表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
22/30

旅行先にて

 術師達が集う大理石の間。

 そこで、3人の男達が話をしている。

「あの成金は死んだ。やはりここは俺が行くべきだ」

「いいえ、あなたは時に暴走してしまいます。そんなあなたを外に出したら、必ずあの墓守達があなたを斬るでしょう。そうなれば、必ずあなたが死にます」

「まだわからないだろう!」

 ハーミットの意見に納得出来ず、神田明宏は術師・ルベルの姿に変身して立ち上がった。前回0に斬られた腕はもう回復している。

「まぁ待てよオッサン」

 そんなルベルを、白い侍の姿をした術師・朧が止めた。朧は刀の先をルベルの首筋に当てている。

「残念だが、アンタみたいな地味でクソみたいに弱い術師じゃこの仕事は無理だよ。なぁディレクター!」

「ええ、言葉は汚いですが、その通りですね」

「ほら。コイツが言ってるんだ。ここは俺にやらせろよ。ぁあ?」

 自分よりも幼い、チャラチャラした男に諭され、ルベルはますます怒りを募らせた。

「相変わらず元気が良いな」

 そこへ別の術師がやってきた。ハーミットの直接の上司、渡フーズの社長・渡一樹だ。彼も月の術を使用しているが、まだルベル達のように羽化はしていない。

 渡は緑色の怪物の姿になると中央のデスクに腰掛けた。

「おかえりなさいませ」

「飯はいらない。広報の社員が生意気だったから食って来た。それにしても、酷い会議だったよ」

「そうでしたか」

「まぁ安心しろよ社長」

 朧が人間の姿に戻ってデスクに歩み寄った。

「あんたが天下を取る日はもうすぐそこだ。それを邪魔するヤツは俺がぶっ殺してやる。だから、あんたは安心して社員を食えばいい。そして、この国を手に入れれば良い」

「態度に気をつけなさい」

 ハーミットが朧を注意した。青年は舌打ちすると術師の姿になり、霧のようにすっと消えてしまった。

「次はヤツか」

「彼には例の墓守を追ってもらいます」

「勝機はあるのか?」

「さぁ。ただ、たとえ彼が斬られたとしても良い足止めにはなります」

「足止め。そうだな……代わりはいくらでもいる」

 怪物はデスクの上に足を乗せてそう呟いた。





 航空機に乗り込む悠真達。

 アリスが予約したのはエコノミークラスの席ではなく、なんとビジネスクラスのシートだった。彼女の家族は現在海外で仕事をしているらしいのだが、今回はその両親が全員分の料金を出してくれたのだそうだ。

「席はね〜、あ、西樹君はそこね!」

 アリスが悠真に示したのは、恵里の隣だった。恵里は窓側の席だ。嫌ではないのだが、これによってまたあの男が騒ぐに違いない。アリスも笑みを浮かべて笑っている。

「し、失礼します」

「何で畏まってるの?」

「い、いや」

「おいおい悠真、旅行なんだからもっと盛り上がろうぜ!」

 やっぱりだ。康介が囃し立ててくる。しかも運の悪いことにこの男は2人の後ろの席に座っている。九州到着までの約1時間、面倒なことになりそうだ。彼の隣にはアリスも座っている。鴻上は隣の列の席に座っている。前列は悠真と恵里だけ。これではまるで見せしめではないか。

 間もなく機体が動き出した。飛行機が怖いわけではないが、この頃乗る機会が全くなかったため悠真は緊張している。

 機体は速度を上げ、すぐに空へと飛び出した。恵里は窓から下を覗いている。

「うわあ、すげぇ」

 康介が声のトーンを落として感動している。アリスも一緒になって盛り上がっている。この2人なら良いカップルになりそうだ。鴻上の声は聞こえない。後ろを見ると、彼は本を読んでいた。文庫本だが、カバーがかけてあるため何かはわからない。

「どうしたの?」

 恵里が悠真の方を向いて話しかけた。

「あ、いや……すごい席だな、と思って」

「ね。私も初めてだよ」

 周りの客を観察してみると、皆ブランド物のバッグを持っていたり、煌びやかなアクセサリを身にまとっていたりと、高収入であることが何となくわかる。

 ぼーっとしていると、後ろでアリスが小さく悲鳴をあげた。何事かと気になっていると、アリスが後ろから声をかけてきた。

「見て、あの人」

「何処?」

「ほら、あそこ! 宇賀神要一が座ってる!」

 何と、あの人気俳優までこの飛行機に搭乗しているのか。テレビで1度確認しただけだから、生で見るのは初めてだ。無理矢理振り返って確認すると、確かに後ろの席に、サングラスをかけた名俳優が座っているではないか。

「わぁ、サイン貰っちゃお」

 いや、ここで声をかけるのは相手も迷惑だろう。

 悠真の席からは宇賀神しか見えないが、どうやら彼は隣の席の誰かと話しているらしい。横を見て何か喋っている。

 恵里と康介もシートベルトを外して確認する。皆後ろを向いているものだから、鴻上も読書を中断して振り返った。

 全員が釘付けになる。それでも相手はまだ気づいていないようだ。

 姿勢を元に戻すと、全員深呼吸をした。悠真だけでなく、他のメンバーも生の宇賀神を見たのは初めてだったのだろう。そんな彼等の様子を見て、鴻上はニコッと微笑み、再び本に目を落とした。

