第二十三話 高校の思い出
〈目次〉
・第一節 お嬢様
・第二節 ほめ殺し
・第三節 黒歴史
〜登場人物〜
・山崎結衣(19歳)
山崎弘と美佐子の長女。意義人の姉。白鳥大学文学部。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟とよく喧嘩をしてしまうが、大切に思っている。
・山崎意義人(17歳)
山崎弘と美佐子の長男で、結衣の弟。高校2年生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉とは仲良しだが、よく喧嘩もする。
・山崎弘(45歳)
山崎義郎と文枝の長男で、結衣と意義人の父。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。
・山崎美佐子(42歳)
田辺寛夫と優美子の長女で、結衣と意義人の母。顔は結衣と似ているが、結衣よりもほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。
・山田茜
白鳥大学文学部。結衣の高校時代からの親友。髪型は黒髪ショート。生意気な顔をしている。悪戯好きな性格。
・中島明日香
白鳥大学文学部。結衣の高校時代からの親友。髪型は金髪ポニーテール。純粋で優しい性格。
・小川史緒里
白鳥大学文学部。結衣の高校時代からの親友。髪型はくるくるした紫髪。眼鏡をかけたインテリ風な顔。計算高い人物。
第一節 お嬢様
この日、大学のカフェテリアで、結衣・茜・明日香・史緒里の四人は、いつものようにテーブルを囲んでおしゃべりに興じていた。結衣が先週末の拓海とのおうちデートのことを軽く話すと、明日香が目を大きく見開いて叫んだ。
明日香「え!?拓海君とお家デートしたの!?」
明日香の声に、周囲の学生たちが一瞬こちらに注目する。結衣は慌てて「シーッ!」と人差し指を立てたが、もう遅い。史緒里が、得意の計算高い笑顔で結衣に釘を刺す。
史緒里「美男美女カップル成立ですね!結衣さん、おめでとうございます。」
史緒里の言葉に、結衣は「まだ違うってば!」と否定しようとするが、茜がニヤニヤしながら結衣の言葉を遮った。
茜「もう彼氏って認めちゃえよー。どうせ好きなくせにー。」
茜は、そう言いながら、結衣の胸元にそっとペンを差し込もうとしてくる。結衣は、それをひらりと避けた。
結衣「ちょっと、茜!やめてってば!それに、まだ彼氏じゃないし!」
結衣は顔を赤くして否定するが、茜は全く聞く耳を持たない。
茜「嘘つけー!あんだけ拓海君と盛り上がって、お母さんにも紹介して、お家デートまでしておいて、彼氏じゃないとか、白々しいんだよ!」
明日香「でも、結衣ちゃんが彼氏できたなら、私、嬉しいな!拓海君、本当に結衣ちゃんのこと、大切にしてくれそうだもん!」
明日香は、心底嬉しそうに結衣の手を握った。結衣は、明日香の純粋な優しさに、胸が締め付けられるような思いがした。
史緒里「そうですね。拓海君のようなハイスペックな男性を捕まえるなんて、結衣ちゃん、さすがです。私も見習わなくちゃ。」
史緒里は、どこか打算的な目で結衣を見る。結衣は、三者三様の反応に、どう答えていいか分からず、困惑するばかりだった。
結衣「だから、まだ彼氏じゃないって言ってるでしょ!それに、拓海からは…」
結衣は、拓海から言われた「彼氏になれなくても良い。ただ、これからも俺と一緒にいてくれ!」という言葉を話そうとしたが、途中で口ごもってしまった。その言葉の意味を、この場でどう説明すればいいのか分からなかったからだ。
茜「ん?拓海君から、何?もしかして、まさかのプロポーズ!?」
茜が面白がって結衣をからかう。結衣は、ますます顔を赤くして俯いた。
結衣(どうしよう…拓海のあの言葉、みんなに話したら、絶対変な風に思われちゃう…!)
