“生”なる炎
その日、墓守の部隊が上層部からの命を受けてとある暴霊を追っていた。
ターゲットの名は、草壁亜子。バックに降霊術師がいるらしいが、生まれたての暴霊らしく手口が乱雑で、証拠の隠滅もろくにしておらず、平岩も普段より容易に特定することが出来た。
生まれたてということだけではない。恐らく亜子は、己の心を抑えきれないでいるのだ。そうなると別の問題が生じてくる。心が満たされず、無差別に人を襲う暴霊になってしまうということだ。
「間に合うかどうか」
平岩は手を組んだ。
草壁亜子の情報は関東区域の墓守達に伝えられた。今頃は彼等が血眼になって彼女を捜していることだろう。
亜子は、自宅に籠もっていた。神田に貰った紙に書かれた日付は明日。幸せ者を殺す絶好の機会。その前に消されてしまっては元も子もない。今はただ時を待つのみだ。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。何かを頼んだ覚えはない。モニターを見ると、それはセールスマンだった。インターホンのカメラを見てにたついている。その笑顔が、自分の嫌いな者達の顔と重なった。
「うるさい」
亜子の首から、植物のツタのようなものが飛び出した。ツタはシュルシュルと玄関のドアまで伸び、鍵を開けた。
「あ、ありがとうございます! 今日は……」
「うるさい!」
扉の隙間からツタが勢い良く飛び出し、セールスマンの口の中に入ってゆく。どうにかしてそれを吐き出そうとする男。だが、何故か身体に力が入らない。目は充血し、次第に赤い涙が落ちるようになった。
ツタが一気に引き抜かれると同時に、男はくすんだ血を吐いて絶命した。
毒にやられたのだろう。内部に直接毒を撃ち込まれるのだから無事では済まない。
1人殺してみたが、何故だろう、全く心が満たされない。寧ろ怒りがこみ上げてくるようだ。
きっと、数が足りないんだ。怨恨型暴霊特有のこの症状を、亜子は人数が原因だと判断した。やはりあそこに行かないと心は満たされない。もうじき夜が明ける。あそこで、幸せ者共が集まるあの会場で、沢山殺してやれば良い。そうすれば自ずと感情も静まるはずだ。
とりあえず死体を自身の毒で分解、処理して、亜子は仮眠を取ることにした。
翌日、大学が休みだったので、悠真も早朝から安藤と協力して暴霊を捜すことにした。暴霊の経歴は彼の携帯にもメールで送られてきた。家庭教師をしていて、彼女が受け持った家の人間は必ず一家心中している。これで安藤も漸く、一連の事件が霊の犯行であることを信用した。同時に悠真の直感に深く感心した。
「よく解ったな、暴霊の仕業だって」
「何となくですよ。で、その草壁亜子の居場所とか目的は解ったんですか?」
「ああ、住所はな」
平岩が彼女の現住所を探し出したのだ。そこへ彼の元相棒を向かわせたそうだが、彼女の姿は無かったという。もう、仕事に出かけたのか。とりあえず、今日は亜子の住むアパートに行くことにした。車を走らせ、寂れた街に向かう。早朝だからか人は少なく、偶に老人が通りかかる程度。彼女が家庭教師として出向いている地域とは真逆だった。
どこもかしこも似たような建物ばかり。所々錆び付いた柱に黒ずんだ壁、乱雑な落書き。地面にはガムが付着し、車によって塗り固められている。彼女の部屋がある、アーバンホームズを見つけるのに1時間もかかった。
車を近くに停め、2人はアパートの管理人を訪ねた。インターホンのボタンを押す。弾力がない。時間差でピンポーンという音が鳴る。1分程間があって、虚しい頭部の管理人が姿を現した。
「あの、どちら様?」
「すいません、僕は草壁亜子さんの友達です。こちらはバイト先の店長」
「あ、はい、そうです」
「あぁそうなの! いやぁ、今日はどういったご用件で?」
「ええ。実は、最近バイト先に来ないものでして。ちょっと心配なんで、部屋、見せてもらえます?」
断られるかと思われたが、管理人はふたつ返事で快く許可してくれた。鍵を持ち、亜子の部屋まで案内してくれた。ドアの前に立ち、念の為インターホンを鳴らした。
「草壁さん? 草壁さん?」
「お願いします」
