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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第1話 なつかしの骨董市
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5. なつかしの骨董市

和也は、その後も陳列品を見ながら

「現金で百万円を持っているなんて、金持ちだな」


 値札のチェックをしている猫娘に、独り言のようにつぶやくと

「そんなこと、ないです………」作業をしている猫娘は手をとめ、老夫婦の出て行った戸口を見つめながら


「あの御夫婦は、さっき話していた唯一の息子に先立たれ、おじいさんも足を怪我され、仕事も出来ず生活保護でなんとか暮らしているのです。百万円をためるのに、ご夫婦は大変苦労されたそうですニャ」猫娘は続けて


「お客様のことは、あまり話してはいけないのですが、お婆さんは末期癌で余命半年だそうです。生きているうちに、この案内がきてよかったと言っておられましたです………」  

 最後は少し言葉の詰まった猫娘だった。


 和也は、そんな状況でよく自分たちが幸運だと言えるなと思い。

「よかった……なんて」


「そうです。骨董市の案内が来るのは、とっても幸運なのですニャ」

 猫娘は、さみしげな笑みを浮かべると、頭をぺこりと下げて、他の陳列棚に向かった。


 和也はそのあと、再び陳列品を見て回った。

 まだ見ていない奥の自動車にも驚かされた


「これは、死んだ父さんが自分で初めて買ったと言っていた軽自動車だ。確か母さんを初めて乗せた、って言ってたな。あっ! このシートの破れ、僕が破ったんだ。あのときは、怒こられたな、子どもの頃は、この車も大きいと思って中で飛び跳ねていたけど、今見ると小さいな」


 再び猫娘をつかまえると

「この車も高いの」


「……三千万円ですニャ」

「家が買えるな」

 あきれて、和也は皮肉っぽく言った。

 

 その後、和也は、時間もたつのも忘れて懐かしい品物を見ていた。特に、亡くなった父との思い出の品が多い。


 しばらくすると、別れのワルツ(蛍の光)が流れ始めた。

「すみません、もうすぐ閉店ですニャ」


 猫娘に言われ、しかたなく帰ろうとすると、父の思い出の品ばかりの中に一つだけ、女性ものの小箱を見つけた。


「これは。母ちゃんの……確か婚約指輪が入ってた小箱だ」

 中を見ると、まだ新品同様の指輪が輝いている。


 壊れていたり、使い古されたりした物ばかりの中、異彩だった。


「でも、どうしてここにあるんだ。以前、これだけは絶対に売らないと言って僕に見せてくれたことがある。いつの間に売りに出したのだろう、生活のためにはしかたなかったのかな」


 そう思い、多くの懐かしい骨董品の中で唯一、母の品物なので一応値段を聞いてみようと猫娘を探すと、豚面の男と白い布で展示品を覆って片づけはじめていた。


 和也は小箱を持って駆け寄り

「すみません、これ! 幾らですか」

 猫娘は、少し面倒くさそうに手をとめ、調べ始めた。


「えーと………五千円ですニャ」


「五千円! 」


 また途方もない値段を言われると思っていたのに、わけがわからない

「これ、元の値段は数十万円するものだよ。保存もいいから、ここでは数百万円はするのではないの。逆にめちゃくちゃ安くなるなんて」


 猫娘は再度、確認したが

「えー。間違いないですニャ」


 早く片付けたくて、いい加減に答えたのかと思い、念のため大福帳を見せてもらうと確かに五千円だ。

 さらに、備考欄に書いてある内容を見て、和也は愕然とした


『息子が、どうしてもほしいと言うテレビゲームを買うため。母親が、売りに出したもの』

 

 震えが止まらない(生活のためではないのか! それに、あのゲーム機をぼくは壊した……)。和也は思わず


「五千円だね! 五千円だね! あとで何言っても知らないよ! 」

 和也は涙声で言いながら、持っていたお金を猫娘に差し出した


「お買い上げ、ありがとうございますニャ」 

 猫娘は笑顔で、お金を受けると


「それでは、もう閉店です。すみませんが、工場の方にも迷惑がかかりますので、速やかにお帰りくださいませ。またの、おこしをお待ちしておりますニャ」

 体育館を出た和也は、戸口まで見送りにきた猫娘に振り返り


「この骨董市はまた、開かられるのですか」

 猫娘は笑みを浮かべ


「はい、お客様が心の底から望まれれば……」

 猫娘は深く頭をさげ、体育館の扉を閉めた。


 外はすっかり明るくなり、家に戻ると母が朝食のしたくをしていた。


「どこに行ってたの、こんな朝早くに」

「ちょっと」

 特に答えず、和也は自分の部屋に入った。


 小箱を見せると母は喜ぶだろうか。

 それとも、中学生では手に入らないもので、盗んだなどと思われるかもしれない。


 しかし、よく考えれば、今渡す必要はないだろう。

 それは、あんなつまらないゲーム機を買うために、一生に一度しかもらえない結婚指輪を売りに出す母の気持ちを考えれば明白だ。


 本当に大切で価値があるのは『物』自体ではないのだから。


 これは、自分が正規の値段で買えるくらい大人になったときに渡そう。そして、次に「なつかしの骨董市」の案内が来たときは母も誘おう。


 大人になって、お金をためて……

 和也は小箱を机の奥にしまい込むと、朝食を食べるため台所に向かった。



 第一話 (了)


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