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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
23/30

明かされる月

 悠真、そして新たに現れた墓守の手によって破壊されたハンター。

 建物の屋上からその様子を確認していた朧は屋根に八つ当たりした。彼は見かけによらず頭にすぐ血が上りやすい。

「畜生、だから屑は嫌いなんだよ! ……クソジジイ」

 朧が背後にいる暴霊を呼んだ。先程バスに乗っていた、革ジャンを着た男性だ。

「お前はしくじるなよ。少しでもヘマしたらぶっ殺す」

「ははは、これはこれは。そもそも俺はもう死んでるんだから、その言い方はおかしいんじゃねぇのかい?」

「ぁあ? てめぇ誰に向かって口聞いてんだよ、おい! おいコラァ!」

 男性の胸ぐらを掴んで怒鳴る朧。男性は冷や汗をかいている。この術師の導火線がどこにあるのかさっぱりわからない。冗談を言って笑われる時もあるし、今のように殺されそうになるときもある。本当に面倒な術師だ。男性は常日頃からそう感じてきた。

「行け。アイツ等の気を引くんだ。あの若い墓守は俺がぶち殺す」

「はいはい、わかりましたよ」

 朧は、今度は文句を言わずに男性の背中を強く蹴った。男性は屋根の上から地上へ、真っ逆さまに落ちてしまった。暴霊だから致命傷は負わずに済んだが、全身に痛みが迸った。

「ちっ、どいつもこいつもふざけやがって」

 朧も地上へ降り立つと、人間の姿に戻って次の作業に移った。





 九州の墓守・戒堂謙介と合流した悠真は、軽く自己紹介を済ませ、2人でホテルまで戻ることにした。その道中、戒堂はここに来るまでの経緯を説明した。

「ちょうど2日前に、平岩殿の守護霊から連絡を受けてな」

「守護霊? あなたも見えるんですか?」

「ああ。だが、生まれながらにして持っていた能力ではない。修行を積んで、見えるようにしたのだ。霊の波長を感じ取るために」

 守護霊の迅野は、東京から来る墓守……すなわち悠真……が術師に狙われていると説明した。また、その術師が月の術の使用者であるということも告げたと言う。その頃にはある程度の情報は集まっていたようだ。

 月の術については戒堂も聞いていたし、倒したこともある。使用者が一般人だったために偶々楽に戦えたが、それでも敵は強力だった。

「私は今山の別荘で生活していたため、到着が今日になってしまった。申し訳ない」

「いえいえ、俺達も今日初めて来たばかりですから」

「本当なら、先にここに来て暴霊を倒すつもりだったのだが……それはそうと、術師はお前の友達を襲う可能性もあるぞ」

「ええ、俺もそれを心配してました」

「月の術を使おうが使うまいが、連中の殆どは私利私欲にまみれた者達だ。自分の欲を満たすためなら手段を選ばない。……私の相棒も、殺されてしまった」

「えっ?」




 彼は以前まで、江崎藤吾という若い墓守とペアを組んでいた。悠真と安藤の関係に等しい。

 ある日、2人は極秘に来日した降霊術師と戦っていた。術師の名はウィリアム・ロード。通称ウィル。今まで海外、特にロシアで活動していたのだが、日本国内のグループが危機を迎えたために急遽日本にやって来たのだ。

「お前が来日した術師だな」

「おやおや、もうバレていましたか。流石ですね」

「お前をここで斬る! はああっ!」

 と、藤吾はいきなり墓守の力を解放、ウィルに攻撃を仕掛けた。

 まだ彼は術師と戦ったことが無い。攻撃はいとも簡単に躱されてしまった。

「何をしているのだ!」

「しかし!」

「全く、話になりませんね!」

 ウィルも手持ちの霊魂を吸収、白い天使の姿に変身した。

 相手の攻撃はトリッキーなもので、物理的な攻撃は滅多にせず、他人や浮遊霊を操って戦うというものだった。今回も浮遊霊を捕まえて無理矢理暴霊に変えて配下にした。両手が大きく、扇形になった暴霊、マタタビだ。マタタビの巻き起こす風で藤吾は吹き飛ばされてしまった。

 すぐに戒堂も墓守・無斬に変身、暴霊に斬りかかった。相手はさほど強い相手ではない。刀で両手を切り落とし、最後は八つ裂きにしてしまった。

「何をしている藤吾! 早く立て!」

「はっ、はい」

 戒堂は鬼の様な指導で有名だった。この日も藤吾を甘やかすことはせず、自分の力で立ち上がらせ、戦わせた。

 2人で挑めばウィルも容易に倒せる筈だ。無斬と藤吾が同時に攻撃を仕掛けた。術師も次々に浮遊霊を捕まえてはマタタビに改造して向かわせるが、皆無斬の剣劇によって悉く粉砕された。一方藤吾は師匠程のパワーは持っておらず、連続でマタタビが迫ってきても1体倒すのがやっとだった。