「は、はい」
鍵を差し込み、ドアを開ける。外界と内部が繋がった瞬間、言いようのない臭いが放出された。管理人をのけて中に入る。散らかっている。キッチン、テーブル、洗面所は一応綺麗に整理してあるが、部屋の隅にはゴミ袋が積まれているし、床にはチラシが散乱している。
奥に進むと彼女の寝室が現れた。一応襖が付いているのだが開けっ放しにされている。見るとそこにも埃が溜まっていた。
「うわぁ、凄いな。精神的にも疲れてたんだな」
「これは?」
悠真があるものに注目した。
1枚のチラシが壁にガムテープで貼られている。それを丁寧にはがし、内容を見る。【産業会議2013】。現代の企業は何が出来るのかを考える、とのこと。下には主催者、並びに参加者の名前が書かれている。大手企業の重役、更には国会議員と、国内の重鎮達が参加する会。術師達はこの会に亜子を送り込み、彼等を殺させようとしているのかもしれない。
「安藤さん!」
「くっ、奴等の狙いはこれか! 急いで上に連絡しないと!」
慌てて携帯を操作する安藤。会は何と今日の昼行われる。これからチームを編成する時間は無い。一刻も早く平岩に伝え、彼から都内の墓守達に連絡をしてもらわなければ。
電話を終え、2人も大慌てで車に乗った。焦りで震える指でチラシに書かれた場所をナビに入力し、エンジンを唸らせる。管理人が何事かと様子をうかがっている。そういえばまともに挨拶が出来なかった。
「ちくしょう、神田の野郎!」
「でも、珍しいですよね。こういう人達を狙うのって」
これまでの術師と暴霊は魂の回収を目的としていたため対象もバラバラで方法も貯金型だった。今回のように重役を狙い、しかも1度に大勢の人間を殺すというのは滅多に無いケース。1体の暴霊を術師2人が守るというのも珍しい。それほどまでにこのテロを成功させたいのか。
「確かにそうだなぁ」
「日本の政治経済も支配しようとしてるとか?」
「考えすぎじゃねぇか? まだ今回が初めてだろ、こんなケース」
「そうですけど」
「まぁ何にせよ、その暴霊……草壁亜子だったか? そいつより先に会場に行かねぇとな」
すぐに到着したいが会場はここからかなり離れた所にある。車でも2時間弱はかかるだろう。
街を抜けたあたりで安藤の電話が鳴った。安藤が出るわけにはゆかないので代わりに悠真が電話に出た。
「はい」
『こちら秋山。その声は西樹君かな』
「はい、安藤さんが運転中なので」
『そうか、すまない。今上から連絡が来た。俺達もSPとして会場に向かう。あと、また術師が複数現れる可能性があるから気をつけろ』
「はい、ありがとうございます」
秋山の言うとおりだ。これが墓守を嵌める罠だとしたら、またあの強力な術師達が来るかもしれない。
それはそうと、悠真はあることが心配だった。強敵が来たとき、自分が例の力を使えるかどうか。これまでの感覚からして、今の術師達に有効なのはあの赤い炎しかない。前のブリザード事件の時くらいまで力を引き出せれば戦況も変わってくる。
今はまだ自由に使うことが出来ず、発動出来ても炎を発射する程度だ。追い払うのでは意味が無い。出来るだけ多くの術師を倒さなければ。
「頼むぜ」
悠真は拳を強く握り締め、自身に願った。
その頃亜子は、タクシーに乗って会場に向かっていた。
今の時間では電車は混んでいる。それに乗り換えを何度もするよりタクシーで一気に行った方が楽だ。特に今日は初めて大勢の人間を一度に殺す日。興奮する心を落ち着かせる時間が欲しいのだ。
「それにしても、今日はどちらへ?」
運転手が尋ねてきた。彼としては客とのスキンシップをとるつもりだったのだろうが、今の亜子にとってこれほどの邪魔は無かった。
「あの」
「もういい。下りる」
「え? 下りる? ……わかりました」
運転手は車を路肩に停めた。亜子がドアを開けて下りようとすると、
「あ、ちょっと! 料金料金!」
「はぁ?」
「はぁって、あんたねぇ、ここまでの運賃は支払って貰わないとさぁ! こっちもしょ……」
「うるさいっ!」
喋る運転手の口に大量の蔦をねじ込んだ。息が出来ない上に体内に直接毒を注入され、男はもがきはじめた。亜子はそんな彼を気にもとめず、ドアを開けて外へ出た。風が心地良い。
