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GRAVE KEEEEPER【Red Moon】  作者: 鵤牙之郷
13/30

氷結#2

 その3日後。

 悠真は安藤宅でニュースを観ていた。安藤は風呂に入っている。ニュースではブリザード被害者の会に関する情報が流れていた。7年前の被害者家族に加えて新たなメンバーが加わったそうだ。その数12名。既に6人の男女が誘拐されている。

「ふぅ、温まったわ。ん? ブリザード?」

「はい。7年前の殺人鬼」

「被害者の会か。また被害者が出たのか?」

「そうみたいです」

 新加入者の会見の様子が流される。子供を奪われた家族もいるではないか。

『息子を、息子を、返してくれぇっ!』

 父親が涙ながらに訴える。彼は妻も誘拐され、数日後2人の写真が送られてきたという。続いて老婦人。彼女は夫を奪われた。

 こうして1人1人自分の思いを訴えてゆく。その中に、知っている者いた。その1人は、

『氷川、幸助です……』

 2人は思わず前のめりになった。

 まさか氷川まで被害に遭っていたとは。こうなると暴霊の存在を考えざるを得ない。彼が以前勤めていた学校を廃校に追いやったのは、生徒やモンスターペアレントに嫌気がさした降霊術師だった。もし術師が氷川と悠真達との繋がりに気づいていたとしたら。

 大量の魂を集めると同時に口封じを行う。術師にとっては一石二鳥だ。

『つ、妻と子供が、誘拐されました。毎日が、毎日が地獄のようです。お願いします。お願いします! 家族を、返してくださいっ!』

 氷川はその場に泣き崩れた。彼は子供も愛していた。妻、そして我が子が犠牲になったとなれば無理もない。

 ニュースを観ていると、丁度安藤の電話が鳴った。見ると墓守上層部の平岩雄一郎からの連絡だった。彼から安藤に電話するときは、大抵暴霊に関する連絡だ。

「もしもし?」

『急にすまない。一応伝えておこうと思ってな』

「はい?」

『秋山君には既に伝えてある。大至急、ブリザードを追ってほしい』

 やはり相手は暴霊なのか。術士の策略だという可能性が強まった。

『これからメール送る。その住所の所に11時までに来てくれ』

 そう告げて秋山は電話を切ってしまった。そのすぐ後にメールが届いた。住所と、被害者の会に関する事項が記されていた。

 なるほど、確かに悠真と安藤だけでは接見は難しい。秋山に同伴してもらった方が良い。

 会話中の安藤の様子を見て悠真も何か察したようだ。

「術師ですか?」

「ああ。ブリザードってのは、只の殺人鬼じゃねぇかもしれねぇぞ」

 言いながら、安藤が自分の布団を敷く。今日はもう遅いから何も出来ない。明日、何か情報が得られれば良いが。





 翌朝。

 悠真と安藤は車に乗り、昨夜教えてもらった場所に向かった。

 場所は文京区の冬樹ホールディングス本社。何でも会のリーダーがその会社の重役なのだという。ついた頃には時刻はもう10時54分。時間が押している。真新しいビルの地下駐車場に車を停めると、2人は近くのエレベーターに乗って集会所に行く。場所は21階。機体は静かに上昇する。扉が開くと、秋山が腕を組んで待っているのが見えた。

「遅いよ」

「あぁ、悪い。集会は?」

「こっちだ。氷川さんを通して、君達もここに来ることを許可してもらった」

 秋山に連れられて廊下を進み、第2会議室に入る。

 中では既に会の指導者が話をしている。この会社の重役、冬樹優吾だ。社長の冬樹源造の長男であり、ゆくゆくはここを継ぐことになる。年齢は32歳。この若さで会社を、そしてこの会を率いる身とは。かなりの秀才らしい。

