おねえ様の物が欲しい 〜欲しがるだけで貰えるなんて思ってます?〜※小話・後日談追加
※誤字脱字報告、コメント、素敵なレビュー、感謝感激です!ありがとうございます!!
トロティエル伯爵家の大広間。見慣れた飾り模様の壁に重厚なアーチの扉。
私、ロデリカ・トロティエルが、ここは異世界で自分が転生者だと気づいたのは13歳のときだった。
「やっぱりこのパールはロデリカよりもカメリアの方が似合うわね。とても素敵だわ」
「あぁ上手い組み合わせだカメリア。髪に垂らしたパールが印象に残る。茶会でも評判だったんじゃないか?」
「それはもう、注目の的だったわ。私も鼻が高かったものよ」
「ありがとうございます、お父様、お母様。素晴らしい物を頂いたお陰です」
私以外の家族がそんな会話をしているとき、私の脳裏には前世の記憶が蘇っていた。ここではない知らない世界。スマホがあって、学校があって、ドレスの代わりに制服があって。どうやら私は前世、突然の事故で儚くなったらしい。そしてこの世界で生まれ変わったのだ。さしずめここは物語の世界?一体どんな作品かは見当もつかないけど。
「皆さま、お姉さまのことも褒めていらっしゃいましたわ。落ち着いた聡明なご令嬢ですって」
「あらそうなの。良かったじゃないロデリカ。落ち着いているのは貴方の長所だものね」
「ロデリカは物静かだからな。沈黙は金。それもまた貴族に必要とされる素養だ」
私以外の家族が会話を進めていく。私は曖昧に微笑んで「‥‥ありがとうございます」と答えるだけで精いっぱいだ。その当たり障りのない返答は場に溶けて、また私を置き去りに会話は進むのだった。まるで私なんて居てもいなくてもどっちでも良いみたいに。
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いつからだったろう、一つ年下のカメリアと比べられるようになったのは。
「カメリアは明るい」
「カメリアは頑張り屋」
「カメリアは可愛い、まるで妖精みたい」
そんなたくさんの誉め言葉に、「ロデリカよりも」という言葉が透けて見える。この家ではカメリアが常に中心で、私の意思が通った試しはない。宝石もドレスも素敵なものは全部カメリアの物。お父様が私のために持ってきてくれたパールも、宝石のイヤリングも、銀のブレスレットも、全部ぜんぶカメリアの物になった。
「私が欲しいです!」
と、カメリアは言う。
「どうして?」
と、父が聞けば「私なら、きっと素敵に身につけられます!」だなんて。
「そうかそうか」と父が応じて、贈り物はぜんぶカメリアの物になってしまう。
そして貰った物をお茶会やパーティーでうんと見せびらかして色んな人に褒めてもらったら、後は見向きもしない。貰った貴重な物達はいつの間にか部屋から無くなっている。1シーズンどころか、同じ物を3回以上使うこともないんじゃないかしら。
我が家は伯爵家で、領の端にある鉱山から採れる鉱物を使っていろいろな宝飾品を作ってる。珍しい宝石を他所から輸入することもあり、母もカメリアも珍しいアクセサリーを常に身につけている。
でも、私はそうじゃない。私は妹に譲るだけの姉。妹が「ほしい」と言えば「譲りなさい」と言われて、あっという間にそういうことになってしまう。あぁどうしてこんな世界に転生しちゃったんだろう?
