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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
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旧友#2

 和喜陽助。

 小学校時代、悠真が同じ気持ちを分かち合うことが出来た唯一の親友。在学中は常に一緒にいた。当時は丸刈りだったため、大きく変わったその容姿からすぐに陽助だと認識する事が出来なかった。卒業後は連絡を取っていなかったのだが、どうやってこの場所を突きとめたのだろう。

「懐かしいなぁ。あの頃を思い出すよ」

「思い出したくない過去だけどな」

「変わってねぇなぁ、悠真は! あ、今空いてるか?」

「ああ、今日は丁度フリーなんだよ」

「良かった。近くに喫茶店があるから行こうぜ」

「良いなぁ! 行こう行こう」

 悠真は陽助に連れられ近くの喫茶店に向かった。

 この近辺に関しては悠真も良く知っている筈だったのだが、徐々に知らない道に逸れ、小さな喫茶店に到着した。

 悠真の知らない店。陽助はかなりサーチをしてきたらしい。その店の屋根は木で隠され、錆びた看板が掛けられている。名前は、新世界。辛うじてそう読むことが出来た。陽助に手を引かれて中に入ってみると、外見とは対照的な洒落た内装だった。だが、どこか陰気だ。昼なのに暗い。

 奥には木製のカウンターが備え付けられており、周りには丸いテーブル席が幾つか配置されている。意外と有名な店なのか、中には既に2、3人の客が腰掛けていた。だが全員個人客で誰も言葉を発していない。陽助はカウンターではなく、近くのテーブル席に悠真を座らせ、彼の向かい側に腰掛けた。席に着くや否や店員がやって来て注文を聞いた。この陰気な雰囲気に似合わない、明るい女性だ。年齢は悠真達とそう変わらない。中世のメイドを思わせる服を着ている。顔を見たところ、どうも日本人ではないらしい。

 この初めての場所なので、注文は全て陽助に頼んだ。

「じゃあ、ホットケーキのセットを2つ」

「かしこまりました」

 なんと流暢な日本語だろう。恐らくハーフか、長く日本に住んでいる者なのだろう。

「良いだろ、ここ」

「ああ、まぁな」

「前に偶々見つけてよ。今日は客少ねぇなぁ」

 店内を見回した後、陽助は悠真の居場所を見つけるまでの経緯を話し始めた。

 そもそも彼が悠真に会いたいと思ったのは、坂木原繁が殺害された事件を知ったからだ。悠真同様、陽助も坂木原に対して良くは思っていなかった。恐らく彼の方が、坂木原を含めた自身のクラスに苦しめられて来たと思う。無視、暴力等のいじめに耐える毎日。坂木原に相談しても、女子贔屓はするは相談した方を非難するわで話にならなかった。そんな陽助と親しく付き合っていた悠真もまたクラス中の生徒から除け者にされた。

 明政小学校。【明】という字を使っていながら、中身は闇そのものだった。

「あのときは本当に大変だったよな」

「ああ。で、どうやって俺の居場所を突きとめたんだ?」

「悠真知らないか? 今は、会いたい人を代わりに探してくれるありがたい方々がいるんだよ」

 その会社なら悠真も以前テレビで見たことがあった。自分の探している者を情報を集めて見つけ出すのだ。ニュースの特集では、陽助のように学生時代のクラスメートを探して欲しいと依頼に来る客が多かった。だが悠真の記憶だとこの会社はまだ少なく、しかも関東から離れていた気がする。そこまでして陽助は悠真に会いたかったのか。友の思いに悠真は感動した。

「お待たせしました。ホットケーキセットです」

 テーブルの上に2つの皿が置かれた。陽助はいきなりフォークとナイフを掴んでホットケーキにかぶりついた。悠真は軽く手を合わせてからホットケーキを食べ始めた。口の周りをシロップで濡らし、陽助は更に続ける。