「そして……」

 話を止めて優吾が秋山達3人を見る。彼には失礼だがあまり優しそうには見えない。眼がどこか冷たい印象を与えるのだ。

「こんにちは。秋山です」

「氷川さんから聞いております。警察の方だとか」

 警察。その言葉を聞くと、被害者家族達が口々に文句を言い始めた。なかなか犯人を逮捕出来ない彼等に対して怒っているのだ。特に7年前に家族を奪われた者達は尚更だろう。

 優吾もそれに加わり、淡々とした口調で秋山を責める。

「警察はいったい何をやっているのでしょう。かれこれ7年も経っていると言うのに何の手掛かりも掴めない。全くやる気があるのか」

「申し訳ありません」

「いえ、私も言い過ぎました。今日は終わりにします。皆さんも聞きたいことがあるでしょう?」

 そう言って優吾は部屋から出て行った。

 殆どの参加者も警察を信用していないらしく、秋山達を睨みながら帰ってしまった。残っていたのは氷川だけだ。彼は墓守の存在を知っている。暴霊の仕業だった場合、頼れるのは彼等だけだ。

「秋山さん!」

 氷川が3人を呼んだ。駆け足でそちらに向かう。氷川は笑顔を見せたが目だけは笑っていなかった。

「お久しぶりです、氷川先生」

「いや、僕はもう教師ではありませんから」

「新しい勤め先は?」

「それも探している途中だったのですが……」

 悠真は聞いて後悔した。嫌なことを思い出させてしまった。安藤が彼の背中をポンと優しく叩いた。

 秋山が氷川から事件に関することを聞き始めた。氷川は1度溜め息をつき、静かに語り始めた。

「その日は、ハローワークに行っていたんです」





 降霊術師・ビーストと卒業生の手によって明政小が廃校に追いやられてから、氷川は新しい職場をずっと探し続けていた。

 この間、彼は卒業生に対して申し訳無く思っていた。自分達教師が気づいていれば、あんなことは起きなかったのではないかと。だから今回の失業は罰なのだとも考えていた。

「じゃあ、行ってくる」

「ええ」

「パパ、いってらっしゃい」

「ごめんな、苦労かけちゃって」

「あなたのせいじゃないわ。あ、傘持った? 今日雨降るみたいだから」

「ああ、ありがとう。じゃあ行って来ます」

 そう、その日は大雨の降る日だった。

 ハローワークに行き、職場を探す日々。なんとか年内には新しい職を決めたかった。現在は妻の郁子が内職やパートで賄ってくれている。まだ娘の綾香も小さい。これ以上家族に苦労をかけたくなかったのだ。

 夕方近くのスーパーで買い物をして、歩いて自宅に戻った。クリーム色の壁が可愛らしい、2階建ての1軒家だ。悴んだ手で鍵をポケットから取り出してドアノブに挿し、回そうとする。が、何かがおかしい。普段回す方向に鍵が回らない。ゆっくりとノブを掴んで引いてみると、ドアがギィィという音を立てて開いた。

 外出中に何かが起きた。恐らく良いことではない。鍵を鍵穴に挿したまま、氷川は中に入る。靴も汚く脱いで、まずはリビングに入る。部屋は全く荒らされていない。

「郁子? 郁子?」

 返事はない。更に奥に入る。

「綾香? 綾香?」

 やはり返事は無い。今度は2階に上がる。2階には寝室と、今は大きめの物置部屋だが、ゆくゆくは綾香のものとなる部屋がある。しかし、やはり2人は居ない。しかも何となく外よりも肌寒く感じる。

 すぐに警察に通報したが、来た警官は全くやる気が無く、捜してくれと訴えても、

「散歩に行ってるんでしょう? すぐに帰ってきますよ」

 と言うだけだ。それだけではなく、

「悪戯なら、これは罪に問われますからね」

 とまで言ってきた。何故自分が罪に問われなければならないのだ。

 そこからは絶望の日々が続いた。ハローワークにも行っていない。いや、そもそも外出していない。寒い家の中でずっと座っていた。

 飯も喉を通らない。外に出るのは、ポストに入った郵便物を取るときだけ。新聞を外に溜めて、隣近所の人に心配をかけたくなかった。

 それから何日経っただろう。郵便物を取りに外へ出てポストを確認すると、封筒が1通入っていた。差出人は不明。

 この封筒。氷川はハッとしてその場で封筒を開けた。中には1枚の写真。暗い倉庫の中に青白く輝くものが2つ。目を凝らすと、それが人型をしていて、女性のものであることが解る。そして、その顔をよく見ると……郁子と綾香そっくりだった。