結衣は、拓海の言葉を誰にも理解してもらえないような気がして、怖くなった。拓海の真意を、どうやってこの子たちに伝えればいいのだろうか。結衣は、必死で言葉を探した。
結衣が拓海の言葉について悩んでいると、ふと、先週、美佐子と仲良く話していた大叔父・水野社長の顔が脳裏に浮かんだ。そして、そこから話はなぜか結衣の家系図へと発展していった。
結衣「そういえば、うちの親戚の叔父さん、水野財閥の社長なんだよね。」
結衣が何気なくそう漏らすと、三人の目が点になった。特に史緒里は、眼鏡をクイッと上げ、興味津々といった表情で結衣を見つめる。
史緒里「え、水野財閥って、あの日本の経済界を牛耳る水野財閥ですか!?結衣さん、まさかそんな大物のお嬢様だったなんて…!?」
史緒里の驚きように、結衣は「まあ、そうなるのかな…」と曖昧に答える。そこへ、明日香が興奮した様子で声を上げた。
明日香「すごい!結衣ちゃんって、お父さんが有名企業の部長さんでしょ?おじいちゃんは元外交官だし、お母さんの実家は財閥の御曹司…じゃなくて、お母さんがお嬢様で、そのおじさんが社長さんってことでしょ!?」
明日香の整理能力に、結衣は「うん、だいたいそんな感じ」と頷く。
明日香「でも、結衣ちゃんがお嬢様なの、なんかわかる!だって、なんか品があるし、いつも綺麗だもん!」
明日香の言葉に、結衣は照れて「そんなことないよ」と謙遜する。しかし、茜がすかさず茶々を入れた。
茜「こんな乳の張ったお嬢様がいてたまるか!」
茜は、そう言いながら、またしても結衣の胸元にペンを差し込もうとしてくる。結衣は「やめなさいよ!」と茜の手をパシッと叩いた。
そんなやり取りをよそに、史緒里の目は早くも次なる獲物を見つけたかのように輝いていた。
史緒里「結衣さん、これからはコネを存分に利用してもっと有名になってみたいとは思わない?ドラマだけじゃなくて、ゆくゆくは映画の主演だって…」
史緒里の言葉に、結衣はドキリとした。実は、来年、結衣はドラマの主演を演じる予定があるのだ。
結衣は、史緒里の言葉に、今後の自分の女優としての活動と、水野財閥というバックボーンをどう活かしていくべきか、考えさせられた。コネを使うことに抵抗がないわけではないが、それを拒否することも、自分自身の可能性を狭めることになるのかもしれない。結衣の心は、新たな野心と葛藤で揺れ動いていた。
史緒里「でも、結衣さんは、財閥のお嬢様で、ドラマの主演が決まっていて、拓海君のような素敵な彼氏(候補)もいて…。本当に羨ましい限りです。」
史緒里は、結衣の羨ましい要素を一つ一つ並べ立てる。結衣は、史緒里の言葉を聞きながら、ふと、漠然とした不安を覚えた。本当に自分は、これほどまでに恵まれているのだろうか?もちろん、そうかもしれない。しかし、その分、何かを失っているような気もした。
結衣(私、本当に、このままでいいのかな…?)