 悠真はある推理をしていた。確か彼は、以前とある番組で友人を連れて来ていた。あの男が裏で用意した偽の親友でなければ、隣に座っているのはその男である可能性がある。

 しかし、途中で悠真は考えるのを止めた。こんなことを推理しているのが馬鹿らしくなってきた。

 何も考えないでいると、今度は何だか眠たくなってきた。視界が霞み、頭がぼんやりしてくる。シートに身を預け、身体から力を抜く。こうするともう自分の力では眠気を払えない。

 それから数秒後、悠真は深い眠りについた。




 寝ている最中、悠真は気味の悪い夢を見た。

 友人達とともに何かから逃げている。真っ暗な場所をずっと走っていて、先は見えない。

 走っていると、1人、また1人と友人が闇の中に消えてゆく。助け出そうとしても、その前に闇が全てを飲み込んでしまう。

 そして、最後の1人になったとき、悠真もまた、身体を闇に食われてゆく。逃げようにも空間自体が彼を捕獲・食しているため逃げることが出来ない。

 最期の瞬間、闇の先に、無数の目玉を見た。皆悠真に怒りの籠った視線を向けている。

 彼等は、今まで彼が斬ってきた暴霊達だった……。




 夢の内容が気持ち悪く、目覚めは最悪だった。恵里が起こしてくれなければ、あの闇に食われてゆく時間は更に長く感じられただろう。

「大丈夫? 魘されてたけど」

「ああ、大丈夫。姿勢が悪かったからかもな」

 やはり浄霊の疲れはかなり溜まっているのか。でなければこんな夢は見ないだろう。

 空港の外にバスが停まっている。アリスの話では、あのバスに乗って宿泊施設に向かうそうだ。大きな荷物を乗務員に預けた後、一同はバスに乗り込む。中には既に客が数名乗っていた。その中には宇賀神要一とその連れの姿が。悠真の予想通り、連れはあのときテレビに出演していた彼の親友だった。名前は……思い出せない。他の乗客は、革ジャンを着た中年男性と、ブランド物のバッグを持った女性、それから、老夫婦が1組。

 宇賀神の姿を見るや否や、アリスは彼の座っている席へすっ飛んで行った。宇賀神とその友は彼女を2度見した。

「あのっ、宇賀神要一さんですか?」

「そうだけど?」

「うわぁ! 私、大ファンなんです! サインください!」

 宇賀神は困った様子だったが、隣の男性に諭され、渋々彼女の要望に応じた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 用件が済むと、アリスは自分の席に着いてサインを見つめた。

 乗客が全員座席に着いたのを確認してから、運転手はバスを発車させた。今回もアリスの策略で悠真と恵里が隣同士だった。悠真は進んで恵里を窓側に座らせた。

「楽しみだね」

「うん」

 空港のすぐ近くにその宿泊施設はある。西洋の国をモデルにした施設で、ホテルは勿論、様々な店や観光スポットもある。それまで走っていた場所から施設に入ると、まるでおとぎ話の世界に来たかのようだった。康介とアリスが大はしゃぎしている。そしてそんな彼等の様子を、鴻上が笑みを浮かべて見つめている。

 テレビ等で紹介されていたからある程度の知識は持っていたが、やはり実物はインパクトがある。

「あ、こっちこっち! ホテルそこだから!」

 アリスがある1点を指差した。煉瓦造りの大きなホテルが建っている。墓守の仕事でもごく稀に宿泊することがあるが、このような大きな施設に泊まったことは今まで1度も無い。

「じゃあ行きましょう!」

 一同はホテルに向けて歩き出す。

 歩きながら施設内を観察する悠真。すると、その中に奇妙なモノを見つけた。

 ある建物の屋根に、人型の物体が乗っかっている。おそらく、ただの人間ではない。日差しが強くて鮮明には見えないが、大きな刀を持っていることはわかった。

 悠真の視線に気づくと、それは瞬時にどこかへ飛び去ってしまった。

「アイツは……」

「西樹君?」

「ああ、ごめん」

 嫌な予感がする。

 この旅行で、何かとんでもないことが起きる。そんな気がしてならなかった。

 ホテルに到着すると、チェックインを済ませて自分達の部屋へと向かった。今回の部屋は、リビング、キッチンといった共同スペースは5人全員で共有し、寝室が左右2つに分かれた設計になっている。なので、悠真、康介、鴻上の3人と、恵里、アリスの2人に分かれることとなった。

「この後はどうする?」

「うーん、まぁ色々回ったりとか? あっ、夕食は6時からね!」

 食事処もかなり豪華だ。1階にある大広間で、バイキング形式で行われるらしい。

 とりあえずその時間に間に合えば良いので、それまでは適当に土産物を買ったりして過ごすことにした。

「どうしたの?」

「え?」

「何か、怖い顔してるから」

「ああ、いや、ごめん。何でもないんだ」

 悠真の心配事はただ1つ。先程見た、怪しい影である。今回は安藤が同伴しておらず、仮に暴霊や強力な術師が現れた場合、彼1人で戦わなければならない。また、上層部からの連絡は普段安藤の携帯にかかってくるため、この中で暴霊が現れたとしても情報が手に入らない。来るとしてもかなりのタイムラグがあるだろう。

