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序章ⅰ

あらすじにも書きましたが、これは“魔王様探しの旅”のリメイクになります。

内容的には同じですが、主人公の心理描写などが大幅に違ったりしております。

前作からこのお話を楽しんでいただいていた方は、主人公の性格面が変更されているので、少し納得いかないかもしれませんが、今後はこのようなキャラクターにしようと思っています。ご了承ください。


と、注意書きを書いたところでそんなことどうでもいいという方が大半でしょう。ということで本編、お楽しみください!



 彼女からの提案は期せずして降って沸いた偶然であり、そうして訪れるべくして訪れた必然であったような気もする。

 元々彼女は、その時代の世間の流れというものに敏感で、何にでも興味を示せる好奇心があった。そうしてその好奇心を満たすための財産も行動力も併せ持っていたため、彼女の友達であった私はソレによく巻き込まれていた。


「はい。プレゼントよ!」

「……あ、ありがとう」


 差し出された私への誕生日プレゼント。

 休日に被ってしまった誕生日だったが、彼女――百合花ゆりかは態々私の自宅までやってきてくれた。

 玄関前で花のような笑顔を咲き乱れさせながら、その手に持った誕生日プレゼントかと思われるかなり大きな正方形のよくドッキリで使われそうな包装された箱を差し出す。

 確かに電話で『これからプレゼント届けに行くから』とは宣言されてはいたものの、さすが金持ち、プレゼントの大きさからして違うか。

 そうは言っても彼女は毎年私が言葉を失うようなものばかりプレゼントしてくれるので、今更突っ込んだりはしない。受け取って! とばかりに目の前に迫るその箱に手を伸ばした。


「おもっ!」

「そりゃそうだよ。なんたってそれは――」


 持ってみればすこぶる重かった。百合花がどうして笑顔で持ち続けられたのかと疑問に思うほどだ。支えるのも一苦労で、一瞬でも気を抜いてしまえば手から滑り落ちそうだ。

 そんな中、先ほどまでこの箱を持っていたとは思えない涼しい顔で、なんてこともなさそうに彼女は爆弾を投下した。


「――今話題のVRMMOのゲーム機だからね」


 それを聞いた瞬間、私の腕から箱の感覚が消えた。




 私は一般的、標準的な女子高校生である。

 なんだか有名な“我輩は猫である”と意図せず似てしまったが、それは意識しないとして、とりあえず世間の目から言うと、目に留まるほど美人であるわけでもなく、裕福であるわけでもない。

 勉強に苦心し、お洒落に全力なわざわざ何かを特筆することもない人間――だが、私の友人は違う。

 小学生からの付き合いなので、腐れ縁とも親友とも、そうして悪友とも呼べる都合の良い彼女は、目に留まるほどの美人であり、かなり裕福な家庭であった。

 幼い頃からそれが当然だったために嫉妬心などはなかったが、トラブルメーカーである彼女に付き合わされたり、巻き込まれた周りを見て哀れを感じて合掌したりなどは頻繁にしていた。

 そんな飽きない彼女であるから、その発生させるトラブルも普通のものではなかった。

 そうして、今回も。



 世間の関心は、『VRMMO』と『メット』の二つに集中していると言ってもいいだろう。

 テレビのニュース番組では必ず話題にされ、その技術やPV映像、開発者の声や世界からの反応など、さまざまではあるが、どれもこれもその技術を高く持ち上げるものだった。


 “メット”というものはつい数年前に開発された仮想空間体験装置である。

 その画期的な技術はその機器が発表された時点で世間を驚愕させた。メットの機器自体はかなり巨大だ。頭につけるヘルメット状の(余談ではあるが、ここからメットという名前が付けられたそうだ)神経へ直接電子で情報を送信する機器を取り付け、専用のベットに横たわり、縦横1メートルほどの機械を起動させて仮想空間を実現させる。

 つまり、三次元とは違う電子の空間へ意識を埋没させることが出来る機器が誕生したのだ。

 開発元は日本の企業であり、その新開発は近頃影を落としていた日本の技術大国という名を一躍引き上げ有名にした。

 その後企業や国同士でのごたごたはあったものの、無事製品化され、メットは医学や軍事、研究へ役立ってゆくことになる。

 そして――機器の機能面・重量面での改善が進み、コンパクト化が目に見えて成功してゆくと、やはりこう考えるものが出る。


 ――その仮想空間でゲームをしてみないか?

