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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
9/30

失われし子供達

「よしよ〜し、泣かないで〜」

 看護婦の佐藤英子が、先日生まれたばかりの新生児をベッドに寝かせた。ベッドは他にも沢山あり、そこで赤ん坊が眠っている。英子は子供が大好きだ。だからこの仕事を選んだ。ベッドに寝かせると、赤ん坊とにらめっこした。

「私の」

「えっ?」

 突然背後で声がした。女性の声だった気がする。だが、振り返ってもそこには誰も居ない。首を傾げる英子。きっと気のせいだろう、そう自分に言い聞かせて赤ん坊の方を見ると、先程までにらめっこしていた赤ん坊が居なくなっている。

「嘘、また?」

 そう言った後、英子は凍りついた。今起きている事態。その原因は……。




「へぇ、そうですか、自殺の名所ですか」

 喫茶店新世界で、安藤はマスターの田中と話をしていた。この店は彼のお気に入りになっていた。

 墓守であることは言っていないが、知られてはならないところはオブラートに包んで話している。

「まぁ今回も、相方が助けてくれたんですけどね」

「まだ若いんでしょう? 偉いですね。会ってみたいものだ」

「今度連れてきますよ」

 ハードな仕事故に、このように他人と話をすることは墓守にとって癒しになる。

 そんな楽しいひと時を、1件の着信がぶち壊した。相手は墓守上層部の平岩だった。新たな暴霊が現れたということか。

 安藤は料金を払ってマスターに会釈した。

「また来てください」

 マスターは笑顔で安藤を見送った。

 見せから少し離れた所で、安藤は通話ボタンを押した。

「何かあったんですか?」

『暴霊だ』

 予想は当たっていた。浄霊の依頼だった。

 場所は都内の総合病院。そこでは妊婦の出産の手伝いもしており、一定期間まで赤ん坊の面倒も見ている。実は最近、その赤ん坊に関する事件が起きているのだそうだ。

『赤ん坊が、失踪したのだ』

「赤ん坊が?」

『それも、何人もな』

 出産後、赤ん坊はすぐに家に行けるわけではなく、しばらくは病院内で過ごす。その間はベッドに寝かせられる。

 事件はこの期間に起きる。看護婦が交代で見回りをしているにも関わらず、その部屋の赤ん坊が姿を消してしまうのだそうだ。見回りをしているときに不審者は居なかったらしく、かと言って赤ん坊が1人でベッドから抜け出したとも考えにくい。そう、こうなれば、人外の何かが関わっていると考える他無いのだ。

 事件の内容を聞いて安藤の顔が険しくなった。彼は子供好きで、子供に危害を加える暴霊が許せないのだ。そのこともあって平岩は安藤を選んだのかもしれない。

「話から判断すると、看護婦の誰かが怪しいですね」

『やはり、子供が絡むと君は変わるな』

「え? それどういう……」

『いや、それじゃあ頼んだ。私はこれから仕事があるのでな』

 そう言って平岩は席を立った。

 看護婦が怪しいと睨んだ安藤。まずは何をすれば良いだろう。悠真は現在どうしても離せない予定があるため、今回は安藤1人で動かなければならない。悠真だったらまずは、聞き込みから始めるだろうか。なら、まず調べるのは見回りをしている看護婦が誰かだ。

 安藤はナースステーションまで、行くだけ行ってみた。こういうときに墓守の階級が絡んでくる。秋山達エリートなら、警察か何かになりすまして聞けるのだろうが、安藤の場合はそうはいかない。だが、躊躇している暇はない。

