突入
敵の長が渡一樹である可能性が浮上。その一報は秋山の耳にも入った。
彼と部下達はこれから国会周辺に向かう。どうやらそこで暴霊と神田明宏が生んだ歩兵が暴れているらしい。仕事を片付けたら悠真・安藤の2人と合流するつもりである。
現場に駆けつけると、逃げ惑う人々とそれを追うヘビ人間達の姿が視界に入った。車から降りると一同は攻撃を開始、秋山もアヌビスに変身して片っ端から怪物を蹴散らしてゆく。このヘビ人間達は念を纏っているだけで正体はただの人間。致命傷は与えず、1人ずつ気絶させてゆく。
「さて、あとは暴霊か。見つけたか?」
「いいえ、まだ!」
「そうか……」
戦いながら暴霊を探すアヌビス。すると、戦場の近くを1台の選挙カーが通った。この一大事によく演説が出来る。車を見ると、そこには候補者は乗っておらず、応援人らしき男性が大きな団扇を持って演説を行っている。その下で車を運転しているのは、今アヌビス達が戦っているヘビ人間だ。間違いない、演説をしているあの男が暴霊だ。
『皆様! 混沌とした世界を救えるのはあの方だけなのです! 今こそ、今こそ皇帝閣下の力が必要なのです!』
男の言葉を聞いて逃げ惑う者達が座り込んで祈り始めた。これまで現れた暴霊達による洗脳がまだ続いているらしい。皆口々に「皇帝、皇帝」と、この場にいない君主に向けて祈りを捧げている。
見ていられない。アヌビスは助走を付けてジャンプすると、前方を走る選挙カーに飛び乗った。これには男も驚いて演説を中断した。
「何ですかあなたは!」
「それはこっちの台詞だ」
ステッキで突こうとすると、男性は団扇を使ってそれを防いだ。
男の身体が青い炎に包まれ、見る見るうちにクモの様な不気味な怪物に変貌してゆく。
「それがお前の本性か」
「私は閣下の偉大さを愚民共に伝える為呼び寄せられた! 私は彼等を先導する義務がある!」
「……ああ、“煽動”ね」
この上では戦い辛い。両者は選挙カーから飛び降りて戦闘を再開した。運転していたヘビ人間も応戦するが、暴霊も歩兵もアヌビスの敵ではない。まずは最も簡単に倒せる歩兵を片付けることにした。胸を数回突くと歩兵は気を失い、元の人間の姿に戻って倒れてしまった。
残るはこちらのクモ男の方。艶やかに輝く団扇を振ると風が巻き起こり、アヌビスの攻撃を妨害する。対するアヌビスもステッキを振り回して風を吹き飛ばして距離を縮めてゆく。
「こっちにはまだまだ仕事があるんでね。早めに終わらせてもらうよ」
「何が仕事だ! 今にあなたもわかる。皇帝が、如何に偉大な存……」
「黙れ!」
ある程度近づいた所で先程以上に強い突きを食らわせた。怯んだところへ何発も続けて攻撃を加えてゆく。暴霊も団扇で攻撃を仕掛けるがどれも防がれ、返り討ちに遭ってしまう。
「お前達の主も、その目的も、こちらは全て理解している。残念ながら、ここでさよならだ」
ステッキに力がこもり、先端が槍の様な形状に変化した。
これ以上戦っても勝てないと踏んだ暴霊は武器を捨ててその場から逃げ出す。その背中に狙いを定め、アヌビスは槍を投げた。風に妨害されることも無く、槍はすぐに暴霊に命中した。秋山が変身を解除すると槍も消え去り、暴霊も人間の姿に戻った。
倒れた男性に歩み寄る秋山。男の身体は少しずつ、霧のようになって消えかかっていた。
「アンタも馬鹿なことをしたな。こんなことしなければ、地獄に行かずに済んだかもしれないのに」
「……いずれわかる」
「何?」
「いずれあなたもわかる。皇帝閣下の力がどれほど強大か。そして、彼がこの世界に必要な存在であるということも……」
それだけ言い残して暴霊は姿を消した。国会周辺では部下達も全ての歩兵を倒したらしく、これで最初の任務は終了した。
あとはもう1つの、大きな仕事を片付けるのみだ。携帯を取り出すと、秋山は安藤に電話をかけた。
「こちら秋山。1つ目の仕事が終わった。それで、俺達は何処に行けば良い?」
冬は日の入りも早い。空は暗くなりつつあった。
「わかった、取り敢えず渡の会社に行ってみようと思う。罠にしろそうでないにしろ、術師の1人や2人はいる筈だ」
秋山との連絡を終え、悠真と安藤も渡フーズ本社へ向かうことに。
