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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
16/30

死喰らい

 降霊術師・ハーミットに連れられて生霊・緑川がある場所にやって来た。

 そこは暗く大きな部屋で、床も壁も全面大理石だ。中央にはデスクがあるが、そこには誰も座っていない。

 壁には幾つものモニターが埋め込まれており、そこに凄惨な光景が映し出されている。暴霊の緑川も目を覆いたくなるような映像もある。

「これは?」

 茶褐色の怪人と距離を置いて、緑川が尋ねる。

「私の部下です」

「部下?」

「彼等には、魂の回収と言う重要な仕事を任せています。先日1人やられてしまいましたが、その程度ならどうということはありません。彼等は優秀で、我が社では数百個もの魂を管理しています」

 その中には殺害して手に入れたものや、連れ去って来た浮遊霊達も含まれる。

 自分もその中の1つにされてしまうのでは。そんな不安が緑川の脳裏をよぎった。彼の思いを察したのか、ハーミットはクスクス笑っている。

「あなたをここへ連れて来たのは他でもない」

 人間の姿に戻り、ハーミットが生霊の両肩に手を置いた。

「あなたに、素質があるからです」

「素質?」

「ええ。月の術を発動する、素質がね」

 彼は普通の霊だ。月の術と言われても何のことなのかさっぱりわからない。

 後々解説してもらって漸く安心した。月の術は、自身の魂に他人の霊魂を寄生させることで、常に降霊術を発動出来る状態に変えるというものだった。しかしその副作用として、生きた人間の生気を吸わないと肉体は維持出来ないのだという。

 自分には秘められた力があることを知って喜んだ。その月の術とやらを使えば、自分もあの醜い人生から脱出することが出来る。生まれ変わることが出来るのだ。生きた人間から生気を吸うことは何ら問題ではない。自分のためなら他人を蹴落とし、殺すことも厭わない。

 先程とは打って変わって、緑川はハーミットにすがりついた。その術を自分にかけてもらうために。

「教えてください! どうすれば、私はどうすれば生まれ変わることが出来るのです?」

「それにはまず、元の肉体に戻ってもらう必要があります」

 それを聞くと彼の感情はまた落ち込んだ。あんな薄汚い肉体に戻らなければならないのか。

「今回月の術に使用する魂とは、あなた自身です」

「へ?」

「肉体には、本来の緑川さんの魂が入っています。そこに、生霊であるあなたの魂を移植するのです」

 それなら管理している魂を消費する必要が無い。全て緑川1人で術の準備を行える。元の肉体に戻るのは気が引けるが、移植された魂と本来の魂とで、主導権を握るのは強い意志を持った側だ。それなら確実にこの生霊が勝つに決まっている。1日でも早く身体を手に入れ、再び富豪になる。生霊はそんな意志を抱いていた。

「わかりました」

 生霊は暴霊・デュナミスの姿に変身し、ハーミットに挨拶した。

「この緑川、必ず月の術を発動してみせましょう!」

 そう伝えて、暴霊は元の身体の所へ飛び去った。

 人も霊も操るのは簡単だ。ハーミットはそう思って笑みを浮かべた。自身も怪人の姿に変身してヘッドハンティングに行こうとしたが、あることに気づいて足を止めた。

「これは……」

 モニターにある暴霊が映し出されている。暴霊はハーミットに提出しなければならない魂を食べている。これは由々しき問題だ。その魂で、いったいどれだけの人間が月の術を発動出来るだろう。

 至急暴霊を消しに行こうとするが、途中で考えが代わり、敢えてそのままにすることにした。記録によれば、死肉や骨、或いは魂を食らった暴霊はより強力な霊に成長するという。ならばぜひとも、その暴霊を見てみたい。

「これはこれで、面白くなりそうですね」

 モニターを見ながら、ハーミットは笑った。





 神部葬儀屋は今日も慌ただしかった。

 一昨日前に亡くなった男性の葬儀の準備をしている。何でも、夜道で交通事故に遭って亡くなったらしい。現場は真っ暗で足場が悪かったらしく、そのせいで事故を起こしてしまったのではないかとのことだった。遺体の損傷はかなり激しかった。

