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12 船の上でハルカが例のアレをやってしまっていた

 「ハルカ、大丈夫か」


 俺は船長のゴーマおっちゃんから説明を受けた後、甲板にて海を眺めているというハルカに会うことにした。

 確かにおっちゃんの言う通り、彼女は甲板にいたのだが・・・


 「オロロロロロロロロロロロロロロロロ・・・」


 ゲボっていた。

 リバースである。


 男女が船の上と言えば、透き通る海の中でスピーディーに泳ぐ熱帯魚達を見て、「見て、泳ぐ魚がふつくしいわ!」と感激し。

 それを見る男が「お前も、そこで泳いでるイワシの鱗よりも輝いていて素敵だよ」と呟く。

 そして「ああん!貴方も素敵よ!」と夜の過激なシーンへと至るのが大昔のドラマのパターンだと言うのに。

 あろうことか彼女は、オロロロロロロロロロロロロであった。


 「・・・大丈夫か?」

 「のぉー・・・」


 彼女は海に向かって、胃の中のアレをコレしてドボンドボンしていた。

 これじゃあヒロインならぬ、ゲロインじゃないか。

 

 「気持ち悪オロいよぉオロロ。お願いオロロロ助けオロロてクロロォ」

 「なんか明治時代の初期に流浪人として刃が逆の刀で戦ったアニメの主人公みたいだな」

 「オロロ?」

 「そうそうそれそれ!」

 「オロロロロロロロロロロ」


 あ、オロロって返事したんじゃなくて、ただ吐いただけか。


 「酷いよぉ、クロロオロロ。私、こんなに苦しんでるのに」

 「クロロとオロロが区別つきにくいから、別の音声にしてくれないか?」

 「オオオオオア、アアァ・・・ビチャボトボトボトボト・・・ 」

 「違う音声に変えろとは言ったけど、今度は音が生々しすぎるわ!!!」

 「私のゲボで遊ばないでぇ・・・」


 きっと今のセリフは俺にじゃなく、この世界の作者に向けてだろうな。

 流石にこの展開はきつかったか。


 「にしてもお前、船酔い重症だな。普通そんなに苦しむ奴はいないぞ」

 「・・・と言われましても・・・オェ」


 ああ、もう話しかけない方がいいのかもしれない。

 話しかけるたびに彼女の口から酸っぱい臭いが漂ってくるし。

 と、そこで後ろからゴーマのおっちゃんが声をかけてきた。


 「船酔いは自律神経(副交感神経系)の働きが乱れて起こるものだから、治療魔法で治すことは出来る。けど、お嬢ちゃんが誰かに触れられることを拒否するんだ」

 「・・・何故に拒否?」

 「俺には分からん。と言うか、あんちゃんと会ってからやっと口を開いたって感じだからなぁ。いや、ゲボで口は開いてたか」


 自分の言葉に、ガハハと笑う豪快なおっちゃん。

 それを不快な目でハルカは睨めつけていた。


 ハルカ、俺に触れる時は嫌がらないよな?

 と言うことは、これはある種の信用?

 出会ってからまだ1か月も経ってないのに?

 ・・・よく分からん。


 「ハルカはおっちゃんが俺に説明したこと、知ってるのか?」

 「ああ、あんちゃんより先に目が覚めた時に伝えたよ。そしたら、クロロに任せるってよ」

 「信頼されてるんだか、厄介ごとを押し付けられてるんだか・・・」

 「前者だと思い込めばいいだろ」

 「思い込めばってところにおっちゃんの悪意を感じる」

 「ガハハ。俺みたいに恐妻家になればいいのよ!」

 「・・・おっちゃん結婚してたんだな」

 「ああ。だが、女は種族問わず結婚したら変わるぞぉ」

 「偉大なる哲学者、ソクラテスはこう言った。良い妻なら幸せになれるし、悪い妻なら哲学者になれる」

 「ソクラテスの妻は悪妻で有名だからな。けど、俺の妻も負けてないな」

 「なら、おっちゃんは哲学者ってことだな」

 「おうよ。公海の航海で得た経験は後悔を更改せずに公開するもんさ」

 「五重のオヤジギャグは見事だけど、哲学とは何にも関係がない!!!」

 「哲学じゃないなら、俺は愛妻家ってことだな」

 「さっき自分のこと恐妻家って真逆のこと言ってたじゃん!!」

 「共済保険に入ってる仲の良い夫婦って言ったんだよ」

 「無理矢理すぎるだろ!!」


 くそ。

 腹が満たされたら、途端にボケとツッコミの立場が入れ替わってしまった。


 「まあ、あんちゃんは船酔い平気だよな?」

 「酔ってたら、これからやるっていう手伝いが出来ないだろ」

 「その通り。あんちゃんには酔ってもらっちゃあ困るからな」


 そう。

 こんな所で酔ってなんかいられない。

 俺はこの船の上で、仕事をしなければいけないのだから。

 ・・・俺達の食事とベット占領代を返済するために。


 「ま、期待せずに期待してるぜ」

 「結局期待してるんじゃん」

 「して何が悪い?俺は雇用主。あんちゃん奴隷」

 「誰が奴隷か!俺は労働者だ!」

 「労働者は雇用主に拘束されないが、あんちゃんは俺への借金で動けないだろ?だから奴隷も同然」

 「ここはブラック企業かよ!」

 「何言ってる!俺の会社は青空のブルー色に染まってるぞ!」

 「ならどうして俺の気分はこんなにブルーなんだ?」

 「そりゃあ俺への借金にブルブル震えてるんだろ?」

 「おかげでブルーベリーみたいに俺の顔は真っ青だ」

 「・・・今のは強引すぎたな。俺の勝ちだ」

 「はいぃ?勝負なんか最初からしてませんしぃ?」

 「いやぁ、子供みたいな奴はおっちゃん好きだぞ」

 「・・・色々と負けました」

 「認めればそれでよろしい」


 やはり、年齢=経験ということなのだろうか?

