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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
24/30

沈む月

 広場で戦っていた0と朧は、場所を跳ね橋付近に移してぶつかり合っている。朧は複数の刀を同時に操る強敵。しかも、彼の強みはそれだけではない。

「食らえぇっ!」

 0が斧を振りかざして朧を切り裂いた。相手に防がれること無く、大きなダメージを与えることが出来た。

「うっ! うわああっ!」

 朧は青白い炎に包まれて爆発してしまった。術師の姿は跡形も無く消えている。だが、こんなに簡単に倒せる筈がない。振り返ると、ちょうど朧が刀を振り回して向かって来るところだった。

「ひゃはははは! こっちも中2の頃から俳優やってるんでね。芝居、上手いだろ?」

 今回朧が使用した能力。それは、分身を生み出す能力。先程の暴霊も、0をおびき寄せるために発動した幻影だったのだろう。朧は自身にもその幻影を使用、更に自らの演技力と組み合わせることで敵を翻弄しているのだ。

「ナルシストだな」

「ぁあ? もう1回言ってみろこの野郎!」

 朧の放った衝撃波が腹部に命中、派手に吹き飛ばされた。

「嫌いなんだよ、ナルシストなんて気味の悪い連中と一緒にされるのがよぉ! もう1回言ったら、お前のダチを拷問して殺してやるからな」

「じゃあ変えてやるよ。気色悪いな、アンタ」

 武器による戦いでは勝てない。相手の幻影も消すことが出来ない。ここは、《−》の力で朧から能力を吸収する必要がある。

 姿を変化させるとすぐに霧を放射、朧を捕らえた。苦しそうにもがいているが、おそらくこれも芝居だ。その証拠に、彼は持っていた刀で霧を蹴散らしてしまった。

「死ねやおらぁっ!」

 飛んでくる術師。日の光が刀の刃に反射している。

 中途半端だったが、少しは力を吸い取ることが出来た。0も同じように分身を1体だけ作って素早く移動した。朧はそれに気づかず着地すると同時に幻影を攻撃。その隙をついて背後から0が攻撃を仕掛ける。拳には霧が溜まっている。……しかし、これも簡単に受け止められてしまった。

「残念でした、これも芝居だ」

「コイツ……」

 拳を掴んだまま、朧が刀を乱雑に振り回して0を斬りつける。握力が強くなかなか逃げることが出来ない。

 何度も何度も斬りつけられる身体。拳だけは繫がっているため朧のパワーを奪える筈なのだが、それでもダメージの方が勝る。0はとうとう跪き、元の姿に戻ってしまった。相手が体力を消耗したのを確認して、朧は漸く手を離した。

 こんなときに、あの《+》の力を発動することが出来れば。起き上がろうとする0の手を、術師が強く踏みつけた。

「ははははは! こんな雑魚に手こずるなんて、オッサンも成金も屑確定じゃねえか!」

「あいつらの、ことか」

「そ、お前が殺した成金と、腕を切り落としたオッサンだよ。だから初めっから俺に任せておけば良かったんだよ」

 喋りながら足の力を強める朧。初めは抵抗していた0だったが、途中でそれを止めた。力尽きたのではない。狙っているのだ、《+》の力が目覚める瞬間を。あの赤い炎は、彼が死に直面したときに発動した。つまり今回も瀕死の状態になれば発動する筈なのだ。

 決して負けを認めたわけではない。炎が巻き起これば術師に燃え移り、そのパワーを弱めてくれる。相手が怯んだところでトドメを刺す。これで全て解決、康介達に正体を知られることも無い。

