


 「ガッハハハハハハ!!!あんちゃん良くやった!大手柄だ!!」


 部屋に来て早々、俺は褒められたのだった。

 まあ、みんな倒せなかった魔物を俺が討伐したんだし、当然の反応か。


 「これで討伐代金が下請けの俺らに入るぜ。約束通り、俺への借金は帳消し&賃金発生だ!良かったなあんちゃん」

 「具体的には幾らなんだよ?」

 「5000ドルだバカヤロコノヤロォめぇ!」

 「5000ドルっ!!!」


 何でそんな口調変わってんの?という疑問を無視して俺は驚愕した。

 だって5000ドルだぞ?

 大金すぎるじゃないか!


 「5000ドルって言ったら、ベンジャミンフランクリンが50人いるってことじゃないか!!」

 「ユリシーズグラント大統領が100人でもあるな」

 「グラント大統領が100人もいたら、汚職とスキャンダルの大パレードになりそうだ」

 「偉人は多すぎず、少なすぎずが1番だな」


 おっちゃんと俺とでうんうんと頷き合う。

 そこでやれやれとハルカが首を振って、呆れたように俺へ言った。


 「もし私が100人いたら、99人の私をこん棒で殴り倒して、臓器を奪うだけ奪ったら転売しちゃいますね」

 「臓器売買のために自分自身を殺すお前の発想が怖いよ!!しかも、そんな発想を持ったハルカが100人いること自体が怖すぎる!!」

 「では逆に、100人の私でクロロの臓器を奪うというのもアリですね」

 「全然逆でも何でもねーよ!!と言うか何故に襲われる対象が俺!?」

 「クロロを愛しているからです」

 「この会話でそれを言われても嬉しくないし、ひたすら怖いだけだわ!お前はヤンデレか何かかよ!!」

 「だってあの女の匂いがするんですもの。絶対に許せない!!」

 「そのヤンデレ発言はキャラ崩壊するからやめろ!!てかあの女ってどの女だよ!?俺はお前以外の女キャラとこの小説で出会った覚えなんかないし!!」

 「第1話のルフェシヲラさんがいたじゃないですか」

 「325歳いぃ!!300歳超えたルフェ先生に嫉妬してどうする気だ!!更に言うと時系列的にお前がルフェ先生を知っているのはおかしい!!!」

 「小説を1話から読み直したんです」

 「それ小説の登場キャラが1番やっちゃいけない行為だよ!!色々矛盾が出てきて、作者も困るぞ!?」

 「では、第9話の女の子は?」

 「今度は10歳いぃ!!そんな小さな女の子に憎しみの感情を向けるなよ!!しかもお前の発言だと、俺がロリコンだと疑われる!!」

 「ま、冗談です」

 「・・・ツッコミに使った俺の労力返して?」


 やたらでかい魔物を倒したかと思ったら、今度はこれかよ。

 精神の休まる時間をそろそろくれ、作者よ。


 「ガハハ。お前らの夫婦漫才面白いな!!」

 「漫才は認めてやるから、夫婦はやめてくれおっちゃん」

 「え?クロロ私と腐蠢腐(ふうふ)になってくれるって言ったのに?」

 「夫婦の漢字が全然違うぅ!!それじゃあ何か腐って蠢く関係みたいで嫌じゃん!!!」

 「ドロドロの関係が好きなんでしょう?この変態!」

 「ドロドロなのはお前の思考だろ!!」

 「どうせそこの船長とドロドロしたいんでしょ?」

 「誰もそんなこと言ってないよ!!誰がこんなガッチリ中年悪魔とドロドロするか!!」

 「何ぃ!?俺とトロトロ仕事するのが嫌だったのか!!」

 「何をどうしたらドロドロの濁点が取れるんだよ!?しかも誰も仕事が嫌だなんて言っていない!!」

 「そんなに俺との仕事が嫌なら、今回の報酬もなしだなぁ。残念だなぁ?仕方ない、報酬は全部俺のものだ!!」

 「おっちゃんそれ自分の収入をただ増やしたいだけだろ!!」

 「じゃあ、一緒にムラムラ仕事しようぜ?」

 「ムラムラは全力で遠慮したいわ!!!」

 「ま、冗談なんだけどな」

 「・・・ツッコミに使った俺の労力返して?(2度目)」


 こいつら2人、別に結託してるわけでもないのに、俺を虐めおるわ!