「あの、すいません」

「はい?」

 安藤が選んだ方法。それは、

「私、週刊フラッシュの安藤というものです」

 自分がよく読んでいる週刊誌の記者だと身分を偽った。すると、看護婦は少し怪訝そうな顔になった。事件のことは院内全体に伝わっているようだ。

 安藤は顔を近づけて、小さな声で看護婦に言った。

「隠しても無駄ですよ? 解ってますよね?」

「困ります。お帰りください」

「いやね、俺、子供を危険な目に遭わせる人達って許せないんですよ」

「私達だって」

 看護婦が目に涙を浮かべて言った。

「私達だって困ってるのよ!」

 言った後、看護婦は顔を赤らめて戸惑った。それは安藤も同じだ。まさかこんなことになろうとは。

 すぐに奥から看護婦のチーフであろう女性が飛んできて、目を尖らせて

「お引き取りください!」

 と言い放った。安藤はただ、すいませんでしたと謝罪してその場から退いた。その間ずっと、安藤は院内の人達の注目を浴びていた。

 そんな彼の様子をじっと見つめる、1人の看護婦がいた。

 落胆した安藤は中庭のベンチに座った。

 何故自分はいつもこうなのかと自身を責め続けた。これで浄霊も遠退き、おまけに1人の女性を悲しませてしまった。今までの中で最大の失態だ。

 もう病院関係者には近づけないだろう。週刊誌の記者だと信じているから警戒しているはずだ。事件は深刻化している。赤ん坊が行方不明となれば保護者達が黙っていない。もう被害者の会なんてものも出来ているかもしれない。病院の権威を回復させる為、そして保護者達の怒りと悲しみを取り去る為にも、早く暴霊を探し出さなければならない。

 背中に妙な視線を感じた。恐る恐る振り返ると、30代後半と思われる看護婦が安藤を見つめていた。ここに勤めて何年か経つのか、彼女は妙に落ち着いていた。

 目が合うと、看護婦はスタスタと安藤に近づいてきた。まさか、裁判沙汰になるのか。確かに、あれでは業務妨害したと言われても否定出来ない。女性は安藤の目の前に立って腕を組み、そしてこう言った。

「この事件、解明してくれるの?」

「は?」

 驚いた。この流れ、彼女は安藤に協力してくれるのだろうか。看護婦は安藤に名刺を渡した。佐藤英子。歳は安藤と同じくらいか。

 一応ここでは記者ということになっている。安藤は自分なりに記者を演じ、栄子との会話に応じた。

「あなたは、何か知ってらっしゃる?」

「まぁ、何となく」

「教えてください。知ってること全部」

「ええ」

 栄子は安藤の隣に座り、この病院で起きたことを語り始めた。





 新生児が姿を消す事件。それが起きるようになったのは、2ヶ月前からだった。

 栄子が思うに、きっかけは院内で起きた事故だ。2ヶ月前のある夜、1人の妊婦がここに運ばれてきた。名前は、樋口彩乃。年齢は24歳。夫の姿は見えない。後で解ったことだが、彩乃の夫は彼女の妊娠が解ったときに、彼女を置いて行方をくらましたのだそうだ。

「樋口さん、樋口さんしっかり!」

 彼女はそのまま分娩室に運ばれた。しかし、なかなか出て来ず、母子ともに危険な状態だった。そのため帝王切開を行うことになった。

 オペの結果、何とか赤ん坊を出すことは出来た。しかし、生まれてすぐ赤ん坊は命を落とした。男の子だった。

 彩乃が子供の死を知らされたのは、それから1週間後のことだった。彼女は子供の誕生を望んでいたから、死を告げられたとき、彼女は深く絶望した。告げたのは他でもない、佐藤栄子その人だった。すぐにはその事実を受け入れられず、

「嘘だ! 子供を出せ!」

 とずっと喚いていたという。彩乃はもう少し入院していたのだが、その期間中、手拭いをベッドのパイプにくくりつけて彼女は自殺した。





「だから、あの事件が起きるようになってから、うちでは樋口彩乃の呪いだって言うようになって」

 暴霊は看護婦ではなかったか。

 話から判断すれば、一連の事件は暴霊と化した彩乃の仕業だろう。

 以前も子供を誘拐する暴霊が現れたが、今回の暴霊はそれとは違うようだ。暴霊は復讐しているのかもしれない。自分の子供を殺した病院に。たとえ事故だとしても、彩乃にとっては子供を殺されたに等しいだろう。ならば、誘拐された子供はもう……。

「私も最初は、呪いだなんてどうかしてると思ってた。でも一昨日」

「あったんですか」

「私は見回りに出てて、赤ん坊と一緒にいた。それなのに、私が居たのに、赤ん坊は消えちゃったのよ」

 そのことに関して栄子は罪悪感を抱いているようだ。言った後、彼女は俯いて深い溜め息をついた。

「子供が居なくなるのは、いつぐらいですか」

 新生児を誘拐する日にちに何か法則があるかもしれない。例えば、彩乃の出産した曜日とか。

「ほぼ毎日」

 残念ながらそれはなかったようだ。しかしほぼ毎日なら、今日見張っていれば彩乃を止められるかもしれない。

 安藤は栄子に、今夜一緒に見回りに行っても良いか尋ねようとしたが止めた。一緒にいて、もし浄霊することになった場合、栄子に自分が墓守であることを知られてしまうかもしれない。それに一般人が中にはいるのもあまり好まないだろう。

