2. 骨董鑑定士
◇骨董鑑定士
しばらくすると、波止場に大きな黒い車が停まりました。
スーツ姿で狐目の運転手が後部座席のドアを開けると、恰幅のいい男が降りてきて、ズイズイと船の骨董市会場に向かってきます。
猫娘が出てくると、男は骨董市の広告を見せながら
「これがポストに入っていたと、私の運転手で秘書でもある者が持ってきた」そう言って、さきほどの狐目の男に振り向きました。
その運転手の男は猫娘を鋭い目で見つめ、不気味に笑っています。猫娘は背筋に冷たいものを感じ、なぜか何処かで見たような気がするのです。黙りこむ猫娘に、恰幅のいい男が続けて。
「私は骨董品のコレクターで鑑定士だ。こんな時間に、船も豪華客船かと思ったら、ちっぽけな船の上での骨董市とは。たまに、偽物を売りつける悪徳骨董屋があるので、監視もかねてきた。見せてもらうぞ」
悪徳骨董屋と言われて、カチン! ときた猫娘ですが、ひきつった営業スマイルで中に案内します。
骨董鑑定士と言う男は船の中のテーブルに雑然と置いてある雑貨を見ると
「なんだこれは! ガラクタじゃないか。これで骨董市だと」
呆れながら、狭い船内のテーブルの品物を持っては、放り投げていました。
しかし、奥の青い壺と、その横に飾られた掛け軸の前に立ち止まると、突然表情が変わり
「こっ! これは、まさか! 」
叫ぶように言ったあと、震えながら品物のそばに行き、虫眼鏡を取り出して品物を必死で鑑定し始めます。
「間違いない!……これは、中国は唐の時代の青磁、しかも、すでに失われた幻の王のものだ。なぜこんなところに。オークションに出せば間違いなく数千万円はする。それに、これは現存していないと言われる王羲之の書の掛け軸、もはや値段はつけられない、国宝いや世界の宝だ」
男は震えながらつぶやいたあと、猫娘に
「どうして、これがここに」
「すみません、私には分からないです」
「ちなみに、いくらだ」
猫娘は大福帳を取り出して
「唐の青磁は、九千万円、王羲之の掛け軸は一億五千万円ですニャ」
「………それくらいはするだろう。まあ、多少価値はわかっているようだな。しかし、これは間違いない、本物だ、偽物ではない」
“多少価値がわかっているようだな”と馬鹿にしたように言われ、再びカチン! ときた猫娘は小声で
「なつかしの骨董市は、誰よりも物の価値を理解し、適正価格で販売している超優良骨董市だニャ」
ブツブツと独り言のように言っているのを、少女が笑いながら聞いていましたが、振り返った時、奥の台にふれて青磁の壺が倒れかけています。
「ああああーー! 」
今にも壺が落ちようとしたとき、男が必至の形相で駆けより壺をだきかかえ、なんとか落ちずにすみました。
「おい! これが何かわかっているのか! 国家遺産、いや世界遺産ものだぞ! 壊したら、どうするつもりだ‼ 」
男に怒られて、少女は泣きそうな顔をしています。
「ご……ごめんなさい」
「ごめんなさいで、すむか! お前らに弁償できる額ではないのだぞ! 」
興奮して怒鳴る男に猫娘が寄ってきて
「まあ、そんなに怒らなくても。壺は無事ですニャ」
「何を言ってる! これがどれだけ価値のあるものか。しかし、お前たちもこんな不安定な場所に、そのまま置いておくなど、不用心だし、せめてショーケースに入れて鍵をかけておいてはどうかね。海の潮風で掛け軸も痛むだろう」
「まあ、そうです。すみませんニャ」
猫娘はうざいなーといった感じで答えます。
一方、男は憤りをかくせません。
「お前たちに任せてはおけない。わかった! 俺が、これを買いとる! 」
買うといわれて猫娘は、商売上の笑顔で
「それは、ありがとうございますニャ」
「合わせて二億四千万円だな」
「ハイですニャ」
「支払いは、小切手でいいか」
「うちは現金払いとなっていますニャ」
男はあきれて
「おい、冗談言ってもらっては困る。二億円もの大金、普段から持ち歩く者などいないだろう。一応、百万円は今、現金でもっている、手付金としておいておく」
さらに、名刺を渡して
「私は日本、いや世界でもトップクラスの骨董取集家だ。『おもしろ鑑定団』の鑑定士としてTVにも出ている。君らも広告を送りつけているから、素性はわかっているだろ」
しかし、猫娘は
「すみません、現金払いのみ、となっておりますニャ」
頑なな猫娘に憤った男は
「話にならん! 責任者を呼でもらおうか」
「責任者は、ここにはいませんニャ」
「じゃあ、電話しろ! 」
「私は、電話番号、知りませんニャ」
埒が明かない話に男はさらに苛立ちをつのらせ
「しかし、うさんくさい奴らだ、入手経路も怪しい、警察に連絡する! 」
すぐに電話をかけようとしましたが圏外でつながりません。
車に戻り、待っている狐目の運転手の携帯を見ても、やはり圏外になっています。
漁港も完全に閉鎖され、人の気配がなく、なぜか時間も止まっているような不思議な感覚に囚われました。そこに、船から猫娘が顔を出し
「おじさん! もうすぐ閉店です。見るなら、早くするですニャ」
なす術が思いつかない男は、やむなく船に戻りました。
「わかった。それじゃあ、次に来たときに、もってくる。それまで、この品は取っておいてくれ。それくらいはできるだろう」
「わかりましたニャ」
猫娘は『予約済み』のシールを張りました。
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