表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

10 無職の男女2名は港町へとたどり着いた

 「いやだ、いやだよ!!!」


 少女が・・・サリアが、2人の天使に攫われようとしていた。

 唐突の出来事。

 俺の目の前に提示される、無数の選択肢。

 逃げるか、戦うか、助けを求めるか、話し合うか。


 人は目の前の緊急事態に対して、瞬時に最善の道を判断出来るような種ではない。

 けど、現実に最善の道を瞬時に求められる時、俺達人間の脳はエラーを起こす。

 ・・・相対性理論。

 俺の主観時間がどんどん濃密に圧縮されていく。

 時間の流れが極めて遅く感じる。


 人は・・・効率を求める生き物だ。

 何が無駄で、何が有用なのか。

 それを知恵と経験でより分け、判断していく。


 効率を追い求め、そして欲しいものを勝ち取るために人は様々な技法を高度化していく。

 より精密に、そして質を高めていく。

 それは本来時間をかけて行うものだ。

 だが、今の俺にそれはない。

 皮肉なことに、時間間隔が延長された意識の中で、俺はそれを悟った。

 だから・・・選び取った選択肢の先で、俺は本能的に自身の資質に身をゆだねた。


 「やめろおおお!!!」


 俺は、自分の魔法を使おうとして・・・


 「クロロ!!だめ!!!」


 俺の体にハルカが飛びついて、横に吹っ飛ぶ。

 ゴロゴロと勢いよく転がる。

 バッと起き上がると、サリアは1人の男の天使に担がれ、上空を飛んでいた。

 くそ・・・50メートルはある。

 これじゃあ間に合わない。


 「ハルカ!どうして俺の邪魔をしたんだ!?」


 俺は隣で起き上がっていたハルカに怒鳴ってしまう。

 叫んでもどうにもならないことだと分かっているのに。


 「クロロの魔法、他の人達に見られたら危険指定されちゃう。私、そんなの嫌です」

 「あっ・・・」


 彼女の言葉で、一気に頭が冷えた。

 彼女は、俺の心配をして・・・


 「・・・ごめん」

 「いいんです」


 俺は、最低だ。

 けど、自分を責める前にやるべきことがある。

 もう1人の天使の男が、俺達の目の前まで歩いてきたからだ。


 「・・・どうやら、驚かせてしまったようですね、旅のお方」


 その天使は、申し訳なさそうに俺達に話しかけてきた。

 脅威は感じられない。

 だが・・・


 「止まれ」


 俺は出来るだけ威圧感を言葉に乗せた。

 こちらの意思表示を正しく理解したのか、天使はその場で止まる。


 「お前があの女の子を誘拐したなら、俺は容赦しない。拘束して女の子を助ける」

 「ああ、やっぱり誤解しますよね。これはますます申し訳ない」

 「・・・お前らは何者だよ」

 「的確な質問ですね。経験豊富な旅人のお方と見受けます」

 「いいから、質問に答えろ」


 俺は最大限威圧しているつもりだが、天使の態度に揺らぎがない。

 恐怖心も、怒りも。

 こういう態度は知っている。

 自分の方がこの場において正しいと思っている余裕からきているのだろう。


 「私はアドム地区立、児童養護施設センターのスタッフ、ノートムと申します」

 「児童養護施設・・・。子供を連れ戻しに来たってことか?」

 「おや?あの子が孤児だということに気が付いていたので?」

 「・・・サリアが教えてくれた」

 「ほほう。他者に心を開かないあの子が・・・」


 天使は少しだけ驚いたが、すぐに表情を元に戻す。


 「先日の深夜、アドムのセンターからサリアが脱走しましてね。至急保護しなければと、私達スタッフが夜通し捜索していたのですよ」

 「それで、無理矢理連れ戻したって?笑わせんな。ある程度孤児に自由を与えていれば、こういう事態はまずないだろ。お前、あの子を閉じ込めてたんだろ?」

 「・・・ご明察です」


 スラスラと話が進んでいくことに、彼は関心したらしい。

 が、天使に褒められてもこの状況では全く嬉しくない。


 「閉じ込めておくのには、まあ事情がありまして。あの子の所有している魔法が非常に危険なものなのですよ」

 「・・・危険指定か」

 「その通りです。母なるこの星に損害を与えかねない危険な魔法は、保有者が完璧に魔法をコントロールし、かつ反社会的な思想を持たないことを証明出来ませんと、隔離対象にしておく他ないのです」


 そうだ。

 だから、俺も危険指定にされそうだった。

 今はまだ大切なこの星を、壊しかねない魔法だったから。 

 俺はルフェ先生がいたから良かった。

 隠してもらえたからだ。

 けど、サリアは?

 そう考えると、胸の内から黒い感情が沸いてくる。

 それを鎮めるのに、今の俺は必死だった。


 「・・・面会は可能か?」

 「そちらの素性と、面会の理由について教えていただければ」

 「・・・」


 俺はハルカに目を合わせる。

 彼女は黙って頷いた。

 話して会おうということなのだろう。

 俺も、同じ気持ちだ。


 俺は自身の素性と、あの子に会った経緯を全て話した。

 もちろん、ハルカのことも。

 それを聞いた彼の表情は、何とも言えないものだった。


 「では、お2人はホームレスであると?」

 「・・・そうだ」

 「・・・まあ、例えそのような立場であっても、センターでの面会に問題はないでしょう。サリアがお2人に自身の立場を話しているのであれば、面会拒否もまずされないでしょうね」

