ボツネタ 33
まだまだあるよ☆ボツネタ祭
「扉の先」より、ハルトと佐倉。
佐倉たちの軟禁場所は、本編上どこかの家であったが、もとの下書きだと風車塔。
そして、モンさんが登場しないで進行する。
何故ボツったかは明白。
ハルトと佐倉だけでは、ピンクが足りなかったからだ。
結果、モンさんは必殺技「ぽんぽん」を完成させた。なお下書きでは「ぽんぽん」も「むしゃむしゃ」も存在しない。
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「まぎらわしい奴だねえ。村の子供じゃあないんなら、最初っからそう言えば良かったんだ」
「……言う暇さえくれれば、いくらでも説明したよ」
佐倉は、紅のオンナの言葉に言い返した。
口調に少しトゲが混じるのも仕方あるまい。人質にとられ村人には見捨てられ、石壁の風車塔のなかに刃を突きつけてきた張本人と一緒くたに軟禁されている――こんな状況で上機嫌な人間がいたらみてみたい。
灯された火はひとつのみで、塔の高い位置からぶら下がっている。佐倉ともうひとりの影が、橙色の光に照らされて、塔の内部の円壁で踊っていた。
この風車塔の中に、佐倉も閉じこめられることになったとき、甲冑の男はすこし申し訳なさそうだった。
『すまないな。本部隊が戻ってきたら、君の話も聞こう。人間の子供とはいえ、このような状況、ひとりで村に紛れこんだ人物を、野放しにはできないんだ』
村に紛れこんだっつーか、門前には誰もいなかっただろうが。心の中ではツッコミたかったが、向こうと同じくらい佐倉もここがどこで、どうしてここにいるのか説明できなかったので、黙って軟禁を受け入れた。
軟禁されて、風車塔の中の階段に腰を下ろして、考えた。
――ここは異世界なんじゃないだろうか。
佐倉の目に異常はなく、夢にしてはリアルすぎる。西洋中世にタイムスリップしたと考えた場合、なぜ周囲の言語がわかるのか説明がつかない。英語を喋っているわけでもなく、自分は日本語で話し、むこうの言葉も日本語で耳に入ってくる。
自分の脳がイカレていて、妄想に取りつかれているのでなければ、なんらかの理由で異世界に飛ばされて、今ここにいると考えたほうが、いくらか救われる。
もしここが、佐倉がいた地球という世界ではないならば、自分の脳に異常はなく、体は健康体と保障される。妄想に取り付かれていると考えるよりは、異世界に飛ばされていたほうがまだマシだ。
「ねえ、あんた名前は」
その言葉で、離れたところに転がされているオンナを見た。彼女は軟禁ではなくて、監禁状態だった。手足を縛られ、自由がない。佐倉は子供で人間ということで(この紅のオンナは人間じゃないのか?)、身体は自由だった。
「……そんなこと知ってどうするの」
「別に。ただの世間話じゃないか。付き合いの悪い子だねえ」
自分を人質に取った紅のオンナを信用できるわけもなくて、警戒の表情で相手を見つめていた。だが紅のオンナは佐倉の警戒なぞ、気にも留めていないようだ。監禁されて手足束縛、転がされているにもかかわらず、心に余裕がありそうだ。
「笹塚佐倉」
「ササヅカサクラ?」
「佐倉が名前。そっちは」
これは社交辞令だ。訊ねられたから訊き返す。
「あたしはハルトさ――で、どうしてこーんな間の悪いときにこの村に来たんだい? どっかの村からのお遣い?」
ここに来た理由が分かるなら、こっちだって知りたいものだ。わからないから、応えようにも曖昧にしか応えられない。「たぶん、違う」
「たぶん?」紅のオンナははっきりと口角を引き上げた。「お遣いとは『たぶん』違うの?」
「そう」
「じゃあ、放浪者か何かか。旅人、旅行者、冒険者?」
「知るかよ。こっちだって知らないんだってば!」
応えられない質問に癇癪を起こした。
ハルトのぽかん、とした表情。
その視線が嫌だった。
居心地が悪くて、階段をさらに昇った。ハルトから見えないところに行ってしまおうと思った。こちらの動きを感知して、転がされた人物があわてて声をかけてきた。
「悪かったよ、サクラ。機嫌損ねたんなら、謝るよ」
殊勝なお言葉には、態度を軟化させざるを得ない。佐倉も呻いて、階段を引き返した。同じ位置に座りこみ、ため息。
「こっちこそごめんなさい。八つ当たりしただけ。ええと……あなたは悪くないです」
「なんだか事情がありそうだねえ」
「……事情もなにも」佐倉は困りはてていた。「ここがどこかすらわからないんだ」
「どこかわからない?」
「うん。家の玄関にいたはずなのに……気づいたら、ここの門の前で、変なことに巻き込まれるし。ホントにこんな場所のことなんて知らないし、私の家の近所とも思えない」こんなアフリカ的門構えの家がうちの近所にあったら……異常すぎる。「昼間だったはずなのに、夜だし。どう考えても変なことばかりで――だって甲冑と剣なんて!」
「ちょ、ちょっと待って!」ハルトが佐倉のほとんど独白的な言葉を遮った。「あんた、どっかに頭をぶつけたとかしたんじゃないの? 人間の頭は衝撃に弱いらしいじゃないか」
「……あー、それってつまり私の脳がおかしいって言ってる?」
「そうは言って……いや、そういう意味になるか。記憶障害か何かじゃあないのかってことさ」
ハルトが言うことが正しいのなら、佐倉は家の玄関先で記憶障害に陥り、妄想していることになる。それともこれが現実で、誕生してから高校生になった今までが妄想だったのか? 今、妄想から醒めて現実の世界にいるのか?
