4.鈴音
「また、数十万円とか言うのでしょ、どうせ買えないし。そもそも売り物じゃないし、持って帰って捨ててよ」
「捨てるなんて。また、そんなことを言う……あっ、番号札がありますニャ」
猫娘は背中にあった番号札に気づくと、大福帳を照らしあわせ
「この人形、大福帳に載っていますよ! 値段はえっと……」
なぜか、猫娘はニンマリと笑い
「なんと! 値段は0円! 」
「0円って! ただってこと。そんなに価値のないものなの」
猫娘は翔子に大福帳をみせると、備考欄に何か書かれている。
「とある少女の誕生日に買ってもらい、少女に尽くそうと喜んでいたものの。その日の夜、少女に首を引きちぎられ、その後ホコリまみれで放置され、一度も遊んでもらえずに捨てられた。あまりにも可哀想な人形」
翔子息をのむ。
「ええー! なんか、私が鬼か悪魔みたいな書かれようじゃない」
猫娘は、そんな翔子をジト目でみつめ。
「無料です、どうぞ、お持ち帰りくださいニャ」
翔子は慌てて
「いやですよ! 」
「それはないでしょ、この人形は、お姉さんに会いたくて首がないにもかかわらず、健気にも高天ケ原から艱難辛苦を乗り越え、ここえ来たのです。持って帰らないと可哀想です、祟られますニャ! 」
大仰に言う猫娘に
「会いたいというより、恨みを晴らしたいのでしょ……怖いよ! 今はお店の物でしょ、どこかで供養してください」
「私は関係ないです、自分で供養してくださいニャ」
腫れ物を相手になすりつける翔子と猫娘、そのとき突然、豚男が
「ブブブー!」
あわてて叫ぶような豚男の声を聞いた猫娘は
「ええ、コンビニに財布忘れた! 骨董市が終わってからにしてニャ、今はここにいて! 」
猫娘が言うと、翔子も豚男の腕を握っている
「ブヒ、ブヒ!」
焦る豚男に翔子が
「この人なんて言ってるの」
「今月の給料が入ってるので、なくすと嫁さんに叱られるって」
呆れた翔子だが、豚男の焦る気持ちもわかる。
「ブヒー! 」
「すぐ帰るからって……待ってニャ! 豚男がいないと怖いニャ」
あせっている豚男は、猫娘を振り切って出て行った。
翔子も豚男について出て行こうとしたが、店番の猫娘は翔子の手をつかみ、涙目で
「豚男が戻るまで、ここにいて下さいニャ」
さすがに、涙をためる猫娘に翔子も気の毒になった……というか
「じゃあ、人形なんとかしてくれる」
「うん……アマテラス様にたのむ……また借金増えるけど」
翔子はちょっと可哀想な気もして
「わかった、一緒にいてあげる」
静かになった店内で翔子と猫娘は寄り添うようにして、ただひたすら、豚男の帰りを待っていた。
時間を刻む時計の音だけが単調に響いている他は、全く音のない冷たい部屋。
人形の表情は怒って自分達を睨んでいるようで、見ないようにしている。
あまりに静かで不気味なので、翔子は何か話しをしようと
「でも、どうしてこんな深夜にお店を出してるの」
すると猫娘は、寂しい表情で
「ノルマが増えたニャ」
「ノルマ……があるの」
猫娘はこくりと頷くと
「アマテラス様、最近変なのです。売り上げを気にされて。それで、残業しているのです。怖いけど、仕方なく夜の学校や、廃ビルとかでも営業しているのですニャ」
「そう、それは大変ね」
相槌をうつ翔子だが、正直なところ人ごと……とにかく早く帰りたかった。
すると、猫娘は思いついたように。
「ところで気になってたのですけど、ご来店されたとき、お姉さんはだれかと話していたようですが、だれですかニャ」
「涼音だよ……そういえば涼音は! 」すっかり忘れていた。
しかし、まわりをみてもだれもいない
「涼音はどこ? 帰ったの」
猫娘は呆れた表情で
「涼音さん?……最初から、お姉さん一人ですよ。だれかと話しているようなので、危ない人だと思っていたのですけど……そもそもお姉さんにしか、案内は送っていないし」
絶句した翔子に、猫娘が
「ちなみに、涼音さんて友達ですか」
「ええ、違うクラスの友達だけど」
猫娘は少し考えたあと
「まさかと思いますが……」
猫娘は、骨董市の売り物でもある、この学校の古い卒業アルバムを持ってきて、とあるクラスの頁をひらいた。
そのクラスの集合写真の上に黒枠の顔写真がある。
写真の生徒の名前は……
[ 桔梗 涼音 ]
猫娘は神妙な表情で
「この学校に交通事故で亡くなった女生徒がいたと聞いたので。まさかと思ったのですニャ」
翔子は焦るように
「だって、さっきまで一緒にいたし、メールも! 」
改めてSNSのメールをみると、自分から涼音に送信しているが、既読になっていない。それに、涼音からの返信は消えている……というか、もともと無かったのか。
「でも、確かに一緒にいたし。メール交換もしてたし……」
納得いかない翔子に猫娘は
「翔子さん自身が作り出した妄想かもしれません。霊魂や妖はここに入れないですニャ」
「でも、これまで学校や放課後に会っていたし……」
涼音の存在はあまりに実体感がある。
ただ、思い返せば、涼音とは二人でしか会ったことがなく、学校や友達で涼音の話しが出たことはない。
次第に記憶が曖昧になっていく、やはり自分が作り出した妄想なのだろうか。翔子はわからなくなってきた。
猫娘は、さらに気になることがあった
「ところで、既読になったのは二人と言われましたよね」
「えっ……ええ」翔子も血の気が引いてきた。
「一人は、先程の人形だとして……もう一人は……」
猫娘も、真っ青な顔でうなずいた。
そのとき……
トントントン
再び戸をノックする音。
猫娘と翔子は、顔を見合わせ、寄り添って動けない。
豚男はなかなか帰ってこない
トントントン
しつこく鳴るノックの音
翔子に促され、恐る恐る猫娘が
「どちら…さまですか」
すると、扉のそとから今にも消え入りそうな、か細い声で
― 涼音です ―
<了>
気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ!
よろしくお願いします!




