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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第13話 夜中の学校の骨董市
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1.真夜中の学校

高校二年生の夏休み。

翔子(しょうこ)は、SNSのメッセージアプリに届いた宣伝広告を、友達の涼音(すずね)に転送した。


翔子「【なつかしの骨董市】って案内が入っていたのだけど、見て」

涼音「夜中の十時に学校の食堂で? いたずらじゃないの。だいたい、女子高校生に骨董市なんて」

翔子「たしかに怪しいよね。でもさ、学校の七不思議みたいで面白くない? 真夜中の食堂で幽霊がごはん食べてるとか。行ってみない?」

涼音「……こわいよ 」

翔子「大丈夫だよ、学校だし。一応、他の友達にも転送しておくから」

涼音「……わかった」


◇  

 夜十時前。


 翔子は校門の前で待っていた。ボブカットの短い髪に、短パンとタンクトップという涼しげでボーイッシュな格好。街灯の下に立つその姿は、夜気の中でもどこか活発さを失わない。


 そこへ、長い黒髪を揺らしながら涼音が駆けてきた。フレアスカートに薄手のカーディガンという、どこか控えめな装いだ。


「ごめんね、翔子。遅くなって……私たち、二人だけ?」

「うん。既読はついてるけど、返事もないし、たぶん来ないね」

 翔子は少し寂しげに笑った。今年の春に転校してきたばかりで、まだ打ち解けられる友人は多くない。涼音がいま、一番気兼ねなく話せる相手だった。


 それを察した涼音は、そっと言う。

「夜だしね。そう簡単には来られないよ。私たち、二人でいいじゃない」

 翔子は笑顔を作り、うなずいた。


 涼音は学校では目立たない生徒だった。

 翔子とは違うクラスで、体育を休んだとき、たまたま涼音も見学していて話す機会があり、メール交換などをはじめた。


 学校では時々すれ違う程度でほとんど会うこともないが、メールを通じて、お互いの悩みなど忌憚なく話せる相手で、今回のように、放課後や休みの日に、二人だけで時々会っている。


 夜の学校。


 校舎は闇の中に沈み込み、輪郭がぼやけている。薄い靄が地面を這うように漂い、虫の音すら聞こえない。風もないのに、どこか冷たい空気が肌にまとわりついた。

 正門は固く閉ざされていたが、通用門はなぜか半開きになっている。鍵はかかっていなかった。


「……やっぱり、やめない?」


 涼音が翔子の腕をつかむ。指先が冷たい。

「せっかくだし、行ってみようよ」

 好奇心の勝った翔子は、半ば引きずるように涼音を連れて校内へ入った。


 食堂のある校舎だけが、ぽつりと灯りをともしている。その光は暖色ではなく、どこか青白く、蛍光灯の冷たい色味だった。

 近づくにつれ、二人の足音だけが廊下に乾いた反響を残す。

 食堂の入口の前には、小さな立て看板が立っていた。


【なつかしの骨董市 会場】


 黒い文字が、やけに滲んで見える。

 翔子と涼音は顔を見合わせ、そっと扉を押し開けた。

 軋む音が、静寂の中に長く尾を引く。


 中には、食堂の机の上にいくつもの品物が並べられている。古びたランプ、欠けた湯呑み、古時計、誰のものとも知れぬ学生鞄――。

 だが、人の気配はない。

 そのまま一歩踏み込んだ瞬間、


「いらっしゃいませ!」


 背後から声がした。

 翔子は心臓を掴まれたように振り返る。

 そこに立っていたのは、祭りの法被姿に猫耳をつけた少女だった。


「……化け猫!」

 思わず叫ぶ。


「化け猫は失礼ですニャ。ご覧のとおり、人間です。一応、店員ですニャ」

 語尾に“ニャ”をつける少女は、胸に大きな小判のペンダントを下げ、腰には分厚い大福帳をぶら下げている。招き猫のように柔らかな笑みを浮かべていたが、その目だけが妙に静かだった。


 翔子はようやく息をつく。

「びっくりしたー! でもこんな夜更けに、あなた小学生でしょ。他に店員さんいないの」

「小学生ではありませんニャ。もう一人いますけど、今コンビニに夜食を買いに行っているのです」

 少しだけ頬を膨らませる。


「……それは、ごめんなさい」

「ところで、案内状はおもちですか。というか、店に入ってこられたこと自体、案内状はお持ちでしょうけど、一応確認ですニャ」


 翔子はスマホの画面を見せた。そこには、例の広告が表示されている。

「最近買ったスマホで案内を出してみたのです。既読がついていたので安心しましたが、届いているか心配でしたニャ。それでは、ごゆっくりご覧ください」


「でも、こんな夜中に学校で骨董市なんて……怪しくない?」

「訝しむのも無理はありませんニャ。ちゃんと許可はいただいています。昼間は学校がありますから、許可が下りないのです」


「……許可?」


 なぜ夜なら許可が下りて、誰の許可なのか。

 そもそもなぜ、学校で骨董市を開くのか。

 ツッコミどころ満載だが、猫娘が扉を閉めに離れたので、そのことは後で聞くことにして、とりあえず品物を見ることにした。


 ふとガラスを見ると、外の闇が、まるで切り取られたように消えていた。

 食堂の中は、さきほどよりも少しだけ暗くなった気がした。

 机の上の古時計が、ひとりでに鳴る。


 ――カチ、カチ、カチ。


 その音だけが、やけに大きく響いていた。

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