いつだったか珍しくお父様が、カメリアの居ないときに部屋に来た。
「これを使ってみるか?ロデリカ」
そう言って、一粒のトパーズのネックレスをくれた。
私はとっても嬉しくて。宝物にしようと思って侍女に宝石箱を用意させた。赤いビロード張りの柔らかな宝石箱に、そのネックレスを、まるで大きなベッドに横たわる王様のように沈み込ませた。
着けることが勿体ないほど大切にしていたのに、あるときカメリアが「このネックレス頂きます、お姉さま。使わないようですし。」と言って持っていってしまった。
「まぁカメリア、素敵ね。そのネックレスはカメリアに似合うようだわ。」
とお母さまが大げさに褒めるものだから、私はそれ以上何も言えなかった。
そんな欲しがり屋の妹だったけど、まさか私の婚約者まで欲しがるとは思ってもみなかった。
ガーニエル伯爵家の次男、ウィルバート様。婚約者候補として紹介されたとき、ウィルバート様は私より二つ年上の19歳。学園の令息達にはない大人びた雰囲気に、私は一目でドキドキさせられてしまった。
それなのに‥‥ウィルバード様とお会いするときはいつも家族が一緒にいて、カメリアも当たり前のように同席してた。カメリアはウィルバード様にずっと話かけて、私が目の前にいるのに私の分からない話で盛り上がっていた。
ウィルバード様がうちに通い、後継ぎ教育を受けるようになっても状況は変わらなかった。ウィルバード様が来れば、隣に引っ付いて離れないカメリア。
ウィルバード様もまんざらではないご様子で、「カメリア嬢は話題が豊富で楽しい」「気を遣えて素晴らしいご令嬢だ」って妹ばかり褒めていて、両親もそれを咎めない。
一度だけ、確か‥‥ウィルバード様がうちに通い始めた最初のころ、二人きりでのお茶会が設けられた。
彼は紳士的で優しかったけど、退屈に思っているのがありありと見えるお顔で困ったように笑ってた。
そのとき母に「貴方がお心を掴まないなら、ウィルバード様はカメリアのものになってしまうわよ」‥‥と、半ば脅しのようなことを言われた。
私はウィルバード様に刺繍入りのハンカチをプレゼントしたり、お手紙も欠かさず書いていたけど、あるときから「そのような事はしなくていい」と両親を通じて言われてしまった。そして気づけばウィルバード様は、カメリアとばかり一緒にいる。
せっかく転生した世界なのに、妹が私の物をぜんぶ奪っていく。
こんなのどうかしてる。実は私は怒っていた。これまでの事もそうだけど、人の物ばかり欲しがって人の幸せを得ることで満足している妹に。他人の人生を欲しがったところで、妹自身が幸せになれるわけないのに。
「君はずっと一人で戦ってきたんだね」
話し相手もいないパーティーで、退屈しのぎにバルコニーを彷徨っていると彼に出会った。
デジャル辺境伯のご長男、サミュエル様。
「これからは一人で我慢しなくていい。君を幸せにする栄誉を、僕にくれないか?」
二度目のデートで、そう言って跪き、手を取ってくれた彼。嘘?ほんとに‥‥?信じていいのかな?って、そんな風に思っていたら心の声が伝わったのか「信じてほしい」って力強く言ってくれた。
ようやく誰にも邪魔されない自分の幸せを掴むことができたのね。
彼だけは――――妹であっても、ぜったいに渡さない。
だから私は、普段の自分からすれば考えられないことだけど、妹に約束を取り付けてサミュエル様との顔合わせをしてもらうことにした。
もう妹に私の人生を邪魔させないって、はっきり伝えたかったから。
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「君が、はしたなくもこのロデリカの元婚約者に迫り奪ったことも、これまでロデリカを虐げてきたことも知っている。ロデリカは私の婚約者となり、辺境の地で花嫁となることが決まっている。今後は一切彼女に手を出さないと誓ってもらおう」
二人掛けの長椅子にロデリカと並んで座ったサミュエルが堂々と宣言すると、ロデリカはきゅっと心臓が固まるような心持ちである。そこに向かいから「まぁ」と鈴を転がすような声がした。
向かい合った二組の男女。カメリアは扇で口元を覆い、その横にいるウィルバードは苛立ちを隠さぬ鋭い眼光で睨みつけてきた。ロデリカに緊張が走る。
「まぁ。一体いつ、私がお姉さまの物を欲しがったというのでしょう?」
おっとりとした、カメリアの声が場に落ちた。
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トロティエル伯爵家には二人の令嬢がいた。