一連の事件の首謀者はハーミットだと思っていたが、どうやらその裏にもう1人いたらしい。渡の狙いは権力掌握。先程の様な暴霊達を使って様々な事件を起こすことで人々の恐怖心を煽り、自身への忠誠心、尊敬の念を抱かせ、崇拝させる。それが目的だったのだろう。
「秋山さんは?」
「ああ、たった今暴霊を1体倒したばかりで、すぐヤツの会社に向かうってさ」
「上からは何か指示はありましたか?」
「いや、取り敢えず俺と青年、秋山のグループで本社に向かうことは伝えた。他の墓守もきっと浄霊で忙しいだろうし、上もすぐ許可してくれるだろう」
相手は東京のみならず各都市に暴霊を散蒔いたらしい。それも主要都市ばかりに。世間を混乱させて計画をより円滑に進める、そんな考えが見て取れる。
悠真達は車に乗って渡フーズ本社ビルへと向かう。当初の目的地とは違うため時間がかかる。
暫く走っていると目の前に不気味な影が。ハンターだ。数体のハンターが2人の乗る車を待ち伏せしている。困ったことになった。他の墓守達は暴霊鎮圧で手一杯だ。上手く逃げ切れれば良いが、この数相手にそれが出来るかどうかわからない。自分達で相手するしかない。
「安藤さん、俺がなんとかします」
「なんとかって、どうするんだよ?」
「ちょっと車に傷がつくかも」
「え? あっ、ちょっと待てよ、おい!」
悠真は安藤の言葉を聞かず、走行中の車から飛び出し、瞬時に車の上に飛び乗った。後で合流するよりも、車に乗りながら戦った方が早い。車に傷がつくくらい、人々の安全が守れれば充分だ。すかさず0に変身すると、いきなり黒い霧が巻き起こり、《−》の姿に変身出来た。悠真の身体への影響はあるが、相手の念を吸収出来るこの力なら簡単に倒せる筈。
両手を広げるとそこから霧を放射、霧はすぐにハンター達を捕らえ、食い尽くしてしまった。更に続けてハンター達が現れたが、それらも全て0が放った霧の餌食となってしまった。
ひと通りハンターを倒し、車が停止した所で、悠真は変身を解除して車内に戻って来た。
「青年、何してたんだよ?」
「大丈夫ですよ。どうせこの車も中古車でしょ?」
「それはそうだけどよぉ」
「で、目的地はまだ先ですか?」
「ああ、もう少しだ。邪魔が入らなければな」
先程のような暴霊達による妨害工作が無ければ、もう10分程で到着だ。
時刻は間もなく夜の7時に。辺りは暗い。ビルや街灯の明かりがあるからまだマシだが、これでは再びハンターが狙って来たときに対処し辛い。何処から向かって来るかも容易にわからないのだから。
が、ここで良いことが起きた。先程《−》の力を使った為か、悠真の視界がネガ反転したのだ。この状態なら何処に暴霊がいるのかも立ち所にわかる。
更に走るとやはりまた暴霊が現れた。が、個人の姿を持たないオーブだった。これなら戦わずとも撒くことが出来る。オーブは赤く輝いており、安藤にもその姿が確認出来た。彼はハンドルを巧みに操作して彼等を撒くことに成功した。
一難さってまた一難。今度はまたハンターの登場だ。今なら変身せずとも黒い霧を使うことが出来る。悠真は窓を開けるとそこから手を出し、飛んで来るハンターに向けて霧を発射した。
「アイツ等、俺達の動きがわかってるらしいな」
「そうかもしれませんね」
「もしかすると、秋山達とはそう簡単に合流出来ねぇかもしれないぞ」
暴霊が悠真と安藤を妨害している。なら、同じように本社を目指す秋山達も同じように邪魔されているかもしれない。向こうはチームで行動している分対応も悠真達より早いのだろうが。
最後の襲撃以来妨害は無く、2人が乗る車は遂に渡フーズ本社ビルに到着した。やはりまだ秋山達は着ていない。入り口には誰も立っておらず、多分鍵も閉まっている。入り口はガラス張りになっていて中が見える。ライトはついているが人影は見当たらない。もしや、誰も居ないのか? それではここに来たこと自体無駄になる。しかし暴霊達が邪魔しに来たことは事実。収穫が何も無いとは限らない。
と、そのとき、周囲の地面が光りだした。2人は武器を構えて様子を窺う。
光の中から、大きな鎧の様な怪物が姿を現した。その数計4体。この暴霊、悠真は以前見たことがある。ハーミットが生霊を連れ去った際に従えていた怪物だ。ハンターとは違いスピードは無さそうだが、攻撃力は高いのかもしれない。
