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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
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敵の正体

 渋谷での戦いを終えて帰宅した悠真と安藤。2人はニュース番組で各地の状況を知った。青い鳥の暴霊を倒したのは良いが、まだ事件は終わっていなかった。各地で議員が狙撃される事件が発生しているのだ。

「敵の狙いは、この国の支配か」

「有り得ますね」

「こりゃあ、うかうかしてられないな。次から次へと敵が出てきやがる」

『さて、続いてのニュースです』

 と、ここで、これまでとは少し違う種類のニュースが始まった。

『渡フーズ現社長の渡一樹さんが、来月の衆議院議員選挙に出馬することが明らかになりました』

 渡一樹。言わずと知れたやり手社長だ。彼が国会議員になることを狙っているという情報は前々から飛び交っていたが、まさか本当だったとは。画面の中では渡が声高々に出馬を宣言している。

『恐ろしい事件や災害が頻発している昨今、私も国政に参加し、出来得る限りこの国を良い方向へ動かして行きたいと考えております!』

「へぇ。この人は災害や事件を出馬の口実に使うんですね」

「ああ。コイツにとっちゃ格好の……ん?」

「どうしました?」

 安藤が言葉を止め、画面に釘付けになっている。悠真もテレビを見てみた。

 彼が見つめているのは、渡の背後にいる男性だった。おそらく秘書だろうが、この顔、悠真も見覚えがある。

「あの人だ」

「え?」

「喫茶店の主人だよ! そっか、それで閉店しちゃったんだなぁ」

 社長秘書をしながら喫茶店経営。端から見れば奇妙なものだが、渡が出馬することもあって、いよいよ彼のサポートに全力を尽くそうという決意をしたらしい。

 あの主人がいたことも驚きだが、更に驚いたのはその次だった。他の部下にまぎれて初めはよくわからなかったが、この場にそぐわない人物が立っていたのだ。その人物とは、

「こいつ、神田か?」

 降霊術師・神田明宏だった。まさかこの男、未来の国会議員殺害を企てているのか? だとすれば今までに出現した暴霊もこの男が呼んだに違いない。

「野郎、また馬鹿なことを」

「しかもこの様子だとかなり近づいてるみたいですよ。殺すのは簡単だ」

「まずいな。上に連絡する。今すぐ止めに行こう!」

「はい」

 テレビの電源を切ってから、2人は大慌てで部屋から出て行った。





 会見を終え、渡一樹は黒崎、神田と話をしている。

「墓守が動き出したようです」

「くくく、やはりお前を連れて来て正解だったな、神田」

「何?」

「墓守に顔が知れている君を側に置いておけば、必ず墓守が引っかかると思っていたよ。敵も案外簡単な組織なんだなぁ」

 自分が餌に利用される。神田にとってこれほど屈辱的なことはなかった。ここで渡の喉元を掻き切ってやりたいが力の差は歴然。反対に殺されかねない。渡が直々に手を下さずともまず黒崎が止めるだろう。神田に月の術を使って新たな力を授けたのは他でもない黒崎。悔しいが、神田は拳を強く握りしめることしか出来なかった。

 その様子を2人は見逃さなかった。

「悔しいか?」

「何だと?」

「それは悔しいだろうなぁ。……その思いを、墓守共に向けてやれ。こうなったのも、元々墓守のせいなのだからな」

「ちっ、言われなくてもわかっている」

 神田は記者達を己の鱗粉で眠らせ、更に歩兵に変えた後、1人でその場から去ってしまった。

「墓守共は今何処だ?」

「まだ2、3名しか気づいておりませんが、ご安心を。既に部下を派遣しました」

「そうか。では我々は、高みの見物といこうか」

「ええ」

 渡と黒崎は神田が生み出した部下を率いて自分達の根城に向かった。






 上層部、そして秋山に連絡を入れ、悠真と安藤は記者会見が行われていた会場へ向かっていた。ニュースによれば場所は渡りフーズ本社。幸いあの会社とは間接的にだがH・Yコーポレーションも繋がりがある。平岩の根回しが間に合ってくれれば、2人は社員として会社に侵入、神田明宏を倒しに行ける。