腕時計に目をやる。午前8時30分を回ったところ。ここからなら会場も近い。会が始まる前ならもっと殺しやすくなる。歩いて向かうことにした。
散歩の要領で道を進む亜子。だが下りた場所が悪かった。大きな駅が目の前にある。そこから背広姿の男達が、忙しそうにこちらへ歩いてくる。
何故か今の亜子には、そんな彼等も憎たらしく感じた。特に、大袈裟に時計を見ている男を見てそのイライラは頂点に達した。彼女からは、まるで男が「俺は忙しい。お前達よりも地位が高いからだ」と、周りのサラリーマンをほくそ笑んでいるかのようだった。
考える間もなく、亜子はその男の首へ蔦を伸ばし、一気に締め上げた。今にも眼球が飛び出さんばかりに男は目を見開いた。
「死ね」
そのまま首をへし折り、地面に叩き落とした。
惨劇を目の当たりにし、他の男達が亜子に目をやる。逃げ出したいのだが、恐怖で足が動かないのだ。
「見てんじゃないわよ!」
今度は彼等に向けて蔦を伸ばす。ちょうど大勢いる。昼のリハーサルをやろう。1人1人の口をこじ開け蔦を侵入させ、毒を流し込む。初めは難しかったが徐々に慣れ、1度の動作で20人前後を襲えるようになった。流れ作業なので殺傷能力には欠けるが、それでも彼等に痛い目を見せることは出来る。
しばらくそうしていると、漸く道が開いた。早いもので時刻はもう9時。30分間テロに熱中していたとは。亜子自身も驚いていた。だが幾分気持ちが軽くなった。スッキリした亜子は軽快なステップで先へ進んだ。
悠真と安藤は会場に大分近づいた。もう少し進めば目的地はもうすぐそこだ。
外を見ると会社員が何人か歩いているのが伺える。中には会に出席する者もいるかもしれない。
「青年、スタート何時だ?」
「ええっと、12時です」
「そうか、余裕だなぁ!」
「はい。でも、奴等も先回りしてるかもしれませんね」
術師達のことだ。会場のどこかに隠れて墓守が集まるのを待っているに違いない。
その後は事故も無く、2人は無事会場に到着した。会のスタッフが準備をしている最中で、彼等に混じって秋山達が監視している。
「秋山!」
2人が彼に駆け寄る。ステッキに手をかけたが、向かってくるのが悠真と安藤だというのが解ると秋山はその手を除けた。
「奴等は?」
「いや、まだだ」
「そうか」
辺りを見まわす。スタッフ等が外の仕事を終え、会場の中へ戻ってゆく。悠真達墓守以外に人は居ない。居るとしても警備員くらいだ。
一気に静まりかえった。すると、それを見計らっていたかのように、周囲から数体のヘビ人間が現れた。やはり先回りしていたようだ。
「いくぞ」
「はい」
まずは悠真が炎を発動して0に、続いて安藤と秋山も、それぞれアサシンとアヌビスの姿に変身した。
「秋山! こいつらは生身の人間だ、気絶させるんだ!」
「知ってるよ!」
次々にヘビ人間を倒す3人。だが相手もぞろぞろと姿を現す。近くに神田がいるのは明らかだ。
と、そこへ別の術士が現れた。明政小を廃校に追いやった黒幕、ビーストだ。ビーストは狙いを定めて風を巻き起こし、アヌビスを離脱させた。倒れたアヌビスに素早く駆け寄り、彼の上に馬乗りになった。
「どうも、秋山君!」
「またお前か!」
ステッキを使ってビーストを除けるも、相手は再び風を起こして武器を吹き飛ばし、無防備になったアヌビスをかぎ爪で切りつけた。アサシンと0が助けに行こうとするが、ヘビ人間達に続いてアリの姿をした歩兵、ハンターも現れ、足止めを食らってしまった。これでは助けることが出来ない。
ピンチかと思われたが、そこへ運良く墓守の援軍がやって来た。1人は眼鏡をかけた小柄の男性、もう1人は黒い服を着た厳つい顔の男性。アヌビスと同じエリートの城之内双賀と白銀土岐也だ。自分達のチームも引き連れて来たようだ。
「これはこれは秋山君、大変そうですね」
城之内は秋山に嫌みを言った後剣を取り出し、自身の血を1滴吸わせた。すると、たちまち足下から炎が噴き出し、赤い鎧が彼の身を包んだ。両手に剣を装着した剣士の姿だ。