「くそおっ!」

「やけになるな! 身を滅ぼすことになるぞ!」

 言いながら、無斬は周りにいる全てのマタタビを蹴散らして向かってゆく。相手もそろそろ浮遊霊を捕まえることが出来なくなり、自分の術を使って戦うことにした。しかしこれも物理攻撃ではなく、胸部から光線を放つというものだ。流石の無斬も光線を斬ることは出来ない。物陰に隠れて光線が止むのを待っていた。すると、

「師匠! 俺がヤツを止めます!」

 藤吾が勝手に飛び出して行った。

「やめろ! やめるんだ!」

 弟子は言うことを聞かずに術師に迫ってゆく。これはまずい。仕方なく無斬も刀で攻撃を防ぎながら向かって行った。

「愚かですね!」

 術師は藤吾に狙いを定めて光線を放った。あまりの速さに、無斬は止めることが出来なかった。

「藤吾!」

「あなたも楽にして差し上げましょう!」

 助けに向かう無斬に向けて、術師がより強力な光線を発射した。相手も無斬がただの墓守ではないことを感じたのだろう。

 刀を持って身構える墓守。迫り来る光線。その間に、倒れた筈の藤吾が割って入った。それはまるで、無斬を守る壁のように。

 光線をまともに受け、藤吾の変身は解除された。しかし攻撃の威力は凄まじく、藤吾の身体はまだ炎に包まれていた。

「うわああっ! 熱い! 熱いぃっ!」

「藤吾! 藤吾! くそおっ!」

 炎を振り払う無斬。鎧に覆われた手で炎を消してゆく。だが、もう遅かった。炎が全て消える頃には、藤吾は瀕死状態だった。全身に火傷を負っている。それでも、彼はずっと師匠に笑顔を見せていた。苦しいだろうに、それでも彼は師匠を安心させようとしたのだ。

「おい、死ぬな! お前はまだ半人前だ、死ぬには早すぎるぞぉっ!」

「し、師匠……ありがとう、ござい、まし、た」

 それが、弟子の最後の言葉となった。

 大切な仲間を失ったことで無斬は心に深い傷を負った筈。ここぞとばかりにウィルが攻撃を仕掛けた。

「死になさい! ……何っ!」

 相手が発射した光線を、無斬はその刀で受け止めていた。刀を振ると光線が途切れてしまった。

 光線が、切れた。

 ウィルの予想は外れた。深い傷を残して戦意を喪失したどころか、無斬は怒りによって更に力を高めたのだ。

「貴様……貴様ぁぁっ!」

 鬼が刀を振り回して向かってくる。刀から発せられる衝撃波が、相手の身体を何度も斬りつけた。痛みが全身に迸る。傷口を押さえて怯む術師。すると、胸の辺りに光り輝く紋章が現れた。アレが、ウィルに力を与えているのだ。

「貴様ぁっ!」

 無斬が放った最後の衝撃波が、ウィルの紋章を切り裂き、彼から力を剥奪した。人間の姿に戻って倒れるウィル。墓守はそれでも怒りが収まらず、彼の胸にその刀を突き刺そうとした。弟子の敵を討つために。……しかし、それは出来なかった。後ろから、刀を持つ手を止められたのだ。振り返ると、そこには死んだ筈の藤吾の姿が。

「藤吾」

 彼の身体に傷は無い。そう、彼は霊となったのだ。

 藤吾の霊はまだ無斬に微笑んでいた。墓守が刀を降ろすと、藤吾はすっと消えてしまった。

 術師は生身の人間。殺せば殺人になってしまう。藤吾は師匠が殺人鬼になることを避けたかったのだ。だからこそ、最後の力を振り絞って彼を止めたのだ。

 元の姿に戻った戒堂は泣き続けた。大切な相棒を失った悲しみ、そして、自分で自分を抑えることが出来なかった情けなさに。





 それが、戒堂が初めて霊を見た瞬間だった。その後彼は山にこもり、毎日修行を積んでいた。あの強さはその賜物だったのだ。

「私は思うのだ。藤吾はあの瞬間、暴霊になったのだと」

「暴霊に?」

「暴霊は我々が止めるべき相手だ。だが、その力を善のために使うか、悪のために使うか、それは、力を手に入れた者次第なのだ」

 彼の言っていることはよくわかる。何故なら悠真も以前、善のために力を使った暴霊とともに戦ったことがあるから。

「あれ? 西樹君?」

 突然名を呼ばれた。戒堂は1度武器に手をかけたが、声の主を見てすぐに離した。

 悠真の名を呼んだのは沖田恵里だった。土産物を探しに行ったのだが、すぐに決めることが出来ず、取り敢えず今日は施設内を見て回ることに決めたそうだ。

「あれ? その人は?」

「ああ、ええっと、仕事の先輩にあたる人」

「仕事って、怪物を倒す仕事?」

 恵里の言葉を聞いて戒堂は驚いた。一般人が何故墓守のことを知っているのかと。だが、恵里の背後にいる霊の姿を見てその理由を理解した。彼女も、暴霊や術師によって苦しめられた者の1人なのだと。

