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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第10話 弥生姫の異世界骨董店
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4. アマテラスと弥生姫

 エルフ兄妹を見送った弥生姫は、横で手を振る猫娘に

「さあ、もう今日は店じまいにしましょうか」


「はいですニャ」猫娘は答えると、弥生姫を羨望の眼差しで見つめる。

「弥生姫! 見直しましたニャ」


(むふふ、これは脈ありだな。もう一息で引き抜ける)

 弥生姫は胸の内でほくそ笑んだ。

――が、そのとき。


「そういえば、伏線の回収ですが、弥生姫様は何者なのですか」

 思いがけない一言に、弥生姫はぎょっとして足を止める。

「……まだ、覚えていたの」

 このまま有耶無耶うやむやにしておくつもりだったのだが、逃げ道はなさそうだ。


「まあ……弥生時代に生まれたから、弥生と名乗っているのだけど……そうね、弥生時代後期には、卑弥呼様に仕えていたこともあるの。そのあと、しばらく眠りについて……いろいろあって、最近目覚めたの」

 どことなく、大事な部分を端折っている口ぶりだ。


「あの、卑弥呼に、仕えていた!」


 猫娘の目が一層きらきらと輝く。

 その視線に、弥生姫は少し面映ゆそうに視線を逸らしながら、

「まっ……まあ、私ほどの者になれば、卑弥呼のそばにいるのも当然、というか……」

 なぜか語尾がぎこちない。


「そうですか、さすがですニャ。また来てもいいですかニャ」

 すっかり心酔した様子の猫娘に、弥生姫は満面の笑顔で応じた。


「もちろんよ! ぜひ来て。なんなら借金も肩代わりしてあげるから」

 弥生姫は満面の笑顔で、猫娘の手を握り

「よかったら、弥生の部屋にも来てね」


「弥生の部屋って……もしかして、着替え中だったり……」

「いいじゃない。可愛い猫娘ちゃんなら大歓迎よ」

「わっ……わかりました。それでは……」


 こうして、猫娘が帰ろうとした、そのとき。

 弥生姫はふっと表情を引き締めた。


「そういえば――さっき話した狐目の男だけど、やたらヒモロギの骨董市のことを聞いてきたの。それに、私とジョイントで起業しないか、なんて」

「それで、どうしたのですかニャ」


「あんな怪しいのに応じるわけないでしょ」

 肩をすくめ、軽く鼻で笑う。

「この店に来られること自体、普通じゃないのよ。あなたたちも気をつけなさい」


 猫娘は静かにうなずき、最後は少し疲れた様子で高天ケ原へと戻っていった。


◇高天ケ原


 帰ってきた猫娘をアマテラスが宮殿で出迎えた。

「異世界はどうだった。なにか、売れそうなものはある」


 猫娘は首をひねり、

「うーん……それなりに需要はありそうですが。どのような物語にするか……いえ、どのような物を売るかが難しいですニャ」


「そうか……へっぽこ作者も、そろそろ限界みたいだし。ここは経営コンサルタントに頼むべきかしら……」

「私たちは、アマテラス様のような神様のお店――いわば非営利団体です。無理をなさる必要はありませんニャ」

「そうなんだけど……」


 どこか焦るような表情のアマテラスが、横に置いている派手な広告のチラシに、なぜか嫌な予感のする猫娘だった。


「それより、弥生姫はどうだった? 」

 話題を変えられ、

「はい、楽しかったです。弥生姫は、なんでもないリコーダーをエルフに渡したのです。なかなかの策士ですニャ」


 感心している猫娘に、アマテラスは神妙な表情だ

「ふーん。あのリコーダーを渡したと……侮りがたいわ、弥生姫」

 さらに、猫娘の心酔した表情を見て、内心焦る。

(弥生姫の所に行かせたのはまずかったか……このまま、弥生姫のところに行くなんて言わないだろうか) 


 すると猫娘が、素朴に問いかけた。

「ところで、あの弥生姫は何者なのですか、卑弥呼にも仕えていたと自慢していましたが」


「仕えていた……ぷっ、ハハハ」

 アマテラスは吹き出し、

「まあ、仕えていたといえば……そうね」

 笑いをこらえながら続ける。

「弥生姫は――弥生式土器の化身。よく言えば付喪神かしら。確か、卑弥呼の厠の手洗い用の器だったはずよ」


「……どき」

「そう。土器」アマテラスは答えるとと続けて、

「そのあと、どこかの豪族の手に渡って、古墳時代に、その豪族の陵墓に間違って一緒に埋葬されたらしいの」


「土器で、古墳に……ククク」

 猫娘は必死に笑いをこらえる。


 アマテラスは、弥生姫の醜態を暴露しようと、さらに畳みかける。

「しかもね、その古墳は盗掘されて財宝は全部盗まれたのに、弥生姫は完全な形で残っていたにもかかわらず、見向きもされなかったの。そのおかげで発掘はされたけど、博物館にも展示されず、倉庫行き」


 猫娘の反応を伺いながら、念を押す。

「でもあの弥生姫の前で、土器って言ってはだめよ。自分が土器だったことに、コンプレックスがあるのだから」

 ――これで愛想を尽かすかと思ったが


「今どき土器を使う人はいませんが……弥生姫のような土器も、厠の手洗いとして役に立っていたのですよね。こうして当時の生活を伝える、大変価値ある骨董品ですニャ」

 完全に裏目だった。


切り返されたアマテラスは一瞬青ざめ、同時に決意する。

(この優しい猫娘は、絶対に手放さない)


「ところで、どうして弥生姫は姫と呼ばれているのですか。アマテラス様も”姫”とお呼びですし」

 猫娘の素朴な質問に、アマテラスの表情がさらに引きつる。 

 それは、弥生姫の美談のようで、アマテラスにとって分の悪い話。


「……っつ! それは、そのうち話しましょう」


「また、姑息な伏線ニャ……」


〈弥生姫の異世界骨董店 ー了ー>

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