続いて白銀も炎を発動、銀色の鎧を装着した。両手には銃を持っている。珍しい、銃を操る墓守らしい。
2人は早速参戦した。白銀があちこちにいる暴霊達に銃弾を撃ち込み、城之内はビーストを斬りつけてアヌビスから引き離した。エリートと言われるだけあり、どちらも的確に敵を攻撃している。
これなら墓守側の勝利か、と思われたが、ここで事態はまた変わる。両陣営が戦っているところへ、問題の暴霊、草壁亜子がやって来た。それを見た白銀が発砲するが、直前に別の術師が現れそれを阻害した。神田明宏だ。彼はたちまち術師・ルベルの姿に変身すると、まずは白銀に飛びかかった。やはり月の術使用者のパワーは桁違いだ。彼の部隊もルベルの鱗粉によって麻痺してしまった。城之内も暴霊を押し倒してルベルの方に向かうが、彼もまた強烈な衝撃波を受けて吹き飛ばされた。おまけに変身も解除されてしまった。
「そ、そんな……」
攻撃のダメージより、プライドを傷つけられたことの方がダメージが酷かった。
2人の墓守を蹴散らし、ルベルは亜子に近づいた。
「さぁ、もうじき、君が忌み嫌う完璧な者達がやって来る。存分に暴れるがいい」
「はい」
「させるか!」
アヌビスがルベルを止めようとするも、ビーストに遮られた。アサシンは罠を駆使して暴霊を蹴散らし、ルベルに近づいた。だが相手の鱗粉を受けて動きがとれなくなってしまった。
このままでは全員負けてしまう。いや、死者も出るかもしれない。不安に思う0自身も、亜子が発動したツタに首を締められてしまった。脈が圧迫されて意識が薄れてゆく。
「くくくく、あはははははは! 死ね、死ねぇっ!」
亜子がツタに力をこめた。
死ね。暴霊から出た言葉に0はこだわった。自分もまだまだ生きている。そう考えると、酸素が全身に行き渡らない苦しみが更にピックアップされた。苦しいということは、やはりまだ生きている、生きようとしているということなのか。
「ふふ」
「何がおかしいの?」
身体が生を求めている。そうだ、まだ自分には、やりたいことが沢山あるのだ。
突然、0の身体が真っ赤な炎に包まれた。炎はツタにも引火し、しまいには彼女の身体にも燃え移った。
「ああああっ! 熱い! 熱いいいっ!」
「青年?」
「悪いな」
身体を包んでいた炎が吹き飛んだ。全員が0に注目する。その姿にある者は息苦しさを、ある者は爽快感を覚えた。
「俺も、まだまだ生きたいんだ」
炎を模した剣に赤く輝く鎧。0の新たな力が今、漸く解放された。ルベルはただずっと彼を見つめている。
0が剣を振るうと空中に幾つもの炎の弾が現れ、もう1度振ると、それらは術師達目掛けて飛んでいった。ルベルは亜子を抱いて宙へ逃げたが、他の暴霊達は直にその攻撃を受けてしまった。ビーストの身体は火達磨のようになってしまった。すると、胸に刻まれた紋章が輝きだした。
「それかっ!」
白銀がすかさず銃弾を紋章に向けて放った。紋章は大地洋介の肉体は守ったが、今の攻撃によって彼の力は失われてしまった。
「う……な、何だと?」
発狂する大地を余所に、0は火の弾をアサシン達の方へ放った。ヘビ人間達が次々にもとの姿に戻ってゆく。
「やるじゃねぇか青年!」
墓守達は倒れた人々を助け出し、戦場から離れた所へ移動させた。大地洋介の身柄は城之内が押さえている。これでまた評価してもらうためだ。
ビーストが倒され、殆どの暴霊が姿を消した。残るは亜子と、ルベルのみ。
「さぁ、次はあんただ」
「くっ」
「待ちなさいよ!」
亜子が0を恫喝した。そして、ルベルの前に立った。火は自力で払ったのか。何という恨みだ。
「完璧なものは、完璧なものは私が壊す!」
亜子の身体が青い炎に包まれ、紫色の花の怪人に姿を変えた。髪の毛がツタになっていて、肩や背中からもツタが生えている。
暴霊とルベルが同時に0に攻撃する。0はそれを軽々とかわし、まずはルベルの腕を斬りつけた。炎は引火しなかったものの、剣の威力はかなり強く、斬られた部分が焦げてしまった。
「ぐっ! ぬぉおおおっ!」
今度は暴霊が0を攻撃した。ツタで剣と腕を押さえつけた。
「完璧なものは存在してはいけない。だから、私が壊す!」
「完璧なもの?」
「完璧なもの、幸せなものは罪なのよ」