「おいおいどうしたぁ? 死んじまったかぁ? 面白くねぇなぁ!」

 悠真は何も答えず、ただじっと耐えている。

「ちっ、無視かよ。ファンの方がまともな反応するわ」

 とうとう飽きたのか、朧は0を蹴飛ばした。

 良い感じだ。手足の感覚が無くなり、痺れている。視界もぼやけてきた。そろそろ来る筈だ、あの赤い炎が燃え上がる筈だ。

 術士が弱った0に歩み寄り、彼の首を掴んで無理矢理立たせた。ちょうど先程、0が暴霊の幻影にやったのと同じように。

「さて、まだ他の仕事が残ってるんでね。お前には……ああ……あそこに沈んでてもらおうか」

 0を引きずって向かった先は、跳ね橋。その縁に0をもたれさせると、朧はまた腹を抱えて笑い出した。

「良いねぇ! じゃあそのまま、魚の餌にでもなっちまいな」

 トドメの1撃を食らい、0は下へ真っ逆さまに落ちてしまった。それを確認して、宇賀神は人間の姿に戻ってホテルへ向かった。

 鎧の中へ水が流れ込む。口の中に入った水は塩辛かった。ここは海と繫がっているのか。

 そろそろ赤い炎が燃え上がる筈だったのだが、思いとは裏腹に、0の肉体は衰弱しきって動かなくなっていた。これでは本当に、魚の餌にでもなってしまうのではないか。

 言葉を発したくても、海水が身体を覆っているため口を開くことが出来ない。

 もう、会えないのか。

 ここまで一緒に来た友達にも、今まで共に暴霊や術師を追っていた安藤にも、もう会えないのか。

 愚かだった。あのとき、少しでも朧に抗っていれば、状況は変わっていたかもしれない。

 流れる水。暗く冷たい川。その中で、0は静かに目を瞑った。目を瞑ると、視覚以外の感覚が蘇って来た。この身体はまだ完全には死んでいない。死んだのは、自分の意志なのかもしれない。水に流されながら0はそんなことを考えていた。

 だが、少しすると、別のものを感知するようになった。初めは耳元で何かが鳴っている程度の考えだったが、それは次第に大きく、鮮明になっていった。

 ドクン、ドクン、という、心臓が鼓動する音。心臓はまだ動いていて、ずっと0に血液を送り続けている。その音に合わせて、また別の音も聞こえるようになった。声だ。聞き覚えのある、若い男の声。ゆっくりと目を開けると、暗闇の奥から何かが向かって来るのが見えて来た。光に包まれていて、その中に影が見える。

『助けろ』

 光の中から誰かがそう言った。





 その頃ホテルの会場では、戒堂と革ジャンの男性が戦いを繰り広げていた。どちらも人間の姿のままだ。中には約20名の客が居る。刀を振り回したら誰かを傷つけることになる。客は皆壁際や隅っこに固まって様子を窺っている。

「へへへへ、アンタ等知ってるぜ。墓守って言うんだろ?」

「だったら何だ?」

「別に。ただ、雇い主からはこう言われてんだ。墓守は問答無用に殺して良いってなぁ!」

 男性が青い炎を発動して、棘の生えた怪人に姿を変えた。両手から放たれる棘を躱すのは、この会場内ではかなり難しい。

「……やむを得ん!」

 天井に飛ぶ、或いはテーブルの影に隠れるということも考えたが、それでは延々逃げ回ることになる。今は暴霊を倒すことが先だ。戒堂も墓守の力を解放、鬼武者・無斬に変身して刀を振った。刀から発せられる衝撃波が、飛んでくる棘を空中で粉々に破壊した。

「おい、嘘だろ?」

「あれは何?」

 周りの客が口々に何か言っている。康介やアリス達も驚きを隠せない。恵里は誤解されないよう、墓守のことを丁寧に友達に伝えた。彼女はこのような状況を何度も経験している。だからちょっとやそっとじゃ動じないのだ。

 恵里の話を聞いて何となくは理解した様子の康介達だったが、それでも目の前の光景をすんなり受け入れることは出来ない様子だった。康介も以前暴霊を見たことがあるが、そのときはパニックになって逃げ出してしまい、詳しいことは全く知らないのだ。