 だが、勝負は今夜しかない。これ以上子供達を誘拐させるわけにはいかない。確かに彩乃が暴走する理由も解る。だが、連れ去られた子供の親も、彼女と同じような悲しみを抱くことになるのだ。

「ありがとうございました」

「あぁ、私、どうかしてるわ」

「は?」

「雑誌の記事になったって意味ないのに。何やってんだろ、本当に」

「いや、そうでもないんじゃないすかね」

 安藤が栄子をフォローした。自分でも何でそんなことをしたのか理解出来ない。安藤の言葉に栄子も首を傾げた。

「あなたが何も言わずに黙ってたら、その、樋口彩乃の悲しみは誰にも解ってもらえなかった。だからあなたのしたことは、決して無駄ではないですよ」

 そう言うと、栄子は少しだけ笑った。

 このあと彼は樋口彩乃のいた病室がどこか尋ねた。現在倉庫として利用されているそうだ。

 改めて礼を言い、安藤はその倉庫を探した。場所は4階の奥。最近では職員もそこには近づかないそうだ。エレベーターで4階に上がり、奥へ進む。進むにつれて本当に人の数が減ってきた。倉庫を見つけたときには、周りには誰もいなかった。

 深呼吸をして、錆び付いた倉庫の扉を開ける。掃除されてないため、黴臭い空気が中から外へ漏れ出た。足を踏み入れると、肺が圧迫されるような感覚を覚えた。ホコリっぽいからかもしれない。中には本棚が幾つも置かれていて、棚から天井にかけて蜘蛛が巣を張っている。

 中をひと通り見て回る安藤。赤ん坊が隠されているかもしれない。

 だが、あるのは古いファイルだけで、赤ん坊は見つからなかった。ペンデュラムを取り出してぶら下げてみたが、何も反応はない。彩乃がここを本拠地にしているとは考えにくい。

 やはり今夜に賭けるしかない。安藤は心に決め、倉庫を出た後ある場所に向かった。






 それから5時間程経っただろうか。

 時刻は午前0時。看護婦の見回りが始まった。今日の担当も栄子だ。普通なら別の看護婦の筈なのだが、その看護婦が休んだため、急遽栄子が呼ばれたのだ。栄子は何となく、彼女が呼んでいるような気がした。

 問題の部屋に入る。手には紙袋を持っている。中では何人もの赤ん坊が、ベッドの中で気持ちよさそうに眠っている。この顔を見ているだけで栄子は勇気を貰えた。

「守らなきゃ」

 目の前の、名前も知らない赤ん坊を見て、栄子は決意した。そして紙袋から木の御札を取り出し、壁にかけた。昨日取りに行ったものだ。これで事件が終わるとは考えにくいが、それでも、少しでも効果があるならそれに肖りたかった。

 御札に手を合わせて見回りを再開しようとすると、背後でもの凄い音がした。見ると、今かけたばかりの御札が床に落ちている。更に、

「私の」

 一昨日聞いたあの声だ。

「樋口さん? 樋口さんなの?」

 姿の見えない相手に尋ねる。当然、答えは返ってこない。ふと視線を落とすと、そこに一瞬顔が見えた。思わず悲鳴をあげる。が、そこには何もない。気のせいか。そう思ってベッドに目をやると、今まで眠っていた筈の赤ん坊が姿を消していた。

「あっ!」

 大慌てで部屋を出て赤ん坊を探す栄子。しかし何処を探せば良いのだ。

 どうすればよいか解らず、栄子は廊下で泣き崩れた。結局、自分には何も出来ない。週刊誌に情報提供したり、御札を買うことぐらいしか。

「私なんて、私なんて」

「あんたは良くやったよ」

 上から声がした。目の前に足が見える。男物の靴を履いているから男だろう。

「あとは、俺に任せな」

 この声、どこかで聞いたことがあるような。

 顔を上げたときには、その男は何処かへ行ってしまった。






 待ち伏せしていて正解だった。

 栄子が見回りに来たのは予想外だったが、多分バレてはいない。安藤はあの後部屋に忍び込み、ずっとベッドの下で待ち伏せしていたのだ。すると、彼が見たかったものが綺麗に見えた。看護婦とは別の、黒い服を着た女性が赤ん坊を抱いて部屋から出て行くのを。見たときに驚いてしまい、御札を落としてしまった。1度、御札を見にきた栄子と目があってしまったが、それが安藤だとは向こうも思わなかっただろう。

