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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
14/30

氷結#3

 翌日、悠真と安藤はH・Yコーポレーション本社にやって来た。

 朝昼は別の任務も入っていたため、集合は夜になった。昨夜の暴霊のこともあり、墓守上層部が都内の全墓守に召集をかけたのだ。

 地下2階の広間。そこが墓守達の集会所だ。通常、任務は電話で連絡されるのだが、個人的に上層部と面会する時もあり、その場合は地下3階の社長室で行われる。そして重大事件、特に2、3人の墓守だけでは対処出来ない場合は、今回の様に広間に集められ、そこで作戦を報告するのだ。

 今日は前回とは違い時間前に到着出来た2人。だが室内には既に都内の全墓守が集合しており、悠真と安藤が遅刻してきたようになってしまった。2人の後から墓守上層部、平岩雄一郎がファイルを持って入ってきた。

「それではこれから会議を始める。まず、昨夜現れた氷の暴霊の件だが、君達がくれた情報から判断するに、都内に現れた全個体が全く同じ姿だったことが解った」

「では、敵は1体で、瞬間移動を繰り返していたということですかな?」

 墓守エリートの城之内双賀が言った。前回と同じく偉そうな態度だ。同じ秋山とは全く違う。

「いや、同時刻に別の場所に出現した個体もいたらしい。それを考えると、同じ個体を複製しているのかもしれない」

「それって」

「ああ、そうだ」

 以前も全く同じ姿をした個体が現れる事件があった。彼等を生み出した者は……。

「降霊術師が絡んでいる可能性がある」






 その頃冬樹優吾は、社長室で父・源造と話していた。話題は被害者の会についてだ。

「この前は警察の連中も来ていたので、もっと真剣に捜査するようにと直接言ってやりましたよ」

「そうか」

 源造はワイングラスを片手に息子の話を聞いている。しかし話には乗り気でなく、彼から話題を振ることもない。しかも面倒臭そうに聞いている。

「会の参加者からも『ありがたい』という言葉を戴きました」

「そうか」

「失礼ですが、何か不満があるのですか?」

 その言葉を聞くと、源造はワイングラスをカチンとテーブルに置き、息子を睨んだ。優吾も思わず固まった。

「その程度で、私がお前にこの席を譲るとでも思ったか」

 この被害者の会も所詮は人気取りのため。どうやら源造はそう考えているようだ。世間の知らない人間から思われるのならまだしも、実の父親にそう思われてしまうのは優吾も腹立たしかった。

「な、何を言っているのです?」

「もうよせ。次の社長はお前ではなく、優助にしようと考えている」

 冬樹優助。優吾の弟だ。

 それを聞くと彼の様相は一変した。冷静を装っているが額には汗をかき、足は震えている。

「何故です? 何故優助なのですか?」

「いつからだ」

「は?」

「会社の金を使い込んでいるな? 知らないとでも思ったか?」

 そう、実は優吾、会社が得た利益から少しずつ自分の貯金に回していたのだ。それも何かやむにやまれぬ事情ではなく、自分の趣味のために。

「お前のくだらないコレクションのために我が社の金を使ってもらっちゃ困るんだよ」

「それは……」

「嫌なら、今すぐ会社を辞めることだな」

 そう言い捨てて源造は部屋から出ようとした。彼の背中に向かって、優吾は、

「後悔することになりますよ!」

 しかし、源造は何も返さず部屋から出て行ってしまった。

 出世は無くなった。憤った優吾は父が座っていた椅子を蹴り上げた。そして、源造が出て行った扉を睨みつけた。その目は野獣のように血走っていた。




 きっと優吾は暴れているだろう。

 源造は自分の息子を嘲笑い、自販機で温かいコーヒーを買い、休憩所に行こうとした。するとその途中、突然足が動かなくなった。足を見ると、なんと足首から下が凍りついている。驚いて辺りをキョロキョロ見回す源造。そうしているうちに、今度はコーヒーを持つ手が同じ様に凍結してしまった。