 戒堂が見ることが出来るのは霊だけではない。その人間の過去も手に取るようにわかる。ただこの力は、修行によって身につけたモノというよりは、弟子を失った悲しみや怒りといった感情の不安定が生んだモノに近い。

「他のみんなは?」

「えーっと、宇佐美さんはあの人探しに行ったよ」

 おそらく、宇賀神のことだろう。そのままストーカーにならなければ良いが。

 恵里は悠真を連れて散策をするつもりだったらしいが、2人の様子を見てそれを諦めた。この場所にも暴霊達が潜んでいるということを察したのだ。

 同時に不安にもなった。あの日のように、また友人を失うことになるのではないか、と。

「安心しろ」

 不安になる恵里に戒堂が声をかける。考えが見えたらしい。

「誰も死なせやしない。我々が、敵を斬る」

「は、はい」

 恵里の笑顔を見て戒堂も微笑んだ。

「それで良い。笑うんだ。ご家族も君の笑顔を……ん?」

 男から笑みが消え、険しい表情に戻った。刀に手をかけて辺りを見回している。

 また敵か。悠真も同じように注意を向ける。体調はもう治った。今度は先程のようなヘマはしない。

「……あそこだ」

 戒堂にはしっかりと見えていた。ホテル付近から噴き出る、紫色の邪念が。彼は武器を引き抜くと2人を置いて先に走って行った。悠真と恵里も慌ててそのあとを追う。

 たった今戦ったばかりなのに、前方を走る男は全く疲労していない様子だ。若い悠真達が全然追いつくことが出来ない。

「何をしている! 急ぐぞ!」

 怒鳴られてしまった。

 この感じ。悠真は、戒堂程の霊能力は無いが、男が弟子のことを思い出しているのだろうと理解した。

 5分程走ると漸くホテルが見えてきた。同時に人の悲鳴が聞こえてくる。男性、女性、若者、高齢者。あらゆる悲鳴が敷地内に響き渡っている。更に今度は、先程まで悠真達がいた地点からも叫び声が聞こえてきた。あちこちにハンターが散蒔かれたらしい。

 戒堂は1度立ち止まって考えると、悠真にホテル側へ行くよう命じた。体力のことを考えての命令だ。戒堂と悠真とでは前者の方がまだ元気だ。引き返すのも容易である。

「私も後で向かう! それまでは、お前が人を守るのだ!」

「はい! 行こう沖田」

 別方向に走り出す墓守達。当然悠真が最初に到着した。

 まず最初に見たのは逃げ惑う人々。それから、地面に転がる数体の死体。どれも身体に無数の棘が刺さっている。

 その様子を見ていると、誰かが2人の方に向かってきた。康介だ。普段は明るい彼も今はパニックを起こしている。

「ゆ、悠真! 悠真! 逃げるぞ! ヤバい奴が、ヤバい奴がいる!」

「落ち着け康介。ソイツは今何処に?」

「あ、あっち……」

 康介が指差す先は川沿いの道路。確かにそこに向かって血の足跡が続いている。

「逃げるぞ、取り敢えず会場に!」

「会場?」

「ホテルの会場だよ! パーティー会場!」

 本来なら華やかな食事会の為に使用される部屋が、今は避難場所として機能している。

 他のメンバーが何処に行ったかわからないため、康介は取り敢えず近くを探すと言ってその場から去って行った。多分、本当に近場だけだろう。だがその方が良い。別の地点にはハンターがいる。いくら戒堂でも大量の暴霊全てを一撃で蹴散らすことは出来ない。

「沖田、取り敢えず会場に行ってて」

「うん、わかった。気をつけてね」

「ああ。必ず戻る」

 2人は顔を見て頷き合い、それぞれ別の行動をとった。恵里は会場へ、そして悠真は暴霊を追って道路へ。向かってくる人の波を避けて先へ進む。人が居なくなったのを確認してから、刀を引き抜いた。

「何処だ? 何処にいる?」

 1本道を突き進むが、まだ暴霊と思しき人間は見当たらない。

 更に先へ逃げたか。やや駆け足で前進すると、再び悲鳴が聞こえてきた。前方にある広間からだ。男性、それも1人。かなり危険な状況だ。急いで広間に向かうと、そこには2人の人物がいた。1人は尻餅をつき、もう1人はその人物に手を向けている。