 「俺達はあの子の安否を確認したいだけだ」

 「であるならば、私もお2人を止める理由はありません」

 「なら、その施設への道案内も頼めるか?」

 「ええ、よろしいですよ」


 話は淀みなく進む。

 だが俺達は、この天使が自分の正しさを曲げる意思など全くないことに、初対面で気付くべきだったのだ。



 ---



 アドム。

 海岸線沿いに作られた港町。

 坂の急こう配が激しい地形で、町の入り口から町の全貌が望める。

 港町らしく海岸近くのストリートでは水産食料の売買が頻繁に行われていて、外から来たような俺達でも活気に溢れているなと分かる雰囲気だった。


 「この一件が終わったら、海水浴でもしたいもんだな」

 「ここの海にはメガロドンタイプ(通称サメ型)の魔物が生息しているので、迂闊に海水浴なんてしたら食われますよ」


 と、俺の楽しみをリアルジョーンズネタでぶち壊してくれるノートムなのであった。


 「じゃあ、それ以下の大きさの水資源は全滅じゃん」

 「そうですね。でも、その分魔物を狩れば十分割に合いますよ」

 「サメ肉って旨いのか?」

 「アンモニア臭が漂いますけど、味は保証しますよ。子供との面会が終わったら、専門店を紹介しますか?」

 「金がないから無理だな」


 そんなことを言う俺の腹はぐうすかと鳴いている。

 ハルカの腹も同様であった。


 「ねえ、クロロ」

 「なんだ?」

 「私、死にそう・・・」


 彼女が呻くように俺に言った、その直後。

 ついにパタリとハルカが倒れてしまった。


 「ハルカ!」


 俺は彼女が倒れる前に、体を支えてやる。

 悲しいことに、重さは殆ど感じなかった。


 「エビ、アワビ、ウニ、サンマ、マグロ、クジラ、牡蠣、ブリ、ブリ、ブリブリブリブリブリ・・・」


 寝言のようにブツブツと海産物を呪文のように唱えていた。

 特にブリがお好みのようだ。

 だが、ブリを連呼しすぎて下ネタと化している。


 「食べたいのか?」

 「いえ~す・・・」

 「・・・ならば、俺が海に行って取ってきてやる!!」

 「あ、クロロさん。ここでの釣りや貝の採取はルール違反ですよ。全て町民の大事な食糧ですから」


 と、俺の決意を無慈悲な世の仕組みでまたもぶち壊してくれるノートムなのであった。


 「ぶっちゃけ、俺も餓死寸前なんすけど」

 「お金は持っていないのですか?」

 「もし持ってたら、面会行く前に光の速さで店に直行してるし」

 「なら、魔法を使ってバイトをするしかありませんね」

 「・・・いや、バイトはしない」

 「どうしてです?飢え死にしそうなんでしょう?」

 「・・・」


 ふむ。

 どう答えるかな。

 正直に話したら、きっと俺も追われる身だろう。

 俺の魔法は人目のある場所では絶対に使えない。


 「メンドクサイからだな」

 「なら、飢え死にですね」

 「お前、無慈悲な天使だな」

 「今はみんな、必死に生きている時代ですよ?」

 「全くもってその通りだから、何の反論もしようがありませぬ」

 「であれば、私は施設にていつでもお2人の来所をお待ちしています。その間、ホームレスの流儀でまずは腹を凌ぐことを考えては?」

 「・・・」


 これもこの世界では正論すぎて、何も言うことが出来ない俺なのであった。

 この世界では成人の保護などという考え方は存在しない。

 生きるか死ぬかは、全部自分の働きにかかっているのだ。


 「・・・ご忠告通り、そうさせてもらうわ」

 「それが良いでしょう」


 彼はそう言って、背中に生えた綺麗な翼を広げる。

 同時に、俺へ小さな紙を渡してきた。


 「住所は、こちらに書いてあります」

 「ご親切にどーも」

 「それでは」


 バサバサバサと翼がはためき、彼はあっという間に上空へ。

 よく見ると、彼の他にも忙しそうに飛びまわる天使達がちらほらといた。

 ま、珍しい光景ではないな。


 「さてと」


 周りを見渡す。

 太陽が輝き、潮風が鼻をくすぐる街の入り口。

 そこに立つ人間1人と、倒れる天使が1人。


 食料を得るなら、物乞いか空き缶探しをするか?

 それとも内緒で釣りをするか。

 が、空腹で俺も倒れる時は近い。

 ・・・あれ?

 どうしようもなくね?


 そう思い、立ち尽くす。

 ぼーっと。

 どうしよう。

 俺、死ぬのかな?

 よく分からん。


 そのままほけーと5分経過。

 こうしていても仕方ないと、やっと思い始めることが出来た。


 「・・・やれるだけ、やるしかないんだよなぁ」


 俺は彼女をおんぶする。

 体重が軽いこと以上に、彼女の貧乳具合に俺は泣けてきた。


 「ぶっ殺しますよ」

 「俺、なんも言ってないっす」

 「いえ、なんだかとんでもなく失礼なことを思っていそうだったので」


 まじか。

 こいつ、本当にカンがいいな。


 「というか気が付いたか」

 「動けませんけどね」

 「・・・街の中心まで、お前をおんぶして歩けると思うか?」

 「もし私が、クロロにキスしてあげるって言ったら?」

 「超やる気出そうな気がする」

 「どーてーですもんね」

 「もう否定する気も起きんわい」

 「なら」


 ちゅ。

 そんな音と感触が俺に伝わった。


 「・・・どうです?」

 「・・・」

 「クロロ?」


 彼女を見てみる。

 若干顔を横に向けて、頬を紅色に染めていた。

 これは・・・これはああ!!!!


 「キタアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 すくっと立ち、シュバババと全力疾走。

 俺は止まらない。

 と言うか止められない。


 俺、自分で思う以上に純情かもしれない。

 そんな自身の新発見に超恥ずかしくなって、俺は暴走したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