 運転中、安藤の携帯が鳴り始めた。彼はハンドルを操作しているので代わりに悠真が出た。

「はい!」

『西樹君か』

 平岩だった。渡りフーズに連絡がとれたそうだ。相手も快く応じてくれているらしい。

『神田明宏がいたというのは本当か』

「間違いありません。あいつ、渡社長の後ろにいました。身分を偽って近づき、殺そうとしているのかもしれません!」

『だとすると厄介だな。ヤツは自身の念を他人に植え付けて分身を生むことが出来た筈だ』

 確かに、神田は以前平岩の会社に押し入って社員を洗脳、自身の嘗ての姿そっくりの分身を作って悠真達を翻弄した。彼の念は細菌の如く瞬時に分散する。身の回りの人間全てが彼の部下になることだってあり得るのだ。

『わかった。城之内君、白銀君にも連絡を入れておく。君達は神田明宏の足止めを頼む』

「はい! お願いします!」

「上は何だって?」

「他の墓守にも連絡を……え?」

 ここで予想外の事態が起こった。渋滞にはまってしまった。早くしないとまた1人犠牲者が出るかもしれないのに。安藤はハンドルを殴った。

「くそっ! 何なんだよ、全く!」

「……安藤さん、何か変じゃないですか?」

「変?」

「ほら、向こう」

 悠真が前方を指差した。目がおかしくなっていないのなら、あそこには間違いなく、黒く大きな壁がそびえ立っているのだ。

 2人がそれに気づくと、今度は左右の道にも同じ様な壁が出現した。壁は地面から生えて来るようで、そこを通りかかった車が高く吹き飛ばされ、壁の外に落ちてしまった。引き返そうとしても無駄だ。既に後ろからも数台の車が迫って来ており、更に壁まで生えてきた。

 閉じ込められた。この渋滞は敵の罠だったのだ。

 携帯でもう1度平岩に連絡をとろうとしたが、壁に囲まれたこの空間内には電波が届かないらしく、画面左上には圏外の文字が表示されていた。他の運転手もどうにか連絡をとろうと手を窓から出したり、車から降りたりしている。が、それでもやはり繫がらない様子だ。

「野郎、他人も巻き添えにして俺達を殺すつもりかよ」

「今までで1番嫌なやり方ですね」

 2人とも閉所や閉じ込められることはあまり好きではない。僅かに心臓の鼓動が早まっている。

「青年、こうなりゃ暴霊を倒すしかなさそうだぜ」

「ええ。暴霊なら良いですけどね」

「え? ああ、確かにな」

 2人は同時に外に出ると、墓守の力を発動して高くジャンプした。間違いなく中にいた男達にその姿を見られただろうが、今はそんなことを気にしている場合ではない。幸い結界にはなっておらず、2人はどうにか壁の上に着地することが出来た。下ではドライバー達が指差して口々に何か言っている。

「青年、居そうか?」

「いえ、この中には」

「なら外か」

「はい。でもまずは」

 0がいきなり《−》の力を発動、壁に己の拳を突き刺した。暴霊が作った物であるのなら、この壁は霊力の塊に過ぎない。ならその力を吸収して破壊することも可能な筈だ。

 彼の読み通り、壁には大きな亀裂が入り、やがて音を立てて崩れ落ちた。成分が物質ではないため、瓦礫は地面に落ちる前に霧のようになって消えてしまった。《−》の姿ではボードを呼び出すことが出来ない。慌てて隣の壁に移動した。

 壁が無くなるとドライバー達は次々に車に乗り込み動かし始めた。幸い、この中にいた者達は親切な者が多かったようで、安藤の車を避けて移動してくれた。

「よし、なんとかなりそうだな」

「はい。この調子で……え?」

 0は恐ろしい光景を目の当たりにした。壁はここだけではなく、町の至る所に立っていた。あらゆる道が壁によって塞がれ、中にはフタがされてある空間まで。きっと中には大勢の人が閉じ込められている筈だ。

「畜生、暴霊は何処にいるんだ?」

 ここで、0は霊視能力を発動させた。霊寄りの力を発動している為か容易に行えた。

 付近のビルから大きな念が涌き起こっているのが見える。アレが暴霊だ。

「あそこです」

「そこか……飛んで行くしかねぇか」

「そうみたいですね」

 2人は互いの顔を見て頷き合うと、己の足を使って壁を飛び越えた。アサシンは得意の罠を使って壁に楔を打ち込んだ。そこには紐が繫がっており、それを掴むことで落下を防止出来る。

 1つ越えただけではまだ届かない。その後も幾つもの壁を飛び越え、2人はどうにかビルに近づいた。

 距離が縮まったことで相手の姿もよく見えるようになった。ビルの屋上に、背広を着た大柄の男性が立っている。男性は0達に背を向け、両手を大きく広げて何かをしている。すると、遠くの方にまた1つ壁が出来上がった。