長女のロデリカと一つ年下のカメリア。引っ込み思案な姉と利発な妹は、性格の違いはあれど幼い頃はそれ相応に交流をしていた。もっとも、貴族の子女であるからには、同じベッドで寝ることはおろか、教育を含む生活の大半が別々であったが。
それでも姉妹の間に情はあったように見えた。おかしくなったのは、ロデリカが13歳、カメリアが12歳のころ。私室でロデリカが何やらブツブツと呟いている‥‥一体何事かと侍女が気づき、カメリアが気づき、両親の知るところとなった。
「‥‥ヒロイン誰?私がヒロインなのかな?じゃぁ悪役令嬢は?」
「‥‥姉妹格差系?じゃぁ攫われて溺愛ルートかな。騎士とかそのあたり?」
壁に耳を当て聞き取るも、意味の分からない、脈略の無い言葉ばかり。中には『スパダリ』や『逆ハー』など理解不能な単語もあった。
本人に気付かれぬよう医者に見せるも、認知に歪みはなく受け答えも問題ない。若い者にありがちな空想遊びかもしれないと言われた。成長とともに収まるであろうからあまり心配せぬようにと。
その言葉通り、不審な独り言は半年ほどでなくなった。
しかしこの長女の成長に不安な点が多いのは明らかだった。社交性に乏しく、陰鬱で後ろ向き。家庭教師からは「能力はおありですが、意欲的ではありません」とハッキリ言われていた。
14歳になり茶会の機会が増えても閉じこもりがちな性格は変わらず人脈も皆無。長女でありながら家業に興味を示さない。
母と妹が社交に勤しみ新商品の広告塔を務めている姿を間近で見ながら、渡されたネックレス一つ、頑なに身につけない。その理由が「合わせるドレスがないから」。妹のように着こなしを思いつけとまでは言わなくとも、せめて侍女に調整させる程度の骨も折れないものかと。ドレスを作らせるよう手配させても興味がないのか似たようなものばかりを着ている。
さりとて質素倹約なわけでも経済感覚に優れているわけでもない。父伯爵は落胆を腹の底に押し込めることに苦労した。
いよいよ後継者を決める段になったころ、伯爵夫妻には結末が見えていたがそれでも姉の顔を立てることにした。
婿として迎え入れる話がまとまったウィルバード・ガーニエル伯爵令息に事情を説明し、まずは姉妹両名と交流してほしいと伝えたのだ。婚姻ともなれば、相性の問題もある。
結局、ひと月も経たずにガーニエル伯爵からは婚約者として次女のカメリアを望む旨の打診があった。最終的な決定権は当然こちらにあるが。
茶会の席でロクに会話もせず気まずげな長女と令息を見て、相性が良いとは到底思えなかった。
極めて自然な流れで伯爵夫妻はカメリアを後継者とすることにし、婚約を成立させたのだった。
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「つまり、ウィルがお姉さまの婚約者であったことは一度もありませんわ」
「‥‥はぁ。ロデリカ嬢との交流について、私にも至らぬ点はあったかもしれません。でもまさか不貞と断じられるような謂れは一つもありませんよ。ご自分達が婚約前に深い関係になったからって、他人もそうしてるだなんて思わないでほしいですね。まぁそもそも不貞じゃないんですが。」
「な、なにを‥‥!なんと無礼な!!」
サミュエルが憤然とした様子で声を荒げたので、カメリアは凛とした声で応じる。
「無礼はどちらですか。それと、関わらないで欲しいんでしたっけ?結構ですよ。私も婚約者を侮辱するような人達と関わりたくありません。お二人のお幸せを遠くから祈っております。」
「くっ、なんなんだその物言いは!ロデリカ、もう行こう」「いいか!私は辺境デジャルの名に誓ってロデリカを守る!何があろうともこのロデリカをこの家に帰すつもりはないからな!」
「‥‥そうですか、それは結構なことです。お二人ともどうぞお幸せに」
もはや定型的な挨拶を繰り返すくらいしか、カメリアに言うべきことは無かった。
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「ごめんなさい、ウィル。貴方に嫌な思いをさせたでしょう」
応接室の扉は開けられているが今は二人きりだ。婚約者を姉妹の諍いに巻き込んでしまったことに、カメリアはいたたまれない気持ちだ。紅茶で喉を潤したもののまだ喉の奥に苦い物が残っている気がする。
「君が謝ることではないさ。カメリアの方がよっぽど堪えただろう」
「そうでもないわ。‥‥なんて、薄情かもしれないけど。」
カメリアはウィルバードに申し訳ない気持ちはあったが、ロデリカのことで落ち込んでいるわけではない。