「やっぱりここに来て正解だったな」
「ええ」
2人は墓守の力を解放、0とアサシンに変身して攻撃を仕掛けた。0の読み通り敵は動きが鈍い。素早く近づいて大剣や斧で攻撃する。アサシンも鎧の隙を見つけてそこに刃を刺してゆく。相手は硬い装甲に包まれている為細い剣やナイフでは貫けないのだ。
敵は次々に現れ仲間の方に集まって来る。中にはグループを作って迫って来る者も。まるで古代の重装歩兵だ。
「ちっ、倒しても倒しても出てきやがる!」
「何処かに操っている術師が……」
現時点ではまだ術師は見つからない。
どうにかして彼等を止めないと、術師と戦う前にここで力尽きてしまう。2人も僅かに疲労を覚えていた。
「畜生、秋山はまだかぁっ!」
アサシンが無理矢理村正を怪物の顔面に突き刺す。するとその背後から別の怪物も近づいて来た。0が止めに行こうとしたが、彼は別のグループに行く手を阻まれてしまった。
数体の鎧がアサシンを取り囲む。だがそのとき、遠くから1本の長い棒が飛んで来て、怪物の顔面に突き刺さった。棒が飛んで来た方向を見ると、そこにはアヌビスと仲間達の姿が。
「悪いな、遅くなった」
アヌビスは軽く謝ると走ってステッキを回収しに向かい、別の暴霊に攻撃した。
「ったく、遅いんだよお前は!」
「暴霊の邪魔が入ってね」
やはり彼も来る途中で敵と戦っていたようだ。
アヌビスが攻撃した後、彼の部下が一斉に射撃を始めた。銃弾もH・Yコーポレーション手製の弾丸で、暴霊には効果覿面だ。
「そっちは早く中に行け。コイツ等はこっちでなんとかする」
「わかった。後でな!」
アサシンと0は戦線離脱し、本社ビルに突っ込んだ。ガラスを突き破って侵入した直後、疲労の為かすぐに変身が解除されてしまった。
辺りを見回す2人。何処にも敵らしき影は見当たらない。中は中央が吹き抜けになっていて、まるで筒の様な形をしている。各階に渡り廊下の様なものが見える。階段を上って行くより、あそこへジャンプしながら上に行く方が簡単そうだ。
「やるか」
「はい」
2人が変身しようとした、そのとき、上空から光の弾が降ってきた。慌てて躱す2人。上から何かが降下して来る。見覚えのある顔……あれは、神田明宏だ。
1階に着地すると、神田は2人の墓守を睨みつけた。どうやら彼は、見えない所で彼等を待ち伏せしていたらしい。
「やはり来たか、安藤肇君。そしてその……部下」
「まさか今度の主も大企業の社長とはな。お前のアピールの仕方を教えてもらいたいね」
「ふん……ファランクスの群れから脱出するとは大したものだ」
ファランクス。きっと外で暴れている鎧のことだろう。
「お前の作品か」
「いいや、ハーミットのくだらない玩具だ。ハンターに比べれば機動力も劣る。不良品だよ」
神田はハーミット達他の術師にコケにされている。そのため彼等のことが憎いのだ。だがそれよりも、自分の“ボランティア”をいつも邪魔して来る墓守達の方がもっと憎たらしい。神田は両手を広げて攻撃の準備をした。
「話は終わりだ。お前達はここで死ぬ」
「死なねぇよ」
言ったのは悠真だった。彼の身体からは赤い炎が燃え上がっている。
「知り合いの霊から頼まれてるんだ、妹を守れってな。まだ俺は、死ぬわけにはいかない!」
炎を振り払った0は赤い鎧に見を包んでいた。その肉体から発せられる輝きが神田を苦しめる。
0が変身すると、安藤も再び炎を纏ってアサシンに変身した。彼は村正を構えて神田を威嚇している。
「そうか。ハーミットはお前達を評価していたが、私からすればやはり屑だ」
そう言うと、神田は天井の渡り廊下に向けて光弾を発射した。弾は全ての渡り廊下を粉々に砕き、天井にも大きな穴をあけた。その穴から差し込むのは満月の光。光が神田の姿を照らしている。
準備は整った。神田は月の術を発動し、赤い蛾の術師・ルベルへと変貌を遂げた。満月の光がルベルに更なる力を与える。
「死ぬがいい、屑共ぉっ!」
「行くぞ青年!」
「はい!」
3体は高く飛び上がり攻撃を仕掛ける。
いよいよ、一連の事件に終止符を打つときが来た。
デマゴーグ・・・ピーコックスパイダーがモチーフの暴霊。その任務は人間を煽動することだったが、アヌビスにそれを阻止された。




