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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
6/30

邪眼

 久々に大雨だったある日。悠真は大学近くのファミレスで、友人の柏康介、木島仁と一緒に昼食をとっていた。

 木島仁は理工学部に通う青年で、将来はノーベル賞を目指しているという。根は良いのだが、科学を信用している為に、オカルトや宇宙人等に関する話では度々康介と対立している。それでも少しすればすぐに仲直り出来る。

 今日も康介が、昨日見たオカルト番組の話題を出してきた。またこの2人のしょうもない争いが起きると思うと、悠真は本当に面倒くさそうだった。

「それでさ、夢に出て来た女ってのが、その婚約者だったんだよ! いやぁ、運命ってのはすげぇな! どうよ、びっくりするだろ!」

「するわけねぇだろ、昨日テレビでやったばっかりじゃねぇか」

 ツッコミ所満載な男だが、そこが康介の良い所でもある。

「良いじゃねぇかよ、こういう話は誰かが語り継がなきゃならないんだよ」

「他に語り継がなきゃならない話はあるだろ」

「いやいやいや、運命ってのは俺達の想像を超えたものなんだよ」

「運命、か」

 呟いたのは仁だった。

 悠真と康介は同時に彼の方を見た。まさか、科学に絶対の信頼を寄せているこの男が、運命という非科学的なものに反論しないとは。普段ならすぐに反論、科学の法則を持ち出してくるというのに。

 仁はぼーっと天井を見つめている。魂が抜けたかのようだ。彼のこの変化には康介も不安になったらしく、仁の顔の前で手を振ってみせた。

「おい、おい仁!」

「えっ?」

「大丈夫か? お前らしくねぇぞ」

「あぁ。運命な。いや、こればかりは、科学の如何なる法則でも解決出来ないよ」

「それは否定しない」

 やはり何かおかしい。話は上の空、おまけに非科学的なものを素直に認めている。仁をこうまでしてしまったものとはいったい。

 急に仁が音を立てて立ち上がった。周りにいた客の視線が彼に集中する。

「悪い、行かなきゃ」

 そう言い残して、仁はふらっと店を出てしまった。悠真と康介はそれからずっと黙っていた。

 そうだ、情報通の康介なら何か知っているのではないか。悠真は聞いてみた。

「お前、何か知らないのか」

「いや、あいつ普段忙しいじゃん。だから何も」

「とりあえず仁の知り合いに聞いてみないか? あの様子じゃそのうち成績にも響いてくるだろ」

「それもそうか。よし、行こうぜ」

 おそらく康介は仁の心配をしているわけではなく、彼の情報を集めたいだけなのだろう。仁と会う時間はなかなかとれないので、普段の仁がどの様な人物なのか気になるのかもしれない。

 ファミレスを出てからすぐ、2人は校舎に戻って仁の知り合いを探し始めた。彼は特殊なサークルに入っていたから、知り合いを特定するのにそう苦労しなかった。2人は校内を探し、知り合いの1人、近藤広樹と接触した。悠真達より2年先輩だ。頭をボサボサにし、袴を履いており、どことなくかの名探偵に似ている。いや、意識してそうしているのか。

「それで、あいつ最近何かありました?」

「ああ、確かに最近の木島氏は様子がおかしかったな。否、木島氏だけじゃない。同じ学部の三村氏、清水氏も同じようにぼーっとしていた。あ、あと川口氏も」

「そんなに?」

「うむ、何か、思い詰めているようであったな。察するにあれはきっと、恋だ」

 ポリポリと頭を掻きながら答えた。見たところ、頭はしっかり洗っているようだ。掻きながら広樹は屋内へ向かった。

 恋。

 あくまで近藤広樹の想像でしかないが、悠真も何となくそうだと思った。しかし同時期に何人も、それも同じ大学で恋に落ちるというのもまた不思議である。これは、ただの恋ではないかもしれない。悠真の目つきが鋭くなった。

 それにしても仁が探偵サークルに入っていたとは。彼は毎日色々と忙しいらしくなかなか会えなかった。そのため、彼がどんなサークルに入っているのかも解らなかった。

「恋だってよ」

「あいつがな。どんな心境の変化があったのか」

「不思議なこともあるもんだな」

 康介は少し嬉しそうだった。科学の塊のような男も人を恋する感情がある。仁の人間らしいところを感じた瞬間だった。

 さて悠真の方は、新たに生まれた疑問に集中していた。同時に恋に落ち、更に全員同じ様な状態になってしまうというのは、やはり何らかの力が絡んでいるとしか思えない。職業病だろうか。兎にも角にも、その男子達が恋をした相手を探る必要がある。