姉の視野の狭さにはもう慣れっこだ。どうにも自分の見たいようにしか物事を見ない、都合が悪いことは耳に入れないようにする癖がある。先程も、都合が悪くなったら黙りだ。
ロデリカは去り際に言った。
「私の得るはずだったものを、ぜんぶ得られて嬉しい?」と。
カメリアは答えた。
「お姉さまが得るはずだったものって、そちらのご令息の伴侶のお立場でしょう?私は手出し致しません。」
結局、それが最後の会話になってしまった。
カメリアのあの気質は13の頃に病を疑われたときに限った話ではなく、それ以前からすでに兆候があった。実の姉に陰鬱な視線を向けられながら育ったカメリアは、その始まりがなんであったかなど思い出せない。
あるとき父が家族そろった席で、良い物を見せてあげようと懐から取り出した。
「視察先で余っていたパールを貰ってきた。端材の繋ぎ合わせだか綺麗なものだろう。ロデリカ、要るか?」
父のそんな期待を込めた問いかけに、ロデリカは応えなかった。その後も似たようなことが何度も繰り返されたが一度だって。ロデリカはいつも自分からは答えを示さず、どっちなんだか分からない曖昧な微笑みを浮かべていた。
姉は気づいていただろうか。父は一度だって「あげるよ」とも「お前のだ」とも言わなかった。だから私は必ず「欲しい」と言った。自分が欲しい、と。
姉が欲しがらないことを確かめて、父は私にそれを渡した。そして必ず言うのだった。「欲しがるのなら、それ相応の働きをせよ」と。父が初めて私たちに宝飾品を見せるようになったころ、後継者の選定はとっくに始まっていた。
姉は理解していたのだろうか。
一つしか無いものを、先に与えられることの意味を。
姉だから、長子であるから、父は必ずロデリカに先に機会を与えた。
領民が開発した織物も、見つかった希少な鉱石の欠片も、まず彼女の前に差し出された。それが当然だと思ったのだろうか。労力の結晶を、ただ与えられることが?庶民がどれだけ欲しがっても一生がかりでも手に入れられぬ貴重なもの。それを、姉は一度も「欲しい」と言わなかった。
焦れた父がロデリカにネックレスを渡したことがある。希少なピンクトパーズだった。淡い色合いで彼女の落ち着いた服装にもよく似合うであろう品物だった。それを彼女は、いつまでたっても身に着けず、箱にしまって満足していたのだから宝の持ち腐れとはこのことだ。
貴族が領民の血税で得た宝石を身に着けず、人目に触れさせずしまっておくなど。職人にどう顔向けするつもりかという、そんな簡単な発想さえない。
鉱石の採掘は命がけの仕事である。鉱石の選定も加工も気が遠くなるような繊細な作業だ。邸の侍女達には宝飾品を扱うことを誇りに思っている者も多い。最も美しく見える用途、配置を調整する。これらの労力も多くの人の目に触れ賞賛されてこそ報われるというものだ。そして貴族達の反応も彼らに伝えねばならない。世間の評価を得てこそ彼らはその仕事に誇りを持つ。
姉は、宝飾庫に自分用の宝飾品が保管されていることも、派手なものが苦手な彼女のために侍女たちが奇抜にも貧相にもならぬよう見立てていることも、気づいていなかったのだろう。
カメリアは結った髪にパールを垂らして茶会に出たその日から、数々の流行を生み出してきた。彼女の身に着ける物は必ずと言っていいほど話題になる。令嬢達が親にねだり、夫人達も自分用に作らせるほど。
二通り三通りと装いの組合わせを作り、その後は加工し直して売り渡す。古い宝石を溜めておくほどの余裕は伯爵家にない。
姉は傲慢というほどではなく、悪人でもなかった。しかし自分達の暮らしを支えるものに目を向けず、ただ与えられることだけを待っていた。
果たしてそんな彼女が、新しい地でどんな幸せを得るのだろうか。
「それにしても不思議だね。デジャル辺境伯令息の優秀な姉君は、さいきん婿を迎えたばかりと聞くけど。一体彼は、戻ってどこでどう暮らすつもりなのだろうね?」
「辺境の北の詰所で領主代理の役職を作るそうよ。ご本人が望むならその仕事を与えるとマデリン様から伺ったわ」
辺境伯の後継者、マデリン・デジャル嬢とは彼女が王都で在学していた頃からの交流だ。どちらも家を継ぐ身ということもあって手紙でのやりとりが続いている。彼女も小さい頃から不平不満の多い弟君に手を焼かされたそうだ。
領主代理の職は大まかには商会や生産者達の折衝役である。それこそ現場の不満を吸い上げ宥めることが最大の役目だ。貴族としての出自も活かせる仕事であるから適職といえる。
「へぇ。それは苦労も多いだろうけれど必要とされる仕事だね」
「えぇ、二人で力を合わせて頑張ってもらいたいとマデリン様も」
