司書とゾンビの不思議な日常
ふと思いついて書き始めた小説なのだが、気がつけば思いついた時と内容がほとんど違う。
どうしてこなったのだろうか?
司書とゾンビの不思議な日常
神の加護が満ち、魔法という神秘の力が発展したとある異世界『ソーサリー』。
数々の国家と様々な人種、ファンタジーお馴染みのドラゴンなどが普通に存在する世界。
その世界の中心には『死の世界』と呼ばれるほどの異常な環境の場所がある。
空は漆黒の雷雲に覆われ、大地は毒々しい紫の沼地が点在する生命の欠片も存在しないような荒野。
超高位の災害級死霊系の魔物が徘徊し、疫病の元が蔓延するその場所はこの世界のあらゆる国々から嫌われている危険地帯である。
そして、その危険地帯の中心にはポツンと一軒の家が建っている。その家の主人は変わり者であり、人との交流を絶つために辺鄙な場所に住んでいるらしい。
これはそんな場所に住む変わり者の主人と、側に付き従い主人に忠誠を誓う死霊の使用人の物語である…………かもしれない。
「〜〜〜〜〜♪」
「兄さん」
「〜〜〜〜〜♪」
「兄さん」
「〜〜〜〜〜♪」
「兄さん!」
「〜〜♪。ん、どうした?」
「どうした?じゃないよ!さっきから何度も呼んでるのにさあ!」
「わるいわるい」
「絶対思ってないでしょ……」
「うん」
「兄さん⁉︎」
「あっはっはっはっ」
あー面白い。ん、俺が誰かって?ならば名乗ろう。俺こそは誰もが知る超絶天才最強神人賢者と名高い『ルシアン=ギリシー=ライブラリアン』だ。
180センチの長身にスリムな身体。サラサラの黒髪に青い瞳。そしてチャームポイントのメガネ。椅子に腰掛けながら本を読むその姿はインテリ系の超イケメン。
え、知らない?うわー俺氏ショックだわ〜。なんで自分たちに話しかけてるのかって?それは俺が凄いからとしか言いようがないな。流石俺。マジ惚れる。
「……さっきから何に話しかけてるんですか?はっ!まさか遂に気が触れた⁉︎」
「うっさい黙れ」
「はい、すみません!だからその本を下ろして!嫌だ!角は嫌だぁ!(ゴツンッ!)グペッ…」
さっきから五月蝿いこの男は俺の使用人の一人、ゾンビ執事の『クロット』。
俺より少し高い185センチの身長と細マッチョとでもいう以外とがっしりとした肉体。後ろで一つに束ねている金髪は肩より少し長く、赤い瞳には単眼鏡がかかっている。
見た目はイケメン、中身は残念。ウザいが仕事はなんでも器用にこなすし、なんだかんだ言って既に長いこと仕えてくれている。
「……兄さん。コーヒー淹れたよ」
「お、サンキュー」
「……ん。褒められた」
今俺にコーヒーを持ってきてくれたのは俺のもう一人の使用人、ゾンビ女中の『クルッカ』。
160センチに届かないくらいの低い背に発育の良い肢体というアンバランスながらも美しい身体。腰まで伸びた銀髪に赤い瞳。どこからどう見ても美少女だ。
物静かな性格をしているが、俺やクロットには豊かな感情を見せる。可愛い奴だぜ、まったく。
「……兄さん、今日は何を読んでるの?」
「あ、それは気になる。兄さんは変な本ばっか読むからなあ」
あと、何故かこの二人は俺のことを初めて会った時から『兄さん』と呼んで親しくしてくれている。対外的には主人と使用人という関係だが、家族みたいなものだ。
まあ、
「おう、これは異世界から召喚した『らのべ』とかいう本でな……」
「「ふむふむ」」
今はこの静かでいつも通りの日々を楽しむとしよう。
平穏な日々が壊れたのはあれから1週間が経った頃だった。
「兄さん、お客さんが来たぞ」
「お客?一体どこの国からだ?」
「……全部」
「はあ?」
「「だから、全部」」
「マジか〜」
面倒くさい事になったなあ。仕方ねえ、会うかー。
髪良し、服良し、メガネ良し、イケメン一丁出来上がりだ。
「客間か?」
「ああ、全員そこに通してある」
「……早く行って。人嫌い」
「わかったわかった」
本を亜空間に仕舞い、客間への扉を開く。するとそこには狭い客間に詰め込むように大量の人がいた。
ガチャン…
「無理だわ」
ガチャン!
『『『そんな殺生な!!!』』』
「五月蝿っ⁉︎」
『『『どうかお話を聞いてください!!!』』』
「わかった!わかったから落ち着け!」
嫌だわぁ。なんでこんなに疲れなきゃならんのだよ。
俺は愚痴を脳内で言いながら客間のソファに腰掛ける。目の前には2…4…6…8……多っ⁉︎30人くらいいるぞ⁉︎
これ、本当に大小全部の国から来てるんじゃないか?