だんだんわけがわからなくなってきた。頭がこんがらがって、もやもやして、ムカムカして、最終的に、ぷつん、ときた。
――もう知るか!
ここが夢だろうが、現実だろうが、タイムスリップだろうが、異世界だろうが、脳障害だろうが、妄想だろうが、もう知るか。なんだっていい。それ以外だったとしてもいい。どんなもんだって、もう悩まない。
笹塚佐倉は――私はここにいる。
そこがどんな名称のある世界だろうが、もうどうでもいい。自分はここにいて生きている。自分が知らないことに、悩んだって意味がない。わからないんなら放っておく。一度棚上げしてもっとここを知ればいい。
佐倉は、うじうじ考えて気を揉んでいた問題を、頭の隅にほっぽり投げた。――彼女の美点だった。いつだってどんな状況だって、適応力に優れている。
ようはあれだ。遠泳に行っていると思えばいいのだ。他国の海でのレースのために、海外に遠征してると考えりゃいい。日本語が通じてるだけ、海外遠征で迷子になったときより気分が楽だ。
家に帰りたいとか、パニックになりそうな気持ちとか、不安とか、とにかくさまざまな雑念が消し飛んだ。今度は、すっきりと現状にだけ関心が向いた。
思えば、風車塔なんて初めて見た。テレビで風車がまわっている映像は見たことがあるが、その内部に自分がいる状況なんて、経験したことがない。
外は風が吹いているらしい。時折、その風車が回っているのか、内部に軋んだ音が響く。腰を下ろしていた階段を見つめた。うえに行けるようだ。風景でも見えるかもしれない。
「ハルト?」
「ん、なんだい」
「いまって何時ごろなの」
「夜明けが近い時間だよ」
「へえ。じゃあ日の出とか拝めるかも」
日本人の精神なんだろうか。日の出を観たいと、うずうずしてきた。夜が明ける瞬間なぞただの自然の現象だというのに、古来から日本人は日の出をありがたがっている。どうしてか知らないが、手まで合わせる。正月に日の出を拝むなんてのが、今も続いてるから、太陽が昇るのがありがたいものというイメージがあるんだろう。
佐倉は立ちあがった。
「サクラ、どこに行くつもり」
「上。外が観たいから」
「あー、あのさあ、この縄、解いてくれたら一緒に上に行ってやれるんだけどねえ」
佐倉は腕を組んで、ハルトを見下ろした。
「嫌だ」
すっぱりとした拒否に、ハルトが口を尖らせた。
「なんでさ」
「ぜったい逃げる」
「心外だ!」
「もし逃げられたら、そんときは私の立場がやばいもん。損な役回りはごめんだ」
「む……あんた意外としたたかな人間だね……」
ハルトがこそこそと呟いた。タダノ、アマチャンカトオモッタラ……。
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なお、こちらを採用した場合、佐倉が「もう知るか!」と、いい方向に開き直っており、異世界に混入した衝撃をからりと跳ね返している。私的には、本編の頭が空回りしていて途方に暮れているあのあたりの佐倉より、こちら佐倉のほうが好きだったが、現実異世界に行った人間が、ここまでからっと開き直れるわけがないので不採用となっている。
なおここにも、OWSの影響がモロに出ている。