「ゆ、幽霊が、バケモノで」

「あの鬼みたいな人が、私達を助けてくれるの?」

「そう。あの人達が、私達も、幽霊も助けてくれるの」

「で、でもアンタ、何でそんなに詳しいんだよ?」

 墓守と暴霊に関して詳しい恵里を見て、康介が不思議に思ったようだ。

 恵里は戦っている墓守を見て、静かにこう答えた。

「私も、助けてもらったから」

 無斬が暴霊の腕を切り落とした。彼も腕をどうにかすれば攻撃を止められることを察知したらしい。

 無防備になった暴霊に、武者は間髪入れずに刀を突き刺した。傷口から炎が噴き出し、暴霊の肉体は焼き尽くされ、灰となってしまった。

 浄霊が完了すると、戒堂は人間の姿に戻って手を合わせた。暴霊も元は人間。この仕事は、彼等を逝くべき場所へ導くための仕事なのだ。

 恵里達は彼のことを理解したが、他の客はそうはいかなかった。

「ば、バケモノだ!」

「出て行け! 来るなぁ!」

「殺さないで!」

 戒堂は反論せずに黙って人々を見つめている。

 だから、人前では変身したくないのだ。墓守の力も暴霊や術師の力も元は同じ。一般人から見ればどちらも同じだ。こういう状況には慣れているが、若干心が痛む。

 戒堂を批難する人々を見て、恵里は少しだけ憤った。彼らの気持ちはわかる。いきなりあんな戦いを見れば誰でも驚くだろう。だが、墓守は人を守ってくれているのだ。それを、彼等もたった今知った筈だ。それなのに、彼等は何故戒堂まで排除しようとするのだろう。

 と、そこへある人物がやって来た。身体に傷を負った宇賀神要一だ。ぼろぼろになった彼の姿を見て悲鳴をあげる者もいる。

「逃げて来たのか」

 戒堂が話しかける。刀を持ったまま。彼にはわかっている。この男がただの客ではないということを。

 宇賀神も何かを察したらしいが、室内の状況を見て、自分の方が有利であると断定、得意の芝居を始めた。

「かっ、怪物が、俺を襲って来た! 俺は逃げて来たんだ、信じてくれよ!」

 戒堂は答える代わりに彼の身体を斬りつけた。大きな刀は彼の胴に深い傷を残した。客がまた悲鳴をあげる。流石の恵里もこれには驚いてしまった。アリスも口を押さえ、目を大きく見開いている。

「うっ……何で」

「お前か、あの若き墓守を狙っていたのは」

 若い墓守。恵里はすぐに悠真のことだとわかった。そう言えば、彼はまだ戻って来ていない。まさか、彼の身に何か起きたのだろうか。思わず立ち上がってしまった。

 芝居を続けるのをもう止め、宇賀神は本性を晒すことにした。叫んでいる客に向けて手を広げ、指を伸ばした。指が伸びるのは月の術使用者共通のことのようだ。指は客の1人に突き刺さり、一気に生力を吸い上げた。吸われた人間は見る見るうちに乾涸び、ミイラのようになってしまった。同時に、宇賀神の肉体は綺麗になってゆき、疲労も解消された。

「ちっ、どいつもこいつもうぜぇんだよ!」

 彼は短気だ。何か決意しても、邪魔が入るとすぐに集中が切れてしまう。この場合は戒堂に斬られたことと、客の声が耳障りだったことが原因だ。

「てめえらの声が1番うぜぇんだよ! 黙らねぇとぶっ殺すぞ、おらぁ!」

 彼の誹謗中傷、恐喝はまだまだ続いた。今まで彼等が信じていた宇賀神要一の像が音を立てて崩れてゆく。彼は怪物で、他人のことを見下す恐ろしい人物だったのだ。驚きと恐怖が混ざり合い、誰1人声を上げなくなった。原因が1つ取り除かれた。次は目の前の男だ。宇賀神は先程のように刀を呼び出し、戒堂に攻撃を仕掛けた。

