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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
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夜明け

 屋上でぶつかり合う4人の戦士達。

 墓守勢はアヌビス・アサシンが加わって優勢になった筈なのだが、生まれ変わった術師は強力で、その大剣でいとも簡単に攻撃を跳ね返してしまう。朧やルベルのように空を飛ぶ能力は備わっていないが、その分戦闘力が高いようだ。

 アサシンのトラップも全て見抜かれており失敗、村正による攻撃も彼の大剣の前ではほぼ無意味だ。その上村正の威力が最大限に出せていない。これではダメージも与えられない。

 エリートのアヌビスでさえ手こずっている。ステッキで武器を叩き落とす戦術が失敗に終わり、相手を突く戦法に変えたが、黒崎は相手の動きを正確に読んでそれらを全て防ぎ、手の動きが一瞬遅くなったところで反撃に出た。洞察力まで強化されているらしい。

「口程にも及びませんね」

「野郎、舐めやがって」

「さぁて、次は」

 言いながら、黒崎は標的を0に変えた。彼はこれまでずっと悠真をマークしていた。そのため戦術も全てお見通しだ。なるべく至近距離に近づかないようにして戦っている。0は剣を受け止めるのに精一杯で、火球を放つことがなかなか出来ない。斬撃の合間には火球が放てないらしい。そんな弱点も、黒崎はこれまでのデータを見て見つけていたようだ。

「ふふふ、鍛え方がなっていませんね」

「ちっ、動けない!」

 相手の剣技が早すぎて、0は戦線離脱することが出来ずにいる。間一髪、途中でアヌビスが割って入ってくれた。おかげで離脱することは出来たが、代わりにアヌビスがダメージを受ける羽目になった。

 戦いながら、0は脳内である仮説を立てていた。1度は渡に吸収されたものの、その後強化されて蘇った黒崎。つまり、1度はあの怪物を構成する細胞の1つだったわけだ。彼の力の1部となることで、逆に渡の力を吸収していたとは考えられないだろうか。だからこそ、月の術を直接使っていない黒崎がこうして術使用者に似た姿になった。こうは考えられないだろうか。

「くそおっ!」

 アサシンが短剣を投げて攻撃するが、黒崎はそれら全てを軽々と除け、更に接近して剣で斬りつけた。その隙をついてアヌビスが攻撃するが、それも直前で黒崎に知られ、剣で返り討ちにされてしまった。最後は0が火球を発動して放ったが、相手はジャンプしてそれを躱した。進化しても、邪気を浄化するあの炎には注意を払っているらしい。

「社長は自らを“皇帝”と名乗った。しかし真の皇帝はあの男ではない。この私だ」

「何言ってやがる? てめぇみてぇな野郎が皇帝になっていいわけねぇだろ!」

「皇帝は1つの集団のトップ。トップは常に、仲間全体の利益を考えていなければならない。その点で、私は充分条件を満たしている。私の同士達の利益を守る為に、不利益となるあなた方墓守を駆逐しようとしているのですから」

「とことん狂った野郎だな。叩き直してやる!」

 アヌビスは高くジャンプすると狙いを定め、槍を黒崎目がけて発射した。だが、黒崎は剣をひと振りして衝撃波を巻き起こし、反対にアヌビスにダメージを与えた。衝撃波によって飛ばされバランスを失ったアヌビスは下へ落ちていった。

 アサシンと0が助けにいこうとすると、黒崎が標的を変え、今度は2人目がけて衝撃波を放ってきた。術師を率いてきた渡のそれよりもずっと強力な攻撃。2人も屋上から落下しそうになった。どうにか壁にしがみついているが、片手ではどうにも頼りない。特にアサシンは体力を消耗している。もしかしたら落下してしまうかもしれない。

 相手が攻撃出来ない状態なのを確認すると、黒崎は瓦礫にしがみついている2人に歩み寄った。更にアサシンの手を足で強く踏みつけた。相手が弱っていることを知ってのことである。

 一応彼等は店員と常連客の関係だった。それも結局まがい物だったということか。優しそうに見えたあの笑顔もアサシン達を騙す為の仮面に過ぎなかったのだ。

「ちっ……野郎……」

「あなたで2人目です、安藤さん」

「まだ、覚えてたか」

「職業柄、顔と名前を覚えるのは得意でね」

「へっ。そのまま仕事を続けてれば、もっとマトモな人生が送れた筈なのによ」

「何を馬鹿な。私はあの方と出会って漸く、真の自分になることが出来たのです」

 それが墓守・X、偽りの神なのだろう。

 彼がその墓守と出会ったのは数年前のことだったという。渡一樹の秘書として仕事を行い、いつも使われる身だった黒崎。そんな彼の元に、偽りの神は突然現れた。その人物は数々の奇跡を見せてくれ、更に黒崎にも力を与えると言ってきた。

