土蔵
俺の家には、何百年前からある土蔵がある。
中身は知らないし知りたくはなかった。
だが、新しく家長として、俺が親となることになった。
長男の務めだそうだ。
親父にそぼ務めを果たすためのことを教えてもらうため、和服で正装して、正月と盆以外開いたことを見たことがない土蔵へ足を踏み入れた。
「よいか、ここの話は他言無用、口外厳禁だ」
親父に言われ、いつになく神妙な心地になる。
鉄でできた複雑な鍵を開けると、いよいよ中だ。
かび臭いと思いきや、意外ときれいな空気が流れている。
この空気は、内から外へと流れているのが、皮膚感覚で分かる。
「灯りをつけろ」
「う、うん」
懐中電灯で、中を照らす。
無数の箱が、棚に揃っている。
しかし、その全てを見ずに親父はさらに奥へと進んだ。
一番奥、これ以上進めないというところには、2メートルくらいの床に据え付けられた扉があった。
「土蔵の裏には、何もなかったはずなのに……」
俺が言うと親父は3回ノックする。
「御登城、致しました。結界は破られました」
俺が照らしている懐中電灯の明かりを頼りにして、親父はしめ縄を外し、しつつも中へと声をかける。
「近うよれ」
「はい、姫さま」
言いつつ、親父が扉を開ける。
中には洞窟のような空間が広がっていて、その中央に女性がいた。
「本日もご機嫌麗しゅう」
頭をさげる親父に、お前もしろと小声で言われて俺も頭をさげる。
「どうも……」
「ほっほっほっ。よいよい。まこと、幼子はよきものじゃ」
「俺、もう20なんですけど……」
「人間なぞ、赤子よ。わらわに比べれば、の」
ニヤッと笑う。
その時、後ろから何かふさふさしたものがちろりと見えた。
「え、狐?」
「ほう、久し振りに見えるものが現れたか」
「はい、姫さま」
親父が頭をさげるが、今度は俺は下げなかった。
「わらわは九尾の狐。九尾と申す」
「ここのを……」
何か聞き覚えがある。
思い出されないが、絶対に一度は聞いたはずだ。
「私らの使命は、姫さまが暴れないように見張ること。この洞窟はそのための牢であり、封印の結界でもある」
「わらわがここに締められてから、そちらの年ですでに500年は経っておる。しからば、人も文化も変わろう。されど変わらぬこともある」
「……それは?」
俺は思わず次が聞きたくて話を聞く。
「聞きたいかぇ?」
クスクスと笑い、九尾は話し続ける。
「人は人であろう。妖は妖であろう。この世の理は、変わらぬであろう」
「封印を解こうとしたものは何人もいる。だが、それを成し遂げるものはいない」
人が人である以上、九尾を解き放とうとする人はいただろう。
ただ、おそらくは九尾に食われただけだ。
「お主、主人としては良さそうであるな」
さきほどから一歩も動かずに九尾が見てきた。
「今日はここまでといたしましょう。また後日、参ります」
「ふむ、仕方ないわぇ。ではな」
親父が言ったとたん、急激に興味を失ったようで、黙り込んでしまった。
「あの」
扉をくぐる前、俺は九尾に話す。
「また来ます。きっとここから抜け出せる方法があるはずです」
「人間界は許してくれれば。の」
期待せずに待っていると言って、やはり黙った。
そして扉が閉められ、再びしめ縄で結界が張られた。