「ま、これは祝勝会だな」

「祝勝会?」

「そ。憎いアイツももうこの世にはいない。俺達の勝ちだ」

「……違うな」

 悠真が静かに言った。まさかの答えに陽助は驚き手を止めた。悠真は気にも止めず話を続ける。

「坂木原が死んで、お前満足したか?」

「何言ってんだ。満足したよ」

「いいや、本当は満足してねぇだろ。幾ら憎い奴が死んでも、或いは殺しても、其処からは何も生まれねぇ。在るのは、永遠に消えることのない恨みの心だ」

 この約3年、悠真はそういう者達を何人も見て来た。初めは対象だけを狙った筈が、殺しても心が満たされず、更なる殺戮を繰り返す者達を。そして、目の前の友もそうなってしまうのが嫌だった。もし彼が復讐の鬼と化してしまったら、悠真は……。

 友の思いに気づかず、陽助は不機嫌そうに反論した。

「なっ、何でだよ? お前も苦しんだだろ悠真? 本当は嬉しかっただろ、快感を得ただろ?」

 違う。

 確かに事件には興味があったが、坂木原の死に関してはどうでも良かった。今の自分がとても幸せだから。自分を信じ、自分と接してくれる人達がいるから。

「アイツはアイツ、俺は俺だ。だから、どうでも良かったよ」

 食欲を無くした。悠真は御馳走様と言って席を立った。悠真の背中に向かって陽助が言う。

「悠真!」

「あ?」

「俺は、俺は生まれ変わった。……明後日、明政小で待ってる。今日はこんな風になっちゃたけど、じっくり話がしたいんだ」

 何も答えず、悠真は店の外に出た。道は何となく覚えていた。記憶を頼りに来た道を引き返す。

「明後日、か」

 陽助が指定した日までに明政小に行く必要がある。あそこにはまだ秋山もいる。校内に現れた降霊術師について詳しく聞きたくなった。

 陽助の「生まれ変わった」という言葉。それが妙に引っかかり、陽助の発したどの言葉よりも強く深く聞こえた。

 間違った方向に進んでいなければ良いが、思い過ごしであれば良いが。スタスタと軽快に歩を進める悠真であったが、内心かなりドキドキしていた。





 一方、秋山荘司は校内で、久々に再会した氷川幸助と色々な話をしていた。氷川は、この10年で明政小がどう変わったかを、秋山はどの様な経緯で現在の職に就いたのかを。

 当然、それは嘘である。真実を言える訳がない。いや、言っても気が狂っていると勘違いされるだけだ。

「あれから、この学校でもまだ熱意のあった先生が何人も違う学校に飛んでね。今いる人が悪いという訳ではないんだけどね」

「氷川先生だって良い先生じゃないですか」

「いやいや、仕事を終わらせるのは遅いし、そのせいで娘と遊んでやる時間も作れない。私なんてまだまだです」

「結婚してたんですか?」

 知らなかった。暫く見ない間に氷川は女性教員と結婚、しかも1児の父親になっていた。妻は結婚を機に退職したという。

 反対に秋山は結婚していないのかと尋ねられた。秋山は少し間を空けて、

「してません」

 と答えた。その後に続けて、気になっている人はいると言った。

 そんな話をしていると、廊下の先から怒鳴り声が聞こえた。見ると、校長室から中年女性が出て来るところだった。女性は文句を言いながら近くの階段を降りる。その後、校長の津田槇彦と教頭の大地洋平が部屋から出て深々と御辞儀した。確か2人も10年前からここで働いていた。

 なるほど、今のが世に言うモンスターペアレントというものか。津田も大地も顔色が悪い。かなり苦労しているようだ。大地は津田に挨拶して部屋を離れ、秋山達の方に歩いて来た。目が合ったので大地に向かって御辞儀すると、大地は無理やり笑顔を作った。

