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土蔵

作者: 尚文産商堂
掲載日:2015/10/31

俺の家には、何百年前からある土蔵がある。

中身は知らないし知りたくはなかった。

だが、新しく家長として、俺が親となることになった。

長男の務めだそうだ。

親父にそぼ務めを果たすためのことを教えてもらうため、和服で正装して、正月と盆以外開いたことを見たことがない土蔵へ足を踏み入れた。

「よいか、ここの話は他言無用、口外厳禁だ」

親父に言われ、いつになく神妙な心地になる。

鉄でできた複雑な鍵を開けると、いよいよ中だ。


かび臭いと思いきや、意外ときれいな空気が流れている。

この空気は、内から外へと流れているのが、皮膚感覚で分かる。

「灯りをつけろ」

「う、うん」

懐中電灯で、中を照らす。

無数の箱が、棚に揃っている。

しかし、その全てを見ずに親父はさらに奥へと進んだ。


一番奥、これ以上進めないというところには、2メートルくらいの床に据え付けられた扉があった。

「土蔵の裏には、何もなかったはずなのに……」

俺が言うと親父は3回ノックする。

「御登城、致しました。結界は破られました」

俺が照らしている懐中電灯の明かりを頼りにして、親父はしめ縄を外し、しつつも中へと声をかける。

「近うよれ」

「はい、姫さま」

言いつつ、親父が扉を開ける。

中には洞窟のような空間が広がっていて、その中央に女性がいた。

「本日もご機嫌麗しゅう」

頭をさげる親父に、お前もしろと小声で言われて俺も頭をさげる。

「どうも……」

「ほっほっほっ。よいよい。まこと、幼子はよきものじゃ」

「俺、もう20なんですけど……」

「人間なぞ、赤子よ。わらわに比べれば、の」

ニヤッと笑う。

その時、後ろから何かふさふさしたものがちろりと見えた。

「え、狐?」

「ほう、久し振りに見えるものが現れたか」

「はい、姫さま」

親父が頭をさげるが、今度は俺は下げなかった。

「わらわは九尾の狐。九尾(ここのを)と申す」

「ここのを……」

何か聞き覚えがある。

思い出されないが、絶対に一度は聞いたはずだ。

「私らの使命は、姫さまが暴れないように見張ること。この洞窟はそのための牢であり、封印の結界でもある」

「わらわがここに締められてから、そちらの年ですでに500年は経っておる。しからば、人も文化も変わろう。されど変わらぬこともある」

「……それは?」

俺は思わず次が聞きたくて話を聞く。

「聞きたいかぇ?」

クスクスと笑い、九尾は話し続ける。

「人は人であろう。妖は妖であろう。この世の理は、変わらぬであろう」

「封印を解こうとしたものは何人もいる。だが、それを成し遂げるものはいない」

人が人である以上、九尾を解き放とうとする人はいただろう。

ただ、おそらくは九尾に食われただけだ。

「お主、主人としては良さそうであるな」

さきほどから一歩も動かずに九尾が見てきた。

「今日はここまでといたしましょう。また後日、参ります」

「ふむ、仕方ないわぇ。ではな」

親父が言ったとたん、急激に興味を失ったようで、黙り込んでしまった。

「あの」

扉をくぐる前、俺は九尾に話す。

「また来ます。きっとここから抜け出せる方法があるはずです」

「人間界は許してくれれば。の」

期待せずに待っていると言って、やはり黙った。

そして扉が閉められ、再びしめ縄で結界が張られた。

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