第一話 嫁姑問題
〈目次〉
・第一節 母の憂鬱
・第二節 祖母と叔母
・第三節 姑対嫁対小姑
〜登場人物〜
・山崎結衣
山崎弘・美佐子夫妻の長女。19歳の女子大生。美白な肌と綺麗な茶色のロングヘア、美脚、丸い小顔が特徴。普段は青いワンピースを着ている。少しだけ女優として活動している。弟の意義人とは喧嘩中だ。
・山崎意義人
山崎弘・美佐子夫妻の長男で、結衣の弟。17歳の男子高校生。結衣と比較すると地味な顔立ちだが、似ている部分もある。姉と喧嘩中。
・山崎弘
山崎義郎・文枝夫妻の長男で、結衣と意義人の父。年齢は45歳。容姿は、眼鏡をかけた地味な丸顔で、髪は少し薄く、小太りである。愛娘の結衣を溺愛している。
・山崎美佐子
田辺寛夫・優美子夫妻の長女で、結衣と意義人の母。年齢は42歳。顔は結衣と似ているが、結衣よりほんの少し面長。髪型は、若干ウェーブがかかった茶髪。優しい性格。
・山崎文枝
弘の母親で、結衣と意義人の祖母。年齢は69歳。内気な性格の女性。孫には優しいが、長男嫁の美佐子に対しては冷たい。
・まゆみ(旧姓は山崎)
山崎義郎・文枝夫妻の次女で、弘の妹。年齢は43歳。顔は弘と似ており、美人とはいえない。美佐子とは大学からの知り合いである。既婚者だが、子供がいないため、結衣のことを可愛がっている。親戚の集まりでは母文枝と一緒に美佐子に嫌味を言う。
第一節 母の憂鬱
今日は休日。意義人は高校で模擬試験を受けているため、弘、美佐子、結衣の三人はリビングでくつろいでいる。弘はソファに座って新聞を読み、美佐子は雑誌を眺め、結衣はスマホをいじっている。
と、その時、弘のスマホが鳴った。弘は画面を見て、少し驚いたような顔をする。
弘「お、おふくろからだ。…今から来るってさ。」
弘の言葉に、結衣はパッと顔を上げた。父方の祖母である文枝に会えるのは、結衣にとって嬉しいことだった。
結衣「え、おばあちゃん来るの?やった!」
しかし、美佐子の顔は、みるみるうちに憂鬱な表情に変わっていく。顔色が悪くなり、口元が引きつっている。
美佐子「え…今から…?聞いてないわ…」
「ピンポーン!」
少し時間が経ち、玄関のチャイムが鳴った。弘は結衣と一緒に来客を出迎える。来たのは文枝とまゆみ(弘の妹)だった。文枝は、結衣と会えることを楽しみにしており、出迎えてきた結衣に優しく声をかける。
文枝「結衣ちゃん、まあ大きくなったねぇ。元気にしてたかい?」
文枝は、結衣の頬をそっと撫でる。その手は、小さくて温かい。
結衣「おばあちゃん!お久しぶり!うん、元気にしてたよ!」
結衣は満面の笑みで、文枝を抱きしめた。まゆみも、結衣に会えて嬉しい気持ちを伝える。
まゆみ「結衣ちゃん、久しぶり!また美人になったんじゃない?叔母さんのこと覚えてる?」
まゆみの容姿は、女版弘といった感じで、お世辞にも美人とはいえないが、姪の結衣にはいつも優しい。
結衣「まゆみ叔母さん!覚えてるに決まってるじゃない!いつもありがとうね。」
結衣は、まゆみにも笑顔を向ける。弘は、そんな家族のやり取りを穏やかな顔で見守っている。
一方、美佐子は少し震えた足どりでお茶とお菓子を用意している。その表情は、まるでこれから厳しい尋問にでも遭うかのように強張っていた。結衣は、そんな美佐子を心配そうに見つめる。
結衣「お母さん、大丈夫?」
結衣の問いかけに、美佐子は無理に笑顔を作って応える。
美佐子「ええ、大丈夫よ。さ、早く上がって。お茶の準備するから。」
美佐子はそう言って急ぎ足で台所へ向かった。文枝とまゆみの視線が、美佐子の後ろ姿に向けられている。その視線には、結衣には分からない複雑な感情が入り混じっているようだった。