 ただ、墓守はその地区毎に数名存在している。この九州にも墓守はいる筈だ。暴霊が出現すれば必ず駆けつける。だから、そのうち他の墓守と会うことになるだろう。

 ホテルを出た後、悠真達はそれぞれ別々に行動することになった。その方が良い。敵が現れても、康介達に自分の仕事を知られずに済む。

 悠真は施設内の監視に時間を充てることにする。しかしこの広さだと6時までに全体を見て回ることは出来ない。出来ても4分の1程度か。

「一応知らせておくか」

 と、悠真が携帯を取り出して安藤に電話をかけようとした、そのとき。

 突如背後から何かが飛びかかってきた。咄嗟に避けたが、持っていた携帯は真っ2つにされてしまった。

 現れたのは術師が連れているアリ型の暴霊、ハンターだ。それも計6体。

 最悪だ。この霊がいるということは、間違いなく施設内に術師、或いは月の術の使用者が潜んでいる。戦いの中で悠真は新たに《+》の力を手に入れたが、それでも降霊術師は強敵だ。1人で戦えるだろうか。

 そんなことを考えている暇は無い。早速ハンターが攻撃を仕掛けてきた。悠真はすかさず0に変身、武器も斧に変化させて、向かってきたハンター2体の首を切り落とした。続いて別の個体が腕の刃を使って斬りかかる。相手は俊敏さも兼ね備えている。同じように首を切ろうとすると、素早く移動して攻撃を躱し、0を切りつけてくる。

「ちっ、この野郎!」

 それならばと、武器をガトリングに変化させて弾を連射する。倒すことは出来なかったが、複数の敵に傷を負わせることは出来た。

「はぁ、でも流石にこれはキツいな」

 相手も0の攻撃を学習している。同じ手は通用しない。

「だったらこいつはどうだ!」

 次は黒い霧を放出して《−》の力を発動、近くにいたハンターへ霧を放射した。霧によって霊力を奪われ、1体が破壊された。これで残るは3体。このペースなら何とか倒せそうだ。ところが、この局面で予期せぬアクシデントが起こった。

 霧が吸収した力を使って、0も同じように腕に刃を装着、敵に飛びかかろうとしたが、突然強烈な痛みが0の頭を襲った。視界に入った物が2重に見える。発動した刃も勝手に解除されてしまった。途中で異変は収まったのだが、すぐに体勢を立て直すことが出来ず、3体の攻撃を受けてしまった。

 暴霊の力を使用したからか。

 《−》は霊寄り、死を表す力。そのため、使用することで0自身も暴霊に近づいてしまうのだと考えられる。

 すぐさま《+》の力を発動したかったが、運の悪いことに、すぐに発動することが出来ない。そうこうしている内に敵が少しずつ迫ってくる。仕方無しに元の白い姿に戻って刀を手に取る。ここで死ぬわけにはいかないのだ。ここで死ねば、誰が友人を守れば良い。

「来い!」

 0の言葉を聞いて3体が襲いかかる。刀を構えて攻撃の準備をする0。だがそこで、また予想外の事態が起きた。

 3体のハンターが派手に吹き飛ばされた。しかし、0は何もしていない。

 彼の前に、1人の武者が立っている。鬼を彷彿させる赤い鎧を纏い、大きな刀を振りかざす。ハンター達はそれでも怯まずに立ち上がり、ターゲットを武者に変えて攻撃する。武者はうなり声を上げて刀を振り回す。すると、飛んできた暴霊達が次々に切断されてしまった。

 この姿。0は先程見た影を思い出した。

「あとは貴様か!」

 刀をひと振りすると、町を流れる風が刃となってハンターに向かってゆく。最後の暴霊は恐ろしい声を上げて消滅した。

 戦いが終わると、武者は0の方を向いて彼に手を差し伸べた。敵ではなかったようだ。

「ありがとうございます」

「お前も、なかなかの腕前だった」

 両者が変身を解除する。

 あの鎧を着ていたのは、50代くらいの男性だった。獲物を睨むトラの様な鋭い目、Tシャツから覗く筋肉は良く鍛えられている。

「お前が、東京の墓守だな」

 男性が聞いてきた。

「え? そうですが、何故そのことを?」

「そうか。私は戒堂謙介、この地区の墓守だ。東京の幹部から司令を受けてここに来た」

「東京? ってことは、平岩さん?」

「ああそうだ。重要な任務だ」

 建物を睨みつけた後、戒堂はこう続けた。

「術師がここにいる。そしてその狙いは、お前だ」

・無斬・・・九州地区の墓守、戒堂謙介が力を発動した姿。鬼を模した鎧を纏い、大型の刀を振り回して戦う。名前は「無、すらも斬る」という意味。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