「ひ、ひひ……ひひひひ……ひはははははは!」

 思わず笑ってしまった。これで警察も本格的に捜査をしてくれる。あの刑事も態度を変えて全力で妻と娘を捜してくれる! 何しろこれは、あのブリザードの犯行なのだから。




 話を終えると、氷川は深い溜め息をついた。

 ブリザードの犯行だと解ってから漸く動き出した警察。悔しかっただろう。いや、小学校廃校等もあったから、警察に対する怒りの感情を持つ余裕も無かったかもしれない。

「結局、今も妻と娘の安否は確認出来ていないんですけどね」

 彼は必死に笑顔を作って話を続ける。

「以前あんな事があったばかりですから、それまで神仏や超常現象なんて全く信じていなかったのですが、最近じゃあ毎日神社に行って手を合わせています」

 姿の見えない者に懇願する。安心は出来ないが、今は他に信頼出来るものが無いのだ。

 もしかしたらこの事件も霊によるものなのでは。そう思うこともあった。だが周りにそんな話をしても信じてくれる訳がない。今回秋山達を呼んだのも、そういった考えがあってのことだった。

 昨夜の術士の僕。何となく秋山はそう思った。しかし確証は無い。あの夜、鎧のような暴霊と戦ったあの夜に、ハーミットという術士から聞き出せていれば。もう悔やまないと決めていたが、この時ばかりは、秋山は己の無力さを恨んだ。

「何で、何でこんなことに」

 氷川は遂に泣き崩れた。

 悠真達は声をかけることが出来なかった。彼の感情は、彼と同じ経験をした者にしか解らないだろう。

 それから5分ほど氷川は泣き続け、悠真達3人もそのまま彼を見守っていた。そんな彼等の様子を、暴霊はじっと見つめていた。






 オブジェだらけの倉庫。

 ブリザードは居ない。次の獲物を探しに行ったのだろうか。

 これらのオブジェは作り物ではない。暴霊によって凍結させられた人間だ。気に入らずにブリザードが破壊したオブジェもある。だから倉庫内には怨念が渦巻いている。

 彼等には未来があった。その未来が勝手に遮断されてしまったのだ。

 念は渦を巻いて何かを形作ろうとしている。しかし力が出ず、集まってもあと1歩というところで分散してしまう。助けを呼ぼうとしているのだ。

 この倉庫に近づく者は居ない。稀に数名いたが、彼等は悉くブリザードのオブジェにされてしまった。そしてそのうち何名かは失敗作として破壊されている。

 苦しい。悔しい。この思いを晴らすために、この苦しみから解放されるために彼等の念は動き出したのだ。今日だけではない。毎日ブリザードが帰ってくるまで彼等は挑戦し続けた。ブリザードに知られないために、無理だと判断したらそれ以降はやらないことにしている。相手も同じ霊だ。しかも自らの欲を満たすために蘇った、自分達よりも圧倒的に強い霊。見つかったら霊体になっても凍結されてしまうかもしれない。

 この日も成功出来ず、霊達は念をバラバラに分散させた。もう駄目なのか。このまま永遠に、ブリザードの奴隷にされたままなのか。

 そんな彼等に、ひと筋の光が差し込んだ。他の霊よりもひと際鮮明な霊が現れた。彼も被害者の1人だ。独自に力をつけたのかもしれない。つまり、暴霊に近い存在になったということだ。

 彼はゆっくりと両手を広げた。自身が器となって念を集める気だ。先程まで虚しく渦を巻くだけだった念が冷気の如く流れはじめ、彼の中に入ってゆく。すると、彼の身体から青い炎が吹き出し、彼を異質な存在へと変貌させる。どんな姿になろうが構わない。自由を手に出来るのなら。

 しかし、運悪くそこへブリザードが帰ってきた。彼と冷気は再び分散した。なんとか敵には知られなかったようだ。

 ブリザードはいつものように自分の作品を撫で回し始める。それを、彼等は悔しそうに睨んでいる。こんな日がいつまで続くのだろう。

 だが、全く希望が無いわけではない。今の暴霊が、道を切り開いてくれる。霊達はそれを信じた。






 それから1週間以上経過したある日。

 悠真は恵里と一緒に都内のレストランで食事をしていた。2人きりで出かけるのは久しぶりかもしれない。

「そっか、大変だね」

「ああ」

 墓守の仕事をはじめ、色々なことを話す悠真。そしてそれを聞いてくれる恵里。彼女と話していると疲れが癒えてゆくように感じる。悠真は食事そっちのけで彼女と会話した。

 店を出た後は適当に色々な場所に行った。彼女と過ごせるのなら行き先は何処でも良かった。特に買う物も無いのに電化製品の店に入ったりもした。ここは家電だけでなく書店やCDショップも入っているのでつまらなくはならない。