それが務まらなくとも肉体労働ならさまざまにあるから、この先二人が食いっぱぐれることは無いだろう。王都のように茶会やパーティーを嗜むような煌びやかな生活を送ることはできないが。
情熱的で奔放なところもある二人なら、あんがい領民達と上手くやれるような気もする。あのサミュエルが『スパダリ』とやらであるかは、知る由もないが。ロデリカが唯一明確に欲しがったものなのだから、きっと何物にも代えがたい宝であるだろう。
両親とも、妹とも心を通わせなかったロデリカが、唯一の伴侶と心の安らぐ生活を送れることを、カメリアはそっと祈るのだった。
その後、日を置かずに辺境の地へと発ったロデリカから、近況を伝える手紙が来ることはついぞなかった。マデリンからの便りによると、渋々ながらも夫婦で役目を果たしているとあり、カメリアは両親ともども安堵した。
もっとも、ロデリカがこの辺境の若き女傑の装いを眺めては「お義姉だけずるい」と零していることは、彼らの耳に届くことはなかったのだけれど。
END
両親はロデリカに、婚約が流れたとも後継者から外れたとも伝えませんでした。もともとロデリカのためにその席が用意されていたわけでもなく。
ロデリカは両親と相性が悪かった前提はありますが「ちょっと周り見れば分かるだろ」と言うことが多く、また、説教されそうになるとやんわり逃げて回避するのも上手で、両親は早々に諦めました。
ロデリカがちゃっちゃと恋人を見つけたことに両親はホッとしてます。
※ロデリカが幸せになるその後も機会があれば書いてみたいです。彼女はチートスキルなどは持たないので、辺境で姫のように傅かれることはありませんがちゃんと幸せになります。同世代とそれ未満の平民の子が働く姿にも影響されますし、貴族ストレスもなくなるし、義姉も遠くから世話を焼いてくれます。因みに妹は彼女のストレス元凶ですが、プラス効果もあったので関わりが無くなるのはメンタル危機。
特段悪者は作ったつもりないですが、サミュエルの紛らわしい気障セリフは実姉にボコされて良い案件です。結婚詐欺と思えばもっと悪い‥‥?
という訳で小話でも
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「な〜にが『デジャルの名に誓って守る』だ!いつからデジャルがお前の物になった、このバカ弟!!」
辺境伯邸、執務室にマデリンの声が響く。
「私がデジャルを名乗る者であるのは当然じゃないですか姉上!それより、あんな小さな邸でロデリカと暮らせだなんてどう言うことですか!私はこの家の長男ですよ!!」
「執務に一切携わらない長男が結婚後も実家に留まる方がおかしいたろう。結婚後も『坊っちゃん』と呼ばれ続けたいのか?働かざる者食うべからずと昔から言ってるだろう!!」
両親がサミュエルに延々伝え続けてきた言葉だ。この楽天的で、見栄っ張りなところのある弟に。
「ロデリカ嬢は王都で大切に育てられたご令嬢だぞ。辺境の地は不自由も多いだろうに、お前は甘い言葉ばかり聞かせて押し切ったのではないか?全く‥‥。」
とはいえマデリンは、あの物静かな深窓の令嬢に、思うところが無いわけではない。
甘ちゃんの弟が調子の良い言葉で口説いたのは理解しているが。ロデリカがこの弟に嫁ぐことを、あたかも二番手以下の幸せであるかのように零した言葉はマデリンの耳にも入っている。
多産の家系でもなく社交に不得手な令嬢の縁組としては、そう悪いものでもないはずなのだが。住まいも伯爵邸には遠く及ばないであろうが過不足なく整えさせた。それにサミュエルは大袈裟なところはあるものの根は悪い奴ではない。いや、これは身内の贔屓目であろうか。
「ともかくお前はロデリカ嬢を労ってやれ。不慣れな環境で気も塞いでいるようなら、あまり無理はさせないこと。」
それからデジャル家のツケで散財するのは認めんぞ、後日請求書を回すからな!
‥‥そうダメ押しの言葉を添えると、サミュエルは「姉上は非情だ!」といつものように騒ぎながら出て行った。
騒々しい男が退出すると、部屋は一気にしんと静まり返った。ふうっ、と溜息が出るマデリン。
まぁ時間をかけてでも幸せになってくれると良いのだが。自らも新婚の身であるマデリンは、弟夫婦の明るい未来を祈りつつ、溜まった書類に目を戻すのであった。
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拙い作品を読んでいただきありがとうございました。
※短い後日談の短編をupしました。シリーズリンク▲からどうぞ!




