運命的な出会いなんてない
運命、あるかもですね
運命的な出会いなんてものは、リアルには存在しない。
所詮は机上の空論。
さっきまで、そう思っていた。
「あれ、あなた……」
突然声をかけられ、振り向くと見覚えのない少女が立っていた。
ぱっちりとした目、小柄でも出るところは出ている抜群のスタイル。髪は茶色いショートボブだった。
「あなた、どこかで私と会いませんでしたか?」
無論、見覚えなどない。だが、少女は俺の目をしっかりと見つめている。
「人違いだったらごめんなさい。でも、中学生の頃、あなたみたいなカッコいい人がいたのは覚えているの」
確かに、俺は外見だけなら少し自信がある。
中学の時か……確かに可愛い子はいた。
「磯川中学だよね?」
「……っ!?」
ずばりと俺の中学を言い当てた。
「でもごめんなさい、あなたの名前もクラスも覚えていないの。でも、あなただったような気がするの。私と話した時間は長くなかったけど、覚えてない?」
「……う」
覚えていると言えばウソになる。
ここで嘘をついても、いずれバレる。
きっと、彼女の勘違いだろう。
「ごめん、それは俺じゃないと思う」
「……そっか、ごめんね。懐かしい匂いがしたから」
懐かしい匂い、か……。
「時間取らせちゃってごめんね」
もしかしたら、彼女は俺の運命の人だったのかもしれない。
だとしたら、俺はとんでもなくもったいないことをした。
でも、彼女のことを全く思い出せない俺に、運命だとか語る資格はあるのだろうか。
少し名残惜しくなり、少女から少し離れた先で覗き見る。
少女はしばらくケータイを弄りつつ、時々顔を上げ辺りを見渡す。
「あっ、あなた……」
それから5分後、少女は見知らぬ格好いい男性に声をかける。
「どこかで私と会いませんでしたか?」
ただのビッチだった。
ああやって格好いい男性に声かけまくってるわけだ、あいつは。
良く考えたら分かる。この付近の住民はほぼ磯川中学卒業生ばかり。
もし違えば「人違いでした」で済ませばいいこと。
「……はぁ〜」
やはり、この世界には運命的な出会いなんてない。
もう一度、最初に戻ってお読みください。
やっぱり運命なんてないです。