 「報酬については心配すんな。あのサーペントタイプ、貨物船を襲った時にでも腹に溜めてたのか、胃の中に宝石がゴマンとあったからよ」

 「あの強さじゃあかなり長い間船を襲ってたんだろうな」

 「そうだな。しかし、そのおかげで余分に俺は収入を増やしたと言える」

 「俺とハルカもウハウハ、と」

 「ハウハウですね、クロロ」


 なんだよそのハウハウは。

 ちょっと可愛いじゃないか。


 「私のウハウハ、可愛かったですか?」

 「・・・別にぃ~」

 「あんちゃんは素直じゃないな。そのままだとお嬢ちゃんに尻敷かれるぞ」

 「不吉なことを言うなよおっちゃん」

 「今の時代、亭主関白は滅びたのさ」

 「むしろ女尊男卑になってるような・・・」

 「少なくともクロロと私の関係はそうですね」

 「・・・そうじゃないと思いたい」


 そんな会話に、またしてもガハハと快活におっちゃんは笑った。



 ---



 ハルカがまた船酔いの症状を軽く訴えて、別室に移動した。

 その時、俺も彼女に付き添おうと思ったのだが・・・


 「少し、真剣な話をしようや」


 そう言って、おっちゃんはハルカだけ船長室から退室させた。


 「・・・なんだよ?」

 「あんちゃんに聞きたいことがあってな?」

 「聞きたいこと?」

 「あんちゃん、サーペントタイプの魔物を倒した時、どんな魔法を使った?」

 「・・・事前に言ったよな?俺が持ってるのは水を操る魔法だって」

 「嘘だろ?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が一際高く鼓動音を発した気がした。

 おっちゃんが俺を疑っている。

 そう気付いたからだ。


 「水を操って魔物をあんな風に殺すことは出来ない」

 「・・・体内の水を蒸発させただけだよ」

 「お前、そこまでいったら危険指定の魔法の領域だぞ?しかも水の魔法単体で水は蒸発しない。それは火の魔法の領分だからな」

 「・・・」


 思わず黙ってしまった。

 俺、こんなに嘘を吐くのがヘタだったっけ?


 ・・・いや、きっとおっちゃんは最初から気付いてる。

 俺が”特別な魔法”を持っていることを。


 「話してみろよ?共闘した仲だろ?」

 「・・・話したらどうします?」

 「どうするとは?」

 「・・・もし、俺の魔法が危険指定されてもおかしくない魔法だったら、おっちゃんは社会のために俺を拘束するんじゃないんですか?」

 「・・・ふむ」


 おっちゃんは考えた。

 難しい顔で。

 豪放な表面の影。

 それは大らかな自然の知を思い起こさせる。


 「だとしたら、俺をこの場で殺せばいい」

 「なっ!?」


 なんつーことを言い出すんだ、このオヤジは!

 自分を殺せばいいだなんて!


