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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
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さらば古き友

 いよいよ始まった戦い。黒崎は渡と共に、その様子を見つめていた。

「くくく、愚の骨頂だな」

 戦う墓守達を見て渡は笑う。

「いずれは私の養分になるとも知らずに」

「ええ」

「さて、私は気長に待つとしよう。もうじきこの国は私のものとなる。……それにしても、腹が減ったなぁ。生気はもう無いのか?」

「ええ、おそらくは」

「くそっ、社員を何人か残しておくべきだった」

 渡は眉間に皺をよせて腹に手をあてた。この様子だと本当に空腹らしい。ただし、普通の食物では満たされない空腹だが。

 黒崎は一礼してから部屋を出た。その顔は全く笑っていない。どこか険しい表情をしている。

 彼はあることを考えていた。自身が望む計画が破綻するのではないか、いや、もう既に破綻しているのではないか、と。





 ファランクスを次々に蹴散らしてゆくアヌビスとその仲間達。だが、いくら倒しても敵は次々に湧いて出て来る。

「秋山さん、コイツ等ドンドン出てきますよ!」

「わかってるよ! でも何処に源があるんだ……?」

 辺りを見回すと、物陰にある人物が立っているのが見えた。背広姿の男性。アヌビスはこの男を知っている。嘗て総理秘書として大臣に近づき暗殺を企てた暴霊、飯塚竜だ。

 彼もアヌビスに気づいたのか、持っていた銃を彼に向けてきた。

「お久しぶりですね」

「また降ろされてきたか」

「正確には引き上げてもらった、と言うべきでしょうか。地獄から」

 やはり彼の向かった先は地獄だったらしい。

 飯塚は腕をクロスさせた。するとたちまち身体が炎に包まれ、機械の兵隊の姿をした暴霊・コマンダーに姿を変えた。

「私の任務は彼等心無き暴霊達の指揮! 私がいる限りあなた方に勝機は無い!」

「そいつはどうかな?」

 素早く振り返り、後ろから近づいて来るファランクス2体の顔にステッキを突き刺した。顔を疲れた者達は次々に砕けていった。どうやら彼等、顔が弱点のようだ。

「顔だ! 顔を狙え!」

「顔? わかりました!」

 部下達が一斉にファランクス達の顔面に向けて銃を撃ち始めた。邪気を浄化する弾丸が命中すると鎧は動きを止めて崩壊していった。

 部下への連絡を終えると、アヌビスはジャンプしてコマンダーに近づき、胸に強烈な一撃を与えた。機械の装甲に見を包んでいる暴霊もこれには怯んだ様子だ。

「誰がお前を浄霊したか忘れたか? 尤も、きちんと浄霊で来ていなかったみたいだがな」

「忘れる筈がありませんよ。あの世ですっと、あなた方のことを思ってきた。あなた方さえいなければ、世界は変わっていた! ……だが、もう恨んではいません。もうじき皇帝閣下が、私が描いてきた理想の世界を作ってくださる」

「皇帝? ああ、あの社長か」

 言いながら、アヌビスは更にもう一撃食らわせる。今度は攻撃によって肩の装甲が砕けてしまった。砕けた部分からは青い炎が噴き上がる。

「残念ながらお前の望む時代は来ない。俺達が意地でも食い止める」

「あなたは、あなたは何もわかっていない。今の日本ではもう駄目なのです! 今1度、真の指導者のもとで生まれ変わらなければならないのです!」

「違う」

 更にもう2発攻撃を加えると、暴霊の上半身が青白い炎に包まれてしまった。アヌビスは墓守のエリート。1度戦った相手のことはしっかり覚えている。そしてそれを、戦闘に応用することが出来る。