 主人の神部紀一は遺体をじっと見つめている。妻の佳奈子は気味悪がって部屋から出て行ってしまった。今はこの遺体と主人しか室内にはいない。

 紀一は手を合わせて一礼すると、遺体に顔を近づけて口を大きく開いた。さながら捕らえた獲物を食べる鳥のようだ。紀一が口を開くと、遺体から小さな人魂に似たものが出て来た。男性の念だろう。まずはそれを飲み込むと、続いて身体の方にも手を出した。紀一は人間離れした技で男の身体をバラバラにし、それらを次々に飲み込んでしまった。




 彼はもう人間ではない。暴霊である。

 数ヶ月前に彼も事故で死亡し、店の回りをフラフラしていたのだが、そのときにある人物に声をかけられた。降霊術師という職種らしい。男は紀一に新しい仕事を与えた。それは、遺体に残された念や魂のかけらを集めること。葬儀屋なら集めるのは簡単だ。すぐに了承した。

 男はまず暴霊、そして術師というものが何であるかを教えた。確かにそれを知っていた方が動きやすい。術師に従う霊は他にもいるそうで、皆【ディレクター】と呼んでいるらしい。また、彼等を倒す【墓守】という存在がいることも聞いた。簡単な仕事かと思われたが、敵が居るのでは少々面倒だ。だが、ディレクターはその仕事をやれば給料も支給すると約束してくれた。この不景気、魂1つにつき10万も貰える仕事は美味しい。紀一は喜んで仕事に臨んだ。

 ディレクターの命令に従い、初めの1ヶ月は真面目に魂を集めていた。妻の佳奈子にも事情を説明して手伝わせた。暴霊になった姿を見せるとすぐに信じてくれた。

 だがあるとき、いつものように遺体を見ていると、これまで抱かなかったような感情が湧いてきた。それは、「食べたい」という感情。

 最初に食べたのはご老人の念だった。長年生きて来ただけあって様々な思いが入り交じり、何とも言えない、奥深い味わいだった。霊魂を食べると、今度は遺体そのものが美味そうに見えて来た。これは恐らく、念を食べたことで紀一の身体が遺体に適応したためであろう。

 己に宿った力を使って遺体を八つ裂きにし、それを一気に飲み込む。新しい自分を認めてくれた佳奈子も流石にこればかりは見ていられなかった。食事の瞬間、彼女はいつも部屋の外に出る。気持ち悪くて、見ていると吐き気がしてくるからだ。

 美味い。【死】が美味い。

 死に最も近い場所で働いていたが、この事実には今まで1度も気づかなかった。死を食べると身体に力が漲り、より精力的になる。そして、病み付きになる。霊だから他人を殺しても良かったのだが、それは良心が許さない。だから、こうして遺体が運び込まれた時だけ、紀一は死を食べるのだ。




