1. 高天ケ原の女神
神々の住まう天上の都、高天ヶ原。
その高天ケ原のはずれ、大きな蔵が立ち並ぶ一角で、猫娘と豚男が次の骨董市の準備をしていました。
店員の時の法被と違い、猫娘はTシャツにミニスカートの軽装、豚男は作務衣といったラフなスタイルです。
そこへ、ウサギ耳の少年がやって来ると親しげに声をかけました。
「よう、猫娘。なつかしの骨董市の景気はどうだい」
「これは黒ウサ。まあ、ボチボチでんニャ」
控え目に言いながらも、猫娘は腰に下げた桜貝の詰まった袋を、わざとらしく揺らしてみせます。
その袋に目を留めた黒ウサが、目を丸くします。
「おおっ! 桜貝がこんなに!」
驚く黒ウサに、猫娘はいかにも得意げです。
「長年の誠実な商売が実を結んだニャ。それより、黒ウサは、アコギな商売してないだろうニャ」
「そんなことしてねーよ………そういえば、アマテラス様が、猫娘を見たら中央社殿に来るように言ってたぜ、何か手伝ってほしそうだったな」
「わかった。すぐに行くニャ」
猫娘は後の作業を豚男に頼むと、巫女姿に着替えて、いそいそと中央社殿に向かいました。
◇
社殿の中は、どこか慌ただしい空気に包まれていました。
八百万の神々が集まり、何やら大掛かりな準備を進めている様子です。
その中心で、神々しい光をまといながら指揮を執っている天女のもとへ、猫娘は歩み寄りました。
「アマテラス様、どうなさったのですニャ?」
「あら、猫ちゃん! 巫女姿も可愛いわね」
微笑みを向けてから、アマテラスは少し困ったように続けます。
「実はね、毎年恒例のゴッド7――略してG7先進神首脳会議が、今年は日本開催なの。準備が立て込んでいて……少し手伝ってもらえないかしら」
「わかりました。何をすればよいのですか」
「猫ちゃんは、計算が得意だから会計をお願いしたいの」
猫娘は素直にうなずき、準備会場の本部へ向かいました。
会議場の設営、宿泊所の手配、晩餐会の準備――仕事は山ほどあります。
◇
一息ついた頃、アマテラスが猫娘のもとを訪れ、やさしく微笑みました。
「ありがとう、猫ちゃん。あなたがいてくれると、本当に助かるわ」
そう言われて、猫娘は嬉しそうに目を細めます。
「ところで、なつかしの骨董市はどう。うまくいってる」
「ハイですニャ」
自信満々に言う猫娘に
「頼もしいわ。でも『責任者出てこい! 』なんて言われていない」
………
猫娘は口ごもりましたが、すぐに笑顔を作って答えました。
「だ、大丈夫ですニャ。心配ご無用ですニャ」
無理をしているのが、表情からすぐにわかります。
「猫ちゃん、無理しなくていいのよ。いざとなったら、私が行くから」
「そんな! アマテラス様がお出ましになるなんて、恐れ多いですニャ。そのお言葉だけで十分ですニャ」
強がる猫娘を、アマテラスは少し心配そうに見つめました。
「それより……アマテラス様こそ、ひもろぎ系列、ずいぶん手広く事業展開されていますが、大丈夫ですかニャ?」
「そうなのよねぇ。最初は、なつかしの骨董市だけだったのに、気づけばお願い事が増えちゃって」
のんきに笑いながら、アマテラスは続けます。
「ひもろぎ系列としてフランチャイズ化したのはいいけれど、結構大変なのよ。まあ、その時は猫ちゃんを頼りにしてるわ」
猫娘は、少し呆れたように笑いました。
ちなみにアマテラスは、猫娘の属する『なつかしの骨董市』のほかにも、
亡き人や幻の料理を味わえる『思い出食堂』、
往年の名俳優や演奏家、名選手がよみがえる『メモリー興行』、
過去や異世界へと乗客を運ぶ『異界タクシー』や『追憶の旅行社』など、
ひもろぎ系列として実に多彩な事業を展開していました。
――もっとも、あまりに手を広げすぎた結果、アマテラス自身も収拾がつかなくなり、後々とんでもない騒動を招くのですが……それは、また別の話。
そんな和やかな空気を切り裂くように。
「大変です、アマテラス様!」
巫女神アメノウズメが、悲壮な表情で駆け込んできました。
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