「たっ、助けてくれ!」

「あんたは確か」

 そう、倒れているのは俳優の宇賀神要一だ。この様子だと友人とはぐれてしまったらしい。そしてもう1人は革ジャンを着た中年男性。彼の姿も先程バスの中で見た。あの時から既に、暴霊は襲撃の機会を狙っていたのか。

「よう、若造!」

 男性が、今度は悠真に手を向けて何かを飛ばしてきた。悠真の素性を聞く前に攻撃してきたということは、彼も術師に飼われた存在なのだろう。躱して確認すると、それが長細い棘であることがわかった。ホテル前で暴れていたのもこの男だ。

 再度棘を発射してきたので、1度楯で全て防ぎ、連射式の銃に武器を変化させて反撃した。至近距離で戦うのは危険だ。物陰に隠れて攻撃出来る銃の方が良い。弾は全て男に命中、相手は苦しそうに身体を捩った。

「いっ、痛ぇっ! クソガキ、よくもやりやがったな!」

 男の身体が青い炎に包まれ、身体中に棘を生やした悪魔に姿を変えた。宇賀神はまた叫んでいるが、身が竦んで動けない様子だ。

「ちっ、仕方ない!」

 本当なら宇賀神を逃がしてから変身したかったがやむを得ない。0に変身して攻撃を仕掛けた。

「ひいいっ! お、お前等、何なんだよ!」

「話は後で! 口外しないでくださいよっ!」

 飛んでくる棘を全て躱し、至近距離に近づいたところで銃弾を撃ち込む。暴霊が後ずさった隙に銃を大剣に変えて斬りつける。すると、傷口から一気に炎が噴き出した。

「うあああっ」

「そこだぁっ!」

 大剣を素早く斧に変化させ、相手の両腕を切り落とした。暴霊は手から針を発射する。これで攻撃は出来まい。

 地べたに倒れた相手の首を掴んで無理矢理起こし、この地に潜んでいるであろう術士の居場所を問いつめた。

「教えろ! お前の上司は何処に居る? 言え!」

 暴霊は何も答えない。まるで人形のようにダランとしている。と、次の瞬間、暴霊は霧のようになってスッと消えてしまった。

 力尽きて消えたのだろうか。だが、何か引っかかる。少しの間じっとしていると、背後から笑い声が聞こえてきた。

「ははははは! ばーか、偽物だよ」

 振り返ると、そこには先程まで怯えていた筈の宇賀神要一が立っていた。口元には不敵な笑みを浮かべている。

「墓守ってのはどんなもんか調べたくてな。しっかし、フタを開けたらこのザマよ。馬鹿だなぁ、マジで馬鹿だなぁ。ハエみたいに群がってくるファン共も馬鹿ばっかりだけど、お前は群を抜いて馬鹿だな」

 いきなり誹謗中傷の言葉を浴びせられる0。これが、この男の本性なのだろう。そして何よりも、目の前に居るこの男こそ、悠真達墓守の敵、降霊術師なのだろう。

 宇賀神はどこからともなく2本の刀を取り出して引き抜いた。霊魂を使わずに使用出来る力。間違いない、月の術を使っている。

「俺を狙ってるヤツってのは、アンタだったのか」

「まぁな。あのデカい墓守が出て来るのは想定外だったけど、どいつもこいつも弱っちい野郎ばっかりだ。ぶっ殺してやるよ。アイツも、お前のお友達もなぁ!」

「殺させはしない。ここに居る人達は全て、俺達が守る!」

「ははは、とか何とか言って、本当はビビってんだろ?」

 宇賀神の肉体が黒い霧に包まれ、見る見るうちに白い蛾の怪人に姿を変えてゆく。

 以前も戦ったことがある。複数の墓守相手に容易に戦っていた強敵だ。

「芝居は上手いなぁ。俺の奴隷になったら事務所に推薦してやるよ」

「お前に推薦されたんじゃ、先は短そうだな」

「ちっ、ぶっ殺す」

 2人は広場で激しくぶつかり合った。

 火花が散る程の戦い。果たして、勝つのはどちらか。






 その頃、別ポイントに出現したハンター達を倒して、戒堂がホテル前に戻ってきた。地面に横たわっていた遺体は見当たらない。何者かが持ち去ったのだろうか。

 辺りを見回して悠真、並びに暴霊を探している。

「……ここか」

 戒堂は武器を構えてホテルの中に侵入した。

 彼の目には、ホテルの中から噴き出してくる念がしっかり見えていた。

・サウザンド・・・降霊術士・朧についてきた暴霊。身体中に棘の生えた悪魔の姿をしており、手から棘を発射することが出来る。

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