結衣は、拓海の言葉、家族のこと、そして女優としての将来。様々な思いが交錯し、心の中は少しだけモヤモヤしていた。そんな結衣の心の奥底を見透かすかのように、茜が結衣の肩をポンと叩いた。
茜「まあ、でも、結衣が何でもかんでも上手くいってたら、面白くないしね!たまには、うちの課題、手伝ってよ!」
茜は、そう言って、ニッと笑った。結衣は、そんな茜の言葉に、思わず笑みがこぼれた。茜は、いつも結衣をからかったり、時には困らせたりするけれど、こうして隣にいてくれることが、結衣にとっては何よりも心強い。
結衣「もう、仕方ないわね。あんたは、本当に狡猾なんだから。」
結衣は、そう言いながらも、茜の頼みを引き受けることにした。ドラマの主演、水野財閥、拓海の言葉。それら全てを一度頭の片隅に置いて、結衣は茜と一緒に課題に取り組むことにした。
第二節 ほめ殺し
翌日も大学のカフェテリアで、四人はおしゃべりに花を咲かせていた。話題は、高校時代の思い出で盛り上がっているようだ。
明日香「結衣ちゃん、バレーボール部で、すごい運動神経良かったんだよね。体育の時間の結衣ちゃん、すごいかっこよかったよ。」
明日香は、きらきらした目で結衣を見つめる。結衣は、そんな明日香の言葉に、少し照れくさそうに笑った。
結衣「もう、明日香ったら。そんなことないよ。ただ、バレーボールが好きだっただけだから。」
史緒里「昔から頭の方も凄いですわ。わたくしがどれだけ努力しても、結衣さんの成績には勝てなかったの。今思うと本当に屈辱的ですわ。」
史緒里は、眼鏡の奥の目を細めて、少し悔しそうな顔をする。結衣は、史緒里の言葉に、くすりと笑った。
結衣「史緒里も十分優秀だったじゃない。いつも上位にいたんだから。」
すると、茜が身を乗り出して、ニヤニヤしながら言った。
茜「結衣は高校の頃からおっぱいが大きかったなー。水泳の授業の時、結衣の隣に並ばされるの、すごい女としてのプライドが傷つけられたわ。」
茜の直球な発言に、結衣は顔を赤らめて茜を睨んだ。明日香は「茜ちゃん!」と叫び、史緒里は面白そうにクスクスと笑う。
結衣「ちょっ!茜!あんた、そういうこと言うのやめなさいよ!」
結衣は、周りの視線が気になり、慌てて声をひそめる。しかし、茜は全く悪びれる様子もなく、さらに畳み掛けてくる。
茜「だって、本当のことじゃん。男子からも『山崎の胸、すごいよな』って言われてたし。」
結衣は、頭を抱えた。高校時代からの友人だからこそ言える、茜の遠慮のない発言に、結衣はもうお手上げ状態だった。
結衣「もう、あんたは本当にデリカシーがないんだから!そんなこと、今さら言わないでよ!」
結衣は、そう言いながらも、どこか諦めたような笑顔を浮かべていた。三人との会話は、結衣にとって、飾らない自分でいられる大切な時間だった。
明日香「でも、結衣ちゃん、本当に昔からみんなの憧れの的だったもんね。勉強もスポーツもできて、スタイルも良くて、顔も可愛いし!」
明日香は、結衣を褒めちぎる。史緒里も、それに同意するように頷いた。
史緒里「まさに完璧超人ですわ。」
史緒里の言葉に、結衣は再び顔を赤らめた。茜は「それな!」と叫んで、高らかに笑った。
結衣が高校時代の思い出話に耳を傾けていると、明日香がふと思い出したように話し始めた。
明日香「でも、結衣ちゃん、本に集中しすぎてみんなとおしゃべりしてるのに全然話聞いてくれなかったことあったよね。」
明日香の言葉に、結衣はバツが悪そうに苦笑いする。確かに、夢中になると周りが見えなくなる傾向が自分にはあった。
結衣「あー、あったかも…。ごめんね、明日香。」
史緒里「結衣さん、料理の腕に関しては下の下でしたわ。調理実習で、結衣さんの作った料理を食べた子が保健室に運ばれていましたね。」
史緒里の言葉に、結衣は顔を覆いたくなった。調理実習の悪夢が蘇る。あれは本当に申し訳なかったと、今でも思っている。
結衣「あれは、もう触れないでほしい過去なんだけど…。」
結衣のぼやきを聞いて、茜がゲラゲラと笑いながら追い打ちをかける。