 「んで、お前は逃げればいい。あの魔物を殺した魔法なら、証拠も残るまい?」

 「そんなこと、出来るわけ・・・」

 「ないだろ?」

 「・・・」


 俺がまた黙った様子を見て、ガハハと軽く笑う。


 「だからあんちゃんを俺は信用してるのさ」

 「まだ会って1日も経ってないのに・・・」

 「信頼=時間じゃねえよ?」

 「でも・・・」

 「あんちゃんがいなきゃあ俺達この船団のメンバー全員、とっくにあのでかい海蛇の腹のなかだったろうさ。感謝と信頼を寄せるのは当然だろう」

 「それは借金があったからで・・・」

 「んなお堅いこと言うなよ!!もう俺達友達だろ?」


 ニカニカの笑顔で、バンッと俺の背中を叩く中年船長。

 背中がヒリヒリするくせに、これっぽっちも不快じゃないのだった。


 「だからよぉ、もし、危険指定の魔法であんちゃんが窮屈な思い抱えてるんなら、助けてやりたいと思っただけさ」

 「・・・本当に?」

 「嘘言ってどうするんだよ?」

 「本当の本当に?」

 「本当の本当の本当に」

 「・・・」


 やばい。

 予想外の展開だ。

 涙が・・・

 やばいやばい。

 涙腺が崩壊しそうだ・・・


 「・・・ありがとう」

 「だからお礼言いたいのはこっちの方だっつの」

 「いや、それでも、さ」

 「まあ、別にいいんだがよぉ」


 俺の言葉、ギクシャク。

 多分俺、かなり感動してる。


 「で、あんちゃんの魔法ってどんなんだよ?俺もどんなのか興味あるんだ」


 ワクワク顔のおっちゃん。

 まるで少年のようだ。

 中年のくせに・・・


 俺はひとまず、自分の魔法のことを話してみた。

 俺が消したい物体を消滅出来ること。

 ”命のある生物”は消すことが出来ないこと。

 消した物体は分子レベルで、”この世のどこにもいなくなる”こと。

 自分の命を捨てれば、この星のコアを消して星を破壊することさえ出来ること。

 洗いざらい、全部を話した。

 そして・・・


 「うん、今聞いたこと忘れよ」


 と、おっちゃんが言ったのだった。


 「いやいやいやいや!!!俺、勇気を出して洗いざらい話したんだからさ、もう少し何か言えよ!!俺が感動したおっちゃんの助けてやりたいって言葉はどこに消えたんだよ!!」

 「多分、PCのバックスペースキーで消えたんじゃね?」

 「ちょっと上にスクロールすれば、おっちゃんの言った言葉が丸々残ってるんだよ!!」

 「だってさぁ、星を壊せるとか壮大すぎておっちゃん困っちゃうわ~」

 「困っちゃうわ~じゃねえよ!!軽くひくわ~みたいなノリで言うなよ!!」

 「貴方の魔法、普通にひきますね、これ」

 「敬語使っても同じだっつの!!」

 「ぶっちゃけぇ、あんたの魔法、ひくわ~って感じぃ~」

 「言葉使いが古いよ!!大昔に存在してた人間のギャル語じゃん!!!」

 「俺だけ知ってるネタかと思ったのに・・・。あんちゃん、結構マニアックな知識持ってんな?」

 「・・・まあ、主人公ですから」


 そう言い訳しておこう・・・


 「まあ、こんな話の余興は置いておいてだ」

 「こっちは最初から大真面目だったんすけどね」


 俺の感動を返せこの野郎と言いたかったが、思いっきり我慢した。


 「大体事情は分かった。どうせ、その魔法のせいで職にもありつけなかったんだろ?」

 「魔法のこと話しただけで、そこまで分かっちゃうもんなんですね」

 「だって普通に考えて危険指定の魔法だもんな、お前のそれは」

 「・・・ですね」

 「お前がもし危険指定されて、拘束から逃れようとしたら、真っ先に全滅指定入るだろうな」 

 「俺も流石に殺されるのは勘弁願いたい」

 「ま、秘密にしておいてやるから大丈夫だ。安心しろよ」


 その言葉を聞いて、ホッとする。

 さっきから確証の言葉が欲しくて、ウズウズしていたのだ。


 「何か困ったことがあれば、助けてやる。俺が助けられる範囲に限りだけどな?」

 「・・・すんごい範囲が狭そうなのは気のせいか?」

 「バカめ。俺はこの星が悪魔の世界だった時から生きてた先祖が創業した、エマ・フォカロル社の社長だぜ?この街じゃあ顔が利きすぎて困るぐらいだ」

 「例えばどのくらい顔が利くんだよ?」

 「ビールのつまみ(枝豆や柿ピー)がタダになるくらいだ!!」

 「想像の斜め上をいくショボさだ!!!」

 「失礼な奴め。これが年単位に換算されたら、どれだけ食費の節約になることか!」

 「5000ドル貰うことが決まった今日に言われてもな・・・」

 「まあまあ、本当に顔は利く方だから、困った時は俺に言え。な?」

 「・・・そうします」


 せっかくの申し出だ。

 断る理由もない。

 俺と船長のおっちゃんは、互いに握手してこの話題を終了とした。


 「さて、帰るか!!アドムに!!」


 こうして俺達は、ボロボロになった船を応急処置して、陸地へ戻ることとなったのだった。

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