「教育委員会の方でしたっけ」

「ええ。……モンスターペアレントですか」

「私のような立場の者が断言するとまた問題になるかも知れませんが、当にそれです」

「確か今の、野口美子さんでしたよね、PTAの」

「PTA?」

「はい。息子がイジメをしていると疑われていると、文句を言いに来たんです。多分また来ますよ。あぁ、すいません。では私はここで」

 大地はスタスタと、自分の持ち場に戻って行った。彼は秋山のことは覚えていないらしい。気づけばもう午後5時。大分時間を食ってしまった。秋山も今日は帰ることにした。

 肝心の術師の手がかりは何ひとつ掴めていない。だが、この学校の中で術師が暗躍していて、しかも生徒の1人が墓守になっている。

 近い内、また何かある。何かは解らないが、きっと、悪いことが。






  翌日、悠真は安藤と一緒に近くのファミレスに向かっていた。

 秋山にもその席に同伴してもらった。昨日の和喜陽助のことを話すためだ。安藤が電話するとすぐに話がまとまり、今日中に会えることになった。しかし、潜入捜査と言えど秋山は仕事から抜けられず、会うのは今日の夜ということになったのだ。それでOKしたが、内心悠真は焦っていた。

 陽助が提示してきた日にちは明日。何があるのかは言わなかったが、とてつもなく嫌な予感がする。今日は夜になるまで怪しい事件は起きなかった。このまま明日も何も起こらなければ良いのだが。

 歩いて10分程度のところにあるファミレス。中に入ると、先に秋山が座って待っていた。しかも自分だけハンバーグを食べている。2人がその席に行こうとすると秋山が同時にコップを持って立ち上がった。ドリンクバーまで頼んだようだ。テーブル席に着いて目の前の皿を見ると、ハンバーグが3分の1くらいまで食べられていた。かなり待たせてしまったらしい。2人は申し訳無く思って黙って下を向いた。すると、ジュースを持った秋山が戻って来た。秋山は、

「あ、来てたのか」

 と、遅れたことを責めなかった。そのことが2人の罪悪感を更に強くする。

「今日は君の提案だとか。何かあったのか」

「はい。実は昨日、アイツが来たもので」

「アイツ?」

「和喜陽助、小学校のときのダチですよ」

 それを聞いて、秋山の表情が曇った。

 こんな偶然があるだろうか。2つ目の神の悪戯はこれだったか。しかも悠真のことを、逢わせ屋を使ってでも探していたとは。ちょっと思い立ったぐらいで其処までするだろうか。

 極めつけは陽助が言い残した言葉。生まれ変わった。果たしてこれは、彼の人生観が変わったということなのか、それとも、秋山の予想しているようなことを表しているのか。出来れば前者であって欲しい。10年前、2人はイジメのせいで心を閉ざしていた。唯一打ち明けたのは秋山だけだ。こうして再会出来たのも何かの縁。心を開けるようになった状態、それこそ生まれ変わった2人と、もう1度話をしたい。それが秋山の望みなのだ。

「で、彼はいつ会いたいと言ってきたんだ?」

「それが、明日なんですよ」

「明日?」

「はい。だから今日の内に話したかったんです」

「明日……何かあった気が」

 秋山が鞄の中を覗いて何かを探している。ちょうどそのとき、安藤の携帯が鳴った。相手は彼等の上司だった。

『暴霊だ。君達のいるファミレスから少し先の公園だ。至急向かってくれ』

 平岩は墓守の上層部の1人。墓守であり、巨大企業H・Yコーポレーションの社長でもある。彼は暴霊の居場所をサーチし、そこに墓守を派遣している。

 安藤が電話を切ると、秋山も何が起きたのか察して鞄から出しかけた書類を仕舞った。3人は慌てて席を立った。秋山はレジで1万円札を出し、お釣りを受け取らずに店を出た。現場の公園はすぐに解った。

 近づくと男性の悲鳴が聞こえ、誰かが慌てて出て来た。氷川幸助だ。更に幸助のすぐ後から、巨大な銃を持った人物が歩いて出て来た。顔は帽子とマスクでよく見えない。まだ暑いのに黒いコートを羽織っている。だが銃を見ればそれが暴霊であることがすぐに解る。マシンガン程のサイズなのだが、先端に大きな長方形の穴が空いているのみ。口径には、エネルギーを表しているのか、大きな赤いライトが1本の太い線を描いている。SF映画に出てきそうな銃だ。