茜「そーいえば結衣、お腹鳴るの嫌っていって早弁してたなー。単語帳見てるフリしておにぎり食べてたし。女子で早弁してたの結衣だけだったなぁwww」
茜の言葉に、結衣は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。まさに、その通りだった。授業中にお腹が鳴るのが死ぬほど嫌で、単語帳の陰でおにぎりを頬張っていた。まさか、そんなことまで暴露されるとは思わなかった。
結衣「もう!茜!あんたは本当に私の恥ずかしいことばかり覚えてるんだから!」
結衣は、そう言って茜を軽く小突いた。茜は、楽しそうに結衣から逃げる。明日香と史緒里も、そんな二人を見て笑い転げていた。
昔の思い出話に花を咲かせていると、結衣は心の底からリラックスできた。何があっても、こうして笑い合える友達がいることが、結衣にとっては何よりの支えだった。
第三節 黒歴史
高校時代の話は、結衣の恋愛遍歴へと話が及んだ。史緒里が、唐突に昔の彼氏の名前を挙げた。
史緒里「あと結衣さん、二組の高木君とも付き合っていましたよね。」
その名前に、結衣は一瞬顔をしかめる。しかし、茜がさらに追い打ちをかける。
茜「懐かし!てかなんであんなのと付き合ってたの?ホント結衣は男見る目無いよなー。」
茜の辛辣な言葉に、結衣は「うぐっ」と言葉に詰まる。確かに、今思えば、なぜ高木と付き合っていたのか、自分でもよく分からない。顔はまあまあだったが、性格は少し気弱で、優柔不断なところがあった。そんな彼氏を、当時の結衣は「私が支えてあげなきゃ」なんて思っていたのかもしれない。しかし、結局は、結衣の方が疲れて別れることになったのだ。
明日香「もー。確かに心配だったけど。」
明日香も、結衣の過去の恋愛を心配していた一人だったようだ。結衣は、そんな友人たちの言葉に、恥ずかしさと申し訳なさで、顔がますます熱くなった。
結衣「もう!やめてよ!昔のことなんだから!」
結衣は、そう言って、半ばやけくそ気味に叫んだ。しかし、友人たちはそんな結衣の反応が面白くてたまらないといった様子だ。
茜「だってさー、高木、いつも結衣の言いなりでさ。デートの場所も結衣が決めるし、食べたいものも結衣が決めるし。結衣も結衣で、そういう男に惹かれるんだから、うちらには理解不能だったわー。」
茜は、そう言って、結衣をからかうように肘でつつく。結衣は、もう反論する気力もなかった。確かに、茜の言う通りだったのだ。当時の結衣は、自分がリードしたいタイプだったのかもしれない。
史緒里「でも、結衣さん、その経験があったからこそ、今の結衣さんがあるのかもしれませんね。」
史緒里の言葉に、結衣はハッとさせられた。確かに、高木との経験は、結衣にとって学ぶことが多かった。自分に合う男性とはどんな人なのか、自分が何を求めているのか。そういったことを考えるきっかけになったのだ。
結衣「まあ、それはそうかもしれないけど…。でも、もうちょっとマシな経験でも良かったかな…。」
結衣は、そう言って苦笑した。すると、明日香が優しく結衣の背中を撫でた。
明日香「でも、結衣ちゃんには、今、拓海君がいるもんね!拓海君は、きっと結衣ちゃんを幸せにしてくれるよ!」
明日香の言葉に、結衣の心臓がドキリと鳴った。「彼氏になれなくても良い。ただ、これからも俺と一緒にいてくれ!」という彼の言葉が、再び結衣の頭の中を駆け巡る。
結衣(拓海は、私にとって、どんな存在なんだろう…。)
結衣は、拓海のことを改めて考える。高木とは全く違うタイプだ。彼は、優柔不断どころか、時に強引なほど積極的で、自分の意見をはっきりと主張する。そして、何よりも、結衣の心を揺さぶる言葉を臆することなく伝えてくる。もしかしたら、結衣が本当に求めているのは、彼氏という枠にとらわれない、もっと深いところで繋がれる相手なのかもしれない。
友人たちとの他愛ないおしゃべりは、結衣に大切な気づきを与えてくれた。過去の恋愛、現在の拓海。そして、これからの自分の人生。結衣の心は、ゆっくりと、しかし確実に、拓海の方へと傾き始めているのを感じていた。
『山崎結衣の憂鬱』 第二十四話につづく