 今日も食事を終えた。頭だけは残っている。遺族の中には、最後に顔だけでも見ておきたいと棺桶のフタを開ける者がいる。そのときに遺体が無ければ大問題だ。

「終わった?」

 佳奈子が入って来た。

「お前にも迷惑かけたな」

「本当よ。私は、あんたの仕事のせいで人生棒に振ったんだ。責任取って、生まれ変わっても私と一緒に居ることだね」

 結婚して40年。ケンカすることもあった。暴霊になった紀一に驚かされたこともあった。それでも、佳奈子は彼のことを愛している。どんな姿になっても、夫は夫なのだ。

「生まれ変われるのかなぁ」

「さぁね。それは向こうに行ってみないとわからないね」

 狂っている。それはこの夫婦が1番良くわかっている。

 だが、もう後戻りは出来ないのだ。これが、この2人が選んだ道なのだ。






 今日も悠真と安藤は仕事をしている。

 今回の相手はオーブの群れ。共鳴して集合した霊達が、暴霊に近い力を発揮するようになってしまったのだ。

 オーブ群はイワシのように大きな姿を形作り、悠真に向かってくる。安藤は今日も隅で助言するのみだ。

「青年、来たぞ!」

「言われなくてもわかりますよ」

 こうなっては武器では対処出来ない。悠真は黒い霧を発動してオーブを一気に捕らえた。霧が、彼等を逝くべき場所に連れて行ってくれる。

 仕事が完了すると、悠真は武器をしまって隠れている安藤を呼びに行った。だが、今日はその途中、突然胸が苦しくなって地面にへたり込んでしまった。安藤が慌てて駆け寄る。

 鼓動が早くなり、視界が闇に覆われる。あの霧を発動した副作用だろうか。《−》の力は暴霊寄りの力。使う度に、悠真自身も暴霊に近づいてしまうということか。

 まだだ。まだ死ぬわけにはいかない。悠真は安藤や柏康介ら友人達、そして沖田恵里のことを思い出した。まだ彼等と時間を過ごしていたい。こんなところで死んだら直には会えなくなってしまう。

 大切な人達のことを思い出すと、闇の奥に赤い炎のようなものが見えてきた。炎を見ていると、不思議と心が安らいでくる。その直後、視界を覆っていた闇が徐々に晴れて来た。鼓動も正常に戻り、胸の苦しみも止んでしまった。

「大丈夫か?」

「は、はい」

 何事も無かったかのようにピンピンしている悠真を見て安藤もホッと胸を撫で下ろした。

 悠真は自分の手を見てずっと考えていた。あの赤い炎は、もしかしたら生きたいという思いに呼応しているのかもしれない。最初に発動したのは神田明宏と戦っていたときだ。月の術によって生まれ変わった神田に追いつめられたとき、あの炎が助けてくれたのだ。そして2度目は、ブリザードという連続殺人犯と戦ったとき。1度死にかけた悠真だったが、そのときもあの炎が彼を助けてくれた。そして、彼に大きな力を授けてくれた。

 だが、この炎も暴霊探知能力と同じで、自分の意志で発動することが出来ない。使えれば大きな戦力になりうるのだが。

「青年?」

 考え込む悠真に安藤が声をかけた。

「おい、大丈夫か?」

「はい、すいません」

 ちょうどそのとき、安藤の携帯が鳴った。平岩からだ。本日2回目。今日は霊達も慌ただしい。

「また暴霊ですか?」

『すまない。他の墓守達が手が離せない状態でな。頼めるのは君達しかいないのだ』

「わかりました」

 今回は暴霊の正体もわかっているらしい。何でもその霊があまりに無防備で、墓守側も簡単に特定出来たのだという。素人の暴霊なのかと思われたが、次の平岩の言葉でその予想は覆された。

『場所は追って連絡するが、迅野の見立てによると、術師の息がかかっている可能性がある』

 迅野は平岩の元相方であり、あちら側の存在だ。彼が言うことは殆ど信用に値する。生きている人間よりも霊の方が詳しいのは当然だ。

 術師……現段階では、あのハーミットの部下と考えるのが妥当だろう。となるとその霊もまた魂を集めている可能性が高い。月の術に必要な素材を。

 電話が切れてから数分後、早速平岩からメールが送られて来た。場所は都内の葬儀屋だ。ここから近い所にある。なるほど、相手も考えたものだ。葬儀屋なら遺体も運ばれてくるし、仕事柄霊も集まりやすい。そうして集まった霊を捕らえることなど容易ではないか。

「体調どうだ? 行けそうか?」

 安藤の問いに、悠真は笑顔で大丈夫だと答えた。

 付近の駐車場に停めた車に戻り、カーナビに場所を入力する。音声案内が始まると、安藤が車を発進させた。





 夜。

 神部夫婦は葬儀屋に残ってまだ仕事をしている。

 佳奈子を部屋から出すと、紀一は早速食事を開始した。

 まずは念。今日の念は美味くない。生前は何をしていたのだろう。次は本体を分解して一気にかき込む。すると、途中で一部が崩れて器官に入ってしまった。むせて床の上で暴れる紀一。それを見た佳奈子が部屋に戻り、彼の背中を叩いた。