 目の前で霊が食われる様を見たばかりだ、信じる他無い。すぐに合意し、彼は降霊術を手に入れた。

 新しい仕事に就いても、結局は偽りの神の命令を聞くばかりとなってしまったが、渡の元で働いていた頃よりもずっと生き生きしていた。神は確かに命令は下すが、どのようにやるか、どんなプランで行うか等、厳しく部下を取り締まろうとはしなかった。神は、黒崎を仲間として見てくれていたのだ。

「今でも、あの日のことを思い出します。神は今でも、私を尊重してくれている」

「どうかな?」

 と0。少しずつよじ登ってきている。

「あんたの言う神様は、それまで仲間だったヤツを簡単に殺したんだぜ? それでもまだ、アンタを尊重しているって言えるのか?」

 0の言う通り、偽りの神の息がかかっていたであろう術師・金谷空人は、術を使えなくなった途端処刑された。使い物にならなければ消す。そのような考えが見て取れたのだ。

「金谷氏のことですね。彼は所詮我々の実験台に過ぎません。そもそも彼は、私の同僚にスカウトされた人間でしたから」

「同僚? まだ他にも術師がいるらしいな」

「当然です。神が撒いた種は各地で芽吹いている。いずれは降霊術師の時代が訪れます」

「そんな時代、来させねぇよ」

 突然0の身体が浮かび上がった。何事かと黒崎が確認する。

 ボードだ。ボードが0の身体を支えていたのだ。更にそのボードに何かがしがみついている。先程吹き飛ばされたアヌビスだ。吹き飛ばされる直前、0はボードを呼び出しアヌビス救出に向かわせていたのだ。とは言え計画していたことではなかったため、無事助けられるかどうか不安だった。もう片方の手には槍を持っているから、何とか拾い上げることが出来たらしい。

 後退る黒崎。着地した2人はアサシンに手を差し伸べ、彼を引き上げた。

「降霊術は本来、人の為に使うもの」

「お前等みたいな危ない輩が扱って良い代物じゃない」

「術師の時代が来るって言ったかぁ? 悪いがそれは無理だ。その前に俺達がお前等を潰す!」

 再び集まった3人。彼等の気迫に黒崎が押されている。

 0を先頭に攻撃を再開する3人の墓守。黒崎は先程と同じように巧みな剣捌きで攻撃を凌ぐが、精神面では墓守達に劣っている。余裕で勝てると思っていたが、相手は想像以上にしぶとかった。彼の計算が狂い始めている。

「くっ、何故だ? 彼等の体力は既に限界を迎えている筈。それなのに何故?」

「わからねぇか、店長」

 アサシンが村正を構えると、刃が紫色に輝きだし、無数の短剣に分裂した。対ルベル戦で0が発動したものに似ている。短剣は向きを変えると黒崎の方へ飛んでいった。他の2人を相手にしていたため上手く躱せず、数本の剣が彼の半身に突き刺さった。

「ぐうっ! ば、馬鹿な」

「アンタに見せてやるよ、本物の仲間ってヤツを」

「本物だと? ふざけるな! 消えるのは我々ではない!」

 強引に短剣を1本引き抜き、それを0に向けて投げてくる。しかし、剣は途中で火球にぶつかり地面に落ちてしまった。

 前方では、0の周りを数個の火球が回っている。そのうちの1つが攻撃を防いだのだろう。

 怒りに狂って闇雲に攻撃する黒崎。だが剣による攻撃はすべてこの火球によって弾かれてしまった。この大剣は邪念の塊。攻撃を加えているうちに刃が欠けてしまった。

「しまった!」

「今度はこっちの番だ!」

 0が剣を振るうと、待ちわびていたかのように火球が動きだし、黒崎の身体にぶつかっていった。短剣が刺さっている箇所は更にめり込んで亀裂が入り、そこから生気らしきものが噴き出している。直接月の術を使ったわけではないが、それでも代償は支払わなければならないようだ。

 痛みに依るものなのか、力が弱まってゆく苦しみに依るものなのか、黒崎はおぞましい悲鳴を上げている。

 0はトドメを刺す為にゆっくりと歩み寄る。

「おのれ……」

 最後の力を振り絞り、黒崎はボロボロになった剣を降って衝撃波を放つ。威力はどれも弱い。0の剣が全て無効化してしまう。

「あっちで考え直せ。本当の仲間とは何か、真のリーダーとは如何なるものか……!」

 最後の一撃が、黒崎の身体に深い傷を負わせた。傷口から燃え上がる炎。赤い火は瞬く間に全身に燃え広がった。

「くっ……この身が滅ぼうと、神は必ず、私を……」

 それが最期の言葉となった。

 灰となって消えた次の皇帝。そこから光り輝く無数の球が飛び出し、各地に飛び散っていった。あれはきっと、これまで集めてきた生気だったのだろう。

 漸く戦いが終わり、3人は変身を解除してその場に倒れた。

 星が美しい。地上からかなり離れた場所にいるためか、星がよく見える。

 もし月の術などに手を出していなければ、渡一樹もこの美しい光景を今でも眺めていられたかもしれない。黒崎にも、秘書でなくとも別の道があったかもしれない。偽りだったとはいえ、安藤には喫茶店にいた彼が嘘の塊であるとは到底思えない。あのとき、彼はもしかしたら、客との交流を楽しんでいたのではないか。そんな気がしてならないのだ。