「それが、貴様の本性か!」

「ああそうだよ! 何とでも言いやがれ、どうせお前等みんな死ぬんだ! おらぁっ!」

 ここで新たな敵が現れた。室内に数体のハンターが入って来たのだ。ハンターは客の中から適当に人間を厳選し、連れ去って行く。彼等はこれから、月の術の生け贄にされるのだ。肉体維持のための肥料となるわけだ。

 ハンターは康介達も狙ったが、それは宇賀神が阻止した。彼の台本には、死んだ悠真に友が惨殺される瞬間を見せつける、とある。彼は徹底的に他人を苦しめなければ気が済まない。

「死ねっ、ジジイ!」

「そうはいかない! お前達を止める!」

「いいや、アンタも地獄に送ってやるよ。あの墓守みたいになぁ!」

「貴様、まさか!」

「そうだよ!」

 隙をついて戒堂の腹に蹴りを入れた。ここにきてとうとう疲労が出て来てしまった。

「あの若い墓守なら死んだよ。俺がこの手で殺した」

「そんな……」

 恵里がその場に崩れる。現時点で若い墓守は悠真ただ1人。悠真が、目の前の男に殺された。そうとしか考えられなかった。アリス達が彼女を支える。

「最期は微妙だったが、まぁマシな方かな。映画にしたら良い感じ」

「貴様……貴様ぁっ!」

 再び無斬に変身すると、墓守は闇雲に攻撃し始めた。彼は悠真に弟子の姿を重ね合わせていた。悠真が死んだと告げられた瞬間、あの日の、弟子を殺された時の感情が蘇ったのだ。

「よくも、よくもよくもぉっ!」

「熱くなるなよオッサン。そういうのも嫌いなんだよ!」

 朧に変身すると同時に、刀から衝撃波を放って無斬を吹き飛ばした。このくらいの攻撃は普段なら何ともないのだが、連続で暴霊と戦ったためか、なかなか起き上がることが出来ない。

「これから楽にしてやるよ。あの世で好きなだけおしゃべりしてな!」

 手っ取り早く無斬を始末しようとする朧。彼に駆け寄ると武器を蹴飛ばし、首を強く何度も踏みつけた。

「さぁ、終わりだ!」

 刀を振り上げ、墓守の胸に突き刺そうとする。恵里が顔を伏せる。その目には涙を浮かべている。他の3人も同じように顔を背けている。そんな彼等をハンターが数体取り囲んでいる。朧から処刑の合図が出るのを、刃を研ぎながら待っているのだ。

