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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第12話 G線上の骨董市
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1.黄昏の刑事


 事件は、深夜零時に時効を迎える。


 あきらめきれない刑事は、かつて事件のあった川沿いの高級マンションの周囲を、一人で歩いていた。

 建物はすでに建て替えられ、周辺施設も様変わりしている。今さら手がかりなど残っているはずもない。


 それでも足は止まらない。

 これは執念か。あるいは、十五年という歳月に縛られた呪いか。


「そろそろ時間か……」

 近くの公園のベンチに腰掛けると、晩秋の冷風に思わずコートの襟を立てた。


 缶コーヒーを飲み終えると、一枚の紙片が風に煽られ、頬に叩きつけられる。

「ちっ……全く、散々だな」


 近くにゴミ箱もなく、コーヒーの空き缶と一緒に捨てようと、くしゃくしゃにしてポケットにねじ込んだ。

 腕時計の秒針が零時を指す。


 その瞬間、何かが終わった。


 刑事は虚空を見上げ、ゆっくりと立ち上がる。

 事件は、これで永遠に闇の中だ。


 終電車を降りて、家路につく。

 ぽつりぽつりと街灯が灯る夜道を歩いていると、いつも閉まっている倉庫が明るい。

 しかも、こんな深夜に明かりが灯っているなど、これまでなかった。

 倉庫の前に行くと、立て看板がある


『なつかしの骨董市』


(骨董市……こんな深夜に。ここは確か、廃業した倉庫のはず)

 すこし扉が開いているので、中を覗くと明るい倉庫の中で、多くの品物が陳列されているのが見えた。


 骨董品など興味ないので帰ろうとすると、刑事に気づいた法被を着た少女が、なぜか驚いた表情で駆けてきた。

 イベントのコスチュームだろうか、頭に猫耳の飾り?をつけ、腰には大福帳、首から小判の飾りを胸に下げている。


「お客さん! 案内状は持ってこられましたか」

「いや。案内状などないが」


「えっ! 」

 猫耳の娘は意外だといった表情で、少し考えたあと


「まあ、ここに来られたこと自体、何かのご縁です。良ければ見ていってくださいニャ」

 なぜか、語尾にニャをつける猫娘に促されるまま、刑事は倉庫へ足を踏み入れた。


 中には広い倉庫の床にブルーシートが敷かれ、品物が無造作に置かれている。


 骨董市と言うものの、壺や絵画もあるが、目立つのは日用品ばかり。

 客は奥に一人。制服姿の女子高生が、ピアノを熱心に見ている。

 刑事は早々に帰るつもりだった。


 だが、隅の陳列に目が止まる。

「……これは」

 血の気が引いた。


 そこにあったのは――

 十五年前の事件現場にあった品々だった。

 被害者宅に残され、証拠価値なしと判断されすでに廃棄された家具や小物。

 箪笥、机、雑貨。

「どうして、ここに……」


 納得いかない刑事だが、念の為手袋をして品物を手にとって眺めてみたが。これといって重要なものはなく、箪笥の引き出しも開けてみたが、空になっている。

 その中で、箪笥の上に置かれた装飾のついた小箱のオルゴールに目が止まった。


 これは、被害者の女性が好きだという曲のオルゴールを、愛人の男性がプレゼントした品物だった。

 無論、調べたが同じ製品は多くあり、細工された形跡などはなく、第一発見者の愛人が持ってきたという品なので、念の為、押収して警察に今でも保管しているオルゴール……と同じ物だった。


 刑事は無意識に蓋を開く。

 流れ出す旋律。


 G線上のアリア。


 静まり返った倉庫に、音が澄み渡る。

 音色は静かな倉庫で反響し、奥の女子高生もこちらに振り向いたので、慌てて止めた。 


 そのとき、女子高生と目が合うと、彼女は笑顔で会釈し、刑事も反射的に頭を下げた。


(……こんな時間に、女子高生が一人?)

 違和感と、

「どこかで見たような……」 

 しかし、直ぐに思い出せそうもない。

 再びそのオルゴールを見ると、十五年前の事件が脳裏に蘇る。


「あのときは、徹底的に調べたものだった………」

 時効は過ぎた。

 だが――自分の中では、まだ終わっていない。

気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!

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