「恐怖で支持を集めようとするヤツが、真のリーダーだとは到底思えないな」

 トドメの1発。コマンダーは叫び声と共に爆発、再び地獄へと戻ってしまった。

 これでファランクスを呼び出す者はいなくなった。あとは残る敵を倒すだけだ。

「行くぞ!」

「はい!」

 頼れる指導者のもと、墓守達は攻撃を再開した。





 中で続く3人の戦い。

 満月の光を浴びたことが関係しているのか、ルベルは今までよりも更に力を上げている。思えばこれまでルベルと戦ったのは殆ど朝や昼だ。今まではまだ最大限の力を出すことが出来なかっただけ、これこそ彼の真の力なのだろう。

「お前達はここで死ぬのだぁっ!」

 ルベルの放つ光弾が2人に向かう。0は赤い炎でそれらを浄化したが、アサシンにはそういった能力が無い。彼は必死に攻撃を躱し、村正で術師に斬りかかった。0も炎の弾を放つが、ルベルの飛行スピードが異様に速く、思うように攻撃を当てることが出来ない。攻撃を躱され、逆に打撃を受けてしまった。更に敵は攻撃直後に高速移動することで隙を作らない。どうすればルベルを止められるだろうか。

 ここでアサシンは得意のトラップを使って相手をかく乱する戦略に打って出た。村正の能力の1つなのか、彼は自分の分身を1つ作ってルベルに飛びかかった。攻撃と同時に分身は1つづつ増えてゆく。術師は本物を見つけるのは面倒だと感じ、光弾を大量に放って全てのアサシンを攻撃した。こうなれば分身は全て消え去る。

「くだらない技を使いおって……落ちたものだなぁ、安藤肇君」

「へっ、お互い様だろ?」

「お前達と一緒にするな! 私はボランティアをしているだけだ。それを邪魔するお前達の様な屑と一緒にされては困る」

「またそれか。何度言っても同じだ、お前のしていることはボランティアじゃねぇ、神田。学生の頃の経験は何だったんだ? 全部無駄だったのか?」

 そう、神田と安藤は高校時代同じクラスの生徒だった。そして共にボランティア活動を行っていた。



 やることはゴミ拾い等の簡単なことから募金まで、兎に角幅広かった。が、どの仕事でもわかったことは、活動のおかげで誰かが笑顔になるということだった。

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

 いつも学校の周りで活動していて、その姿を笑う者も中にはいたが、毎日毎日活動に取り組む彼等の姿を見て、協力してくれる者達が次々に現れた。気づけば2人の周りには何人もの仲間が集まっていた。仲間が集まれば、それだけ多くの意見が出て来る。そのおかげでボランティア活動は更に効果的になった。

 そこには争いも何も無い。皆が1つの目標の為に協力し合い、誰かを幸せにする。それがボランティアだった。



 しかし、神田の中でその言葉は別の意味を持ってしまった。彼がしていることは更に他者を、そして霊を苦しめる行為だ。暴霊も再び理想を叶える力を手に入れて最初は笑顔を見せたかもしれない。だがその後、彼等は満たされない心に苦しみ、怒り狂った。そのせいで多くの人が襲われた。これでは何の解決にもならないではないか。

「考え直せ神田。お前のしていることは、本当に正しいことか?」

「ああ、正しいねぇ!」

 至近距離に近づいて光弾を放つルベル。あの攻撃を間近で受けてしまい、アサシンは弱っている。変身が解除されなかったのが奇跡だ。おそらく鎧の下の身体はボロボロで、暫くは立ち上がることも難しいだろう。

 0がすかさずルベルに攻撃を仕掛ける。弾が駄目なら斬撃だ。0が炎の剣を振るうと、赤い炎が風に乗ってルベルの方へ飛んでゆく。だがそれも相手に気づかれ、炎はビルの壁に当たるのみだった。術師はお返しとばかりに衝撃波を放つ。それも月の光によって強化されている。