「あっ、あぁ……あ! ゆ、優吾! 優吾!」

 必死に優吾の名を叫ぶ源造。しかし身体の氷結は止まらない。氷が体温を奪う。息子を、秘書を、部下を呼ぶ声も徐々に小さくなってゆく。そして、コーヒーもろとも彼の身体は凍りついてしまった。

 そんな彼の姿を、ブリザードは笑みを浮かべて見つめていた。

「プレゼント」

 ブリザードはそう呟くと源造の“オブジェ”に近づき、彼もろとも青い炎に包まれてその場から姿を消してしまった。






 悠真と安藤がH・Yコーポレーションから出て来たのは会議から1時間後のことだった。会社から離れた所にあるレストランで食事を済ませ、これから近くの駐車場に行くところだ。

 例の個体に関しては、攻撃方法等から判断するに、現在騒がれているブリザードの可能性が高いということになった。また、次に現れた際には付近に降霊術師が居ないか注意するようにということだった。

「全く、何考えてるんだか」

「術師の考えることなんてわかりませんよ」

「考えたんだが、自分の兵隊が欲しいんじゃねぇかなぁ」

 最近ハーミットという術士に雇われた暴霊と戦ったばかりだ。ブリザードはそんな霊を生み出すための部下なのかもしれない。

「しかし、警察も大変だろうけど俺達も結構きついぜ? 何の手掛かりも掴めてないしなぁ」

「そうですね。でも、何となくですけどそろそろ……ぐっ」

 突然頭を抱えて悠真が苦しみ始めた。

 この感覚。あの力が発動したのだと悠真は直感した。

 暴霊を探知する能力。今彼は、すぐ近くに暴霊がいることを察知した。頭が痛むが、周りを見回してその霊を探す。すると、

「あっ!」

 と、悠真ではなく隣の安藤が何かを見つけた。その声で悠真の能力は解けてしまった。

 安藤が指差す方向を見ると、そこに奴がいた。巨大な氷の塊。その周りを小さな塊が回転している。物体は冷気に包まれている。

「ブリザードか」

 悠真は刀を引き抜き塊に攻撃を仕掛けた。物体も冷気を何度も飛ばして攻撃してくる。冷気が直撃した場所は凍りついてしまう。しかし不思議なのは、相手が悠真と安藤には攻撃を当てないことだ。彼等の付近には冷気を発射するものの、2人には絶対に当てないのだ。

 悠真も途中でそれには気付いたものの、ここで倒さない訳にはいかない。武器を斧に変えると、塊に向かって衝撃波を飛ばした。暴霊はそれをかわそうとはせず、音を立てて砕けてしまった。

「やったな」

「はい……ん?」

 後ろで音がする。

 振り返ると、粉々になった氷が集まって元の姿に戻ってしまった。悠真が武器を構えたが、相手はもう戦うつもりは無いらしく、何処かへ飛び去ろうとしている。

 2人は逃がすまいと慌ててその跡を追うが、ここで更に別の個体が現れた。術師が近くで操っているのか。

「追え! コイツは俺がやる!」

 安藤の命令を聞き、悠真は先程の個体を追う。個体はスピードが遅いためすぐに追いつくことが出来た。しかし悠真との距離が縮まるといきなりスピードを上げる。これがずっと続く。何処かへ先導しているかのようだ。

 走っているうちに、悠真は自分の知っている道を走っていることに気付いた。現在は全く通っていない道だが、過去に通ったことを脳が記憶している。

 塊は、その記憶の通りに動いている。大通りを走っていたが、途中で細い脇道に逸れた。やはりここも通っている。ここまで来て悠真は漸く、いつここを通ったか思い出した。彼の考えではこの先には……

「マジかよ」

 前方に小学校が見える。名前は、区立明政小学校。

 校門をよじ登って中に入る。廃校になってからは不良の溜まり場になっていたのか、壁や遊具にはスプレーで落書きされていた。

 塊は校舎の隣にある体育館にスッと入っていった。悠真も体育館に向かい、鉄の引き戸に手をかけた。鍵は掛かっていない。勢い良くその戸を引く。同時に冷気が中から吹き出した。月の光が差し込み、体育館内を照らし出す。中にあった物も、そこにいた人間も。