「どうかな?」
自由な左手でツタを握り締めた。すると、手から炎が噴き出し、全てのツタを焼き焦がした。霊でも痛みを感じたのか、暴霊は悲痛な叫びをあげた。
左側のツタは全焼したが、まだ右側が残っている。暴霊は力を振りしぼってツタを伸ばす。同時にルベルも光線を放った。だがどちらも、0を護るようにして燃え上がった炎によって無効化されてしまった。
「月の術が効かないだと?」
主要な武器を失った暴霊。しかしそんなことで彼女の暴走は止まらない。暴霊は自身の手を広げた。手から青白い炎が上がり、新たに5本のツタが誕生した。彼女の感情が力を上げたのだ。
「お願い、壊させて! 壊させてぇっ!」
伸びてきた5本全てを切り裂き、炎の弾を放った。暴霊はバランスを崩してその場に倒れた。
「あんたに、人の幸せを壊す資格はない!」
剣を振り、炎の波を放つ。ルベルがそれを止めようとしたがもう遅かった。おまけに左腕を燃やしてしまった。
「ぐっ! そんなぁっ!」
「うっ……嫌、まだ、壊してない……」
暴霊は赤い炎に包まれ、1度人間の姿に戻った。だがすぐに、霧のようになって消えてしまった。
「あとはアンタだ」
「くっ!」
ルベルは翼を広げてその場から飛び去った。あのダメージでは彼もまともに戦えまい。
戦いの終結を悟り、墓守達は全員変身を解除した。その後、倒れた仲間達を病院へ運ぶため、秋山と安藤が救急車を呼んだ。城之内は状況を上層部に伝えている。
悠真はあの赤い炎のせいか、力が抜けてその場に座り込んでしまった。気づいた白銀が歩み寄った。
「大丈夫か」
「え? はい」
「そうか。よくやったな、術師を2人も」
「いえ、何とかこの力を発動出来て良かったです」
「力?」
「はい」
悠真は自分の手を見つめた。何となく、あの力の原動力が理解出来た気がした。
翌日、悠真と安藤は大学付近のファミレスにいた。
平岩の電話から草壁亜子の生い立ちを知った。彼女の言葉の意味が理解出来た。
結局会は無事開催されたらしいが、亜子は満足出来ないだろう。暴霊は念が強ければ自力で再び戻ってくる。そうなれば、また彼女を斬らねばならない。心を知った今、悠真は亜子を斬ることが出来るだろうか。
「お待たせしました、チーズドリアです」
「あぁ、どうもどうも。それから、青年が倒した術師だが」
「何か喋りましたか?」
悠真の問いに、安藤は残念そうに首を横に振った。
「大地は精神錯乱で病院送りになったよ。どれだけ人殺しが好きだったんだか」
「そうですか」
安心した。悲惨な状態ではあるが彼もまだ生きている。たとえ相手が術師だとしても、その命までは奪いたくない。
「あと、エリートさん方が感心してたってよ。まぁ、あの城之内とかいうのは信用出来ねぇがな」
噂だが、城之内は自分よりも地位や成績の良い者を忌み嫌う質の男らしい。悠真も何となくそんな気がしていた。
「オムライスです」
「あ、すいません。じゃあ、いだだきます」
「あいよ。……あぁ、そうだ。あの力は何なんだよ? 上も気になってたぜ?」
「そうでしたね」
胸を叩きながら悠真が答えた。急に質問されたので、驚いて詰まらせてしまったらしい。
「あれは、俺が生きている証なんだと思います」
「生きている、証か」
霊の力が引き立つ《−》の力とは違う、悠真が生きているからこそ発動出来た力。その証が、あの赤い炎なのだ。
「色々ありましたが、おかげさまで、まだまだ生きているみたいです」
「ははは、そうか」
初めて出会った日のことを思い出した。
「いっ!」
テーブルの脚に向こう臑をぶつけ、悠真が臑を手で庇った。
「生きている、か」
痛がる悠真を見て、安藤は笑った。
・ハンニバル・・・墓守のエリート、城之内双賀が変身する赤い剣士。手に装着した2本の剣が武器。名前の由来はハンニバル・バルカ。
・ACE・・・墓守のエリート、白銀土岐矢が変身する銀の銃士。銃を操る墓守はそういない。
・アコニット・・・トリカブトを思わせる姿をした暴霊。草壁亜子が変身する。ツタを伸ばす攻撃の他、先端から発する毒で人を殺すことが出来る。アコニット(aconite)はトリカブトの意。