「青年!」

「くそおっ!」

「私は前とは違う。諦めて、あの男の餌になるが良い」

「渡のことか!」

「そうだ、あの化け物のことだ。ヤツは力を蓄える為に生気を必要としている。……それは私も同じことだがな」

 月の術を使用した者は、代償として他人の生気を吸わなければ身体を維持出来ないペナルティが与えられる。今のルベルの言葉で、渡もその力に手を出していることが確定した。

 しかし渡も元は一般人だった筈。となると彼もまた、別の術師から術を教わった可能性がある。例えば墓守・X、術師達の言葉でいうなら、偽りの神。

「兎に角、お前達にはもうどうすることも出来ないのだ。1つ約目があるとすればそれは、奴の餌になることだろうな」

「誰が餌になんかなるかよ!」

「そうだ……」

 アサシンがヨロヨロと立ち上がる。彼を立ち上がらせているのは村正のパワーではない。安藤肇自身の気力だ。嘗ての友・神田明宏を止めるためなら、彼は何度でも立ち上がり、刀を向ける。

「人はお前等の飯じゃねぇ。霊もお前等の玩具じゃねぇ。お前等の曲がった考え、俺達が叩き直してやる!」

「何度聞いてもお前達の言葉はくだらない。売れない芸人の方がまだ面白いことを言える」

「アンタを笑わせる気はねぇよ」

 0が剣を構える。その刃には炎が宿っている。

「いや、アンタに俺達のことを笑う資格は無い!」

「ほう。ならば来い小僧。私を止めてみるが良い。止められるものならなぁ!」

 再びルベルの攻撃が始まる。先程よりも光弾の数が多い。これでは避けるのは困難。だが、砕くことは出来る。2人の墓守は互いの武器を使って光弾を破壊した。向かって来るもの全てが、彼等の攻撃によって砕かれてゆく。

 光弾による攻撃だけでは足りないと踏み、今度は鱗粉を撒き始めた。あの攻撃を受ければ身動きが取れなくなってしまう。

 鱗粉は0へと向かう。炎を使って回避していたが、肉体的疲労が戻ってきたのか、少しずつ剣を操る手の動きも鈍くなってきた。

「青年っ!」

 アサシンが渾身の力を振り絞って0に駆け寄り、彼の壁となった。鱗粉をまともに受けて身体が痺れ、徐々に身動きが取れなくなってゆく。

「安藤さん!」

「青年、コイツを、コイツをぉっ!」

 わずかに動く右手で0に託したのは自身の武器・村正。0は頷くとそれを受け取った。武器が彼の手に渡ると安藤は元の姿に戻って床に倒れた。

 承認が必要なのは墓守の力を発動するときのみ。武器の提供なら関係無い。0は受け取った刀を構えると、それをルベルに向けて投げた。村正は空中で紫色に輝くと無数の短剣に分散し、ルベルに向かって行った。先程の光弾の様だ。高速移動でかわそうとしたが、何本かの短剣がルベルの羽根に刺さって失敗に終わった。

 落下したルベルに向かってゆく赤い騎士。ルベルもすぐに立ち上がって衝撃波を放った。

「貴様、余計なことを!」

「うるせぇぇっ!」

 飛んで来る攻撃全てを剣で振り払い、術師に近づいた瞬間、0は炎の刃でルベルの身体を斬りつけた。

 傷口から赤い炎が燃え上がり、神田明宏を術師たらしめていた邪念や力を浄化してゆく。

「あんたのしてることは、ボランティアじゃない」

「違う、私は、私は……」

 最後の言葉を言い終える前に、神田は炎に飲み込まれて消えていった。月の術を使った代償。彼は人間として更生する機会を失ったのだ。

 変身は解除せず、0は天井を見上げた。渡り廊下は砕かれているが、ボードを使えば上にあがれるだろう。壁に取り付けられた案内板で社長室の場所を特定すると、0はボードを呼び出した。

