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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第11話 時代遅れの骨董市
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2.社長の理念と骨董市

 一人で書くのではない。

 大勢で作る。

 役割を分担し、意思決定をシステム化し、AIを導入する。

 物語を“書く”のではなく、“商品として設計する”。


「中小の個人店が、大手に飲み込まれるのと同じだ」


 いずれ、個人小説家は立ち行かなくなる。

「時流に乗れない者が悪い。優秀な人材を集める。言い換えれば、無能は切り捨てる。……今度は、俺が切り捨てる側だ」


 さらに、管理職AIの開発も視野に入れている。

 単純作業のロボット化より、高給取りの管理職をAIに置き換える方が、圧倒的に費用対効果が高い。


 判断に迷わず、感情に揺れず。

 怒鳴らない。

 見下さない。

 決して、出自、人種、性別、人格を否定しない。

「人間にとって、これ以上やさしい上司がいるだろうか」

 こうして、社員がAIを最高の人格者と勘違いしてくれれば、こちらの思惑どおりだ。


 部下の人生にも、家庭にも、興味を持たない。

 期待もしないし、失望もしない。

 ただ、最適解を提示し続ける。

 ……そう、AIに人格はない。自身の思い出はなく、楽しい、辛いなどの感情もない。他人の記憶を借りて合成した人格の、情報集合マシーンなのだ。

 やがて管理職は不要になり、人間は単純作業へ――

 その単純作業さえ、いずれはロボットに取って代わられるだろう。


「無能で、セクハラやパワハラをする上司より、優しくて優秀な“パソコン上司”の方が、よほどマシだ」


 社長は、静かに笑った。

 コーヒーの表面に、小さな波紋が広がっていた。

 ―翌朝―

 先日の疲れもあるが、欠かさない日課のジョギングを始める。

 玄関を出ようとすると、テーブルに放っていた広告が目に止まった。


 骨董市とは……


 彼はふと立ち止まり、スマートホンのスピーカーに問いかけた。

「今日、川沿病院で開かれる骨董市に行く価値はあるか?」

 沈黙は、ほんの一秒にも満たなかった。


『ありません』


 即答だった。

『当該イベントは、収益性・情報価値・将来的投資効果のいずれにおいても有意性が確認できません。滞在時間を考慮した場合、健康維持のためのランニングを継続する方が合理的です』

 完璧な回答だった。

 社長自身が設計した思想、そのままの結論。


「……その通りだ」


 いつものように、途中でジュースなどを買うことを考え、五百円玉だけを入れた小銭入れを持ち、玄関に立ったが……いま一度、 テーブルへ戻り、骨董市のチラシを手に取った。

 紙は薄く、安っぽく、情報量も乏しい。それでも、指先に残る感触が、妙に現実的だった。


 今では使い物にならない物に、場合によって途方もない価値をつける骨董品――合理性の欠片もないはずだ。

 

「……合理性、か」

 小さく呟く。


 明け方の引き締まった空気の中、静かな川沿いの並木と、涼風の中をゆっくりのペースで駆けていく。

 しばらく進むと、広告に書かれた病院の横を通る。


 近づくと正門は閉まっているが、横に通用門が開き、法被を着た大柄の男が立っていた。その横の小さな建物の玄関に『なつかしの骨董市』と書かれた看板がある。


「いつもの守衛はいないようだな」


 ほんの気まぐれだった……

 社長は、ジョギングの中間点でもあり休憩のついでに寄ってみた。

 法被を着た男は、禿頭に鼻が上を向いた、まさに豚面だ。

 なぜか風貌に合わない真珠の首飾りと、手首に数珠のアクセサリーを着けている。その男にチラシを見せると、何も言わず奥を指さした。


「無愛想だな……これで商売人なのか」

 入ると、奥の小さな倉庫のような場所に、さらに看板がある。玄関の扉を開けると

「いらっしゃいませ! 広告はおもちですかニャ」


 先程の豚男とは正反対に、元気な声で出て来きたのは同じ法被を着た少女だった。

 なぜか、語尾にニャをつける少女は頭に猫耳、胸には大きな小判の飾りを着け、腰には大福帳を下げた、可愛いまねき猫娘、といった感じだ。

 少女はチラシを確認すると


「お待ちしておりました。どうぞ、自慢の品を御覧くださいニャ」

 愛らしく微笑で、中に案内された。


 自慢と言うには、たいした物はない。普段目にするようなものばかりで、陶器や、日用品の類、奥の方にわずかに、古い家具、壺、掛け軸などがある程度で、ガラクタ市のようだ。


「今なら、ネットのフリーマケットなどで世界中の品物を簡単に売り買いできるのに。ここも、時代遅れの骨董市だな、借賃が安いから、こんな朝はやくに出店しているのだろう。客もいないし、すぐに潰れるな」

 そう思いながら、ぶらぶらと見て回る。


 客といえば、この病院の入院患者と思われる車椅子の少女と、隅で待っている看護師がいるだけだ。その少女は、骨董品が主流の中で、わずかに置いてある古本を見ていた。


 社長は、つまらないと思いながらも、品物を見て回り、通路を回り込んだところで、本を見ている車椅子の少女の前に来た。

 社長に気付いた少女は、本を置くと


「おっ…おじさんも、こっ…骨董市の広告……きたのですか」

 少し言葉が不自由で、障害があるのだろう。

 少女は微笑んで話しかけてきた。

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