 普通の会話では1歩先を行かれる悔しい感じ。

 けど、ダメな奴は死ぬまでダメだからなぁ・・・


 「まあちゃんと仕事してくれれば、すぐに解放どころか、賃金も発生するぜ?」

 「そうだといいけど・・・」

 「海上にお目当ての魔物が出てくるまで、好きな場所で休んでていいぞ」


 そう言って、おっちゃんは船長室へと姿を消した。



 ---



 「ううう・・・」


 現在、客室にてハルカの看病中。

 ベットに寝かして、頭を撫でてやったら彼女が「落ち着く」とのことであった。


 「クロロに介護されるなんて、不覚です」

 「ハルカおばあちゃんや。すっかり体がヨボヨボになってねぇ?満足に動くことも出来ないで、ゲボばっかり吐いてかわいそうに」

 「クロロおじいちゃんや。あんたは肛門括約筋がゆるゆるで、ビチャビチャ茶色のお水を垂らしてねぇ?オムツを装着しなきゃ生きていけない体になっちまって。恥を知りなさい、恥を」

 「おいいいい!!老後ネタでお前をおちょくったのは悪かったけど、倍返しは酷すぎるだろ!!しかもビチャビチャ漏らした事実なんか存在しないし!!!」

 「大丈夫です。これから事実にしますから」

 「なんも大丈夫じゃねえよ!!これから事実にするってなんだよ!!お前は俺の飲み物に下剤かなんかを仕込む気か!!」

 「そんな漏らさせるだなんて、ちゃっちなことはしません。肛門括約筋を破壊するだけですよ」

 「やりすぎだろおお!!お前は俺の穴にドリルでも突っ込む気か!!!」

 「ドリルは生ぬるいです。ここはいっそ、ダイナマイトにしましょう」

 「作ったノーベルも驚愕の使用方法だ!!」

 「まあまあ、花火をお尻にセットして、点火するような軽いものですよ。若者のちょっとした馬鹿な遊びです」

 「その馬鹿な遊びのせいで、俺の下半身がまるまる木っ端微塵になるんだが!?」

 「その時はジャパンで風物詩だったという、た~まや~って言ってあげますよ」

 「お前も一緒に道ずれにしてやる」

 「私はザオ〇クで復活します」

 「これまた数世紀前のレトロゲーの知識を披露しやがって・・・」


 吐くだけ吐いて、少し楽になったのだろう。

 さっきから彼女は絶好調だった。

 もうピンピンである。


 「でも、こうして私の傍にいてくれるだけでありがたいです(私の弱った姿を見てニヤニヤしてしまうなんて、クロロはとんだど変態ですね。表情に出さないよう必死に隠しているのに結局私に悟られているところが、もう手のつけようもないほどムッツリですね。このムッツリスケベがっ!!)」

 「心の声が( )の中のテキストを通して丸見えだよ!!!しかも内容がゲスすぎる!!」

 「ゲスいのはエロい目で私のボインボインな胸を見てくる変態クロロの方ですよ?(私の信頼するクロロ。こんな神の書いたテキストは嘘っぱちです)」

 「普通のセリフと( )の中のセリフが逆だろおお!!!もう平然と悪口言っちゃってるだけじゃんこれ!!と言うか自分の胸の大きさをボインボインとかで誇張するなし!!!せいぜいがAカップの貧乳めが

!!」

 「はい?私の胸は160センチのZカップですよ?何を言っているのやら」

 「そこまでいったらもう化け物サイズだし、セクシー通り越して希少価値すら出てくるよ!!!」

 「まあ、私の胸は国宝級ですし?」

 「お前の妄想の中ではな・・・」


 なんかハルカがひたすら妄想発言を炸裂させてくるので、少しいたたまれなくなってきたな・・・

 そんな感じで絶賛ダウン中のハルカと遊んでいると・・・


 「うお!?」


 ズシンと船が大きく揺れた。

 今まで穏やかだったのに・・・


 「あら、すいません。私の160センチのZカップで船に揺れが・・・」

 「そういう寝言は寝てから言えっつの」

 「その発言が寝言ですね」

 「現実問題、お前の胸はAカップ並みの大きさだろ」

 「真実は違います。今までのクロロのAカップ発言は、真っ赤な嘘です。本当は小説の中で本当の胸の大きさが描写されないだけで、私はZカップの爆乳を保有しているのです」

 「いつかお前の胸のサイズは、作者によって暴露されることだろう」

 「その日が来るまで、私は抗います」

 「・・・いい加減、読者を迷わせるのは良くないと俺は思うけどな」

 「私はただのヒロインですので、読者のことなんか知りません。ところで読者って何のことですか?」

 「都合のいいことを・・・」


 納得出来ないが、まあいい。

 そんなことより今は・・・


 「俺、外で様子を見てくる。お前は部屋で待ってろ」

 「・・・来たんですかね」

 「もし来たんだったら、俺の仕事の時間だな」

 「無職のくせに、仕事の時間だななんてドヤ顔で言われても(笑)」

 「・・・それを言うなよ(涙)」

 「まあ、それはそれとして・・・」


 彼女がふと、真面目な雰囲気を纏い始める。


 「気を付けてください」


 簡素な言葉だった。

 けど、その簡素な言葉が、俺を本当に心配してくれているように聞こえて・・・

 それが俺にとってどれほど嬉しいことなのか、自覚してしまって・・・


 「・・・おう!!」


 俺はモチベーションが最高潮に達するのを感じながら、部屋の外へ出たのだった。

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