「で、要件は?」
「では先ずは儂からお話ししましょう。初めまして『使徒』様。儂はカーグルゼ帝国から来ましたバ「自己紹介とか良いから早く要件」カ…分かりました」
「うん、他の奴らも自己紹介とか要らないからな?」
「では改めまして。事の起こりは今から半年ほど前のことです。我が国の隣のレイゼン聖国が我が国への抑止力として勇者召喚の儀を行いました」
「では次は私が。私はレイゼン聖国の者です。我が国が勇者召喚をしたところ、4人の勇者様が召喚されました。彼らは全員が男性で、全員が高い能力を宿していました。彼らには戦闘、魔法、兵法などの教官をつけて指導をしておりました。そして、実戦訓練として迷宮に行ったのですが…」
「次は私が。アコタマ王国の者です。その勇者たちなのですが、レイゼン聖国の指導が厳しかったのと召喚されたのと色々ありまして我が国へと逃亡してきました。我が国としてはこれを保護。そして彼らの知識の提供を条件に送還魔法を使って彼らを帰還させる事にしました。ですが…」
「レイゼン聖国としては逃げられるわけにはいかないとアコタマ王国へ攻め込み、勇者たちを捉えようと戦争を仕掛けました」
「その際に儂たちカーグルゼ帝国にも被害を与え、聖国、王国、帝国の三つ巴の戦争が始まりました」
「そして聖国が我が王国へ侵入し、送還魔法陣を破壊しました。この時、その場に勇者たちと帝国の天将が2人、聖国の異端審問長官がその場におりました」
「我が聖国の異端審問長官が送還魔法陣を破壊した時、破壊された筈の魔法陣が長官が纏っていた聖骸衣を吸収し、黒く発光を始めました」
「儂の国の天将2名は勇者たちと長官と共に魔法陣に吸収され、莫大な魔力を媒介として魔神が召喚される事になったのです」
「不完全な状態で召喚された魔神は本来の魔神の『破滅』、『邪悪』、『堕天』の性質と勇者の『正義』、天将の『浄化』、長官の『断罪』、聖骸衣の『神聖』などの性質が全て混ざり、暴走。結果として最悪の『混沌』の性質を持つことになったのです」
「そして魔神はその場から去りました。ですが、2月ほど前から各国で散発的に
魔神の襲撃が起こりました」
「各国はそれぞれの戦力で対応しましたが、結果は魔神に倒され吸収されて強化を続けてしまうことになりました」
「そこで我々は使徒様に何とかしてこの事態を収めていただきたいと各国首脳で決議し、参った次第です」
俺は全ての話を聞き終わり、暫し沈黙する。そんな俺の後ろではクロットとクルッカが静かに佇んでいる。
「クロット、クルッカ」
「「何だ(何)、兄さん?」」
「お前たちはどうしたい?」
「「どこまでも兄さんについて行く」」
「そうか。よし、依頼は魔神の討伐で良いのか?」
「はい、その通りです」
「じゃあ魔神の場所を教えろ。すぐに終わらせてくる」
「現在は竜の巣雲の近辺にいると思われます」
「分かった。2人とも準備をしろ」
「「はい」」
5分後、その場には完全装備の2人といつも通りの俺がいた。
「それじゃあ転移するぞ」
「「いつでも」」
「ああ、そうだ。おいお前ら」
俺は転移する直前に各国からきた客を見渡して言った。
「はい?」
「俺は『使徒』じゃない。何度もお前らの王には言ったが、『司書』だ。間違えるなよ」
そこまで言うと、俺たちはその場から消失した。
「あいつか」
竜の巣雲に転移すると、だいたい500メートルほどの距離に巨大な黒い渦のようなものが見えた。
ソレは俺たちを感知したのか物凄い勢いで近づいてくる。
「クロット、クルッカ両名の拘束具全解除」
ガチャンッ……
クロットとクルッカの手についていたブレスレット、イヤリング、チョーカーが外れ地面に落ちる。
その瞬間、2人の魔力量が跳ね上がり姿が変化する。どちらの瞳も妖しい光を放ち犬歯が伸び牙のようになる。死人特有の青白かった肌も陶磁器のように美しい白色へと変化する。
服装も執事服とメイド服から貴族が纏うような礼服に変化した。
「真名解放許可。2人とも全力で殺れ」
「「了解しました、マスター」」
先に飛び出したのはクロット。手には黒い剣身の長剣と黄金の剣身の長剣をそれぞれ持っている。
「真名解放『クロカトリム=ヴラド=ノスフェラトゥ』。刻めダーインスレイヴ、滅せよティルフィング」
名前:クロカトリム=ヴラド=ノスフェラトゥ
種族:死の超越者
職業:龍殺しの執事Lv250(Max)
生命力:∞
魔力量:125,300,000
攻撃力:57,000,000
防御力:38,000,000
集中力:45,000,000
精神力:44,000,000
器用度:55,000,000
俊敏性:82,000,000
漆黒と黄金に彩られた無数の斬撃が魔神を襲う。渦のような魔神はその斬撃を受けて霧散、だが即座に集まり収束しようとする。
その収束する魔神は巨大な人形をとりはじめた。だが、
「真名解放『クルスカイネ=ヴラド=ノスフェラトゥ』。撃ちぬけケリュケイオン」
名前:クルスカイネ=ヴラド=ノスフェラトゥ
種族:死の超越者
職業:龍殺しの女中Lv
生命力:∞
魔力量:884,000,000
攻撃力:16,000,000
防御力:22,000,000
集中力:92,000,000
精神力:75,000,000
器用度:37,000,000
俊敏性:31,000,000
クルッカが放った大規模殲滅魔法が着弾。魔神はその3割近くを削り取られた。だがまだ魔神は健在だ。
『ォォオオオオオオオオオオオッ!!』
再び人形を作った魔神は最も無防備そうな俺を狙ってその巨大すぎる拳を振り下ろした。距離的にクロットもクルッカも間に合わないだろう。仕方がない。
「俺を舐めるなよ、愚図」
ズッ…ガアァァァンっ!!!