第二節 祖母と叔母
美佐子がお茶とお菓子の準備をしている間、結衣、弘、文枝、まゆみの四人は、リビングで楽しく会話をする。
まゆみ「結衣ちゃん、その青いワンピース、よく似合ってるわね。結衣ちゃんの綺麗な肌の色にピッタリ!」
結衣は少し照れながらも、嬉しそうに微笑んだ。
結衣「ありがとう、まゆみ叔母さん!」
文枝「そういえばね、結衣ちゃん。この前、明子から手紙が来たのよ。そちらの生活も慣れたみたいで、元気にやってるって。結衣ちゃんも、明子伯母さんには小さい頃、よく遊んでもらったわよねぇ。」
文枝は、海外にいる長女、明子から実家に手紙が来たことを伝える。明子は、弘とまゆみの姉にあたる。結衣には幼い頃の記憶が少しだけある。優しくて、いつもニコニコしていたイメージ。
結衣「うん、うっすらとだけど、覚えてるよ。また会いたいなぁ。」
文枝「そうねぇ、私も早く明子に会いたいわ。それにしても結衣ちゃん、本当に大きくなったねぇ。なんだか、私に似てきたんじゃないかしら。」
結衣は一瞬戸惑った。確かに、結衣と文枝は、切れ長の目元など、似ていなくもない。しかし、結衣は母方の祖母である優美子似だと自覚している。
結衣「ええ、そうですか?ふふ、嬉しいな。」
結衣は、曖昧に笑って返した。するとまゆみが笑いながら口を挟む。
まゆみ「あら、お母さんったら。結衣ちゃんは、もちろんお母さんにも似てるけど、お兄ちゃんにも似てる部分があるのよ。」
弘は少しニヤッとする。薄毛…小太り…短足…。似ても似つかない。強いて言うなら丸顔ぐらいだろう。
結衣は、まゆみの言葉に思わず自分の顔を触った。父親である弘に似ていると言われて、正直、複雑な気持ちだ。弘の丸顔は自分にも確かに当てはまるが、それ以外は…。
結衣「ええ?!私が、お父さんに…ですか?」
結衣は少し引きつった笑顔で弘を見た。弘は満更でもなさそうな顔をしている。
弘「そうか、結衣はパパに似てきたか!いやぁ、嬉しいな!」
弘は結衣の肩を抱こうとするが、結衣はスルリと避けた。
まゆみ「そうそう、結衣ちゃん。そういえば、来年ドラマの主演を務める予定があるって、本当なの?お母さんとテレビで見たんだけど」
結衣は少しだけ女優として活動している。芸歴は少ないが、結衣の生まれ持った美貌と一生懸命な演技はたくさんの人の目をひきつけ、今、結衣の人気は急上昇している。
結衣「ええ、実は、その予定なんです。まだ正式じゃないんですけどね。」
文枝「まあ、すごいわねぇ、結衣ちゃん!女優さんになるなんて、おばあちゃん嬉しいわぁ」
文枝は嬉しそうに結衣の手を握った。
文枝「それで、結衣ちゃん。意義人はどうしてるんだい?最近、あの子に会えてなくてねぇ。結衣ちゃんは、何か知ってる?」
文枝は、弘と結衣に意義人について尋ねる。結衣は、一瞬、顔から笑顔が消えた。文枝にとって意義人は、可愛い孫であり、将来、山崎家の当主となる大事な跡取りだ。結衣と意義人は、先日、喧嘩をして、まだ仲直りできていない。
弘も、少し困ったような顔で結衣を見た。
弘「ええと、おふくろ。意義人は、今日は模擬試験で…」
弘が言葉を濁そうとすると、結衣は意を決したように口を開いた。
結衣「おばあちゃん、ごめんなさい。実は…私と意義人、今、ちょっと喧嘩しちゃってて…」
結衣は正直に話すことにした。家族だからこそ隠し事はしたくない。文枝の顔から一瞬にして笑顔が消える。
文枝「喧嘩…?一体、何があったんだい?意義人が、お姉ちゃんに何か失礼なことしたのかい?」
文枝の声には、心配と、少しの怒りが混じっているようだった。
第三節 姑対嫁対小姑