「あんた、どうしたの?」

「畜生、コイツやってやがる」

 何やら人体に悪影響を及ぼすものを吸引していたのだろうか。口の中で分解したのは遺体の骨だった。骨は中で粉のようになり、器官に流れ込んだのだ。

 頭だけを棺桶に戻して、葬儀屋としての仕事を開始した。そんな彼に、佳奈子が不安げな面持ちで尋ねて来た。

「でも、食べちゃって大丈夫なの?」

「え?」

「そのディレクターさん、困るんじゃないかい?」

 動きを止める紀一。佳奈子が言うことも頷ける。ディレクターからの制裁も恐ろしいが、どうしても欲求には勝てない。心配ないと必死に自分の心に言い聞かせる。

「大丈夫だよ。困ったら言ってくるだろ」

「そうだけど……」

 そこへ客がやって来た。

 今の話の内容が内容なので、ディレクターが遂に乗り込んで来たのではと2人が身構える。恐る恐る紀一が玄関に行こうとすると、佳奈子がそれを止めた。ディレクターも彼女のことはまだ知らない。

「ただいま〜」

 言いながら、佳奈子がトンカチを持って玄関に向かう。鍵を開けて古い扉を横に引くと、そこには2人の男性が立っていた。1人は20代の若者、もう1人は中年男性だ。若者は手に刀を持っている。

「どうも」

「ど、どちらさま?」

「安藤さん」

 中年男性……安藤肇が透明な物体を佳奈子に向けて投げた。佳奈子が悲鳴を上げて仰け反ると、その隙に2人が奥に入って行った。通路には白い直方体の箱……棺桶が幾つも保管されている。その奥に部屋がある。そこも引き戸になっているのだが、今はしまっていて中がわからない。

 この奥にターゲットが居る筈。互いの顔を見合って、悠真と安藤が勢いよく戸を開けて中に押し入った。

 中はだだっ広く、外に通じている。中央には棺桶が1つ放置されている。が、敵の姿は無い。

 では、この棺の中に隠れている可能性は? ゆっくりと近づき、フタを開けた。中には誰も隠れていなかった。代わりに10代の男性の首が1つ、箱の中に転がっていた。もう血液は止まっているが、箱の中には所々赤黒いシミが付着していた。

 首を見て驚く2人。すると、

「やめろおぉっ!」

 背後から何者かの攻撃を受けた。武器を取って振り返ると、そこには手から大きな爪を生やした佳奈子が立っていた。

「ちっ、コイツが暴霊だったのか!」

「……安藤さん!」

 更にそこへもう1人乱入して来た。主人の神部紀一だ。変貌した紀一は手に骨を模した大きなこん棒を持っている。

「なるほどな、夫婦揃って暴霊だったのか」

 そう、暴霊は紀一だけではない。佳奈子は紀一のことを愛している。しかしその愛は大きく歪んでおり、彼女は自分の命を絶って彼と同等の存在になったのだ。苦しみも楽しみも、全てを紀一と共有するために。遺体を食べることは無理だったが。

「お前等もディレクターに雇われたのか?」

「知っているのか?」

「ああ」

「その質問をするってことは、やっぱりお前等、アイツと繫がってやがるな?」

 気まずそうに顔を下に向ける両者。だがすぐに前を向き、2人の墓守に立ち向かうことを決意した。両者共青い炎を発動し、紀一は青、佳奈子は黄色い鳥の怪物に変身した。紀一の方は骨に似た装甲も纏っている。死肉や骨を食らった証拠だ。このような霊とは前にも戦ったことがある。

 悠真と安藤も墓守の力を解放、0とアサシンに変身して2体の暴霊に攻撃を仕掛けた。まず0はいきなり《−》の能力を発動、黒い霧で紀一の装甲を破壊する作戦に出た。紀一は霧に捕われながらも、こん棒を振り回して0を殴りつける。一方アサシンが相手にしている佳奈子は大きな爪が武器。細い刀をいとも簡単に払ってしまう。術師から直接指導を受けた紀一ならわかるが、彼についてゆく形で暴霊となった彼女が墓守と互角に戦っていることは驚きだ。紀一に対する愛が力を引き出しているとでも言うのか。