「嘘だろ……?」

 突然の来訪者に、氷川幸助はオブジェをさする手を止めて振り返った。

「まさか、あなたが、ブリザード……」

「……あいつらか。ふんっ!」

 氷川が体育館の奥に手を伸ばすと、何かに吸い寄せられるかのように青い炎が飛んできた。氷川はそれを鷲掴みにし、飲み込んでしまった。

 この獣のような動き。自分の知っているあの優しい教師と同一人物だとは思えない。今日ばかりは悠真も驚きを隠せなかった。

「何でこんなことを」

「何で? うーん、そうだなぁ、何て言うか、生きてるものに興味が無くってね」

 これが連続誘拐事件の動機なのか。悠真は言葉を失った。

「生きている奴等は歳をとるだろう? 歳をとるに連れて記憶力が乏しくなり、動きも鈍くなり、醜くなってゆく。僕は醜くなってゆく人間を見ると虫酸が走るんだ。気持ち悪くてね」

「奥さんも、娘さんも気持ち悪いってことですか?」

「確かに、結婚して子供が生まれてからは幸せだった。生きている人間も良いかなぁ、って」

 おそらくこれが、ブリザードが突然犯行を止めた理由なのだろう。

 暫くは妻と娘と共に過ごす時間を満喫していたようだが、犯行を再開したところを見ると結局2人への興味も無くなってしまったらしい。

 悠真は、怒りを通り越して疑問を抱いた。他者への愛とはそんなに簡単に薄れてしまうものなのか。それは愛と呼べるのだろうか。

「しかも、君達がここを廃校にしてくれたおかげで良い倉庫も手に入った。覗き込む奴がいればこうやってコレクションにすれば良いしね」

「コレクション?」

「そ。僕のしていることは収集だ。それぞれの美しい時間を凍結して永遠に遺す。素晴らしいだろう?」

「……わからねぇ」

「ええ?」

「アンタの考えも、アンタの心も、俺には理解出来ない!」

 怒る悠真。その様子は氷川には滑稽に見えるらしく、手を口に当ててクスクス笑い出した。

 それにしても、彼は目の前にいる青年が自分にとって厄介な存在であることは解っているのだろうか。氷川からは危機感が全く感じられない。絶対に捕まらない。絶対に殺されない。そんな絶対の自信があるからこそ、彼は今も笑っていられるのかもしれない。

「西樹悠真君」

 氷川の目が一瞬白く光った。

「君も、僕のコレクションになってくれないかな?」

 明政小に勤めていたときと同じ優しい口調で詰め寄ってきた。悠真が暴霊を恐れたのはこれが初めてかもしれない。この男には今までの常識が通用しない。墓守としての経験など意味がない。解らない。この男が、この暴霊が。

 体育館から別の氷塊が飛んできた。このとき漸く、彼等がブリザードから逃れようとしている霊であることが解った。

 氷川は手を伸ばしてそれに触れた。するとその箇所から氷塊は粉々に砕け、全て氷川の身体に吸収されてしまった。その様子は嘗て戦った降霊術師に似ていた。他の霊や邪念を取り込んで自分の力に変えてしまうのだ。この技を一般の暴霊が独自に生み出したというのか? コレクションへの欲求がそれを可能にするのだとしたら、悠真は今まで暴霊のことをなめてかかっていたのかもしれない。

「邪魔しやがって」

「あの中に、あんたの奥さんや娘さんも居たんじゃないのか?」

「中身には興味が無いんだ! 僕は、表面に興味があるんだよ。邪魔をするなら身内だろうと関係ない。粉々に砕いてやるさ」

「狂ってるな」

「ふふふ、そうかもね。霊と戦う人間をコレクションに加えるのはこれが初めてだからねぇ!」

 豹変した氷川が悠真に襲いかかってきた。墓守であることは理解しているらしいが、今の彼にはそんなことは関係ないのだろう。

 悠真は向かってきた氷川を刀で斬りつけた。氷川は斬りつけられた腕を押さえて悲鳴をあげる。だがすぐにそれも止み、ゆっくりと手をどかして傷口を見せた。服は斬れているが、肉体は切れていない。吸収した霊力のためだ。