「あいつ何処行った?」

「俺が知るかよ。ほら、あの人に聞いてみろよ」

 先の方にまだ広樹が見える。悠真は走って彼を追いかけ、広樹を呼び止めた。

「すいません」

「はて、どうなさった」

「仁が、それから他の人たちが誰と付き合ってるか解りませんかね?」

「うむ、具体的に誰とは言っていなかったからな」

 あの状態では会話もままならないだろう。やはり有力な情報は聞き出せないか。諦めかけていたそのとき、広樹が何かを思い出した。

「確か木島氏、キリカ、という名前を仕切りに呼んでいたと同朋が口にしていたな。そう、彼が恋していると推理したのも、その情報を聞いたからなのだ」

「キリカ」

「それと、三村氏が違う学部の校舎に入って行くのを見たという者もいた。残念ながら、どの学部かは解らなかったが」

「そうですか。ありがとうございました」

「木島氏の事件について調べているようだが、探偵に興味があるのなら、是非我々のサークルに来てくれたまえ」

「は、はい」

 礼を言って、悠真は康介のもとに戻った。

 探偵サークル……勘で推理をしている訳ではなく、しっかり証拠を集めて推理しているらしい。悠真が入ることは無いだろうが、また御世話になるかもしれない。

 そのキリカという女性の情報を持っているかもしれない。早速、学校1の情報通に尋ねてみた。すると、

「は? 安城棋理華? 仁のやつ、そんな人と付き合ってんのかよ!」

「え? 有名なの?」

「安城棋理華。絶世の美女ってのは、ああいう人のことを言うんだろうな。しかも大金持ちと来たもんだ」

 そんな大物を、何故今まで知らなかったのだろう。それだけ有名ならすぐに見つけられるかもしれない。ここはまた、康介に探してもらおう。悠真は缶コーヒーをおごることを条件に安城棋理華を一緒に探してもらうことになった。しかし、今日は康介も忙しいらしく、探すのは翌日になった。

 あの木島仁を魅了するほどの美女。果たして、どんな人物なのだろう。





「へぇ、じゃあ木島君は科学者になりたいんだぁ」

「は、はい。幼い頃からの、夢です。これまで解決出来なかった問題を、か、科学の力で解決したいんです」

「ふうん。じゃあ、恋も解明出来ちゃうのかな?」

「え? ……え?」

「ねぇ、私のこと、ちゃーんと見て」

「う……」

「難しい数式だけじゃなくて、私のことも見て」

「はい」

 ふふふ、この子狙いやすかったんだよねぇ。自分は大丈夫、自分は引っかからないって思ってる人の方が私に恋しやすい。パパの会社の人で試したけど、本当に効果抜群だった。

 この子で……あれ、何人目だっけ? まぁ良いか。私は、全ての男を食い尽くす。金も名誉も、命も丸呑みにしてやるわ。

「ねぇ、木島君。一緒に行きたいところがあるんだけど、良い?」

「はい」

「良かった。じゃあ行こう?」

「はい」





 翌日、悠真は康介に連れられ、大学1の美女・安城棋理華が如何なる人物かを調べに行った。

 対象は食堂にいた。なるほど、確かに絶世の美女と言うだけのことはある。茶色に染められたショートヘアーと美しい瞳、そして純白の肌は英国の女性を想わせる。令嬢というだけあり着ている服やバッグはブランド物だ。

 棋理華の隣には虚ろな目をした仁が座っている。口元には不気味な笑みを浮かべている。何かおかしい。悠真の考えだが、純粋に恋しているようには見えない。言うならば、魂を吸い取られたかのようだ。

「いやぁ、やっぱり綺麗だよなぁ。お前もそう思うだろ」

「うーん、まぁ、確かにな」

「でも、仁をあのままにしておくわけにもいかないよな。留年になっちまうかもしれない」

「もっとまずいことになるかもな」

「え?」

「ん? あ、いや、何でもない」

 考えすぎなのか。今の世の中、暴霊ではなくただの人間にも、人を魅了し破滅させることが出来る。そういう者達は、悉く逮捕され、法の裁きを受けるわけだが。

 また念が見られれば良いのだが、あの能力は不定期に発動する。残念ながらまだ発動していない。棋理華が暴霊であるとは断言出来ない。ただ、たとえ生きている人間だとしても、何でも持っている棋理華には何のメリットも無いと思われる。

