2. 訪問者
並んでいるのは、雑貨、古着、ぬいぐるみ、置物、子ども向けのおもちゃ――。
骨董市というより、リサイクルショップといった感じで、自分が子供のころに使っていた特に古いものでもない。
それなのに。
翔子の胸はざわりと波打った。
「見て、涼音! これ……私が小さいころ買ってもらった、魔女っ娘のなりきりセットだよ。それにこの朝顔柄の浴衣、これも私が着てたやつ……」
懐かしさと、なぜか違和感が入り混じる。
「涼音のは? なにかあった?」
「うんう、私の物はないなー。案内状は翔子にきたものだしね」
涼音はどこか退屈そうに、品物のあいだを音もなくひとりで歩き始めた。
◇
一方、翔子は夢中になっていた。
どれもこれも、自分の過去を切り取ったような品ばかりだ。
奥の机の下には、ガラクタとしか言いようのない玩具が無造作に詰め込まれた古い箱があった。
「……これ」
翔子は息を止める。
「私のおもちゃ箱……」
木製の小さな箱。角は擦り切れ、蓋の端は欠けている。
正面には、ひらがなで拙い文字で、
『しょうこ』
手が震える。
「これって……私が使っていた、そのものじゃない……?」
中身をかき分けると、折れたクレヨン、片目の取れたぬいぐるみ、欠けたビーズ。どれも見覚えがある。
「どうして、ここに……?」
振り返って猫娘に聞いたが、
「入手経路は、わからないですニャ」
あっさりした返答だった。
「売り物なんだよね……いくらなの?」
年のため聞くと、猫娘は大福帳を開き番号札と照らし合わせる。
ぱらり、と紙の音がやけに乾いている。
「このおもちゃ箱は……中身を含めて、四十万円ですニャ」
「よ、四十万円!?」
翔子は思わず声を上げた。
ぼろぼろの箱。中は壊れた玩具ばかり。プレミアの付く品など一つもない。
「皆さま、そうおっしゃいますニャ」
猫娘は淡々としている。そんなふざけた金額、本気で売る気があるのかもわからない。
蛍光灯が一瞬、かすかに瞬いた。
――カチ。
古時計の針が鳴る。
「それより、こんな夜更けの骨董市なんて、なんか怪しげな物を売っているのじゃない。願いを叶えてくれるけど、使い方をまちがえると不幸になったり、何か対価を差し出さないといけないとか」
どこかで聞いた都市伝説を思い出して、半ば冗談で聞いてみた。
猫娘は苦笑して、
「そんな物はないです、心配ご無用ですニャ」
そのとき……
トントントン!
入口の扉が、叩かれた。
空気が凍る。
翔子は猫娘を見る。
猫娘は、扉を見つめたまま動かない。
「どうしたの? お客さんでしょ」
「……ですが、お姉さん以外に案内状は送っていませんニャ」
「それなら、多分私の友達だよ。案内状の広告を転送したの」
「転送……?」
さらに、猫娘は納得いかない表情で
「それで、どうなりました」
猫娘の目がわずかに細くなる。
「それで、どうなりました」
翔子はスマホを差し出す。
「ほら、二人が既読になってるでしょ。だから来たんじゃない?」
猫娘の顔色が、目に見えて青ざめていく。
「そのメール・アプリは、特別の通信で、絶対に転送できないように設定されていますニャ。それが、簡単に転送され、しかも既読になっているということは……」
言葉が途切れる。
翔子の背筋が冷えた。
「それなら、私の送った友達ではないってこと」
猫娘はゆっくりとうなずく。
「いったいだれが、見たのか……」
トントントン!
再び、扉が叩かれる。今度は少し強い。
猫娘は恐る恐る扉へ近づく。
「……どちらさまでしょう」
沈黙……。
やがて、扉の向こうから、か細い声。
「ここは……なつかしの……こっとういち……でしょうか」
翔子は猫娘の背後にしゃがみ込む。
猫娘は恐る恐る、
「はい……そうですニャ。案内状はお持ちですか」
扉の隙間から、すっと手が差し出された。
異様に細く、血の気のない白い手。
指先がかすかに震えている。
その手のスマホ画面には、確かに骨董市の案内が映っていた。
送信元――翔子。
猫娘が、スマホを覗くとたしかに、写っている。
「確認できました……お入りください」
………だが
入ってこない。
「どうしたのですニャ」
「……すみません。入れないのです」
空気がぴたりと止まる。
「どうしてですニャ。扉の鍵は開いています。先ほどのお客様は自分で入られました」
「わかりません……開けてください」
猫娘が振り返る。
翔子は真っ青な顔で、(ダメ……!)と激しく首を横に振る。
「お願いです。入れてください」
声が一段と大きくなる。
「ほしいものがあるのです」
その声には、さきほどまでの弱々しさがない。
食堂の灯りが、また一瞬だけ瞬いた。
扉の隙間から伸びる白い指が、ゆっくりと縁をなぞる。
「どうして入れてくれないの……」
ドン、ドン、ドン。
叩く音が、今度は乱暴に変わる。
猫娘と翔子は凍りついたまま動けない。
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