 安藤は黒い服の女を追う。ペンデュラムが、彼を暴霊の居場所に導いてくれる。エレベーターを待っている暇はない。階段を使って追い掛ける。

 4階に到達すると、ちょうど右側に、あの倉庫が見えた。その前に女性が立っている。何かを抱えて。

「もう逃げられないぜ、樋口彩乃さんよ」

 名前を呼ばれ、女性はゆっくりと振り返った。髪が長く、目は真っ赤に染まっている。抱かれている赤ん坊はすやすや眠っている。

「子供、返してもらうよ」

「嫌」

 彩乃が拒んだ。もしや、まだ子供が死んだことを信じていないのか。

「私の子は、私の子は渡さない!」

 彩乃が怒ると、安藤の身体が吹き飛ばされた。念道力か。

「いい加減理解しろ! その子は、いや、あんたが連れ去った子供は、あんたの子じゃない!」

 安藤は村正を取り出し、それを彩乃に向けた。

 赤ん坊を抱いたまま攻撃してくる彩乃。抱かれている赤ん坊は気持ちよさそうに眠っている。まだ生きている。

「私の赤ちゃんは、渡さない!」

「私の?」

 彩乃は安藤の隙をついて再び衝撃波を放った。どうやら、赤ん坊を抱いていない方の手から放っているらしい。

 安藤は指先に村正の刃をあてて血を出し、それを刃に吸わせた。すると、今回は彼の身体が炎に包まれ、アサシンの姿に変わった。しかも今までとは違った姿に変身している。武器が新しくなったからだろう。

 ようやく村正から承認されたらしい。今発動出来て幸いだった。

 変身した彼を見て彩乃は驚いた。目の前にいる見ず知らずの男性が、自分とほぼ同じ存在であることを理解した。普通の人間なら簡単に殺せるだろうが、同じ力を持つものは、最大限の力を発揮して倒さねばならない。

「ちょっと待っててね」

 眠っている赤ん坊に優しく話しかけ、更に廊下の脇に置いた。その仕草は母親そのものだ。

「すぐに、終わるから」

 そう言ったすぐ後、彩乃の身体も青白い炎に包まれた。彼女はそれを自らの手で払う。

 彼女の姿はおぞましい怪物のものに変わっていた。黒い羽毛を生やした蜥蜴の怪物で、手足の爪が大きい。よく見ると、腕の羽毛が1番多い。安藤は何となく思った。子供を大事に抱くためなのだと。

「樋口彩乃。お前さんをここで止める!」

 両者は同時に動き、ぶつかりあった。

 刀を両手で受け止め、暴霊はアサシンの腹に蹴りを入れる。蹴り飛ばされる墓守。威力が強く、起きあがるまでに時間がかかる。その間に暴霊は続けて攻撃する。アサシンに再度蹴りを入れ、立ち上がったアサシンを爪で切りつける。刀でそれを止めようとするが、暴霊が吠えると衝撃波が発生し、彼の身体はまた吹き飛ばされた。

『赤ちゃんは渡さない!』

 暴霊の叫びに併せて彩乃の声が聞こえる。

 ある程度解った。彼女は赤ん坊を攫って病院に復讐しているのではない。自分の子供の死が信じられず、まだ子供を探しているのだ。

「違う」

 アサシンは立ち上がり、刀を振ってみせる。

「あんたの赤ん坊は、その子じゃない!」

『嘘だあっ!』

 爪を立て、暴霊がアサシンに迫る。その瞬間アサシンが片手で印を切った。すると、暴霊の足下から短剣が飛び出し、その肉体を斬りつけた。彼はトラップを使うことが出来るのだ。村正の力なのか、その威力も上がっている。

 痛みに苦しむ暴霊。それでも彼女は攻撃を止めない。再度アサシンに向かってゆく。何度トラップにかかろうと、彼女は立ち上がり、走ってくる。これが親の強さだ。子供を守ろうとする彩乃の意志が彼女を何度も奮い立たせる。

