1.余りもののチョコ
**********
「はぁー、おいしそう…」
可愛らしくチョコレートの陳列されたショーケースの前に張り付いて、大沢茜はうっとりとした溜息混じりに呟いた。
デパートの特設エリアに設けられたバレンタインチョコ専用会場。
チョコと名のつくものなら、有名ブランドの高級チョコからそこら辺のコンビにでも買えるチロルチョコまでなんでも揃っている。
もちろん、ショーケースの中に陳列というビップ待遇を受けるのはそこらへんで買えるチョコではない。
たかがチョコレート。
されどブランド。
到底手も出す気にはなれない値札表示は見ないことにして、茜は小箱の中に上品に並べられたチョコレートの数々を指をくわえつつもじっくりと堪能していた。
「はぁ…、男の人ってずるい」
こんなにおいしそうなチョコをタダでもらえる日があるなんて。
眺めるだけ眺めた茜はようやくショーケースの前から離れ、恨めしげに呟いた。
そもそも茜が用のあるのは会場の真ん中に堂々と並べられたブランドエリアではない。
脇のほうにいかにも適当に積み上げられた、義理チョコ、あるいは友チョコエリアだ。
あげる相手は例年同様、家族と女友達。
手頃なサイズ、手頃なお値段のチョコを手に取りつつ、茜ははぁ、と盛大に溜息をついた。花の高校三年生、このままじゃいかんなぁ~、と思いつつもあげる相手がいないのだからしょうがない。
自慢ではないが生まれてこの方男の人とお付き合いしたことがない茜は、家族以外の男の人にチョコをあげたことが無い。義理でも無い。
イベント好きの茜が唯一その本髄を楽しんだことが無いバレンタインは、毎年なんとも微妙な行事だった。
「…6、7、8。よし、これで全部かな」
買い物籠の中を数えて満足そうに呟いた茜は、最後にもう一度会場を一周して可愛らしく着飾ったチョコレートの数々を見て回り、ある一角でふと足を止める。
茜の目に留まったのは青い小箱に綺麗に並べられた六つのトリュフ。
二個ずつトリュフの種類も違うようで、パウダーとクランチ、それにホワイトチョコ。
手頃なサイズで、そんなに高級感や派手派手しさを感じさせない、ちょっと大人なチョコ。
それがかえって気に入った。
ただ悔しいかな、そのチョコが置かれていたのは会場のど真ん中にあるビップ席、ショーケースの中だった。
「…むぅ」
思わず財布と相談してみた茜は渋い顔で唸った。予算より五百円オーバー。
しかも茜が配る分には十分間に合っていて、もう買う必要はないのだ。
「う~…」
さらにしばらく唸った茜は、明日から五日間、お昼のジュースを諦めた。
「…またやっちゃった」
デパートを後にしながら重い溜息と共に呟く。
毎年誰にあげるでもないチョコレート。結局はバレンタインが過ぎて茜のお腹に入ることになるのだが、どうしてか、一つ分だけ余計に買ってしまうのだ。
去年も、一昨年も。