「……よし、行くか」

 先に立ち上がったのは秋山だった。その次に悠真が起き上がり、2人で安藤を抱き起こした。ルベルの鱗粉を浴びた上に無茶をしたせいか、安藤の足はヘトヘトだった。

「それにしても、綺麗な月だな」

 真っ暗な夜空に、ひと際大きな月が輝いていた。





 数日後。

 悠真、安藤、秋山の3人は墓守上層部・平岩と話をしていた。今回の事件の報告をするためだ。平岩自身彼の生霊からある程度情報は得ていたのだが。

「まだ月の術を使った者は各地にいると思われる。こちらも引き続き捜査を続ける」

「あの野郎。とんだ置き土産だな」

「そうなると、墓守の数がもう少し必要になるな」

 そう言うと、平岩はデスクの受話器を取ってある人物に電話をかけた。

 数分後、あの墓守が部屋の中に入ってきた。

「あ、あなたは!」

「久しぶりだな」

 九州で悠真と共に術師達と戦った墓守、戒堂謙介だ。

 増えてしまった術師を倒し、その活動を止める為に、平岩は数人の墓守達に応援を要請した。その1人がこの戒堂だったのだ。他にも様々な墓守が東京に集まっていると言う。

 一応話は聞いていたが、安藤が彼に会うのはこれが初めて。2人は硬い握手を交わした。

「宜しく頼む」

「こちらこそ」

「挨拶は済んだかな?」

 平岩がゆっくりと立ち上がった。

「早速だが、都内の廃工場で暴霊が事件を起こしている。まず秋山君、すぐに浄霊に向かってくれ」

「わかりました」

「それから戒堂君には、ある雑誌記者を追ってもらう」

「心得た」

「そして、安藤君と西樹君。都内の病院に暴霊が数体紛れ込んでいるらしい。至急捜査を頼む」

 まだまだ墓守達の戦いは終わらない。

 新たな司令を受けて全員が動き出した。





「そんなことがあってさ、いきなり大変だったよ」

 平岩との会談から更に数日後、悠真はいつものように、大学で沖田恵里と話をしていた。いや、今回は彼女だけではない。隣には古くからの友人・柏康介も一緒だ。彼も九州で暴霊、術師、そして墓守の存在を知った。彼は初めのうちは戸惑っていたが、自分達の為に戦ってくれている悠真の姿を見て、墓守としての彼も認めるようになった。それ以来、何か不可思議な事件が起きる度に知らせに来るようになった。

「お前も大変だなぁ。でも、儲かってるんだろ?」

「馬鹿、金は関係ねぇよ」

「そうだよ」

「な、何だよお2人さん、冗談に決まってんだろ?」

 はしゃぐ3人。

 そんな彼等の所に、ある人物が駆け寄ってきた。

「あーっ、いたいたー!」

 聞き覚えのある元気な声。声のする方を見ると、そこには顔質の良いハーフの女学生が立っている。

「宇佐美?」

 そう、ここ数日姿を見せていなかった宇佐美アリスが戻ってきたのだ。

「久しぶり〜! 元気だった?」

「元気だったって、それより、今までどうしてたの?」

「え? あ〜、ごめんごめん! 実は親戚の叔父様が亡くなってね、お葬式に出てたの」

 取り敢えず術師達に殺されていないことがわかり、悠真達はほっと胸を撫で下ろした。アリスはこの通り元気である。

「あ、そろそろ行かなくちゃ! これからバイトなんだ〜」

「そうなんだぁ。気をつけてね!」

「うん! バイバーイ」

 大きく手を振り、笑顔でその場から去ってゆくアリス。しかしその目だけは、笑っていなかった。

 彼女はずっと、悠真のことを見つめていた。冷たく、鋭い目で。


 西樹悠真。彼の戦いはまだ終わっていない。

 墓守と術師の総力戦は、まだ始まったばかりなのだ。

・シーザー・・・ノクターンに吸収されたハーミットが月の術の力を得て復活したもの。戦闘力、洞察力などの能力値が上がっている。隠者ハーミットから皇帝シーザーになるも、最後は0の攻撃を受け、灰となってしまった。

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