 ここで、康介は講義があるということで離脱した。ここからは1人で調査せねばならない。取り敢えず、悠真は2人のすぐ近くの席に腰掛け、会話を盗み聞きした。

「ねぇ、昨日は楽しかったね」

「はい」

 どうやら、2人はもうデートまでしているらしい。昨日は特別なことをしたようだ。

「今日は空いてる?」

「はい」

「じゃあ、またどう?」

「はい」

「じゃあまた5時ね」

 約束をしてから棋理華は席を立った。仁はそのままじっと座っている。身動き1つとらず、ただじっと。心配になったので、悠真は仁の隣に座って声をかけた。

「おい」

 仁はからくり人形のようにゆっくりと顔を悠真に向け、衝撃的なひと言を口にした。

「どちら様ですか」

 これには悠真も驚嘆した。悠真は仁に謝って席を立ち、食堂を出た。

 まさか自分のことを忘れるほど彼女に陶酔しているとは。意識と共に記憶も薄れているのかもしれない。どちらにせよ、棋理華との交際を止めなければ、仁の成績だけでなく命にも関わってくる。

 ふと仁の居る方へ目をやると、彼はいつの間にか席を立っていた。棋理華を追ったのか? いや、彼らは今日何処かで会おうと約束していた。仁に何かするつもりなのか。

「やるしかねぇか」

 悠真は覚悟を決めた。この後1人で、2人の跡を追うことを。






 時刻は回って午後5時。

 悠真は仁と棋理華を見つけ、何処に行くのか追跡し始めた。棋理華は兎に角目立つ。見つけるのは簡単だった。

 安藤には知らせなかった。呼べば追跡が面倒になるからだ。もし棋理華が暴霊で、しかも術師に誘惑されて霊になったとしたら、当然墓守のことも少なからず教えられているはずだ。彼女も警戒しているかもしれない。そんなところにあの安藤を連れて行けば尾行に気付かれてしまう。

 2人は地下鉄に乗り込み、とある場所に向かうようだ。悠真は彼等と同じ車両に乗った。仁は悠真を忘れている。わざわざ車両を変える必要はない。

 それにしても車内の2人は明らかに異常だった。棋理華が仁を抱きしめ、更に彼の身体を撫で回している。まるで、獲物に巻きつく蛇のようだ。仁はやはり目が虚ろで、目線が定まらない。彼は彼女を抱きしめることはなく、ずっと気をつけの姿勢だ。車内でじゃれ合うカップルは稀にいるが、これは流石に妙だ。周りの客も彼等から離れている。

 2人は6駅程過ぎた辺りで降りた。乗り換えはせず、2人はそのまま外へ出た。悠真は2人の斜め後ろに付いて引き続き追跡する。夕方は人も多く、見失いそうになりながらも辛うじて彼等に付いていった。おまけにここは所謂セレブが住んでいる場所らしく、棋理華のような目立つファッションをした女性を何人も見た。ここでは棋理華も目立たなくなってしまう。

 今までは大通りを歩いていたが、途中で人気の無い細い道に曲がった。左右には煉瓦造りの家が何軒も建っていて、車庫にはベンツやらポルシェやら、有名な会社の車が多数停まっている。何故1件に車が何台もあるのだろう。中には5台もベンツが停まっている家もあった。これだけでも驚きなのに、次に悠真が目にしたものは更に度肝を抜くものだった。

 眼前にそびえ立つ、白い箱。

 いったい何なのか。日本にこんなものがあったのか。仁があの様になったのも何となく解る。道行く女性達は光輝く衣を身に纏い、大手メーカーの車がプラモデルの如く飾られている。ここは悠真達庶民にとっては異世界だ。尤も、仁が自我を失ったのは別の理由があってのことだろうが。

 箱に近づくに連れ、それが何であるかが解ってきた。箱には縦に【ANJO】と黒いパネルが貼られている。ここは彼女の父の持ち物らしい。倉庫か何かか。

 棋理華と仁はその中へと消えていった。悠真は少し時間を空けてから中に進入した。幸い警備員は居なかった。屋内は電気が付いていないため、ボソボソ聞こえてくる声を頼りに先へ進んだ。進んでゆくと声も聞き取りやすくなってきた。

「ふふふ。もっと、もっと私を……」

 何をしているのだろう。もしや、暴霊とはかけ離れたものを見ることになるのか。だとしたら悠真には止められない。康介が喜ぶぐらいだ。

 奥の方に光が見える。扉が開いているのか。部屋があるらしく、2人もそこにいるようだ。足音を立てないように、ゆっくりと部屋に近づき、そして、隙間からこっそりと中を覗いた。






『結局、あいつは只の遊び相手なんだよ』

 悲しかった。

 2年前、愛していた彼の口から発せられた言葉。

 私は彼に全てを注いでいた。欲しいと言ったものもあげたし、幾夜も一緒に過ごした。私は、彼も私を愛してくれてると思ってた。でも、それは間違いだった。彼は私と過ごした時を、笑い話にして友人に語っていた。あの言葉はそのときに出たものだった。

 跡なんかつけなければ良かった。サプライズなんか考えなければ良かった。その日は家に帰らないで、この倉庫に来た。ロープを持って。天井のパイプに縛りつけて、首を括った。台を蹴飛ばせば、私は死ぬ。その前に、私は彼との時を思い出していた。色々なお店に行ったり、映画を見に行ったり、星を見ながら寝たり・・・でも、その全てが、彼にとってはただの遊び?