ちょうどお茶やお菓子の用意が終わり、美佐子がリビングに戻ってきた。意義人についての話は中断されたが、部屋の空気はまだ少し重い。まゆみは、用意されたポテトチップスを早速手に取り、貪り始めた。
美佐子は乗り気ではなかったが、弘が「お前も座って話そう」と促し、会話に参加する。美佐子が席に着くと、まゆみの視線が、美佐子の左手の薬指に吸い寄せられた。
まゆみ「あら、美佐子さん。その指輪、素敵ね。随分と立派なダイヤだこと。いつからそんな良いものをしているの?」
まゆみの太い指にはとてもはまりそうもない、美佐子の指に光るダイヤモンドの指輪。美佐子は一瞬戸惑ったが、正直に、去年弘が買ってくれたものだと言う。
美佐子「あ…これは、去年、主人がプレゼントしてくれたもので…」
その瞬間、まゆみの頭に、若い頃の美佐子との記憶が蘇った。美佐子は、まゆみの一歳歳下の大学の後輩だった。
学生時代、容姿端麗でトップクラスの成績だった美佐子はモテていた。まゆみも成績は優秀だったが、美人ではなかった。
大学卒業後、すぐに美佐子は、一流企業に務める三歳歳上の弘と結婚し、二人の子を授かった。一方、まゆみは、美佐子が結婚した翌年に結婚したが、子供には恵まれなかった。そして現在、夫との夫婦仲は冷え切っている。
まゆみは、余裕を演じる表情で、美佐子の学生時代の失敗談や恥ずかしい過去を話し始めた。
まゆみ「あらあら、そうなの。兄さんも、美佐子さんに甘いわねぇ。そういえば、美佐子さん、大学時代、〇〇先生にこっぴどく叱られて、レポート提出できなかったことあったわよね?あの時、顔真っ赤にして泣きべそかいてたの、今でも覚えてるわ。あの才女の美佐子さんが、そんな失敗するなんて、ってみんなで噂してたわよ。あとは合コンで…」
まゆみの言葉は、機関銃のように繰り出される。美佐子は、顔色を悪くし、俯いている。結衣は、そんなまゆみの言葉を聞いて胸が苦しくなった。
そして、まゆみは、美佐子の絶縁状態にある弟妹の話まで始めた。
まゆみ「そういえば美佐子さん、あなたの弟さんや妹さんとは最近どうなの?もう何年も会ってないって聞いたけど。やっぱり、あの時のことが原因なのかしらねぇ。いくらなんでも、あんなに…」
文枝は、指輪のことを正直に話した美佐子を無神経だと責め、まゆみに同調した。
文枝「美佐子さん、まゆみの言う通りだよ。いくらなんでも、もう少し配慮があってもいいんじゃないかい。美佐子さんがそんなんだから意義人だって…」
結衣は、その場の空気が凍り付くのを感じた。目の前で繰り広げられる、まるで公開処刑のような光景。弘は、どうすることもできないのか、ただ黙って俯いている。結衣は、震える声でまゆみを止めようとした。
結衣「まゆみ叔母さん!もう、やめて…」
しかし、結衣の言葉は、まゆみの次の言葉にかき消された。
まゆみ「あら、結衣ちゃん。叔母さんね、美佐子さんが羨ましいのよ。私には子供がいないから。だから、美佐子さんが、そんな風に自分の幸せを当たり前のように話すのが、ちょっとね…」
まゆみの言葉には、美佐子への嫌味だけでなく、結衣への皮肉も含まれているように感じられた。結衣は、まゆみの言葉に何も言い返せなくなった。
美佐子は、もう限界だったのか、突然立ち上がった。その顔は真っ赤で、目には涙が浮かんでいる。
美佐子「もう、やめてください!私の何がそんなに気に食わないんですか!」
美佐子は、そう言ってリビングを飛び出していった。弘は慌てて美佐子の後を追う。リビングには、文枝、まゆみ、そして結衣の三人だけが残された。重苦しい沈黙が、部屋を支配する。結衣は、悔しさと怒りで、震えが止まらなかった。
『山崎結衣の憂鬱』第二話につづく