 どこの誰が言ったかは知らないが――ああ、確か現在初のVRMMO会社の社長だったか――名言として何処かのニュースで大々的に取り上げられていた。

 なんというか、考えるだけなら誰でも出来そうだが、それを実行してしまうところが凄いと思う。

 という個人的な意見はさておいて、VRMMOとはVR=バーチャルリアリティ。MMOは多人数同時参加型オンラインRPGのことである。ウィキ博士は偉大である。

 簡単に言うと、メットを使い、非現実世界で体感できるオンラインRPGのことだ。

 バーチャルリアリティという以外は特に相違点はない。だがその相違点が子供たちを、更には大人たち、勿論ゲーマーたちを引きつけるには十分な要素だった。それが健康上の理由で一日5時間に設定されていたとしても有り余るほど。

 仮想空間に意識だけを飛ばす――といっても、それはほぼ現実の世界と変わらないのだという。身体は自分の意志で現実世界と同様に動かすことも可能、視覚や聴覚は変わらず稼動している。そうなれば自身の活動範囲、内容は無限だ。現実世界で何をやってもいいように、そうして何でも出来るように、圧倒的な自由がそこにはあった。

 それがゲーム――人間の想像と空想が入り混じった非現実が――味わえるのならば、喉から手が出るほどに欲しいお宝だろう。

 しかし、そう簡単にはいかない。

 そのVRMMO自体は、そこまで高値ではない。初のゲーム機器でのソフトなので高いといってしまえばそこまでだが、一般人でも購入できる値段である。

 だが、肝心のゲーム機器がVRMMOゲームに夢を見ていた者たちの高鳴る鼓動を凍りつかせるほどには、絶望的であった。

 値段でいうと――はて、英数字で丸の数はいくらあったか。しかし、少しでもゲームを起動させてみたいと願っているものが見れば、途中で丸を数えることを諦めるほどの価格だった。

 


 さて、説明が長くなったが私の友人である彼女は裕福である。しかしメットは富裕層でも手が出せないほどの高値だ。

 しかし、百合花家はただの金持ちではなかった。“かなり裕福”な家だったのだ。

 ここで外国にある別荘の話をしよう。何度が遊びに行かせてもらったことがあるのだが、庭の面積が車を走りまわせるほどの広大さで、豪邸の中に入れば宮殿のようにキラキラと光り輝いているという……もうなんだかテロにあった方が良いと思われる別荘なのである。

 思い出すのも胃が痛くなるのでここらでやめるが、それはそれは現実離れした別荘を所有している家の娘なのだ。

 だから当然――手に入れることが出来た。

 そう、その高級品すぎてまったく手が出せないVRMMOゲーム機を。


「ええと、体の適当な大きさと、顔の形を作るんだっけ?」

「そうそう。まったく、折角あげたのに落として壊しちゃうなんて……ショックなんだけど」

「だからゴメンって、だって普通“メット”がプレゼントって思わないでしょ。

 ……ああもう分かったから、その恨みがましい目やめて。ちゃんと参加してあげてるでしょ」

「当たり前だよ! まったく予備があったから良かったものを」


 予備とは何ぞや。

 プレゼントの中身が判明し、同時にそれを壊した私が混乱し謝り続けるのを見かねて言った彼女の言葉に、思わず素で返してしまった言葉である。

 プレゼントの中身がVRMMOゲーム機だと聞いた瞬間。私は意識を一瞬飛ばした。なにせテレビをつければ必ず特集しているあの馬鹿高いゲーム機器なのだ。思わず金額に思考を奪われ重さに震えていた手から滑り落ちたとて不思議ではない。