 その瞬間、悲しみは怒りに変わった。そうなんだ。彼にとって、アイツにとって、私は玩具なんだ。許せない。絶対に!

 思わず台を蹴飛ばしてしまった。足が離れ、私の身体は吊された。不思議だった。死のうとしてたのに、いざこうなると、身体をバタつかせている自分がいる。息を吸おうともがいていると、私の身体はとうとう地面に落ちた。ロープはしっかりと絞めた筈。

 上を見ると、そこにはまだ私の身体がぶら下がっている。じゃあ、私は幽霊? 身体が熱い。見ると、手足が青白い炎に覆われている。あぁ、これが、怨念なんだ。アイツへの怒りが、炎になったんだ。

「全部、今度は私が、全部飲み込んでやる」

 それから私は、何人もの男を誘惑した。

 アイツも、パパの会社の人も、警備員さんも。そして、大学の生徒も。誘惑された男はみんな固まってしまった。この子も間もなく……。

「はい、ストップ」

 え? 誰? どうしてここに?

「友達なんですよ、ソイツ。そろそろ返してくれませんかね、安城棋理華さん」




 悠真が隙間から見たのは、大勢の男達に囲まれた2人。男達は様々なポーズをとって固まっている。彫刻みたいだ。その眼に輝きはない。きっと仁も彼等のようになるところだったのだろう。

 棋理華は悠真を見て驚いている。術師とは関係なさそうだ。悠真が刀を引き抜くと更に驚いた。

「知ってるとは思いますが、あなたは未練によって蘇った霊です。どんな未練かは知らないけど。あぁ、見たところ、男が絡んでるみたいですね」

「何なの?」

「いや、そこで目を開けて寝てる俺の友達が、ここ最近おかしかったもので。調べてみたら、あんたに恋してるみたいで。まぁ、果たしてこれが恋と呼べるかどうか判りませんがね」

 棋理華は震えている。仁は全く動いていない。殆ど魂を吸われているようだ。あそこで彼女を止めておいて良かった。

「で、俺はあなたみたいに未練によって暴れている霊を止める存在です。簡単に言えばあなたの敵です」

「敵?」

 棋理華がゆっくり立ち上がった。

 その眼は黄色く輝いている。あの眼が男達を洗脳していたのだろう。

 彼女が手をクロスさせ、それを広げると、青白く輝く物体が幾つも発射された。刀を回転させてそれらを弾き飛ばした。壁に刺さったそれは、鱗の様なものだった。

「男は全て私の敵」

 喋りながら、棋理華が青白い物体を飛ばしてくる。

「今度は私が、奴らの全てを飲み込んでやる。奴らがそうしたように!」

「やれやれ、相当な恨みだな」

 今度は眼から黄色い光線を放ってきた。横に逸れてそれをかわす。光線が壁に直撃すると、壁はみるみるうちに岩に変わり、砕けてしまった。これが石化の仕組みか。男達の魂もこうやって固めてしまうのだろう。

 棋理華は再び青い物体を放ち、悠真がそれらをガードしている隙を突いて光線を発射してきた。ギリギリかわせたが、固まった男性に光線が直撃し、灰色1色になってしまった。砕けなくて良かったが。悠真も負けじと刀を鎌に変えて衝撃波を放った。戦いには不慣れなようで、棋理華は衝撃波を受けて派手に吹き飛ばされた。

「さぁ、そろそろ終わりにしましょうか」

「嫌」

 ふらつきながら立ち上がる悪霊。その眼の輝きは強さを増している。

「まだ足りない。まだ殺したりないぃっ!」

 棋理華の叫びに合わせて青白い炎が燃え上がり、彼女の肉体をおぞましい形に変えた。

 変貌した棋理華の姿をひと言で言うなら、蛇女だろう。全身を青白い鱗に覆われていて、頭はコブラのようにも見える。壁に刺さるほど硬い鱗だ、物理的な攻撃など全く通じないだろう。更に胸部には女性の顔を模した鎧がついており、眼は蛇の眼になっていて、あの黄色い光を帯びている。

