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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第12話 G線上の骨董市
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2.絶対音感の少女

 事件は川沿いの高級マンションの一室で起きた。

 被害者は、とある富豪の若い愛人。


 死因は神経ガス。しかし、いかにして吸引させたのかは不明。ガスの容器も痕跡も見つかっていない。


 被害者の女性はその美貌も合わせて、富豪だけでなく、多くの有名人と関係をもち、スキャンダルをちらつかせて金銭を揺すっていたらしい。

 彼女の死に胸を撫で下ろした者も少なくないようだ。


 捜査は難航し、なぜか上層部からの圧力もあって、最終的には自殺として処理された。

 だが刑事は、どうしても納得できなかった。


 彼女の生活は一見、豪奢そのものだった。高級マンションに外車、派手な衣装と宝石。世間では「自業自得」とさえ囁かれていた。

 だが――。

 身辺を洗ううち、別の顔が浮かび上がった。

 幼い頃から音楽の英才教育を受け、美少女ピアニストとして話題になり、有名歌手のバックバンドや演奏会にも参加していた。


 しかし才能は突出してはいなかった。年齢とともに仕事は減り、表舞台からはじき出される。

 使い捨ての世界で生き延びるため、別の道を選ばざるを得なかったのだろう。


(おそらく、本人は望んでいなかっただろう)

 そう思われる形跡が、刑事にはいくつも見て取れた。


 派手に振る舞うのは、有名人に近づくための手段のようで、普段の生活は質素だった。台所や冷蔵庫は整理され、裕福なはずだが人を雇わず自分で食事や掃除もしていたようだ。


さらに、派手に金銭を使っていたように見えるが、しっかりと貯金もしている。

 執拗に有名人に迫り、脅迫めいたことをしたのも、何か理由があったのではないか。

 本当は真面目で優しい女性だったのではないか。


 刑事には、彼女がどこか不憫に思えた。

 自分と重なるものを感じたのかもしれない。


 捜査は、もはや弔いの執念だった。


 そんなことを思い返しながら、刑事は店内のオルゴールを眺めていると、猫娘が大福帳を抱えて近づいてきた。

「お客さん、それはいわくつきの品ですニャ。十五年前の殺人事件の被害者の部屋に置かれていたオルゴールですニャ」


 刑事は目を見開いた。


「なぜ、それを知っている」

「わっ……私には、わかりませんニャ」

「確かに、ここにあるものは、あの事件現場にあったものだ。どうやって手に入れた!」


詰問する刑事に、猫娘もたじろいで

「……私はアルバイトなので」


「だが、これは違う。現場にあったオルゴールは、警察が保管している」

 刑事の言い分に、猫娘は意外な表情で

「そんなこと、ありえない。これは、正真正銘そこにあった物。だとしたら、警察にあるものが偽物ですニャ!」

 ムキになる猫娘に、刑事は苦笑しながら


「警察の保管品は厳重管理だ。オルゴールも丹念に鑑定もした。怪しい点はない。大した証拠品でもない。わざわざすり替える者もいないだろう」

「でも、この大福帳に絶対間違いはありませんニャ! 」 

「絶対ということはないだろう」


 言い争う刑事と猫娘のところに、奥で楽器を見ていた女子高生が、様子を伺いながら近づいてきた。


「あっ……あのー」

 刑事と猫娘が振り向くと、二人に睨まれた女子高生は、たじろいで首をすくめながらも

「そのオルゴールですけど……」


 恐る恐る話す女子高生は、髪を丁寧にくくり、メガネをかけ、みるからに優等生的な女子高生だ。

 刑事は少し不機嫌な声で

「オルゴールがなにか」


「さきほどのオルゴールの曲、五小節目のG#の音が、少しフラットになっています。ぶつけたか、いじられたか……気にするほどではないですが、修理されたほうがよいかもしれません。でも、ここに置いてある物は、高くて買えそうにもないですけどね」

 少女が苦笑いしながら言うと


 猫娘が目を丸くする。

「フラット? 全然わからないですニャ」


「はい。ちなみに曲は“G線上のアリア”ですよね。私も好きなんです」

 その言葉で刑事の脳裏に、ある映像がよみがえる。


 被害者が事件直前に自撮り動画を撮っていた映像。

 背後で流れていたオルゴールは――確か同じ曲。

 その動画を自分のスマホにもコピーしていたので、もしやと思い


「……少し、聞いてもらえますか」

 刑事はスマホを取り出した。

「いいですよ」

 少女は素直に頷く。


 画面には、笑顔の被害者。

 その背後で流れるオルゴールの音。

 店内に、静かに“G線上のアリア”が響く。


 刑事の視線が、ゆっくりとオルゴールへ戻った。

 ――五小節目。


 果たして、同じ音か。

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