 傷だらけになった暴霊の身体からは炎が噴き出す。いくら暴霊と言えどアサシンは心が苦しくなった。攻撃を躊躇っているアサシンに暴霊は手足の爪で切りかかる。彼はまだ攻撃出来ない。ずっと刀で攻撃を防いでいるだけだ。

「やめてくれ」

 彼女を傷つけたくなかった。彼女は誰かを傷つけたり、苦しませたりするために暴霊になったのではない。純粋に、我が子に会いたいだけなのだ。我が子をその手で抱きたいだけなのだ。

「あんたの子供は、あんたの子供は死んだんだあっ!」

 アサシンが叫ぶと、あれほど激しかった暴霊の攻撃が止んだ。切りかかる寸前で止まっている。

「もう、あんたの子供は、亡くなってるんだ」

 暴霊は小さな声で唸っている。

「何人も攫って気づいただろ? あの部屋にあんたの子供は居ない。でも、子供はあんたを待ってる」

 待ってる。その言葉に、暴霊は強く反応した。

「あっちの世界で、子供は、あんたに抱かれるのを待ってんだ。子供を待たせてどうすんだ!」

 暴霊はアサシンからゆっくり離れた。アサシンはトドメは刺さず、村正を仕舞った。

 暴霊の身体は少しずつ人間の姿に戻ってゆく。元に戻った彩乃の目は、あの赤く恐ろしい目から、優しい母親の目になっていた。彩乃の身体が光に包まれる。光は彼女の身体をゆっくりと包み込み、そして、霧のようにすっと消えた。

 もとの姿に戻った安藤は心底安心した。彩乃を斬ることなく戦いが終わったことに。

 短剣を仕舞ったすぐ後、倉庫から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。慌てて扉を開けると、そこには4人の赤ん坊が寝かされていた。その内の1人が泣いていたのだ。昼間わからなかったのは、きっと彩乃が結界のようなものを張っていたからなのだろう。

 赤ん坊を脅かさないよう、安藤は静かに歩み寄る。子供達の服には黒い羽根がくっついていた。きっと、彩乃が抱いたときについたのだろう。彼等は痩せていない。もしや、彩乃が子供達を養っていたのか。自分の子供ではないことは解っていた筈なのに。

「アンタも子供、好きだったんだな」

 思わず微笑む安藤。だが、こうしてはいられない。赤ん坊を安全な所へ連れて行かねば。安藤は慌てて下に降り、佐藤栄子を呼びに行った。






 それから3日後。行方不明だった赤ん坊は皆親と会うことが出来た。あの夜以来誘拐事件は起きていない。結局倉庫は改装して、また病室として使用するらしい。不思議なことに、あれほど汚い部屋なのに、1部分には全く埃が落ちていなかったという。

 安藤は、栄子にはとりあえず、「今回の特集記事は中止した」と告げた。そう言うと彼女はニヤっとした。安藤が記者でないことがバレているのかもしれない。

 好みの女性だったということもあり、安藤は連絡先を教えようとしたが、彼女の薬指に輝く指輪を見て、それを止めた。

「じゃ、また」

 安藤はただひと言そう告げて、彼女の前から姿を消した。

「記者、ね」

 寂しげな男の背中を見つめて、栄子は微笑んだ。





 3日後。

「よしよし、良い子ね〜」

 佐藤栄子は今日も赤ん坊とにらめっこしている。もう子供達が消えることはない。これまでより安心して仕事に臨んでいる。

 だが、彼女は今でもあの御札に手を合わせている。また子供達が狙われないように。そして、天国のあの親子の幸せを願って。

「佐藤さん、お願いします!」

「はーい! ふふふ、じゃ、後でね」

 栄子は赤ん坊の頬をちょんちょんと触り、分娩室に向かった。

・姑獲鳥・・・病院内で自分の子供を探していた暴霊。恐竜、オビラプトルに似た姿をしている。オビラプトルは、化石の形から「卵泥棒」の異名を付けられてしまったが、最近の研究では、あれは卵を守った状態で化石になったのではないかとされている。


・アサシン(結・村正)・・・新たな武器、村正から承認された安藤が変身する、アサシンの新たな姿。鎧の形状が変化している他、トラップの威力も上がっている。その他の機能はまだ不明。

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