「行くぞ!」

「勿論!」

最後の壁を飛び越えて屋上に着地しようとする2人。だが、その直前に男が振り返り、2人の攻撃を防ぐ形で壁を形成した。2人は壁にぶつかったが、即席で作られたためかかなり脆く、簡単に砕けてしまった。

「ちっ、いきなり面倒臭いことをしやがる」

「へぇ、馬鹿じゃないんだな」

 短髪の男は言いながら近づいて来る。格闘家のような大きな身体。暴霊の姿にならずとも戦えそうだ。

「お前等の目的は何だ? 邪魔な議員と議員候補を殺して、新しい国家を作ることか?」

「まぁ、近いっちゃあ近いなぁ。違うのは候補者の殺害だ」

「何だと?」

「俺達が殺すのは権力を振りかざしてあぐらをかいている旧世代の屑のみ。屑を掃除したら後に残るのは俺達の様な善良な市民だけだ」

 では神田が渡の背後にいた理由とは……。

 考えていて背筋が寒くなった。別の考えが浮かんだのだ。神田明宏が渡を狙っているのではなく、渡に従っているのだとしたら。

 2人がその考えに至った様子を見て男は笑った。

「そうだよ馬鹿共、それが正解だぁ!」

 男が拳を突き刺すと、地面から大量の柱が飛び出した。どれも構造は壁と同じらしい。

 柱を全て躱して攻撃を仕掛ける2人。相手は壁や柱を次々に生み出し、その場に居ながらにして攻撃を行うことが出来る。2人とも先程の移動で体力を消耗しているため、とうとう攻撃を受けてしまった。

「ははははは! 喜べ、俺が良い墓を作ってやる! お前等はここで死ぬんだぁっ!」

「残念だけど、俺達はお前と遊んでいる暇はねぇんだよ!」

「遊ぶ? お前等どの立場でそんなことを言ってやがるんだ? 遊んでるのはお前等じゃない。俺様の方だぁっ!」

 男性は青白い炎を発動して、とうとう暴霊としての姿を現した。全身岩を纏ったごつごつした怪人の姿をしている。腕は大きく、拳は金属で出来ているようだ。顔に値する部分には黄色く輝く目が見える。

 暴霊はアサシンに狙いを定めると、彼に向けて岩の塊を飛ばして来た。今の戦いでどちらが疲労しているかを見極めていたのだ。暴霊の読み通り、安藤は元の姿に戻ってしまった。

「今度はお前だ!」

 拳を前に突き出して再び塊を発射する。だが、0は壁を作って攻撃を防いだ。先程吸収した力を使って作った壁だ。暴霊も0の能力は聞いていなかったらしく驚いている。

「悪いね」

 壁の後ろで真っ赤な炎が燃え上がる。暴霊は何かを感じて必死に塊や柱を飛ばすが、それらは壁に突き刺さる前にドロドロに溶けてしまった。

「術師との戦いに比べたら、あんたらとの戦いなんて遊びみたいなもんだよ」

 壁が爆発し、背後にいた赤い戦士の姿を露わにした。《+》の力だ。

「な、何だコイツは!」

「目的も全てわかった。これで終わりだ!」

 剣を横に振ると複数の火の玉が現れた。続いて、0は剣を縦に振った。炎の衝撃波と共に弾丸が暴霊に向かってゆく。霊力の壁をどれだけ作ったところで防げるものではない。炎はいとも簡単に壁を破壊し、すぐに暴霊に到達した。

「こ、この野郎……!」

「俺からすれば、アンタ等は善良な市民でも何でも無い。ただの人殺しだ」

「ひ、人殺しか。あの方が世界を掌握したとき、果たして同じことが言えるかな?」

 それが暴霊の、最後の言葉となった。

 変身を解除すると、安藤は再び平岩に電話をかけた。新しい情報を伝える為だ。

「すいません、訂正します。敵は神田明宏だけじゃない。渡一樹が、奴等を仕切っている可能性がある」

 事態は大きく動き出した。

 もうじき、この戦いに終止符を打つときが来る。悠真はそう感じていた。

・グリッドロック・・・術士が放った暴霊の1体。壁を作り出して交通網を遮断、ブルーバードと違って物理的に混乱を生み出すのが目的。全身に岩を纏った巨人の姿をしている。

グリッドロック(grid lock)は都市の交通渋滞、行き詰まりを表す。

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