 暴霊の所有物であると解ったのは、銃から黒いオーラが湧き出ているからだ。初めは煙かと思ったが、街灯に照らされたそれはこの世のものではなかった。暴霊が銃を向けると、幸助は悲鳴をあげて尻餅をついた。

「おい!」

 刀を取り出して悠真が呼びかける。何者かはゆっくりと悠真の方を見た。銃口は悠真に向けられている。だが、何者かは悠真の顔を見ると思わず「えっ」と声を出してしまった。

 不思議に思ったが、止まっている暇はない。悠真は刀を引き抜いて暴霊に迫った。すると暴霊も引き金を引いて発砲してきた。弾は鉄ではなく、眩い光を帯びたエネルギーの塊だ。塊は側のマンションの塀に当たり、コンクリート製の壁に大きな穴を開けた。この威力。悠真の脳裏にある事件が蘇る。

「そうか、坂木原を殺したのはお前か!」

 暴霊の目の前まで迫ると、銃目掛けて鎌を振り下ろした。だが間一髪のところでそれを何かに阻止された。獣の姿をした怪物が鎌を鉄の爪で押さえていた。

「お前は!」

「邪魔するなぁっ!」

 2人の暴霊は竜巻に包まれ姿を眩ました。

 刀をしまうと、悠真は暫くじっとしていた。

 あの銃を持った暴霊は悠真を見て驚いた。となると、あの霊は悠真のことを知っている者だ。ここまで推理すると、悠真の不安は更に大きくなった。やはりあの暴霊は……。

「氷川先生」

 秋山が幸助のもとに駆け寄った。幸助はよろめきながら立ち上がった。悠真は幸助のことを知らず、つい幸助の顔に見入ってしまった。幸助もまた悠真のことは解らないようだ。会ったことがあるにしても、悠真はほぼ成人しているため判別出来ないだろう。

 秋山は一応、悠真のことを紹介した。そして、自分の正体も打ち明けた。あの怪物を見れば幸助も墓守の存在を認めざるを得ない。

「教育委員会というのは、学校に潜入するための嘘です。実際は今のような怪物を探しておりまして。で、彼は明政小の卒業生、西樹悠真君です」

「どうも」

「西樹悠真? あれ? もしかして、絵のコンクールに作品出してなかった?」

 言われて悠真はハッとした。

 そう、確かに小3のときに悠真の作品はコンクールに出されている。だが、それは決して彼の絵が素晴らしかったからではない。絵を推薦したのは、先日殺害された坂木原だった。コンクールの前、悠真とその家族は坂木原のことを教育委員会と校長に訴えた。恐らく坂木原は、作品を推薦することで自分に対する怒りを抑えようとしたのだろう。実に愚かな男である。そんな偽りの評価など貰っても嬉しくない。

 とはいえ、そのことは他の教員の耳にも入っていたようだ。幸助はきっと展示までの経緯を知らない。

「そうか、君があの絵を……。あれ、八犬伝がモチーフだろう? 僕も八犬伝が大好きでね、絵を見たときは何だか嬉しかったよ!」

 どうやら悠真の絵は、一応ちゃんとした評価を受けていたらしい。

 この後、秋山と幸助が友人であることを知り、彼なら信頼出来ると感じた。10年前の担任も彼なら良かったのに。

「氷川先生。確証はありませんが、さっきの怪物も恐らくは明政小の卒業生です」

「卒業生……ふっ、うちの学校はどうなってるんだ?」

 学校関係者の3人が、非日常的な世界に生きている。幸助は優しい口調で呟いたが、内心かなり驚いていた。

「その卒業生は明日、明政小で彼を待つと言ったそうです。あの力、恐らく彼は」

「明日!?」

 幸助が素っ頓狂な声をあげた。卒業生、和喜陽助の指定した日にち。それはちょうど、

「明日は、明政小の創立記念式典だ」

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