 商品を色々見ていると、あるニュースが耳に入ってきた。振り返ると、そこには50インチのテレビが置かれていて、ちょうどニュース番組を放送していた。しかも今日はブリザードの特集だ。また新たな被害者が出たらしい。被害者には接点が無く、警察もマスコミも、誰も犯人像が掴めていないらしい。

「ブリザード?」

「ああ」

「西樹君が注目してるってことは、もしかして怪物が絡んでるの?」

「多分ね。……って言うか、暴霊以外のニュースも毎日観てるよ」

 言いながら、悠真は画面を食い入るように見つめる。

 これまで誰にも見つからず、また浄霊されなかった暴霊。途中で活動を止めたことが引っかかる。何か、止めなければならない理由があったのだろうか。

 と、画面に冬樹優吾の姿が映し出された。会見場の席に座っており、隣にも被害者の会メンバー数名が席に着いている。1昨日の映像らしい。

『確かにブリザードのターゲットには接点が無く、捜査も難航しています。しかし、ブリザードはご丁寧にも、7年間の有余を与えてくれました。その間に犯人を特定する証拠を揃えることが出来たはずです』

 何だ、この挑戦的な発言は。7年やったのに正体が解らないのか、とでも言っているかのようだ。

 まさかこの男……。

 被害者の会を設立すれば、被害者の家族は間違い無く信用する。そうすれば、自分は確実に捜査線上には上がらない。では7年のブランクは? 会社の昇進と関係していたというのはどうだろう。犯行を続けていて業績が下がり昇進が危ぶまれた、ということも考えられる。何しろ彼は社長の息子だ。父親も業績悪化は許さなかっただろう。

 ここまで推理してみたが、悠真はその考えを捨てた。小説の読みすぎだ。何の証拠も無いのに先入観だけで判断してはならない。そうやって冤罪も生まれるのではないか。

 暫くニュースを観ていたが、時刻はもうすぐ19時。2人はそろそろ帰ることにした。

「あの人、何か良い人には思えなかった」

「え?」

「ほら、被害者の会の冬樹さん」

「あぁ」

「何て言うか、人気取りの為にやってる感じがして。私がおかしいのかなぁ」

 なるほど、そういうことも有り得るか。人気があったほうが次期社長の座もより確実なものとなる。ブリザードではないにしろ、あまり褒められたことではないが。

「ねぇ、どう思う?」

「え? うーん、確かにそうかもなぁ」

 以前彼に会ったときのことを思い出しながら答えた。

 近くの駅に行き、悠真と恵里はそこで別れた。

 当初の目的とは違うが、今日は悠真にとって内容の濃い1日だった。改札を抜けてホームに上がる。仮に彼女と生涯のパートナーになるとすると、あんな感じになるのか。悠真は想像してみる。すると、突然携帯の着信音が鳴った。相手は安藤だ。悠真はむっとして電話に出た。

「何なんすか? 今……」

『暴霊だ! 暴霊が出た!』

「えっ? 何処ですか?」

『それが妙なんだ。奴等、都内の各所に出没してるんだ! 他の墓守も手こずってる! しかもそいつ等、物を凍結させる能力を持ってるらしい』

 凍結させる能力。ブリザードの仕業か。

 安藤は“奴等”と言っていたから、敵は複数体いるようだ。ブリザードの部下なのかもしれない。

『奴等、どんな所にも出て来やがる! うわっ』

「安藤さん、今戦ってるんですか?」

『そうだよ! おらぁっ! ……逃がしたか。まぁ気をつけろよ』

 電話はそこで切れてしまった。

 今まで足跡1つ残さなかった暴霊が、ここに来て遂に襤褸を出したというのか。

「何故だ」

 電車が丁度ホームに到着した。

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