4.待ち伏せ
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「あーかっ」
必要最低限の教科書を鞄に詰め込みながら身支度を整えていると、桂子が慌てた様に側にやってきて、ぱん、と勢いよく両の手をつく。
「ごめん、あーかっ。あたし役員で呼び出されちゃった。先帰ってて?」
そういうだけ言うと、じゃあね、と手を振って慌しく教室を飛び出していく。
そんな後姿を見て、茜はピン、とくるものがあった。
(けーちゃん・・・、チョコ渡しに行くのかも)
本人は必死に隠しているつもりだが、明白な桂子の思い人を思い浮かべ、茜は思わず顔が緩む。
面白そうだ、と思ったが取りあえず邪魔はしないでおこう。
詳細は明日じっくり聞くことにして、茜は教室を出る前にちらっと背後に目をやった。
放課後の喧騒でざわめく今日室内には、まだこれから部活に行く生徒や帰り支度をしている生徒、集まって騒いでいる生徒など、人が多い。
その一番前の席には諏訪君の姿もあった。
帰り支度をしていた彼の机の上には、ノートと小さな文庫本が重ねられていて、茜は相変わらずの文学青年な彼にちょっと笑った。図書委員までしている彼だが、雰囲気はともかく幅広のがっしりとした体型には似合わないものがあるのだ。
桂子は用事があるし、放課後特にすることもない。
茜は廊下に出た後しばし考えて、それから鞄の中をあさってみた。
「あぁー、入ってるなぁ」
先週から借りっぱなしの図書が一冊、借りた時と同じ姿で背表紙を見せていた。
「そろそろ返しに行かないと怒られちゃうし・・・久しぶりに図書室行こうかな」
まるで言い訳のように独り言を呟くと、茜はバックを抱きしめて図書室へと向かった。
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―――ガラッ
ドアの開く音にはっと顔を上げると、国語担当のおばあちゃん先生が入ってくるところだった。
そういえば図書委員の顧問だっけ。
そんなことを思いながら、茜の目はさっきまで向けられていた窓の外へと向かう。
新校舎の二階にある図書室は、ちょうど正面玄関の上にあるために、下校する生徒達がばらばらと学校から吐き出されていくのが見えて何気に面白い。
茜は校門が一番よく見える位置に置いてある本棚に肘をつき、広げてから一ページもめくっていない雑誌を前にただひたすら窓の外を眺めていた。
そうこうしているうちに四時半を知らせるチャイムが鳴り響き、茜は少しだけ視線を上げて時計を確認する。それからそのまま図書室のドアを見、最後に後ろの部屋の中を見回した。
図書室にはまだ何人か生徒が残っていて、机の隅で勉強するがり勉君もいれば、ひたすら本に没頭して自分の世界に入っている男子生徒、雑誌を覗き込んで何か言い合っている女子生徒達もいる。
茜はもう一度窓の外に視線を戻して、ふぅ、と知れず溜息が漏れた。
それからあれ、と顔を上げる。
先程から下校する生徒がちらちらと校門の石柱辺りを気にしていたが、なにやら石柱のところに小さな影が見えた。
―――だれかいる?
ちょうど茜のいる位置からは石柱が死角になって見えないが、時々ちらちらとスカートっぽいものが覗く。
もしかして隣の小学校の子だろうかとぼんやり考えていたら、再びガラリ、と図書室の扉が開いた。
入ってきたのは見知らぬ男子生徒。
思わずばっちりと目が合ってしまって、気まずさに慌てて顔を逸らし、雑誌を読む振りをする。
―――見すぎだし、私。
なぜだかドアの開く音に反応してしまう。茜は見てもちっとも頭に入ってこない雑誌から目を離し、人通りのまばらになった正面玄関と、それから正門に目をやる。
四時半とはいえ冬の日暮れは早いため、もうすでに辺りは夕焼け色の空から次第に暗さを増して寒々しい空気を漂わせている。
そんな日も暮れかかった石柱の影では、いまだにスカートがひらひらと覗いていた。
(バレンタインだし・・・誰か待ってる?)
小学生が?高校の前で?
―――あ。
興味を惹かれて思わず見入っていると、ひょこり、と顔が覗いた。
明度を落とした周囲のせいでよくは見えなかったけれど、小学校低学年程度のほんとに小さな子供だった。
(えー、あんなちいさい子がチョコもって待ってんの?最近の子は・・・ってかこの寒い中根性もあるわぁ)
なんだか負けた気もしながら、茜は素直に感心してしまった。
茜の青いチョコはいまだバックの中。あんな根性を振り絞って渡せる相手もいない。
ジャラッ
すぐ近くでしたブラインドの揺れる音にはっとして顔を上げると、おばあちゃん先生がにこにこしながらブラインドを下ろしていた。
「もうすぐ閉めますからねー」
そんな呼びかけに時計を見ると、後十分ほどで五時になる。茜は図書室の中に一度視線をめぐらせ、それから諦めたように立ち上がった。