 しかし箱に入っているとはいえ、精密な機械だ。多少の衝撃ですぐに駄目になる。例に漏れなく一メートルほどの場所から落下したそれも、見事に壊れた。

 ゴッと可笑しな音がして、箱からすぐに煙が立ち始めたのた。私はあの瞬間のことは忘れない。あの、悪夢のような黒い煙を……。

 その後プレゼントを破壊したことと、高い品を駄目にしてしまったことを平謝りしている私に百合花は優しい口調で慰めてくれた。

 ――まだ予備はたくさんあるよ。と。


 ある意味でメットを破壊してしまったことより、あの言葉はトラウマである。こいつこわい、なんでそんなにいっぱいあるようなこというの。

 そんなわけで私は関心はあったが実際に自分で操作するとは予想だにしなかったVRMMOゲームを友人に“一緒にやろう”と誘われる形で遊び始めることになった。

 興味はあるがやる気はなかったゲームではあるが、さすがに一度高級ゲーム機をプレゼントされた上にそれを一度壊し予備を貰った身の上としては、断ることはできないし、友人がそれはもう楽しげに誘ってくるので流されるままにゲームに手をつけた。


「でも良かったね! 顔とかも変えられるから、枝理の普通の顔も美人さんに出来るよ!」

「握りつぶされたいか」

「すいませんでした!」


 そんな掛け合いをしつつ、一日掛かりで私たちは自分達がVRMMOで使用する身体を完成させた。



 しかしこの頃には想像だにしなかった。

 まさか、この選択があんなことになるとは――。



「はっ!? やめる!?」

「うん。飽きた」


 こいつ頭かち割ってやろうか。そんな殺意にも似た何かが沸き起こるが、まぁ大丈夫だ。金持ちのすることなど突拍子がなくて当たり前、それに彼女とは今まで長い間付き合ってきたじゃないか、こんなことはよくあることだ。

 仮想空間内――すなわちゲーム内で告げられた言葉に色々と過去の出来事を交えながら落ち着きを取り戻させる。

 今私たちがいるのはVRMMOソフトの中、即ちただ今私と百合花はメットを装着し、仮想空間内に沈んでいる最中だ。

 メットは起動させると自動的に意識が仮想空間に繋がり、現実世界ではそれが寝ているように見えることと、意識が仮想空間に繋がる瞬間が海に沈むような感覚からメット起動することを“沈む”と表現するのが通例となった。


 私にとっての爆弾発言をまたもやしてくれた百合花はどう足掻いても飽きているそうで、これ以上このゲームを続ける考え――というか気力は無いようだった。

 元々彼女はゲームが好きというわけではなかった。ただ今回は世間が騒ぎ立て、それに興味を持っただけに過ぎない。

 初めの頃は楽しんでいたものの、だんだんと面倒に成り始め、そうして飽きてしまった。

 さすがに誘った私に報告はしなければと思ったらしく退会を告げられたものの、いままで暇で仕方が無かったのだろう。共にゲームをしている中でもテンションが低いとは思っていたのだ。

 突然の百合花の告白に頭を痛ませた私であるが、それより頭が痛かったのは、“私はゲームを止める気がなかった”ことに、だ。

 

「分かった。面白くないって思うゲームやってても仕方が無いしね。

 でも、私は……なんていうか、このゲームに嵌っちゃったんだけど……。

 メット、返さなきゃ駄目?」

「何言ってるさ。メットは私が枝理にあげたプレゼントだよ? 返却されたらショックだよ。せっかく今までのプレゼントの中でつき返されなかったプレゼントなのに……。

 それに、枝理が『アヴァロン』に熱中してるのは知ってるしね。でも……時々はゲームじゃなくて私とも遊んでね」

「百合花……分かった。『アヴァロン』を一刻も早くコンプリートするから、待ってて!」

「え? 私よりコンプリートした後なの? っていうかそれ何時になるの!?」


 百合花は私が既にVRMMOゲームソフト、通称『アヴァロン』と呼ばれるこのゲームに嵌っているのは気付いていたのか、胸を張って笑顔で愚問とばかりに断言してくれる。

 それに安堵しつつ、気前の良い友人に感謝する。


 『アヴァロン』とはゲームの中での高い割合を占める良くある“ファンタジーゲーム”の部類に入る。

 自分の種族や職業を設定し、自分の分身を操作して仮想空間で戦闘を行ったり、時には遊び、学び、商売を行い楽しむ内容だ。

 