 無斬は力を振り絞って朧の足を掴もうとしたがすぐに見つかり、刀をその手に刺されてしまった。刃によって地面と手が繫がれ、男性の大きな悲鳴が館内に響き渡る。

 1本使えなくなろうが関係無い。朧は別の刀を取り出して首に狙いを定めた。

「邪魔すんなよ屑。楽にしてやるって言っただろうが」

 深呼吸して、再び刀を振り上げる。これはもう無理だ。助からない。無斬は死を覚悟した。

「死ねぇっ!」

 かけ声とともに刃が振り下ろされる。

 ……しかし、それが首を貫通することは無かった。突然飛んで来た火の玉のせいで朧の処刑が邪魔されてしまったのだ。

「何だ?」

 続けて恵里達を取り囲んでいたハンター達が火の玉の餌食になった。炎は一瞬で彼等を灰に変えた。

 何が起きているのだろう。その場に居た全員が顔を上げて様子を窺った。

「残念。あんたのシナリオは、これで崩れた」

 そこへもう1人の若者が入って来た。ぼろぼろで全身ずぶぬれ。

 恵里達はすぐにそれが誰かわかり、歓喜の声を上げた。

「西樹君!」

「何だと? 何で、何でまだ生きてやがる?」

 武器を構えて青年……悠真が朧に近づく。彼の周りを赤い火の玉が回っている。彼を守るかのように。

「助けられたんだよ、知り合いの霊にな」

「知り合いだ? ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」

「ふざけてねぇよ。その霊から頼まれたんだ。妹と、友達を助けてやってくれって」

 話を聞いて、恵里は知り合いの霊が誰であるか理解した。まだ家族は自分達を見守ってくれている。そう思うと自然に涙が出て来た。

 無斬も霊の姿を捉えていた。初めは悠真の隣に立っていたが、今は恵里の側に居る。その霊は先程彼女の背後に見た者と同一人物だった。

「さて、俳優さん」

 炎をかたどった剣を朧に向け、悠真が続ける。

「そろそろ幕を閉じることにしようぜ」

「へへっ、悠真、何キザな芝居してんだよ」

 康介も友の帰還を心の底から喜んでいた。悠真は彼の姿を見て少し戸惑ったが、すぐに笑顔を送ってみせた。

「……面白くねぇ」

「あ?」

「面白くねぇ……面白くねぇんだよぉっ!」

 標的を悠真に変えて術師が襲いかかる。刀をむちゃくちゃに振り回して、兎に角悠真を殺そうとしている。

 もう負けない。悠真の身体を真っ赤な炎が包み込み、赤い鎧を纏った騎士に変身させた。待ち望んでいた生の力だ。赤い炎を見るだけで朧は不快になった。

「行くぞ!」

 剣を振って火の玉を呼び出し、ソレを相手にぶつける。朧は叫び声をあげて苦しんでいる。

 その様子を見ている康介達の脳内は再び混乱し始めた。

「えっ? あいつも、バケモノと戦ってるのかよ?」

「そう。私を助けてくれたのも、悠真君よ」

「あいつが……」

 恐怖も感じないし軽蔑もしていない。敵と戦う友の姿を見て、康介は感動し、彼を尊敬していた。

 そんな仲間達の思いも味方しているのだろう。外での戦いとは違って、攻撃を正確にぶつけてダメージを与える0。朧はぼろぼろになっている。持っていた刀も、まともに使えるのは1本しか残っていない。

「ふざけやがって! 何で俺がてめぇみてぇなクソ野郎に倒されなきゃならねぇんだ! 俺はスターだ、俺は全ての人間が崇拝する存在だ! こんな泥みてぇにうざったい野郎に殺される筈が無い!」

「ガタガタうるせぇんだよ!」

 剣をもうひと振りし、大量の火の玉を同時に発射した。逃げようとしたが既に遅かった。朧は火達磨になり、先程吸い取った生力全てを消費してしまった。

「うああああっ! くっ、クソ野郎! ぶっ殺してやる、絶対、絶対殺す!」

「うるせぇ! 屑はお前だあぁっ!」

 最後は剣で直接身体を斬る。刃が肉体を裂き、更に熱波が術師の身体を焼き尽くす。

 炎によって霊力を全て浄化され、宇賀神は強制的に人間の姿に戻された。しかし、これで終わりではない。月の術は、使用者の命を奪う。

「こ、これで、これで終わりじゃねぇぞ……アイツは、社長はこれから全てを手に入れる」

「だったらソイツも、俺達が倒すまでだ」

「へっ……強がりやがって」

 それが、俳優・宇賀神要一の最期の言葉となった。

 あとに遺されたのは真っ白な灰だけだった。






 2時間後。

 悠真達生存者を救出するため、秋山壮士率いる部隊がヘリコプターに乗ってやって来た。きっとまた、平岩の守護霊が連絡してくれたのだろう。

 一般客の殆どがハンターに連れ去られ、助け出されたのは悠真達6人だけだった。宇賀神の友人も、これから術師達の肥料になってしまうのか。

 戦いを終えた悠真に秋山が歩み寄って話しかけた。

「よく耐えたな」

「俺だけの力じゃないですよ」

「え?」

「俺のことを信じてくれた奴等のおかげで、俺は今もこうして生きていられる。1人だったら確実に死んでましたよ」

 仲間を信じた悠真と、友すら裏切って捨てた宇賀神。勝敗の決め手はそこにあったのかもしれない。

「ふっ、そうか。あの馬鹿にも見習ってもらいたいな」

 そう言って、秋山は悠真から離れた。彼はこれからホテルのオーナーと修繕に関する話し合いをする。被害が拡大した際、その改善作業を行うのも彼等の仕事だ。エリートも大変である。