「ちっ、この野郎!」

 アサシンが得意のトラップで佳奈子の動きを止める。突如床や壁から鎖が生え、彼女の手足を捕縛したのだ。鎖から逃れようと暴れる霊を止めるべく、アサシンは村正で片腕を切り落とした。傷口から激しい炎が噴き出し、佳奈子の身体を焼いてゆく。

「佳奈子!」

 それを見た紀一が吠える。すると、彼を捕らえていた霧が吹き飛ばされてしまった。

 自由になった紀一は0を跳ね飛ばし、佳奈子を斬った安藤に襲いかかった。こん棒は骨から錬成された物なのかかなり固い。村正をたたき落とされ、更に頭を何度も殴られる。鎧を纏ってはいるが殴られると痺れる様な痛みが迸る。その隙に、佳奈子は残った腕で鎖を切断、今度は炎を払い始めた。

 何としてでも彼を助け出さねば。0は黄色い暴霊に向けて霧を放射し、彼女の力を借りた。霧が彼の両腕に集まり、大きなかぎ爪に変化した。

「これでどうだぁっ!」

 武器が出来上がったと同時に、その爪を紀一の背中に深々と突き刺した。装甲が中途半端だったのか、爪は彼の身体を貫通した。この武器の元は霧だ。霧は体内から暴霊の力を弱体化させる。

 爪を引き抜くと、紀一はその場に跪き、人間の姿に戻った。力を吸収された佳奈子も元の姿に戻り、最後の力を振り絞って彼に近づき、その身を抱いた。

「あんた……」

「佳奈子、ごめんな」

 こうなって初めて、紀一は自分たちが今まで何をしていたのかを思い知った。あのとき、自分は店の周りを浮遊しているのではなく、そのままあの世に逝けば良かったのだ。そして、暴霊になった後も、何も妻を巻き込むことはなかったのだ。自分1人で仕事をしていれば、佳奈子が身投げして暴霊になる必要もなかったのだ。

「俺、どうかしてたな」

「ふふふ、それでもあんたは、あんたよ……」

 2人は抱き合ったまま火達磨になり、逝くべき場所へ向かった。後に残ったのは灰だけだった。

 墓守2人も人間の姿に戻る。《−》の力を2度も利用したからか、変身を解いた直後に頭痛がし、勝手に霊探知能力が作動した。ネガ反転した世界の中に、ひと際輝く塊が。紀一と佳奈子だ。2人はまだ抱き合っていた。

 2人は笑顔だった。その顔には、暴霊だった頃の恐ろしさは微塵も感じられなかった。

「どうした?」

「暴霊もまた、被害者ってことか」

 ハーミットに目をつけられていなかったら、彼等は別の、もっと平凡で幸せな生活が送れていただろうか。いや、きっと幸せではなかっただろう。佳奈子にとっての幸福とは、夫と一緒にいることだった。1人現世に残されるよりも、一緒に居た方が幸せだっただろう。

 残念ながら、探知能力を持ってしても、暴霊達の過去を知ることは出来ない。何が彼等にとって幸せなのか、悠真達は知ることが出来ない。

 こんなことで問題が解決するとは思わない。無意味な行為なのかもしれない。だがそれでも、今の2人はこうせずにはいられなかった。

 2人は目を瞑って手を合わせた後、車の方へ戻って行った。

・サエーナ・・・葬儀屋の神部紀一が変身した姿。青い鳥の姿をしているが、死肉を食らうことで骨のように固い武器と装甲を得た。

 サエーナとは、ゾロアスター教の教典アヴェスターに登場する猛禽類。


・ワゾー・・・紀一の妻・佳奈子が彼と同じ感情を共有したいがために自害、暴霊となったもの。黄色い鳥の姿をしており、大きな爪が武器。

 ワゾーはフランス語で鳥の意。

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