1. 港に骨董市がやって来た!
少女は漁港の波止場で、静かな海を見つめていました。
今日は漁が休みで、港はどこか寂しげです。
おだやかな水面の波は、堤防の岸壁でさざ波の音を立て、潮風が少女の髪をはらはらと揺らし、手には「なつかしの骨董市」の案内広告がしっかりと握られていました。
「もうすぐ、朝5時」
胸の高鳴りを抑えながら沖を見つめていると、島影の向こうから、小さな観光船のような船が一隻、ゆっくりと姿を現しました。
「来た!」
少女は思わず笑顔になり、その船をじっと見つめます。
船が波止場に近づくと、船首には少女と同じくらいの背丈の、小学生ほどの猫耳の少女がロープを持って立っていました。表情は緊張でこわばっています。
そのとき、操舵室の窓から豚面の男が顔を出し——
「ブゥー!」
まるで本物の豚の鳴き声。猫耳の娘はその声に追い立てられるように、ためらいながらも思い切って岸壁へ飛び移りました。
なんとか着地したものの、よろけて転びそうになります。
「あぶない! 」
少女が叫ぶと、猫娘はよろけながらも、なんとかロープを掴んで舫いにロープを絡ませようとしますが、重いロープをなかなか引っ張れません。
少女は見ていられず、駆け寄って猫娘を手伝いました。
「すみません、慣れてないのですニャ」
猫娘が申し訳なさそうに言うと、少女も力を込めながら笑顔で応えます。
「一緒に引っ張れば大丈夫だよ」
二人でなんとかロープを結び終えると、豚面の男が操舵室から出てきて、手際よく船を固定し直しました。
猫娘は息を切らし、真っ青な顔をしています。
「だ、大丈夫? 」
少女が心配そうに尋ねると、猫娘はぐったりしながらも笑みを浮かべました。
「私、船は苦手なんですニャ……。ご先祖さまは大航海時代にネズミ退治で大活躍したらしいのですが、現代猫の私には無理ですニャ」
自分を“猫”と呼ぶ法被姿の娘に、思わず笑いそうになる少女。
そこへまた船の上から、低く響く声。
「ブゥーーーーー!」
振り向くと、豚顔の男が看板を掲げています。
「はいはい、今行くニャ。少し休ませてほしいニャ、私が雇っているのに、どっちが雇い主かわからないニャ」
ニャー、ニャーと猫のように愚痴を言いながら、看板を受けとると堤防に立てました。
―なつかしの骨董市会場―
看板を掲げ、船に桟橋をかけると、猫娘は腰に手をあて満足そうに
「よし、準備完了! おまたせしました。骨董市の開店ですニャ! 」
猫娘は宣言しますが、周りには少女一人だけ。
◇
少女は猫娘に広告を見せ、少し緊張しながら船内へと入っていきました。
小さな客室のような船室の中央には大きなテーブルがあり、その上や窓際には雑多な品々が並べられています。
「わあ……やっぱり、おばあちゃんの言ってた通りだ」
洗面器や茶碗、鍋などの生活雑貨に、浴衣やきれいな布、古い人形やおもちゃまで。少女にとって見覚えのあるものばかりです。
「おばあちゃんがね、子供の頃に“ふしぎな骨董市”に行ったことがあるって。船でやってきて、自分や家族が昔使っていた物が並んでたんだって」
「そういえば……お嬢ちゃんにそっくりな娘さんが、この波止場に来た覚えがありますニャ」
「えっ! おばあちゃんを知ってるの?」
猫娘は「さあ、どうかニャー」ととぼけて、小首をかしげました。
「お金は桜貝でいいのだよね。おばあちゃんに言われて、よく海岸に行って拾って集めたていたの」
そう言って、桜貝が詰まった袋をとりだすと、それを見た猫娘は驚いて
「こんなにたくさん、すごいです! 爆買いしてもらえそうです! うれしいですニャ! 」
二人は顔を見合わせて笑い合い、少女はさっそく品物を物色し始めました。
鮮やかな模様の包装紙、ビーズ、キラキラ輝くガラス玉など、女の子が好きそうな物ばかり。籠の中はあっという間にいっぱいです。
こうした雑貨の他に、奥の台には重厚な壺と、その背後の壁には掛け軸が飾られています。なぜか、少女の見ている雑貨とはあまりに異質で、まさに骨董品といった品物です。
少女は全く興味なく、品物を入れた籠をねこ娘に見せて、
「いくらになりますか」
猫娘は大きなそろばんを取り出し、大福帳と品物を見ながら、ぱちぱちと珠をはじいて
「全部で桜貝十三枚ですニャ」
「買います! 」
少女は即答すると、桜貝を取出して渡しました。
「毎度、ありがとうございます。おおー! これはきれいな桜貝です。しっかりと磨いたのですね! 」
少女がうなずくと、猫娘は追加で鮮やかな布の端切れを袋に入れ
「これは、おまけしますニャ」
「ありがとう!」
少女の顔はぱっと明るくなり、ふたりは笑顔で再び品物を眺め始めました。
静かな朝の港に、潮の香りと笑い声がやさしく響いていました。
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