 悠真も立ち上がって戒堂のところに向かった。病院へ搬送されることになったのだが、大きな傷を負ったのは手だけで、本人はピンピンしている。

「戒堂さん」

 悠真が声を掛けると、男は顔を上げて彼に笑みを送った。

「よく戻って来た。それよりも……済まなかった、力になれなくて」

「そんなことないですよ。またいつか、一緒に仕事しましょう」

「ああ、楽しみにしているよ」

 戒堂はこれから検査をしなければならない。会話はこれくらいで済ませることにした。

 2人の会話が終わると、今度は友人達が駆け寄って来た。あの姿を、あの戦いを目の当たりにしたにも関わらず、皆悠真を快く受け入れてくれた。

「何だよ馬鹿、内緒にしてないで俺にも言えよな」

「悪い悪い、ビビると思って」

「はははは、何言ってんだよ!」

「大丈夫だった? 怪我は? 怪我は無い?」

 アリスは悠真の身体をじろじろ見つめてそう尋ねた。その様子が彼女らしくて、悠真は思わず噴き出した。

「西樹君」

 今度は鴻上が話しかけた。彼は悠真に手を差し出して握手を求めた。

「ありがとう。助けてくれて」

「いや、無事で何よりです」

「皆さんもこちらへ。もうすぐ出発します」

 あまり時間は無い。続きはまたヘリの中で。滅多に乗ることが出来ない乗り物なので、康介とアリスが大はしゃぎしている。

 悠真はすぐには乗らず、ずっとホテルを見つめていた。

 最期に宇賀神が言っていた「社長」という言葉。「偽りの神」でも「ディレクター」でもない、新しい単語。月の術使用者を束ねる者が別にいるということか。

「どうしたの? みんな待ってるよ?」

 恵里が声をかけた。

「え? ああ、いや、何でもない」

「じゃあ早く行こうよ、悠真君」

「あ……ふふふ、おう」

 恵里が初めて、彼を下の名で呼んだ瞬間だった。





 それから1週間後。

 旅行から帰って来たアリスは、バイト先の喫茶店・新世界に足を運んだ。ドアを開けると中に居た客とマスターがアリスの方を向いた。

「どうでしたか、旅行は?」

 マスターが尋ねると、アリスはカウンターに駆け寄って席に着き、質問に答えた。

「最悪。宇賀神も死んじゃったよ? 結局あの人も無能だったってコト?」

「だが、魂は充分集まっただろ」

 後ろの客が話に参加した。その人物は、宇賀神要一の友人、千鳥哲だった。彼はまだ生きていたのだ。

「でもあの墓守は殺せなかったでしょ? それじゃあ意味ないじゃ〜ん」

 マスターは笑みを浮かべてカウンターから出て来た。そしてエプロンを外し、床に投げ捨てた。

「行くのか?」

「ええ。ここも、閉店ですね」

「そっかぁ。頑張ってね、ハーミット!」

「ええ、皆さんも」

 アリス達に礼を言って、店主……ハーミットは店から出た。

 まず最初にしたのは主への連絡。携帯を取り出して電話をかけた。

「社長、準備が整いました」

『ああ、良い食事が出来たよ、ハーミット』

 電話の相手は渡一樹。渡フーズ社長だ。

『そろそろ本格的に動いた方が良さそうだな。アッチの方も宜しく頼むぞ、黒崎』

「ええ。こちらこそ」

 電話を切ると黒崎はハーミットに変身、瞬間移動能力を使って主のもとに向かった。

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