魔神が拳を振り下ろしたところを中心に巨大なクレーターが出来る。だが魔神は殴った感触に首を傾げて拳を退かした。
そこには無傷の俺が佇み、静かに中に浮かぶ神々しい盾が存在していた。
『アイギス』
オリンポス十二神の一柱である知恵と戦略の女神アテナに主神ゼウスが与えたありとあらゆる邪悪・災厄を払う神の盾である。
「次は俺の番だな。行くぞ愚図。『全知の図書館』開館」
俺の背後に重厚な両開きの扉が現れる。それに脅威を感じたのか魔神が再び拳を振り下ろすが既に遅い。
「項目『ギリシア神話』、検索『アテーナー』、召喚」
ガアァァァンっ!!!
「はあっ!」
扉から飛び出してきた人物は中に浮かぶアイギスを掴むと巨人の拳を受け止めた。更に手に持った槍で逆に拳に大穴を開け吹き飛ばした。
「お久しぶりです、ルシアン様」
「久しぶり、アテナ」
その人物とは『アテーナー』。俺の能力『全知の図書館』によって呼び出されたギリシア神話の女神。
『全知の図書館』はありとあらゆる物事を記した本が収められた図書館だ。関連した項目を選択し、検索をすればその実物をその場に召喚もしくは自身の知識とできる。
召喚したものは例外なく全てを扱うことが出来、召喚したものが生物などならば必ず従えることができる。
つまり
「項目『ギリシア神話』、検索『ゼウス、ヘーラー、アポローン、アフロディーテー、アレース、アルテミス、デーメーテール、ヘーパイストス、ヘルメース、ポセイドーン、ヘスティアー、ディオニュソース、ハーデース、ペルセポネー、クロノス、ウーラノス』、召喚」
次の瞬間、扉から次々に人影が飛び出す。
最高神ゼウス、神々の女王ヘラ、太陽神アポロン、愛と美の女神アフロディーテ、軍と戦の神アレス、狩猟と月の女神アルテミス、豊穣の女神デメテル、炎と鍛冶の神ヘパイストス、旅人と商人の神ヘルメス、海と地震の神ポセイドン、炉と竃の女神ヘスティア、酒と酩酊の神ディオニュソス、冥界と地下の神ハデス、死と冥界の女神、大地と宇宙の巨神クロノス、天空を司る神々の王にて原初の神ウラノス。
有名どころの神々が俺の手によって召喚される。神々はそれぞれの神器などを持ち、俺の言葉を待っていた。
「久しぶりだな、今回は魔神の討伐だ。行くぞ!」
『おおおおおおおおっ!!!!』
俺の言葉と同時にクロットとクルッカも攻撃を開始する。
更に神々の手により雷が轟き、嵐が起こり、大地が揺れ、炎が焼き、樹々が拘束し、切り刻まれ、激流に流され。
様々な手段を持って魔神は端から消滅させられていく。
『ォォ、ォォォォオ』
小さくなり消滅しそうな魔神が俺に一矢を報いんと神々の攻撃を切り抜けながら俺に迫る。
だが、駄目だ。
「項目『アーサー王伝説』、検索『聖剣エクスカリバー』、召喚」
次の瞬間、俺の手には聖剣と呼ぶにふさわしい雰囲気を放つ長剣が握られる。
それを振り上げ
「じゃあな、魔神」
『オオオオオオッ!』
振り下ろした。
カッ‼︎バァァァァァァァァァンッ!!!
強く輝いた聖剣は全てを飲み込み浄化する光を放ち魔神を消滅させた。
「終わったか」
今回呼び出した神々や神器、聖剣などを返還し俺は一息ついた。
少し離れたところからクロットとクルッカが小走りで近づいてくる。
「「兄さん!」」
「おう、お疲れ。じゃ、帰るぞ」
これはとある世界の1つのシーン。
大賢者と呼ばれ、使徒と敬われ、無限の寿命を持ち異常と判断されて世界に拒絶された1人の青年と
その青年に命を助けられ生を捨て魔物となってまで付き従う2人の従者。
彼らは今日も平和な日々を望む。
だが世界はそれを拒絶する。
そう、この話に題名をつけるならアレが相応しい。
すなわち
『知の神と死の超越者の神妙な物語』、と。




