屈辱
「おい、1560号」
「なんだよ」
1560号と呼ばれた少年は声をかけられた方を見る。まだ1560号という呼び方に慣れたわけではないのだが、それが自分を指しているということはわかるので無視はできない。
「俺は1450号、一緒に行動しようぜ」
「...俺は誰かと行動を共にする気はない」
彼は集団行動というものが苦手だった。自分の意見が通らないと納得しないタイプで、それならわざわざ他の人と行動を共にすることはしなくてもいい。
「誰かといた方がいいと思うぜ...この世界で生きるためにはな」
「別にこの世界で生きてたいワケじゃない...俺は」
1560号のその思いは、絶対に揺るがない。
「俺は現実の世界で生きたいんだ」
ここは現実の世界とは全く異なる世界。
だがここに住んでいる者たちは皆、現実世界から来た。いや、引き寄せられた。
現実の世界では、ここに来た全員は行方不明者の扱いになっている。
しかし考えてみれば、全員が同じ時間帯にいなくなるはずがない。
だからそれを、現実の世界に適応するように設定した。
『自分の家で睡眠を取ると、自動的にこの世界に体、記憶が転送される』
これにより転送されているところを、誰にも見られないようにする。
矛盾が発生した場合はそれに関わっているものを全員、この世界に入れさせればいいだけ。
現実世界の人間で、異世界を作る――
「号」というものは、この世界で与えられたナンバーである。
基本的にこの世界に来た順番で付けられる。
この世界の人間たちは、Tシャツに「号」のナンバーが入った服を着ていて、なおかつ脱ぐことができない。また風呂やシャワーなど体を綺麗にする施設が存在しないので、一定時間を経つと体がリセットされ匂いや汚れを消すことができるが、怪我は治るまで待つことしかできない。
この世界にいる大半の人間は、現実世界に戻りたいと願っている。しかし現在現実世界に戻る方法は発見されていないため、誰も戻れていないのが現状となっている。そのため現実世界に戻れないと思いこの世界で生きていこうとしている人たちもいる。だが。この世界は全員が仲良く生きていくことはできないのだ。
この世界に来た全員には、何らかの能力が付け加えられている。
その能力は全て戦闘のための能力で、知能的な能力は付け加えられない。
そこまでならいいのだが、問題はその能力の使い方である。この世界に来たものは全員、来た時点で携帯電話を持たされている。その携帯電話には、自動的に不定期にミッションが送信されてくることがある。
そのミッションは「命令型」。命令をクリアしなければ何らかの罰を与えられてしまう。よって、この世界で生きていくためにはミッションをクリアするしかないのだ。
「おい、どこ行くんだ」
「どこでもいいだろ...付いてくるな」
1560号はその場を離れようとする。
「...知らない訳がないよな、ミッションのこと」
「知ってるさ。だからこそだ」
「どういうことだ?」
「まだ現時点ではミッションは来ていない、だがいつ来るかわからない。今、この時にだって来てもおかしくないんだろ?」
「ああ」
「そんな状況の中で信用出来ない奴と一緒にいる方がおかしいんだ。わかるか?」
「...お前、本当にそれでいいのか?」
「何が言いたいんだ」
「人を信用しないと、自分も信用されなくなるぞ」
1450号はそう言いながら、1560号を睨む。
「俺は信用されるために生きているわけじゃない」
「そういう話じゃない...信用されないと、生きていけないんだ」
「そうか。そうだが少なくともお前は絶対に信用しないな」
「...死にたいのか?」
1450号は能力を出せるよう、心構えをする。
「何言ってるんだ、お前」
「俺を信用出来ない奴は邪魔だって言ってるんだ...消えろ」
1450号は、自身の能力「剣」を出す。
「ダセェ剣だな」
「消えろ...お前には消えてもらう」
1450号は剣を振りかぶる。
それと同時に、1560号は後ろへ下がり、自身の能力「剣」を出す。
「どうやら能力が被ったみたいだな...!」
「俺の剣の方がカッコイイけどな」
「だが残念だなそのカッコイイ剣はもうそろそろ使えなくなる」
「......死ねええええええ!」
1560号は走りながら剣を振る体制を取る。
それは避けられそうになかったので、反射的に1450号も剣を出す。
そして剣と剣がぶつかり合い、高い音を奏でる。
「力では負けねぇぜ...1450号さんよぉっ...!」
「ああ、確かにそうみたいだな...俺は片手だけだが」
「何だと!?そんなわけ...」
確かめようとしたところを、余っている左手を使い腹を殴る。
「ク...クソがッ...」
あまりのショックに1560号は倒れる。そして。
「俺を信じなければ、この世界で生きることが出来ない...解ったか!!」
顔に剣を突きつける。
「ああ...わかった!わかったから刺さないでくれ!」
「本当にか?」
「ああ、本当に――」
「やっぱ、イラナイ」
突きつけていた剣を、強く前に出す。
数秒後に鳴り止んだのは、悲鳴だけではなかった。
「...これでいい」
1450号は、汚れた剣をゆっくりと引き抜く。
「この世界は、俺がルールを作る...反抗した奴も偽善者も、全員今みたいにすればいい!」