 が、その前にやることがある。安藤に歩み寄ると、0は村正を安藤に返した。

「ありがとうございました」

「へへっ、俺も偶には役に立つだろ?」

「ええ」

「ほら、早く行け。俺の痺れも直に治る。治ったら合流するよ」

「ええ、お願いします」

 0は安藤に挨拶してからボードに飛び乗り、社長室のある階へ向かって行った。

 秋山達がビルの中に入ったのはそのすぐ後だった。





 神田が倒されたのを確認し、黒崎は再び部屋に戻ってきた。

「どうだった?」

「神田さんは、倒されました」

「ふん、やはりな……最後にここに来てくれれば良かったのだが」

 渡の空腹は最高値に達していた。このままでは間もなく来るであろう墓守とも戦えるかどうかわからない。

 と、そのとき、部屋の外で大きな物音がした。黒崎が構える。

 音のした数秒後、先程よりも更に大きな音と共に社長室の扉が破壊され、赤い鎧を纏った騎士・0が入ってきた。

「邪魔するよ」

 軽く挨拶をすると、0は武器を2人に向けた。

「おやおや、ノックも無しに入るとは無礼極まりない」

 黒いスーツを着た男が前に出てきた。安藤の言っていた喫茶店の店長だ。人間の姿をしているが、今の口調なら彼がハーミットだと容易に想像がつく。あの店には悠真も行ったことがあった。それなのに気づかなかったとは。0は自身を恥じた。

「アンタの店のコーヒー、俺の上司は気に入ってたんだけどな」

「上司? ああ、彼ですか。お2方が墓守であることは前々から気づいておりました」

「宇佐美は何処へやった? 最近大学にも来てないんだけど」

 アリスも以前黒崎の喫茶店で働いていた。彼が閉店と同時にアリスを何処かへやったとも考えられる。

 0の問いに黒崎は笑った。目の前の墓守は真実を見抜いていない。それが彼には可笑しくてたまらなかったのだ。

「答えろ!」

「答える必要はありません。あなたをここで、消す!」

 黒崎の内ポケットから1体の人魂が飛び出し、彼の中に入った。するとたちまち、彼の姿は術師・ハーミットへと変わっていった。

 これまで影で人々を操り、自らの奴隷としてきた男。いよいよ決着をつける時が来た。だが、その前に、ここで予期せぬ事態が起こった。

「そうかぁ」

 後ろで男が立ち上がった。渡一樹だ。彼はハーミットの所へスタスタと歩み寄ると、彼の肩に手を置いた。

「お前はまだ生きてたんだよなぁ、黒崎」

「社長、何を?」

「お前を食えば良いんだぁっ!」

 いきなり渡の身体から大量の糸が噴き出し、ハーミットもろともその糸に巻き込まれてしまった。まるで蛾の繭のようだ。繭は数秒程で赤く輝いて破裂、中から渡1人だけが出てきた。嬉しそうに笑みを浮かべている。

「何をした?」

「食ったんだよ。腹が減っててね。月の術を使うとすぐに腹が減ってね。他人から生気を奪わなくちゃならない。そんなことより、他の術師から情報は聞いていたが、直に会うのはこれが初めてかな? 西樹悠真君」

 相手は墓守のこともしっかりとサーチしている。悠真のことは特に注意して観察していたようだ。

「しかし悲しいなぁ」

「は?」

「会ったのはこれが初めてなのに、もうお別れをしなきゃならない」

「ああそうだな。でも消えるのはアンタの方だぜ?」

「くくく、面白いことを言うなぁ、君は」

 渡が両手をクロスさせた。その瞬間、彼の身体が赤い光に包まれ、術師の首領へと姿を変えた。赤い蛾の怪物。赤いマントを羽織ったその姿はまさに皇帝だ。暴霊達が皇帝と言っていた理由がわかった。

「皇帝に対する態度の悪さ。即刻死刑だよ、この愚民が!」

「へっ、愚か者はどっちだよ」

 にらみ合う両者。

 2人は同時に、目の前の敵に向かって攻撃を放った。

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