「痛いじゃないか西樹君。早く凍らせてあげないと」

 両手を伸ばし、そこから強烈な冷気を放射した。その威力は地面を瞬時に凍らせてしまうほどだ。

 悠真は慌てて攻撃をかわし、衝撃波を放った。しかし氷川の冷気はその衝撃波まで凍らせてしまった。美しいオブジェだ。悠真もつい見とれてしまう。その隙をついて氷川が悠真に飛びかからんとする。身体能力も高いようだ。

 近距離攻撃は危険だ。刀を連射式のガトリングに変化させると、宙を舞う標的に向かって弾を乱射した。今度は攻撃が彼に直撃し、氷川は地面に叩きつけられた。更にそこを剣で斬りつけると、氷川は再び悲痛な叫びをあげた。

「あんたに凍らされた人達はもっと苦しかったんだ!」

「……もう終わりかい?」

 突然腹部に何かが直撃し、悠真は校庭へ飛ばされた。

 氷川の手が氷の塊に覆われている。この拳から繰り出されたパンチを直で食らってしまったのだ。氷塊が無くなると、埃を手で払ってスッと立ち上がった。あの悲鳴は全て芝居。本人は全く痛みを感じていない。

「西樹くーん! もう諦めるんだ! 危険だよ!」

 教師のように悠真に呼び掛ける氷川。悠真はよろよろと立ち上がると、青白い炎を纏って墓守・0の姿に変化した。ボードに乗って宙を舞い、氷川に向かってゆく。

「教師面すんじゃねぇっ!」

 再び銃を乱射するがやはり通用しない。身体に冷気を溜めると、氷川はそれを雹に変えて0に飛ばしてきた。雹はボードに直撃し、0は校庭に叩きつけられた。

「全く。僕は君のことを思って言っているのに。残念だよ、君をコレクションに入れられなくて」

 両手を広げ、同じ様に青白い炎を纏う氷川。だが彼の場合はこれで終わりではなかった。

 体育館から全てのオブジェが飛び出してきた。それらは宙に浮き、氷川の周りを回っている。……と、突然それらも彼に吸収されてしまった。あのオブジェひとつひとつに、まだ被害者達の念が詰まっている。その念も全て己の物にするつもりなのだ。

 念を吸収すると炎も更に大きくなってゆく。0は武器を握る手に力を込めた。

 氷川の掛け声と共に炎が吹き飛ばされ、遂に暴霊の姿が露わになった。

 普通の暴霊よりも大きい。蜘蛛に似た8本の大きな足が生えた玉座、その前方から生える2本の竜の首。怪人の肉体は玉座と1体化している。その左右には巨大な2対の腕が浮かんでおり、どちらも先が巨大な槍になっている。確かにこの姿では、分離した腕が無ければ戦い辛いだろう。

 この姿を見たとき、まるで国王の凱旋のようだと思った。自分こそが王、そんな氷川の思いを反映した姿なのかもしれない。

「さようなら、西樹君」

 2対の竜の首が0の方を向き、口から冷気を放ってきた。冷気はこの竜によるものだと理解した。ダメージがまだ回復していないため足首から下が凍らされてしまった。氷を溶かすために黒い霧の力を発動した。霧がが氷を破壊してくれたが、そのときにはもう遅かった。暴霊は既に目の前に迫っていて、0は巨大な腕によって再び吹き飛ばされてしまった。よろよろ立ち上がるとまた竜が彼に向かって冷気を放射してきた。しかも2人の距離はほんの数秒で縮まっている。ボードに乗ってなんとか空に逃げることが出来た。

 上から見ることで暴霊の動き方がよく解る。あの8本の足が高速移動を可能にしているのだ。また、玉座の怪人が手を動かすと宙に浮く2本の腕も同じように動く。観察しているとそれらの腕が迫ってきた。刀を楯に変化させて防御するが、1本の腕を防いでいる隙にもう1本に背後をとられ、背中に強烈な1撃を食らった。その威力は翼を消滅させる程だ。

 地に落ちた0。暴霊が彼を見下ろす。

「まずい」

 彼を威嚇するかのように2体の竜が吠えた。

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