 暴霊は獣の様な雄叫びをあげ、胸の眼から光線を放った。悠真は物影に隠れて0に変身した。武器は連射式の銃に変化している。遠距離から銃弾を放ち、あの鱗を砕くしかない。

 光線が止まったところで物影から姿を現し、暴霊目掛けて発砲した。しかし銃弾を以てしても暴霊の鱗を砕くことは出来なかった。暴霊は再び光線を0に向かって発射した。しかも今度は暴霊の射程圏内にいる。このままでは彼も石に替えられてしまう。

 しかし0もそう簡単に殺されるような墓守ではない。透かさず楯を発動して光線をシャットアウトした。驚いた暴霊はより強い光線を出すが、0はそれをものともせずに近づいてくる。最も近づいた瞬間、0は武器を銃に戻し、引き金を引いた。至近距離で発射された弾は暴霊の眼を破壊した。怯んだ暴霊へ更に銃弾を撃ち込む。鎧の部分は皮膚とは違ってさほど硬くなく、簡単に砕けてしまった。砕かれた胸部から、青白い炎が激しく噴き出す。肉体という器から、彼女の怨念が炎となって噴き出しているのだ。

「あんたも酷い目に遭ったんだろうけど、罪のない人達を殺す理由にはならない」

 0は武器を刀に戻した。

「友達、返してもらうぜ!」

 刀で暴霊を斬る。すると、暴霊は全身炎に包まれ、自身が岩のように崩れてしまった。

 仕事を終え、悠真は元の姿に戻った。暴霊が倒されると固まっていた人々の姿も元に戻った。全員何があったか解っていないようだ。また、石に変えられる寸前だった仁も意識を取り戻した。記憶が無いのか辺りを見回している。

 悠真は仁に駆け寄り、無理やり彼を起こした。見ず知らずの男が安城家の倉庫に居ては怪しまれる。固まっていた者の中には警備員もいるのだから。

「早く起きろ」

「え? 西樹? なんで西樹が」

「早くしろ! 面倒くさくなるから」

「え? ああ」

 2人は駆け足で倉庫から抜け出し、駅へ向かった。周りは一切見ず、ただ駅へ向かった。

 入口を見つけ、地下へ降りて改札を抜けると、ほぼ同時に電車が到着した。悠真と仁はそれに乗り込み、空いている席に座った。

「お前、危なかったんだよ」

「え?」

「止めなかったらお前、留年だったからな」

 何のことだか解らないようだったが、詳しいことは話さなかった。霊が彼を誘惑して、殺そうとしていたなど、今の彼が信じるわけがない。

 電車が大学前に到着するまで、仁は怪訝な顔をしてずっと考え込んでいた。






 それから4日後。

 悠真、康介、仁の3人はあのファミレスに来ていた。

 安城棋理華の遺体はあの倉庫で発見された。暴霊になった後彼女が隠したのだろう。その他、若い男性の遺体も見つかった。彼女の念と何らかの関わりがある者かもしれない。石に変えられた男達も元に戻った。

 悠真は昨日近藤広樹と再会し、情報を提供してくれたことを改めて礼を言った。探偵サークルも活気を取り戻したそうで、広樹は満面の笑みを浮かべていた。そして、「機会があれば是非」と再度勧誘された。

 それで、今に至る。仁は普段通りの、科学の塊に戻っていた。好物のラザニアを頬張りながら、康介の言葉を聞いている。

「馬鹿馬鹿しい。俺が運命なんて非科学的なものを信じるわけがないだろ。それに相手が安城棋理華だ? 柏、探偵サークルの他の奴と間違えてるんだろ。お前らしくないな」

 仁は棋理華との記憶を全て忘れているらしい。あの交際自体棋理華の洗脳だったのか。そんなことを知らない康介は仁に言い返す。

「はぁ? お前病院行った方が良いんでねぇの? なあ、悠真も聞いてたろ? こいつが『運命、か・・・』とか言ってたの」

「ああ」

「なっ、西樹までそんなことを! 冗談が過ぎるぞ」

「違うって! お前、探偵サークルのクセに全然推理出来ねえじゃんかよ!」

 またまた康介と仁の言い争いが始まった。悠真は面倒くさそうに溜め息をついた。

 しかし内心では、いつもの活気が戻ったことを喜んでいた。

・ラミア・・・女子大生の安城棋理華が暴霊になったもの。全身鱗に覆われたヘビ人間の姿をしており、鱗を飛ばして攻撃する。また、胸部には女神の顔を模した鎧が取り付けられており、その目から発射される光線は人や物を石化する。

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