表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の乙女の祈り  作者: すじお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

第二話 禁じられた満ち欠けの日に

 あの夜から、数日が過ぎた。


 砕け散った“月の石”の残骸は、工房の中央で静かに眠っている。

 レイチェルはそれを片づけられずにいた。

 見るたびに胸が痛む。けれど、捨てることはできなかった。


 あの石は、彼との約束の証だったから。


 ――ふたりで、平和のための月の石を作ろう。


 そう言ってくれたのは、バードンのほうだったのに。



 あの夜以来、彼はほとんど帰ってこなくなった。

 会えば怒鳴られ、責められる。

 「お前が壊した」「俺の努力を台無しにした」と、まるで悪夢のように。


 それでも、レイチェルは待っていた。

 月が満ちて、正しい周期に戻れば、きっともう一度やり直せると信じて。

 けれど、その願いは――また裏切られる。


 その日は、夏至の前前日。

 一年のうちで最も月が不安定になる日だった。

 暦を読む手が震える。嫌な予感がする。


 「まさか、また……」


 彼が何かを企んでいる気配は、朝から感じていた。

 工房の鍵もない。魔力の波も揺れている。

 レイチェルは慌てて丘を駆け上がった。

 工房の扉の向こうから、見慣れた青白い光が漏れている。

 ――嫌な、あの光。


 「バードン! だめ、今夜は禁じられてる日なのよ!」


 扉を開けた瞬間、眩しい光が彼女を包んだ。

 石が脈打つ。音がする。

 バードンが両手で月の核を握り、無理やり力を注ぎ込んでいた。

 「レイチェル、来るな! もうすぐ完成だ!」

 「完成じゃない、それは“崩壊”よ! この日だけは駄目なの!」


 光が強くなる。

 床に刻まれた魔法陣が悲鳴を上げるように歪み、ひび割れが走った。

 レイチェルは必死に駆け寄り、バードンの腕を掴んだ。

 けれど、彼は振り払う。


 「放せ! また邪魔する気か!」

 「違う! 私たちは二人で作るはずだったのに……!どうして私の話を聞いてくれないの!?」


 レイチェルの声も届かぬまま、石は光の中で爆ぜた。


 空気が裂ける。風が吹き荒れ、工房の窓が割れる。

 ――そして、あの痛み。

 月の血を引く者にしか感じられない、あの裂かれるような苦痛。


 レイチェルは叫んだ。


 「やめてえええええ!!」


 彼女の悲鳴と同時に、石は完全に砕け散った。

 細かな光の粒が宙に舞い、夜空へと吸い込まれていく。

 残されたのは、焼け焦げた魔法陣と、息を荒げる二人だけ。


 「……また……壊したのか」


 バードンの低い声が響いた。

 その声に、レイチェルは言葉を失う。


 「お前は俺の敵なのか? 俺の夢を、何度も何度も潰す気か?」

 「違う、私はあなたを……守りたくて……」

 「黙れ! もうお前なんか、いらない!」


 彼はそう叫ぶと、工房を蹴り出て行った。

 残されたレイチェルは、崩れた石の上で膝をつく。

 涙がこぼれた。

 けれどその涙は、ただの悲しみではない。


 月の血に反応し、淡く光を放っていた。

 その光だけが、闇に沈む工房をやさしく照らしていた。


 「……月よ。どうか……彼を、これ以上罰しないで」


 祈りの声は、ひどく静かだった。

 けれど、月はその願いを聞いてはいなかった。


 その夜の空では、月が真っ二つに割れたように見えたという――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