 私のアヴァロン内での種族及び職業は無難なところで『ヒト科、人間』『剣士ソードマン』だった。友人は『幻獣科、エルフ』『牧師クレリック』である。

 私はゲーム用の人体を作る過程で一般に美人と認識される黒髪黒目のキャラクターを作った。友人は面倒だとインストールした自分の顔立ちのままで、エルフは自動で顔つきが端整になるという補正付きであったが、何故かゲーム内でも元の顔とは相違がなかった。確かに変に手を加えたら美人の黄金率が崩れてしまいそうな顔ではあるが。

 百合花は退会する際、自分で会得したアイテムや金銭なども私においていってくれた。

 ゲームで遊ぶ時は必ずコンビで行動していたので、一人きりになるのは心細くはあったが、それも数日経ち、新しくオンラインで出会った仲間を引き入れ感じることはなくなった。

 学校で会話する中でそれを言うと頬を膨らませる百合花だったが、それでも私が楽しんでいると分かると笑顔で話を聞いてくれた。


 

 新しく行動するようになった仲間は二人。オンラインで出会った完全なる赤の他人である。

 ゲームはもとより、この現代社会でパソコンさえもあまり手をつけなかった私にとって初めて顔を見せずに仲良くなった相手でもある。

 新鮮であり、中身が見えない不安もあったが行動しているうちにリアルでのことも会話に出てくるようになり、確かな絆が生まれたことは確かだろう。

 まず、初めに私から誘った相手である『ヒト科 人間』『魔術師ウィザード』のサニーである。

 もちろん本名ではなく、アヴァロン内でのミドルネームである。サニーはメットが一般発売されてから数カ月経ち、ようやくただの裕福な家庭でも手が出せるほどになった時期に手に入れた中学生三年の少女だ。

 といっても家が裕福であったわけではなく、アパートが放火に会い、火は移らなかったものの消防車の水で部屋の大体が駄目になったとき、加入していた保険により焼き太り(被害額より補償額の方が多大になる)で幸か不幸か手に入れたお金で、家がボロボロになって悲しんでいるサニーに両親が購入してくれたのがメットだったらしい。

 初めにこの話を聞いたときにはどう反応して良いか分からず、Sクラスの高級杖を無言で渡した覚えがある。(嬉しそうに受け取られた。)


 その次に出会ったのは槍夜そうやと呼ばれる『ヒト科 人狼』『暗殺者アサシン・スタッバー』である。

 彼は――変わった出会い方だった。

 私がサニーと町を散策しているとき、完全に警戒を解いていたときだ。町というのは設定上野獣や魔物出現が存在せず、戦闘など持っての他。休憩地帯であるのだから。

 だからノンビリとサニーと共に新たな町を散策しているときに、彼は現れたのだ。



『決闘を申し込まれています。承諾しますか? YES/NO』

「なにこれ」

「決闘……って、確か自分と戦いたいーって相手が仕掛けてくるものーってガイドブックに書いてあったんですけどー?」


 サニーが間が伸びた言葉遣いで記憶にあったらしい決闘についての知識を述べる。

 しかし私はその表示の意味が分からなかった。決闘という言語自体は知っていたが、アヴァロン中に決闘を申し込まれたのが初めてだったのだ。しかもゲーム初心者であるから対応の仕方が分からずに首を傾げていた。

 しかも、その決闘相手が姿を現さなかったのだ。サニーと共にいぶかしみながらもバグかと思い『YES』の表示を押した。


 背筋に蟲が這ったような感覚が私の意識を凍らせた。

 それはスキル【直感】により得られる危機が迫った折に身体が異常反応を起こす効果だった。

 襲撃は後ろから、咄嗟に倒れ込むように身体を急転換させ、顔を庇うように片腕を使い防御する。それとほぼ同時に降ってきた白い球体――瞬間庇った腕に固い衝撃が走った。

 そこにいたのは、全身白尽くめの西洋の忍者アサシンスタイルの顔を目元まで隠し、口を鉄面で覆った敵として現れた槍夜だった。


 そんな出会いだったわけだが、一撃必殺急所狙いできた槍夜の短刀を庇った腕は装備していた防具によりダメージ減少。実力差、慣れによって、槍夜が仕掛けてきた決闘は私の勝利で終わった。

