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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第12話 G線上の骨董市
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3.謎の骨董市

 スマホに耳を近づけて聞いている少女の姿が、なぜか動画の被害女性と重なった。

(まるで双子のようだが、髪型や年齢も違い十五年前の話だ、双子のはずがない)刑事が茫然としていると、少女が顔をあげ


「これも、同じところの音が狂っていますね。音色のクセも同じで。このオルゴールと同じものでしょう」

 驚いた刑事は少し考えたあと。


「そうですか……ありがとう」

 震えるように言うと、女子生徒は自分の見ていた楽器のところに戻っていった。

 絶対音感のある少女なのだろう、刑事には全く分からない領域に感心する。


「女性と写っているオルゴールがこれと同じとすれば、警察署に持ち帰った押収品は、被害女性が受け取ったオルゴールと違う物なのか……」


 とはいえ、製品特有のバグと言うか癖の可能性もあり、これが被害女性の持っていたものかの決め手にはならない。もっとも、高級品なので狂っていることは考えにくいが。

 警察署にあるものと聞き比べれば良いだろうが、今手元にはない。


 念の為、刑事は置いてあるオルゴールを丹念に調べ始めた。

 そこで、オルゴール部分を取り外した内側をよく見る二重底になってる。そこを、こじ開けると愕然とした。


「こっ……これは! 時限型の揮発性ガスの発生装置」

 思わず叫ぶ刑事に、横の猫娘も驚いている。警察のオルゴールにはなかったものだ。


(オルゴールは、二日ほど前に愛人の男が、被害女性の誕生日プレゼントに渡したと言っていた。それを第一発見者の愛人が、我々が現場に着くまでに別の物にすり替えることは容易だ)


 指紋も残っているようなので、このオルゴールを調べれば犯人の判別がつく。しかし、不可解なのは、犯人が処分したと思われる証拠品がなぜここにあるのか。

 刑事は猫娘に向かって


「なぜ、犯行に使われたと思われるオルゴールがここにある。これは、重要な証拠品だ! 」

 猫娘も驚いているが、入手ルートなどは本当にわからないようだ。


 イラつく刑事だか、ここで答えは出そうにない。

(持ち帰って、調べるしかない……が)

 すでに、時効が成立して、すぐに強制的に持ち帰ることもできない。刑事は、場合によっては買い取ろうと思って値段を聞いてみると。


「五百万円! 」 


 先程の女子高生が言った「高くて買えない…」の意味がわかった。

 しかし、あまりに横暴な骨董市とも思われ、事件に関わる品を持っている事自体、怪しい。詳しく調べる必要がある。


 刑事は猫娘に警察手帳を見せて

「どうして、事件の現場にあったものが、ここにあるのかい。廃棄されたものを取ってきても窃盗になるのだよ」

「先程も言いましが、私はアルバイトなのでわからないです。とにかく、置かれているものを売るだけですニャ」


 店員では拉致があかないようで、

「責任者を呼んでもらえないかな」

「責任者はいませんニャ」

「……わかった」

 まだ少女風の店員を問い詰めるのも気が引けるので、まずは外部と連絡して応援を呼ぶことにしたが、なぜか町の中なのに圏外で繋がらない。


 刑事は外にでたが、やはりつながらない。しかたなく、公衆電話を探すため、倉庫から離れようとすると、猫娘が

「案内状がないなら、あまり遠くに行かれると、戻ってこられなくなりますニャ」

「ここは私がいつも通っている場所だ、道に迷うはずはない」


「そうではなくて……」


 口を濁す猫娘は、それ以上は言えないようで

「まあ、お客様の好きなようにしてください、私は知りませんニャ」

 

◇消えた骨董市


 刑事は倉庫を離れ、角を曲がったコンビニで、やっと電話がつながった。


「あやしい骨董市がひらかれている。直ぐに調べてくれないか、それと応援をたのむ」

 電話を終えると、コンビニのゴミ箱が目に入り。ポケットに入れていた空き缶と紙のことを思い出し一緒に捨てた。

 その後、刑事は倉庫に戻ってきたが………


「骨董市がない! 」


 ほんの数分前まで、開かれていた骨董市。

 倉庫の扉は締められ、街燈だけが灯るいつもの帰宅の夜道だ。

 骨董市が逃げたにしても、数分で倉庫一杯の品物を片付けるのは不可能だ。


「夢でもみていたのか」

 スマホも今は圏内になり、再び電話すると繋がった。


「先程の応援の件だが、少し待ってくれ。私の勘違いだったかもしれない………」

 釈然としないまま、電話を切ると呆然と立ちすくむしかなかった。


 翌朝、倉庫の管理者に聞いてみたが、骨董市など知らない、とのことだった。


 結局、事件の真実も明らかにできない。

 念のため警察に保管している、オルゴールを調べたが……音は狂っていない。被害者が自撮りで撮したオルゴールは、すり替えられたのだろう。


 あの骨董市で売られていたオルゴールがなければ犯人まで証明できないが、いずれにしても時効となった今、捜査は進められない。


 ただ、あの女子高生の音感のおかげで、犯人がだれか確信できた。


 ちなみに、あのオルゴールのG線上のアリアで、G#の音は一度しか出てこない。しかも、曲は1回しか流れていないので、その音を聞き逃さなかった少女の音感に巡り会ったことは、神がかり的なものを感じた。


天網恢恢疎てんもうかいかいそにして漏らさず……少し爺臭いか。もっとも、私は漏らしたが」

 つぶやくように独り言を漏らす刑事。

 あの女子高生が教えてくれたとも言える、刑事と真犯人しか知らない真実。


 もはや検挙は出来ず、悔やんでも仕方ない。ただ、被害者の無念が、最後に刑事だけに教えてくれたのかも知れない。


 刑事はふとスマホの画像を開いた。

 そこには、被害者の笑顔と、G線上のアリアのせつない音色が、いつになく心を震わせる。


<「G線上の骨董市」 了 >

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