 決闘といっても、相手を殺すわけではなく瀕死にすれば良い。そのためギリギリのところまで追い詰め、サニーが持っていた魔力付随の縄によって彼女自身が亀甲縛りした上でこの決闘は終了した。しかし、亀甲縛り状態のアサシンは、なんというか……可哀想だった。男の権限的にも。サニーは面白がっていたが。

 

「くっ、そ! やはりアヴァロン最強の名は伊達ではないか……!」

「アヴァロン最強?」

「ほらーエリさんが聞きたがってますよその話ー。早く吐いてくださいねー」

「うわっち! ちょ、やめて! 死ぬ! 死んでしまう!」

「ふふふー。折角の防具が真っ黒な炭になっちゃいますよー」

「あああー! 俺の8百万ガルドもしたアサシン防具がぁああ!」

「え、えっと、サニーちゃん? もう可哀想だから止めといたほうが……」

「なに言ってるんですかー? だって行き成り決闘申し込んできた上に死角からの不意打ちなんてー、男が聞いて呆れますよねー」

「だっ、それは暗殺者アサシンなんだから仕方が、ってうぎゃぁああ顔は辞め、ひぃいいい!」

「ぐぇへへへ。早く答えてくださいねー」

「(あ。笑い方が変わった。これはもう止められないな……)ご愁傷さまです」

「そんなこと言わずに助けてくれ!!」

 

 自由を奪われ摂取される側になった彼から聞いた話によると、私はVRMMO開始当時から参加していたためか、周りより進攻が一足早かった。そうなると、当然レベルも上昇するし、クエスト(俗にいうゲームを進める上での依頼など)の攻略も早くなる。

 そうなると、どこからがそれを聞きつけたゲーム参加者プレイヤーが私になんとも安直な名前を作ってくれたようだった。それが槍夜も述べていた“アヴァロン最強”単純すぎてきちんと説明を受けたときには顔から火が吹きそうになった。なんと恥ずかしい通称をつけてくれたものだ。


 そんなわけでサニーが気に入ったのもあり仲間に加入した槍夜だが、実力はかなり高い部類に入っていた。

 私は結構すぐに片をつけてしまったが、元々一撃必殺気質が強い暗殺者なのだ。格上相手に最初の一撃で仕留められなければ戦闘の難易度が馬鹿高くなる。しかし最初の一撃で倒せずとも一刀目が入れば、その場全体が有利になるという職業なのだ。

 という細かい説明も後々槍夜自身に解説してもらったのだが、実際彼は有能だった。戦闘面ではもとより、それは探索面で飛び出ていた。

 一般の職業の者たちが知りえない隠しイベントを発見してきたり、ダンジョンでは隠し部屋やワープゾーンを見つけてきたり、それにリアルでのゲーム知識が広い彼は私たちが知りえなかった通例や効率の良いレベルの上げ方などを教えてくれた。

 リアルでは大学生らしい彼は三人だけのこのメンバーの中で一番の年上だった。そのためか色々と世話を焼いてもくれた。


 そうしてアヴァロンを進めてゆく中で一年以上の月日が、水が流れ落ちるように経過していた。

 


 私たちのパーティー、所謂共に行動する仲間はそれ以上増えることは無かった。

 私のライバルを自称するやつが現れたり、道すがら手助けをした人たちやパーティーに入りたがった人もいたが、前者はパーティーなどさらさら入る気はなく、後者はレベルの関係上私たちについてゆけず断念せざるを得なかった。

 そうして、私たちは時に苦心しながら、時に死にながら力をあわせ順調に敵を撃破し、クエストを成功させ、ついに最終クエストまで漕ぎつけるまでに至った。

 そう、私たちはゲームクリアの扉の取っ手に手を掛けたのだった。

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